北が降参しなければ、軍事攻撃も!米国務長官の「北との対話」発言の真意

北朝鮮問題でカギを握るティラーソン米国務長官(右)とラブロフ露外相(写真:ロイター/アフロ)

 トランプ大統領と金正恩委員長によるトップ同士の究極のバトルにより米朝対立が一層先鋭化する最中、対話による解決を願う国際社会からは二つの動きが注目されている。

 一つは、ティラーソン米国務長官の発言である。

 ティラーソン国務長官は昨日(現地時間9月30日)「我々は対話を通じて解決することが望ましいと言ってきた。基本原則は平和的解決であり、我々に必要な当面の行動は事態を沈静化させることにある」と、対話による解決策を模索していることを明らかにした。

 「北朝鮮とは直接対話できるチャンネルが幾つかある。ブロックアウトという暗澹な状況ではない」と北朝鮮国連代表部とのチャネルなどを通じ北朝鮮と接触している事実を国務長官としては初めて認めていた。こうしたことから韓国や中国では米朝対話への期待が寄せられているが、米国の対応は「我々と対話をしたいのなら、核放棄の意思を明らかにせよ」と不変のままだ。対話の意思があるなら、核とミサイル開発を凍結することが先決であるとの立場にも変わりはない。

 ティラーソン長官は平和的に外交的に解決するには何よりも核とミサイル開発に執着する金正恩政権に対して国際社会が一丸となって制裁と圧力を強化することにあると考えている。北朝鮮を国際的に包囲し、兵糧攻めにして、弱体化させ、最後は降伏させ、対話の場に引きずり出すという外交戦術を駆使している。ティラーソン式平和的外交的解決策である。

 北朝鮮との対話の必要性、重要性を強調していても、核とミサイルの鎧を脱がない限り北朝鮮との対話には一切応じない方針だからこそ、ティラーソン長官自身も8月にフィリピンで開催されたASEAN地域フォーラムでも、先の国連総会でも北朝鮮の李容浩外相と会おうとはしなかった。また、国連総会で韓国の康京和外相と会談した際、北朝鮮に無条件で軍事会談や赤十字会談を呼び掛け、足並みを乱した文在寅政権にクレームを付けたのもこの方針に基づく。

 ティラーソン長官は基本的には北朝鮮を武装解除させるため外圧と制裁を徹底的に強め、北朝鮮をギブアップさせる→それでも抵抗し、ミサイル発射や核実験を強行するならば、軍事力で決着を付けるというトランプ大統領の方針を「やむを得ない」と基本的に支持し、勇ましい発言を繰り返すトランプ大統領や軍事オプションをチラつかせるマティス国防長官と役割分担をしているのに過ぎない。

(参考資料:軍事オプションに傾くトランプ大統領

 今回、北朝鮮との対話の道を模索している発言を行ったのは、軍事手段を回避するための願いからの北朝鮮へのメッセージの発信であると同時に中国に北朝鮮への制裁を強化するよう促すことに狙いがあるようだ。

 ティラーソン長官の発言が習近平主席との会談直後にあったことを考えると「我々も北朝鮮と対話に向けて努力するので中国も対北制裁を着実に履行してもらいたい」とのレトリックと言えなくもない。

 同時に北朝鮮の新たなミサイル発射という挑発を国際社会に印象付けることにも狙いが隠されているようだ。

 北朝鮮のミサイル発射については数日前から不穏な動きが伝えられている。今月10日の労働党創建日に合わせて発射するものとみて米韓は警戒を強めている。

 こうした折にティラーソン国務長官が対話による平和解決を強調すれば、米国は対話を呼びかけるなど外交努力をしているにもかかわらず、これを無視する形で北朝鮮が大陸間弾道ミサイル(ICBM)を発射したとして、国際社会の支持を取り付け、来るべき軍事オプションを正当化することもできる。

(参考資料:「ソウルを重大な脅威に陥れない」米国の軍事オプションとは何か?

 トランプ大統領だけでなく、ティラーソン国務長官も、また軍事オプション計画を提出したマティス国防長官も対話による北朝鮮の核放棄はほぼ不可能との認識で一致している。現に北朝鮮は「我々の核放棄が目的ならいかなる対話にも関心がない」(国連代表のキム・インリョン次席大使)と非核化を前提として米朝対話を拒否している。

 中露両国は平和的・外交的解決策として米朝に対して第一段階でミサイルと核実験の中止と米韓合同軍事演習の中止、第二段階で平和協定と国交正常化と核・ミサイルの放棄をセットで打診しているが、トランプ政権は対話のための代償として米韓合同軍事演習を中止する用意もなければ、金正恩政権もまた、憲法に定め、党規約に盛り込んだ「民族の命であり、国宝である」核の放棄を平和協定の締結と国交正常化と交換する考えは毛頭ない。

 北朝鮮の対米最優先課題は一にも二にも、米国に核保有を受け入れさせることにある。北朝鮮が再三主張する敵対政策の撤回とは先にインドやパキスタン並みに核・ミサイル保有を米国が容認することで、次に平和協定と国交正常化、そして制裁の解除(援助)である。

 中朝の折衷案は米朝双方から拒否されている状況下でもう一つの動きとして注目されているのが北朝鮮の崔善姫外務省米州局長の訪ロとロシア外務省との会談の行方である。

 崔局長は29日、モルグロフ外務次官や北朝鮮の核問題を担当するブルミストロフ巡回大使と長時間にわたって朝鮮半島情勢について協議している。

 協議内容については一切明らかにされてないが、帰国の途に就いた崔局長は会談内容については「満足している」と答えていた。「満足」という意味が、北朝鮮側の立場を説明し、理解と支持を取り付けたからなのか、ロシアが米国との仲裁を買って出てくれたからなのか明らかではない。

 崔局長は昨年11月にはジュネーブで、今年5月もノルウェーでトーマス・ピカリング元国連大使ら民間有識者らと会談したが、その後、核問題では何の進展もなかった。

 モスクワ経由でワシントンを説得する北朝鮮の戦術が功を奏するか定かではないが、米朝どちらか一方が譲歩しない限り、軍事衝突が避けられない現段階で国際社会が唯一頼みとするのがプーチン大統領の電撃訪朝による事態打開である。

 今回の露朝会談で話し合われたのかは不明であるが、プーチン大統領が仲裁役を買って出て、17年ぶりに訪朝すれば、金委員長の体面が保たれ、米朝軍事衝突という最悪の事態が回避されるかもしれないが、それもこれも時間切れとなりそうだ。

 (参考資料:北朝鮮の「史上最高の超強硬対応措置」で米朝軍事衝突は不可避!

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て、フリー。1982年 朝鮮半島問題専門誌「コリア・レポート」創刊。1986年 テレビ、ラジオで評論活動開始。98年 ラジオ短波「アジアニュース」パーソナリティー 。2003年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会会員、日本ペンクラブ会員。著書に「在日の涙 間違いだらけの日韓関係」(飛鳥新社)「世界が一目置く日本人、残念な日本人」(三笠書房)「大統領を殺す国 韓国」(角川)「金正恩の北朝鮮と日本」(小学館)「北朝鮮100の新常識」(マサダ)「韓国人と上手につきあう法」(ジャパンミックス)など20数冊

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