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発射するのか?しないのか?「もう少し見守る」の「金正恩発言」の真意

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
戦略軍司令部でグアム包囲射撃計画の報告を受ける金正恩委員長

 北朝鮮のグアムに向けたミサイル発射計画をめぐる現状をみて、北朝鮮が2013年2月13日に3度目の核実験を行った時のことを思い出した。

 国連安保理が2013年1月23日に前年(2012年)12月12日の「衛星」と称する「テポドン」発射に対する国連安保理の制裁決議(「2087号」)に反発した北朝鮮は翌日(1月24日)、国防委員会が声明を出して「高い水準の核実験を行う」と示唆した。

 その2日後の26日には金正恩委員長(当時:第1書記)が「民族の尊厳と国の自主権守護のため実質的で強度の高い国家的重大措置を取る断固たる決心をした」と表明した。こうしたことから北朝鮮は遅くとも金正日総書記の誕生日の2月16日までには核実験を行うものとみられていた。

 北朝鮮の核実験の動きに中国の人民日報の姉妹紙「環球時報」は核実験を強行すれば、「中国は迷わず北朝鮮への援助を減らす」と報じた。中国の本気度を示すため中国税関が丹東、大連をはじめとする中朝国境に近い主要貿易窓口で最近通関検査を大幅に強化したとの報道も流れた。米国も「核実験を強行すれば、先制攻撃も辞さない」と威嚇し、阻止に動いた。北朝鮮は今日と全く同じ状況に置かれていた。

 こうした米中の圧力の最中、北朝鮮の対南宣伝機関の祖国平和統一委員会のウェブサイト「わが民族同士」が2月9日、突然「(重大措置の意味を)米国などは3回目の核実験と早合点し、実行すれば先制攻撃すると騒いでいる」と報じたことから一転、北朝鮮は核実験をやらないのではとの声が広まった。それもこれも「早合点」とは「勝手に思い込んでいる」「先走っている」というふうに受け止めたからに他ならない。

 しかし、北朝鮮外務省が1月23日の声明で「日々露骨化する米国の制裁圧迫策動に対処するため核抑止力を含む自衛的軍事力を質量的に拡大強化するため任意の物理的対応措置を取ることになる」と宣言し、翌24日には最高権力機関の国防委員会が「自主権守護のための全面対決戦に出る。この全面対決戦で我々が行う高い水準の核実験も米国に向けられることになる」と布告し、そして1月25日付の労働新聞が「核実験は民心であり、他の選択はない」との正論を掲載した以上、北朝鮮が核実験に踏み切ると予想するのは自然のことであった。それだけに「誰が核実験をやると言ったのか、勘違いするな」と言われても、「ああ、そうですか」とすんなり受け止めるわけにはいかなかった。

 結局は、予想とおり北朝鮮は4日後の2月13日、核実験を強行した。直前の「誰が核実験すると言ったのか、早合点するな」との北朝鮮のインターネットサイト情報は明らかに攪乱情報だった。

 北朝鮮の核実験はよりによって二期目に入ったオバマ大統領の一般教書がある日にぶつけていた。国防委員会が早くから「これから行う核実験は米国を標的にする」と宣言していたことから大統領の演説があるこの日に意図的にぶつけたようだ。

 トランプ大統領は16日、金正恩委員長が「もうすこし見守る」と発言したことを捉え、「金正恩委員長は非常に賢明で、理にかなった判断を下した」として褒めていた。グアムへのミサイル発射計画を留保したと受け止めたのかもしれない。

 しかし、よくよく考えてみると、北朝鮮も、金委員長も一度も「今直ぐに発射する」とは言ってない。「間もなく発射する」とも「8月中に発射する」とも一言も言っていない。それなのに「一歩引いた」とか「留保した」と思うのは早合点、勘違い以外のなにものでもない。

 金委員長は14日に戦略軍司令部を訪れた際に「米帝無謀な軍事的緊張を自ら作り出して自分で自分の首を絞める結果になっている。情勢を最悪の爆発寸前に追い込んだ今の状況がどっちに不利なのかよく考えてみろ」と発言していたが、この発言を見ても米朝チキンレースで北朝鮮が不利な状況に立たされているとの認識は全くない。むしろ、強気である。

 次に「軍事衝突を防ぎたかったら米国がまず正しい選択し、それを行動で見せろ。辱めを受けたくなかったら理性的に思考し、正確に判断せよ」と迫っているが、これまた形勢不利な米国が先にレースから降りて、降参しろうと言っているのに等しい。

 最後に「惨めで辛い時間を味わっている愚かなアメリカの動向をもう少し見守るが、我々の自制力を試そうと、引き続き、朝鮮半島周辺で軍事挑発すれば、重大決断する」との発言はグアムへのミサイル発射をやる、やらないはトランプ政権の出方にかかっていると言っているようなものだ。

 金委員長は「米国の無謀が一線を越え、計画した射撃が断行されれば、最も痛快な歴史的瞬間となる」としてミサイル部隊に「党が決心すれば、いつでも実戦に入れるよう発射体制を整えよ」と述べていた。トランプ政権が要求を受け入れなければ、それを理由にいつでも発射する気だ。

(参考資料:「火星12号」は日本列島を飛び越えて来る! 米朝どちらも「最後通牒」

 北朝鮮が中止を求めている米韓合同軍事演習は(フリーダムガーディアン)は予定とおり21日から行われるようだ。この演習に北朝鮮が脅威に感じている原子力空母や戦略爆撃機「B-1B」をトランプ政権が投入するのかどうかは不明だ。

 仮に投入が見送られた場合、金正恩政権はグアムへのミサイル発射をフリーズするのか、それとも、合同軍事演習そのものが中止されなければ、発射を強行するのか、まだ金委員長の真意は測り知れない。

 トランプ政権が金委員長の脅しに屈して、演習を中止することは考えられないし、金委員長もまた、米国から何の見返りもなく、ミサイル発射の一方的な凍結もあり得ない。結局はグアムを狙ったミサイル発射は早いか、遅いかの、時期的な問題だけだ。

(参考資料:北朝鮮がグアム沖に向けミサイルを発射する確率が90%の訳

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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