北のICBMを迎撃する?しない?できない?

迎撃ミサイル発射訓練をする米国のイージス艦

発射準備が「最終段階」に達した北朝鮮の大陸間弾道ミサイル(ICBM)について米国防総省のカーター長官は「我々を脅かすものであれば、また我々の同盟や友人を脅かすならば撃墜する」(8日)と北朝鮮を牽制する発言を行った。

(参考資料:米国は北朝鮮のICBMを撃墜できるか

米国は2009年当時もゲーツ国防長官が北朝鮮の長距離弾道ミサイル「テポドン」の発射に「発射すれば迎撃する」と威嚇したものの腰砕けとなり、実行しなかった。今度こそ本気かと思いきや、舌の乾く間もなく「脅威とならなければ、必ずしも迎撃はしない」(10日)と、僅か2日で態度を豹変させてしまった。方針が変わった理由についてカーター長官は「迎撃装備を温存し、発射実験の情報を収集する方がわれわれにとって得策かもしれない」と言い訳していた。

カーター長官の方針にはトランプ政権下でも留任するダンフォード統合参謀本部議長も同意しているとのことだ。脅威とならなければ、北朝鮮のICBM発射を傍観するということなのか?

「米国の脅威とならない」ことが撃墜しない条件となっているが、脅威の有無の基準は核弾頭搭載能力と大気圏再突入技術の保有、そしてその飛距離にあるようだ。

この点について米国務省は「北朝鮮は核弾頭をICBMに搭載する技術を持っているとは考えていない」(3日)との見解を表明し、日本もまた稲田明美防衛庁長官が「北朝鮮のICBM技術はまだ実用段階にはない」(10日)とコメントしていた。韓国国防省も11日に発表した国防白書の中で北朝鮮のICBMは「まだ完成させておらず、信頼できるレベルに達していない」と「北のICBMは未完成」という認識で日米と足並みを揃えていた。

北朝鮮のICBMがまだ完成していないならば、慌てる必要もなければ、迎撃するまでもない。ではなぜ、カーター長官は、一度は「我々を脅かすものであれば、撃墜する」と発言したのだろうか?そしてそれを僅か二日後に「脅威とならなければ、必ずしも迎撃しない」と後退させたのだろうか?

推測される理由は三つだ。

一つは、迎撃に失敗する恐れがあることだ。

米国防省ミサイル防衛局(MDA)のシリング局長は9日、ブルームバーグ通信とのインタビューで「米国の防御システムは信頼できる。北のICBMを迎撃できる」と述べ、ICBMが米本土に向け発射された場合、ミサイル防衛網を指揮する北部司令部が迎撃する計画を明らかにしていた。

しかし、同じ日、米国防省傘下の武器性能試験評価局(OT&E)は議会に提出した年次報告書で「迎撃ミサイルの効率性が低い水準にある」として「本土防衛は限定的だ」と指摘していた。要は、地上配備中間飛行段階ミサイル防御体系(GMD)は北朝鮮のICBMの迎撃に確実な信頼性はなく、現状では「米本土を防御するには制限的な能力しか有してない」というものだ。検証された実際の模擬地上試験が実施されてないため迎撃の正確性を目に見える形で数値化できないということのようだ。

仮に「迎撃する」と警告しておいて、迎撃に失敗すれば、莫大な費用を投じ、築いてきた米国のミサイル防衛システム(MD)が欠陥商品であることが判明し、世界に恥をさらすことになりかねない。

シリング局長は追加迎撃試験を4月から6月の間に実施すると発表している。ならば、近々飛んでくるかもしれない北朝鮮の長距離弾道ミサイルは言わば「飛んで火にいる夏の虫」で迎撃実験には格好のターゲットな筈。折角の獲物を撃墜しないというのも実に変な話だ。

従って、「脅威にならなければ迎撃しない」という意味は、北朝鮮のICBMが米国の領海、領土に直接落下せず、太平洋上公海に落下するものであれば迎撃を試みないということなのかもしれない。

二つ目の理由は、迎撃すれば、北朝鮮の反撃を誘発し、全面戦争となる恐れがあることだ。

北朝鮮の反撃次第では、誰もが望まない戦争を引き起こすことになり、全面戦争を覚悟しなければならない。

カーティス・スカパロッティ前駐韓米軍司令官は昨年2月24日に開かれた米下院軍事委員会聴聞会で「朝鮮半島での北朝鮮との衝突は第2次大戦に匹敵し、おそらく多くの死傷者が出るだろう」と予測していた。ちなみに第2次大戦での米軍死亡者は約40万5千人、朝鮮戦争では約3万6千人が戦死している。

またダンフォード統合参謀本部議長も3月17日に米上院軍事委員会が開催した聴聞会で「米軍は北朝鮮に対して軍事的に優位に立っているが、朝鮮半島で戦争が起きれば、北朝鮮は特殊部隊の投入や大規模の長距離ミサイルの発射などで主導権を握るかもしれず、多くの人的被害は避けられない」と唐突に発言し、出席していた軍事委員らを驚かせていた。

戦争という犠牲を覚悟しなければ、ICBMをそう簡単には撃墜できないということなのかもしれない。

三つ目の推測される理由は、実際には迎撃、撃墜を試みるが、失敗した場合のエキスキューズ、アリバイとしている可能性だ。

米国防総省は金正恩委員長の「最終段階に達した」の新年辞直後に長距離ミサイル発射を追跡し、重要なデーターを提供するSB―Xバンドレーダーをハワイの基地から移動させ、アラスカ近海に配備している。また、いざという時に備え、米国の原子力空母「カール・ヴィンソン」も朝鮮半島近海に向かっている。

(参考資料:原子力空母「カール・ヴィンソン」の緊急派遣は対北朝鮮、それとも対中国!?

全長333メートル、全幅76.8メートルの9万3千トン級の原子力空母で、「動く海上軍事基地」として知られる「カール・ヴィンソン」は戦闘攻撃、電子攻撃、早期警戒を担う飛行隊のほか、海上作戦や海上攻撃を行う飛行隊が搭乗しており、乗務員は士官、兵員、航空要員合わせて総勢7千5百人。爆撃機24機、対潜ヘリ10機、早期警報器4機を含め90機が搭載されている他、地対空迎撃ミサイルSAMなど迎撃ミサイルも多数搭載されている。

昨年11月に韓国に赴任したブルックス駐韓米軍司令官は「我々はあらゆる 準備態勢を整えていく中で戦争という最悪の状況は避けたいが、戦争をするしかないという、そういう瞬間には戦争を準備すべきだろう」と語っている。備えは十分に出来ているはずだ。

(参考資料:在韓米国人の国外避難訓練は対北先制攻撃の前触れ!?

命中すれば、「米国の脅威となるので撃墜した」と高らかに「戦果」を発表し、失敗すれば「米国の脅威とならないので撃墜しなかった」と言い訳する、それがカーター長官の発言の真意ではないだろうか。

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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