韓国特殊部隊による「金正恩暗殺」は可能か

冬季訓練中の韓国特殊部隊

韓国国防省は最高司令官である金正恩委員長ら北朝鮮指導部を排除する特殊部隊、特殊任務旅団を年内、それも早期に創設することになった。

特殊任務旅団は既存の特戦団1個旅団に低高度浸透が可能な戦力が補完されて編成される。北朝鮮への浸透作戦は既存よりも精巧で、ヘリコプターUH-60ブラックホークや浸透用輸送機MC-130が低空飛行し、特殊部隊を平壌近郊に落下させるほか、海軍所属の特殊部隊員が潜水艦を利用して、西海(黄海)海岸から浸透し、金委員長の執務室を直接攻撃する。

本来は、2年後の2019年の創設を予定していたが、北朝鮮が核・ミサイル能力を向上させていること、それに伴い朝鮮半島有事が切迫しつつあること、さらに北朝鮮が昨年、人民武力部作戦総局(第525部隊)傘下に特殊作戦大隊を編成し、金委員長の視察の下、11月に韓国大統領府(青瓦台)への奇襲攻撃訓練を実施したことから創設を早めたようだ。

韓国軍は朝鮮半島有事を想定し、北朝鮮の核・ミサイル関連施設などに先制攻撃する「キルチェーン」や韓国型ミサイル防衛体系(KAMD)、北朝鮮指導部を狙って直接反撃や報復を加える作戦計画「KMPR」の「韓国型3軸体系」の構築を急いでいるが、年内に創設される特殊部隊はまさにこの「KMPR」の一環である。

職務停止中の朴槿恵大統領は昨年9月22日、大統領府で開いた首席秘書官会議で「私と政府は金正恩の核とミサイルへの執着を断ち、国と国民を守るためにできるすべてのことを行う」と強調していた。この「できるすべてのこと」のオプションの一つが、平壌官邸を奇襲し、金正恩委員長の首を取る作戦であった。

韓国軍は昨年の米韓軍事演習から金委員長の暗殺を狙った「斬首作戦」を取り入れているが、「一人独裁政権の下で、非常識的な意思決定を行う体制だということと、金正恩の性格が予測しがたいことを考慮すると、北朝鮮の核やミサイルの脅威が現実化する危険性はとても高い」(朴大統領)との認識に基づいているからだ。

(参考資料:有事の際の米韓連合軍の「地上から平壌を完全に消す作戦」

韓国に亡命した太永浩前駐英公使は昨年12月23日、国会情報委員会で「金正恩一人だけ除去されれば、北朝鮮の体制は完全に崩壊する」と語っていたが、「国内での暗殺や軍事クーデータは北朝鮮の構造上ほとんど不可能である」とも語っていた。

しかし、その一方で、「外部からの攻撃を防ぐのは簡単ではない。米国が外科手術式攻撃をすれば、防ぐ術がないだろう。イラクのフセインやリビアのカダフィなどの独裁政権は内部の反乱ではなく、外部からの軍事攻撃で倒された。フセインが米国に捕らわれ、絞首されるのをみて、金正恩はいつの日か、自分も同じ目に遭うのではと恐れたであろう」と語っていた。

韓国軍が「斬首作戦」を実行に移す前提は一応「有事」に限定されている。合同参謀本部の任浩永戦略企画本部長(米韓連合司令部副司令官)は「北が核兵器で攻撃してきた場合、北の軍指導本部を含む指揮部を直接狙い反撃・報復する」と述べ、金委員長への攻撃は「北朝鮮が攻撃してきた場合」の条件付きだった。

しかし、北朝鮮が核兵器で攻撃してからの反撃、報復では遅すぎるため今では「有事」の概念は「核兵器使用が差し迫った場合」に変更している。北朝鮮の核ミサイル攻撃の兆候があれば、空軍が瞬時に巡航ミサイルと空対地ミサイル、バンカーバスターなどを動員して平壌の金委員長の執務室を精密打撃し、特殊任務旅団は平壌に侵入し、核兵器発射命令の権限を有する金委員長ら最高司令部を除去し、戦争指揮施設を麻痺する任務を帯びる。

問題は金委員長の居所を掴むことだ。位置の確認が何よりも先決となる。

この点について太永浩前駐英公使は「北朝鮮の高位層も金正恩がどこで仕事をしているのか、どこで寝泊まりしているのかわからない。金正恩の動静は露出されない」と居所の把握は容易ではないと証言しているが、韓国軍は米韓情報当局が把握している地下バンカーや各種信号及び映像情報、あるいはヒューミント(人を媒介とした諜報活動)を利用することにしている。

金委員長が戦争遂行のため地下バンカーに移動するには各種車両や汽車が利用する。その際に金委員長を遂行する警護員らの間で交信が行われることから米国の偵察衛星が動員され、各種盗聴・信号収集手段が動員される。

そして、金委員長の位置が確認されれば各種攻撃手段が動員される。イラク戦(2003年)当時、フセインの隠れ場を緊急打撃した「Big One Operation」作戦は位置把握から打撃まで45分しかかからなかった。

韓国合同参謀本部は戦略企画本部所属として元旦付けで「北の核―WMD(大量破壊兵器)センター」を立ち上げた。空軍准将が責任者となったこのセンターは北朝鮮の深刻な核脅威に機敏に対処できるよう軍事作戦計画だけでなく戦略レベルでの対応計画まで樹立する任務を帯びている。

(参考資料;仁義なき「金正恩斬首作戦」VS「朴槿恵除去作戦」

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て、フリー。1982年 朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動開始。98年 ラジオ「アジアニュース」パーソナリティー 。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。著書に「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人、残念な日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙 間違いだらけの日韓関係」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など25冊

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