「5015作戦計画」に対抗する北朝鮮の知られざる「7日戦争計画」

移動式発射台から発射された弾道ミサイル

米韓合同軍事演習の序盤のハイライトである上陸作戦が12日に最大規模で行われ、マスコミに公開された。

北朝鮮の核・ミサイル基地への制圧作戦と特殊部隊による金正恩第一書記ら指導部の除去を目指す「斬首作戦」遂行に向けての上陸訓練が本格化した3月12日、朝鮮人民軍総参謀部は声明を発表して「この時点からソウルを含む南朝鮮(韓国)全地域の解放作戦を遂行する」と宣言し、「報復の雷声が響けば、それは祖国統一の祝砲となる」とぶち上げた。

最高権力機関の国防委員会もすでにこれより5日前の3月7日、「この機会を逃さず、正義の統一聖戦で我が民族の最大宿願(統一)を成就するため総攻勢に突入する」と同じような内容の声明を出していた。

「南朝鮮解放」とは武力統一を指す。国防委員会の声明には「我々らには尊厳高い最高首脳部(金正恩第一書記)が批准した南朝鮮(韓国)解放と米本土を打撃する我々式の軍事作戦計画がある」と書かれてある。この作戦計画の詳細は明らかにされていないが、韓国では北朝鮮には「7日戦争作戦計画」があるとされている。

昨年(2015年)1月5日、北朝鮮への心理作戦を担う媒体である「自由アジア放送」は金第一書記が新年辞を前に「労働党秘書室幹部らに戦争準備の方針を伝達していた」と伝え、これを同日「TV朝鮮」が夜7時のニュースで流していた。

それによると、金第一書記は「祖国の統一大戦を早期にやると言ったら、5年後程度と思っているようだが、それは誤った考えで、(5年より)もっと時期は早まるだろう」と語ったとされている。この報道から3日後、今度は大手紙「中央日報」(1月8日付)が「7日戦争作戦計画」は「2012年8月に作成され、金第一書記によって承認された」との「元高官」の脱北者の発言を伝えていた。

北朝鮮の「元高官」が証言した「7日戦争作戦計画」とは、韓国に奇襲(先制)攻撃を加え、全面戦争に拡大させ、核・ミサイル等大量破壊兵器で韓国を総攻撃すると同時に戦車部隊、特殊部隊を投入し、米軍が日本やグアム、あるいは米本土から援軍や装備、物資を送り込む前に韓国を占領するという電撃作戦、即断即決作戦を指す。

朝鮮人民軍最高司令部は「5015作戦計画」に基づく米韓合同軍事演習に対抗して発表した重大声明(2月23日)で「先制的作戦遂行に進入する」として第一次攻撃対象を青瓦台(韓国大統領府)と政府統治機関、第二次攻撃対象をアジア太平洋地域の米軍基地と米本土に定めた。また10日後の3月3日には新型大口径放射砲の発射を視察した金第一書記自らが「軍事的対応をすべて先制攻撃方式に転換せよ」と指示し、驚いたことに実戦配置した核弾頭を任意の瞬間、発射できるよう常時準備するよう命じていた。

「総攻勢に突入する」と宣言した国防委員会も金第一書記が言及した「先制攻撃的な軍事対応方式」が核による先制攻撃であることを隠さず、最高司令部の委任を受けた軍総参謀部は「侵略者らを射程圏内に捉えた我が軍隊は懲罰の発射ボタンを押す瞬間だけを待っている」と米韓連合軍を威嚇してみせた。

「7日戦争作戦計画」に基づけば、北朝鮮は序盤に気勢を制すため初日にソウル、京畿道、義政府、水原に向け集中砲火し、核ミサイルで韓国を圧倒し、ソウルを3日で制圧するとしている。すでに軍総参謀部は米韓連合軍の上陸作戦が開始されたその日に東部、中部、西部の第1次連合打撃部隊に「先制報復打撃作戦の遂行に移行するよう」軍令を出している。

ソウルはDMZ(非武装地帯)から50kmしか離れてない。前方の砲兵部隊は発射命令を受けた時から30分の間、107mm、122mm、240mm放射砲と中長距離砲12万6千発と「KN-01」や「KN-02」など地対地短距離ミサイル1千発を雨あられと降り注ぐものとみられる。特に金第一書記の視察の中、3月3日に試射が行われた「NK-09」という名の新型大口径放射砲(300mm砲)は京畿道平澤の米軍基地だけでなく、全羅北道群山の米軍基地、陸・海・空軍の本部のある忠清南道の鶏龍台まで射程圏に入る。

続いて、スカッドミサイル(B=300km、C=500km、D=700km)1千発で韓国の主要攻撃対象物を壊滅する作戦だ。北朝鮮にはミサイル発射基地が25か所あり、3~5分以内に韓国内の標的に打撃を与えることができる。特に休戦線付近に配置されたミサイルの場合、発射後1分も満たない内にソウル攻撃が可能だ。移動式発射台が使用されるので探知が困難だ。

ミサイルによる総攻撃の後に戦車4千100台、装甲車2千100台で進軍、南下すると同時に8万の特殊部隊が陸海空からソウルに潜入し、青瓦台など主な拠点を占拠する。金第一書記は機械化歩兵師団や105タンク師団、第3軍団の戦車、タンク部隊が参加して3月10日に行われた戦車競技大会で「祖国統一のための千金のような機会を逃すべきではない」と拳を振り上げていた。

北朝鮮はこの日午前5時頃、金第一書記が見守る中、ロケット戦略軍によって日本海に向けスカッドCが2発発射されたが、朝鮮中央通信は同訓練が「海外侵略武力が投入される敵地域の港などに打撃を与えることを仮想し、目標地域の設定された高度で核戦闘部(核弾頭)を爆発させる射撃方法で行われた」と説明していた。

朝鮮中央通信が配信した写真に映し出された作戦計画図らしきものには米韓連合軍の上陸訓練が行われている慶尚北道の浦項と、米原子力空母「ジョン・C・ステニス」が入港した釜山港がスカッドCの攻撃対象にされていた。

スカッド発射の2日前に金第一書記は核弾頭(模型?)を前に「核弾頭の適用手段の多角化を力強く推し進め、地上と空中、海上、水中からも任意に核攻撃を加えられるよう準備せよ」と指示していたことから模擬の核爆弾を搭載したスカッドの発射実験が行われた可能性が大だ。

第一次攻撃開始と瞬時に北朝鮮は在日米軍基地やグアム基地、さらには米本土からの援軍を阻止するため日本にはノドン、グアムにはムスダン、そして米本土には長距離弾道ミサイル「KN-08」による核攻撃を掛けると脅すことで封じ込める作戦のようだ。

原子力空母やイージス艦、核搭載のB2戦略爆撃機やF-22ステルス戦闘機など圧倒的な戦力を有する米韓連合軍に対抗するには核攻撃しかないとの結論に達しているようだが、米国家情報局(DIA)のデニス・ブレア前局長がVOAのインタビューで「核兵器で攻撃すれば、北朝鮮は完全に破壊され、金正恩体制は終わる」と言っているように米国は北朝鮮の核の先制攻撃が実行に移されることはないとみている。

いずれにせよ、北朝鮮も米韓連合軍同様に先制攻撃の計画を持っているのは確かなようだが、要は本当に核に手を掛けるか、これが米国にとっては最大の懸案だ。

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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