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韓国紙「東亜日報」の「横田めぐみ死亡記事」を検証する

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

先週の7日に韓国大手紙「東亜日報」が報じた「横田めぐみさんが1994年4月に薬物の過剰投入で死亡していた」との記事を安倍晋三総理はこの日の夜に出演したBSフジの番組で「信憑性はない」と即座に否定した。菅義偉官房長官もこの日、閣議の記者会見で「報道は承知しているが、信憑性は全くない」と全面否定した。

菅官房長官からは「信憑性がない」理由や根拠についての説明はなかった。ただ安倍総理は「さまざまな情報が寄せられているが、その多くは全く信ぴょう性がないか、裏付けがないものだ。この情報もその一つだろう」との「所見」を語っていた。

東亜日報は、日本の拉致問題対策本部の関係者3人が、横田めぐみさんの「死亡」を証言した脱北者2人と9月11日に第三国で面談し、聞き取り調査を行い、報告書を作成したと伝えている。この件について菅官房長官は「全く承知してない。(同本部の)関与はないと思う」とコメントし、所管の山谷えり子拉致担当相は「具体的な内容のコメントを控えたい」と、多くを語らなかった。

山谷大臣がこの件について直接的な言及を避けたところをみると、どうやら拉致対策本部のスタッフが証言者らに会った可能性は否定できないようだ。事実、7月から準備し、この面談をセットした韓国の拉致被害者家族で作る「拉北者家族会」の崔成龍代表は7日の記者会見で対策本部のスタッフが作成し、サインした報告書なるものの存在を明らかにし、公開している。

「東亜日報」の報道に安倍総理及び菅官房長官が即座に反応できたのは、スタッフらが持ち帰った報告書を政府が事前に精査、検証していたからだろう。ならば、政府は何を基準に、根拠に「信憑性がない」と結論付けたのだろうか?

政府の立場に立て推測するなら「信憑性がない」根拠は以下5点、考えられる。

一つは、「49号予防病院」に勤務していたとされる証言者らがめぐみさんは「1994年4月10日に亡くなった」と断定したことだ。しかし、日本政府は、帰国した地村富貴恵さんから「めぐみさんは1994年6月に自分たちの隣に引っ越してきた。数ヶ月そこに暮らしていた」との証言を得ている。「4月10日死亡説」はそもそも北朝鮮の公式発表「4月13日死亡説」とも食い違っている。

次に、「死亡した」とされる病院について証言者らは「平壌の49号予防院」と述べているが、政府は帰国者の蓮池薫さんらの証言からめぐみさんは平壌でなく新義洲の病院に入院したとの見解に立っている。仮に、平壌だとしても、「49予防院」ではなく、政府高官らが入院する「蜂火診療所」ではないかとみていることだ。

三つ目に、対策本部スタッフの「どうやって横田めぐみさんだとわかったのか」との質問に朝鮮名「リュミョンスク(女)」と書かれた遍歴書(診療記録書)に「1977年に捕まえられ、日本から北朝鮮に連れて来られ、国家安全保衛部で調査を受けたと書かれてあったから」と証言していることだ。

拉致被害者を管轄している工作機関が極秘扱いの拉致被害者のプライバシーを医師や看護婦ら病院の関係者らの目に触れることのできる書類に記すようなことは常識に考えてもあり得ない話だ。

四つ目に、脱北者の証言者は面会場所が韓国でなくて、中国とおほしき「第三国」で行われ、それも、日本側の質問に書面で提出していることだ。もしかしたら、証言者当人ではなく、内情をよく知っている第三者が書いた可能性も考えられるし、また勘繰るならば、北朝鮮が再調査の報告書を出す前にめぐみさんの「死亡説」を流布させ、既成事実化させるため仕組んだ工作の可能性もないとは言えない。面会から2か月経った今、証言者らが韓国に無事入国したのか定かではない。今もなお、中国滞在中ならば、なおさら怪しい。

最後に、この面談をセットした崔成龍代表は「北朝鮮との交渉を行ってきた日本政府は、報告書の存在を認めようとしないだろう」と日本の対応を暗に批判し、「今後、脱北者らとめぐみさんの両親との面談も推進していく」と語っているが、崔代表は過去に韓国人拉致被害者を北朝鮮から脱北させたり、横田めぐみさんの夫は「韓国人拉致被害者の金英男」といち早く特定したり、確かにその情報収集能力には一定の評価を得ている。

しかし、その一方で一昨年6月には日韓拉致被害者7人の「死亡確認書」の内容を書き写したとされる文書を入手したとして、そこに横田めぐみさんが「2004年12月14日死亡」と記載されていると、発表していた。前回は「2004年12月」そして今回は「1994年4月」と発言がくるくる変わっていることも今一つ信用が置けない。

それにしても、韓国の拉致被害者に関する情報でもない、よそ様、即ち日本人拉致被害者の問題をなぜ「東亜日報」は大々的に報じたのだろう?また、一体、誰が何のために「東亜日報」にこの情報を流したのだろうか?

崔代表によると、A4で9枚になる報告書の原本は日本政府が保管しており、コピーは韓国の情報当局(国情院)が持っているとのことだ。

報告書には日本側は「質問で得られた情報については証言者の姓名と生年月日などの情報を一切公開しないことを確約する」と明記されている。

「東亜日報」は報告書を「単独入手した」と報じているが、日本が流すはずもなければ、必然性もない。ならば、崔代表か、国情院か?この情報を流すことで得するのはどこか?誰か?それが問題だ。

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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