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日本人留学生行方不明事件の公判4日目。自由を求めた黒崎さんに対する禍々しいまでの嫉妬心

プラド夏樹パリ在住ライター
ル・モンド紙4月3日版

2016年、フランスのブザンソンに留学していた日本人学生黒崎愛海さん(当時21歳)が行方不明になった事件の裁判が、フランスで開かれている。容疑者である元恋人ニコラ・セペダ被告は、事件への関与を否認し続けている。公判4日目についてお伝えしたい。

遺体が見つからない事件

その前に、被告がチリからフランスに引き渡されて行われているこの公判には、フランス政府の大きな努力があったことを付け加えておきたい。筆者は、2016年末にこの事件を知った時、「外国人同士の間で起きた事件に、いったいどれだけ仏警察が本気で捜索するものかな?うやむやにされて闇に葬られるだけではないかな」と思った。

しかし、フランスは国際手配を出し、被告はチリ警察に自主的に出頭するものの、事件への関与は否定した。富裕層出身の彼はその時点ですでにチリの著名な弁護士事務所と連絡を取っており、「チリの判事がフランスに国民を引き渡す事はないと確信している」とメールで従兄弟に言っている。

確かに、チリ・フランス間には容疑者引き渡し条約がない。仏警察の事件調査員がチリに赴くが、被告は黙秘権を行使。しかし、2019年10月にフランスがチリに引き渡しを願いて、2020年4月、チリの最高裁判所はそれに応えた。

しかし、その背景には、政治的な問題もある。チリはピノチェ元大統領による軍事独裁政権時代(1973年から1990年)に、多くの左派系の人々が逮捕・誘拐され拷問されたが、約3000人の遺体が見つからないまま行方不明になっている。家族の要請にもかかわらず、遺体がないことを理由にいまだに裁判が行われていない。しかし、今回、遺体が見つからない黒崎さんの行方不明事件に対して、チリ政府が容疑者引き渡しを承諾した事は、チリ国内でも「遺体がない事件」に関する意識が変化しつつあることの反映かもしれない。

黒崎さんのアカウントに50回以上不正アクセス

公判4日目、4月1日。午前中は、日本から筑波大学の教授がビデオリンク方式で参加。黒崎さんがフランスへ留学して以来、約50回、セペダ被告のパソコンから彼女の大学である筑波大学学生アカウントに不正アクセスがあったことを証言した。

その後、仏警察の捜索官が、「被告のフランス国内での移動は全て追跡しました」と証言した。警察犬・潜水士・ヘリコプターを動員して森を中心にした50km平方にわたる地帯を、また、人骨発見のために800トンの鉱滓、家庭ゴミまでを分析したということだ。

上記は閉廷後にインタビューに答える黒崎さん家族の代理人ガレー弁護士。「黒崎さん御家族は、仏警察が本当に出来る限りの捜索したのかを知りたいと、遺体の捜索についての詳細を法廷で聞き続けました。私はお母さんを法廷から退出させようと考えましたが、それでも彼女たちは一言も聞き逃すまいと、法廷に残り続けました」と語る。

11時からは被告が黒崎さんに対してサイバー攻撃していたことの証拠が次々と挙げられた。初日、用意周到に裁判の準備をしていたように見えた被告だが、ネット上での足跡を完全消去するのは不可能だ。この公判4日目で、もはや彼に対する嫌疑は晴らしようがない状態になってしまい、「辣腕」と評判高い被告側弁護士の発言も少なくなってきている。

今回は、全国紙ル・モンド紙4月3日版が1ページを割いて記事を発表したので抜粋を訳してみる。タイトルは、『ニコラ・セペダ、その禍々しいまでの嫉妬心。そして許せなかったNarumi Kurosakiの自由』

「2016年にブザンソンで行方不明になった21歳の日本人女子学生、黒崎愛海さんを、ニコラ・セペダが執拗に、また脅迫しながらサイバー攻撃していた証拠が挙げられた。

2016年12月、3ヶ月前に着いたばかりのフランスで、彼女はLineやMessenger、Skypeを使って母、妹、東京の友人たちに楽しいフランス生活について話していた。

一緒にフランス語の集中講義を受けている他の外国人学生たち〜日本人、ギリシャ人、シリア人、コソボ人、韓国人〜とは、WhatsApp上で、習いたてのフランス語で話し合っていた。(中略)

Facebook上の友達リストは増えるばかり。スキーキャンプ、ハイキング、山登り、そしてHip-hopのクラス。年末の予定はすでに決まっていた。クリスマスには新しい恋人、アルチュール・デル・ピッコロとヴァール県のサン・アギュルフに一緒に行った。フランス人のエンジニア科学生で、同じ学生寮に暮らしている男性だ。(中略)

しかし、日本からチリに戻ったニコラ・セペダは彼女をネット監視し、自分の恋人が自由を謳歌していることを許し難く思っていた。2年前に日本で筑波大学に滞在した時に彼女と出会い、恋仲になった。一緒に数ヶ月暮らし、チリに連れて帰り両親にも引き会わせた。

しかし、この恋愛は黒崎さんがフランス留学を決めた頃から綻び始めた。ニコラ・セペダは怒り、二人は一度別れ、仲直りし、また別れた。彼は、彼女に「愛している、結婚したい、一緒に子どもを作ろう」と言った。しかし、彼女はすげなく断り、一緒に写っている写真を捨て始める。彼女のパソコンのゴミ箱にはハートマークがたくさん散った『世界最高のカップル』とタイトルされた二人が並んで写っている写真が投げこまれ、カレンダーの12月11日には「Nicola’s Birthday」と書き込まれていたが棒線で消されていた。そして12月1日、Facebookのカバー写真からニコラ・セペダと関連するものを削除、代わりに新しい恋人アルチュールと一緒に微笑みを浮かべて並ぶ写真をアップした。

その前日、11月30日、ニコラ・セペダはチリからマドリッド経由でジュネーブに着いていた。フランスのディジョンまで電車に乗り、レンタカーを借り、ブザンソンまで運転し、夜遅く到着した。

そして所有欲、嫉妬心の欲動、傷ついた自尊心

しかし、ニコラ・セペダがフランスに着いたことも、また、彼が数日間にわたって彼女が暮らす学生寮の周囲を歩き回っていることも、黒崎さんはまだ知らない。そして12月4日に、ダンスのレッスンから帰ってきた彼女を、彼は学生寮の前で待っていた。その後、二人は一緒に食事をし、夜を共に過ごした。その後、誰も、この21歳の日本人女子学生を見かけたものはいない。12月7日、ニコラ・セペダはディジョンで泥だらけのレンタカーを返し、ジュネーブに帰るエアチケットを取り、バルセロナで従兄弟宅に数日泊まり、12月12日にチリに戻った。前日、26歳になっていた。

そして今、ブザンソンの重罪裁判所では、2つの相反する世界が衝突しあっている。どこででもSNSでコネクションし、どこにも定住しない、慣習に束縛されず、数か国語を操る若者のグローバルな世界。その一方で、所有欲、嫉妬心の欲動、傷ついた自尊心から、パートナーの自由な恋愛を断罪する前時代的な世界(中略)。

遺体は見つかっていないが、SNSとメールボックスにあまりにも多くの状況証拠が残っている。9月5日、黒崎さんがブザンソンに着いてまだ1週間という時に、ニコラ・セペダは山のようなメールを彼女に送りつけている。Facebook上の新しい友人3人(そのうちの一人は後に彼女の新しい恋人になるアルチュールだが)を見て、「男を友達リストから削除しろ」、おまけに「削除したという証拠を写真に撮って送れ」と命令する。彼女はなかなかこの言いつけに従わない。「Narumi、僕から彼らに言ってもいいんだよ。あいつらに直接メッセージを送って、Narumiは僕のモノだから近づくなと。その方がいいのかい?」彼はイラつく。「我慢するにも限度というものがあるぞ。まだ君の友達リストにはラファエルとアルチュールが残っているじゃないか!」と。そして、指示を出す。「プロフィール欄に行って削除を選ぶんだ。それが嫌なら、ブロックしろよ!」と。しかし彼女は従わない。彼は脅す。「ふざけるのもいい加減にしろ。Narumi、僕たちの関係を続けるために二人で努力するよりも、その3人のFacebook友達の方が大切なのか?その気になれば、どこからだって、僕が君の代わりにブロックして削除する事はできるんだぞ!」(中略)

被告はチリからフランスにいる黒崎さんを追跡し続ける。「君はラファエルにワインの試飲会に誘ってと言ったんだろう?君は、僕が出した条件(筆者の前記事を参照)を破ったじゃないか」とメッセージを送る。そして彼女は彼を罵り、二人の間はこれで終わりになった。

10月8日から、二人の間でメッセージ交換はない。しかし、11月の始め、バルセロナに住む従兄弟に、被告はFacebookのチャットでこの破局がどれだけ自分にとって辛いか、心情を吐露している。そして11月10日、突然、フランスへ行く準備を始める。(中略)。

裁判長が聞く。「フランスに行くことを決めた時、あなたは、彼女には新しい恋人がいることを知っていたでしょう?それでも?」

「いいえ、知りませんでした」と、被告は再び否定した。

この記事は、「今後、問題となるのは、セペダ被告が有罪かどうかではなくて、彼が自分の罪を認めるかどうかだ」と結んでいる。

パリ在住ライター

慶応大学文学部卒業後、渡仏。在仏30年。共同通信デジタルEYE、駐日欧州連合代表部公式マガジンEUMAGなどに寄稿。単著に「フランス人の性 なぜ#MeTooへの反対が起きたのか」(光文社新書)、共著に「コロナ対策 各国リーダーたちの通信簿」(光文社新書)、「夫婦別姓 家族と多様性の各国事情」(ちくま新書)など。仕事依頼はnatsuki.prado@gmail.comへお願いします。

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