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家事分担の不公平は刑罰化も?欧州でも依然残る「男女の役割分担」不公平

プラド夏樹パリ在住ライター
フランスでも女性の57%がパートナーより多く家事・育児をしていると感じている(写真:アフロ)

欧州ジェンダー平等研究所 (European Institute for Gender Equality、E I G E)(注)が、今秋、「欧州連合(以下EU)加盟国のジェンダー平等指数2023年」を発表した。

(注)欧州ジェンダー平等研究所:ジェンダー平等に関する情報を収集・分析し、EU加盟国の平等政策を支援することを目的とするEU専門機関の一つ

これは仕事、経済、家事・育児、知識、健康・意思決定などの分野で男女格差を測り、完全な平等を100点として数字で示したもので、EU全体では70.2点と、初めて70点を超えた。そして、EU加盟国内でトップ3に位置するのはスウェーデン(82.2点)、オランダ、デンマークだった。

ところで加盟国27か国全体の特徴の一つとして挙げられたのが、家事・育児分担の問題だ。「家庭における男女の役割分担の構造そのものを変えることが必要」と指摘された。

女性が家事・育児に費やす時間数は、近年、明らかに減少している。しかし、今回の分析で、その理由は、女性が家事代行を利用する、食事のデリバリーを依頼することが増えたからであり、決して男性の家事・育児分担が増えたわけではないことが明らかになった。毎日、食事を作るという女性はEU加盟国全体で63%、男性は36%である。

残念ながら「私作る人、僕食べる人」という構造は、変わってないのだ。

フランス〜出産・育児を機会に男性のキャリアが上昇するという皮肉

ところで、私が暮らすフランスは上記のジェンダー指数では6位75.7点なのだが、国内ではいったい何が問題になっているのだろうか?

パリ政治学院の公共政策評価研究所(LIEPPE)が、今秋「仕事について私たちが知っていること」という研究を発表した。ちなみにフランスでは女性の収入は男性よりも平均29%少ない(2019年調べ)。

上記の研究結果では、女性が仕事の場でガラスの天井を破ることができないことの理由として、理科系に女子学生が少ないことなどのほか、出産を機に25歳から45歳の女性のキャリアが停滞すること、その反対に6歳以下の子どもがいる男性のキャリアが上昇することを挙げている。2021年から父親休暇が28日(そのうち1週間は取得が義務)に延長されたが利用する人は全体の70%。育児休業は男女共に1年間まで取得可能にもかかわらず、利用する男性は全体の1%未満だ。

「カップル間の関係が公平でない限り、労働市場での男女平等は達成できない」とは、2023年にノーベル経済賞を受賞したクローディア・ゴールディン氏の言葉。不公平な家事・育児分担が社会の発展に与える悪影響が、様々な研究で明らかになっていても、家庭というプライベートな場の構造はなかなか動かしにくいようだ。どうすれば国民一人一人の意識を変えていくことができるのだろうか?

「家事分担の不公平を刑罰化」は冗談か?

こうした状況に対して、仏政府機関の一つである男女平等高等評議会の元会長ブリジット・グレジー氏は、民法改正を提案している 。

民法212条は市役所で婚姻届にサインする際に読みあげられるもので、現在は「夫婦は互いに尊重しあい、貞節を尽くし、助け合わなければならない」となっているが、それに「家族で過ごす時間と家事を公平に分担すること」を入れるべきではと。

しかし、もっと「過激」な提案もある。エコロジー党で少々挑発的な発言が多いことで有名な国民議会議員サンドリン・ルソー氏は、「私生活にも政治を介入させよう」と言って憚らない。「長い間、プライバシーとして見逃されてきたカップル間の暴力やレイプが近年、刑罰対象になったように、家事を分担しないことも暴力の一つ。軽罪として刑罰化したら?」と提案している。

ところで、この発言は、「冗談」として揶揄やからかいの対象になったが、実は、国民の支持を多く得ている、実生活に即したものだ。

国民の半数が刑罰化に賛成

IFOP(フランス世論研究所)は2022年に『フランス人と家事・育児労働の不公平な分担』という統計を発表したが、それによると、なんと50%の女性と44%の男性が刑罰化(軽罪)に賛成している。

しかし、実際に訴訟に持ち込む意気込みかというとそういうわけではないらしい。「不公平な家事分担が刑罰の対象となった場合、あなたはパートナーを告訴しますか?」という質問に、「告訴する」と答えているのは15%の女性と13%の男性にとどまっている。

しかし、ゆっくりとではあっても、意識は進歩しているらしい。自分の父親より家事をしているという男性は56%にのぼる。彼らは主に週末に、あるいはパートナーの「アシスタント」として家事・育児をし、それがまた、女性たちの「自分でイニシアチブをとって欲しい」という気持ちにつながっている。

家事・育児分担が不公平という感情はカップル関係を悪化させるのは周知のことだが、それを理由に「パートナーに家事・育児を任せて数日間、家を出ようと思った」ことがある女性は42%、それを理由にセックスやスキンシップを拒否したことのある女性は22%、「別れようと思った」女性は22%にのぼる。

さらに、実際に破局に向かうこともある。不公平な家事・育児分担ゆえにパートナーと別れた女性は16%となっている。

とうとう、家庭内にも拘束力のある法規を導入することを考える時が来たのだろうか?フランスでも若い女性が親の介護と育児というダブルケアを背負うケースが増加してきている今、男女格差は家事・育児・介護を外注することができる人々とそうではない人々の差を大きくし、社会の分断につながる。このまま漫然と「私作る人、僕食べる人」という構造を続けていくことはできない。

【この記事は、Yahoo!ニュース エキスパート オーサーが企画・執筆し、編集部のサポートを受けて公開されたものです。文責はオーサーにあります】

パリ在住ライター

慶応大学文学部卒業後、渡仏。在仏30年。共同通信デジタルEYE、駐日欧州連合代表部公式マガジンEUMAGなどに寄稿。単著に「フランス人の性 なぜ#MeTooへの反対が起きたのか」(光文社新書)、共著に「コロナ対策 各国リーダーたちの通信簿」(光文社新書)、「夫婦別姓 家族と多様性の各国事情」(ちくま新書)など。仕事依頼はnatsuki.prado@gmail.comへお願いします。

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