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がん患者はオミクロンにどう対処すれば良いか?

大津秀一緩和ケア医師
(写真:アフロ)

この記事は、がん患者およびそのご家族がオミクロンにいかに対処すれば良いかをお伝えします。

年間でがんと診断される人は98万人に及びます(2018年)。

2年以上にわたっているコロナ禍においても、多くの方が診断を受け、あるいはがんの診断のもとに療養されているでしょう。

がんを患っている方は多いですし、その周囲の方も含めると、相当数の方が当事者だと言えると存じます。

オミクロンの拡大と医療逼迫

新型コロナのオミクロン変異株の流行は拡大を続けています。

オミクロンもまた医療逼迫を起こす変異株であり、救急搬送困難事案が生じるなど、各地の医療は厳しい状況を強いられています。

現在、何らかの持病をお持ちの方も、不安などを感じておられる場合も少なくないのではないかと考えます。

実際、医療が逼迫すると、普段から病院などにおかかりの皆さんが受けている通常医療に関しても影響が及ぶということもありますし、これまでもコロナ禍の間に何度か医療への影響から予定されていた手術等が難しくなるなどの事例が起きてきました。

今回の波においても筆者のもとに、予定されていた手術が延期になったとの声が複数届いています。

早い収束が望まれる状況です。

がん患者と新型コロナの感染・重症化

すでに知られているように、がんの患者さんの一部は新型コロナに感染しやすく、重症化しやすいとも言われています。

感染…診断から1年未満、血液腫瘍、肺がんなどはリスクが高い

・重症化…高齢、男性、1年以内に診断されたがん、血液腫瘍、肺がんなどはリスクが高い

参考;https://www.ncc.go.jp/jp/ncce/division/infectious_control/040/02/index.html

がんの患者さんの中でもリスクは大きく異なり、すべてのがん患者さんに一律にかかりやすいとか、重症化しやすいとかは言えません。

しかしもちろん、持病がない人より注意する必要があるのは言うまでもないと考えます。

そのような中、新たな注目すべき研究が出てきました。

がん患者とワクチンによるオミクロンへの抗体

すでに指摘されているように、新型コロナのオミクロンに対するワクチンによる抗体は時間の経過とともに低下し、有効性も下がることがわかっています。

そのような中、がん患者において抗体はどうなのか、新たな研究が出ました。

がん患者と新型コロナの各変異株に対する中和抗体を調査したものです。

「中和抗体」は、ウイルスや細菌などの病原体を排除し、感染を防ぐ中和作用のある抗体のことを言います。

結果をごく簡単にまとめますと次のようになります。

【固形がん(血液がんでないがん)の2回接種】

中和抗体検出割合(3回目前)

・従来型   97%

・デルタ   56%

・オミクロン 37%

3回目後

・従来型   99%

・デルタ   97%

・オミクロン 90%

【血液がんの2回接種】

中和抗体検出割合(3回目前)

・従来型   89%

・デルタ   39%

・オミクロン 19%

3回目後

・従来型   86%

・デルタ   71%

・オミクロン 56%

健康な人でも、2回接種後時間が経って、3回目接種の前になると抗体が低下していることがすでに指摘されていますが、がんの患者さんの場合は特にオミクロンだと検出できないケースも多いことがわかります。

ただ幸いにして、特に固形がんの場合は3回接種に反応して、中和抗体の検出割合が9割まで回復しました。

一方で、血液がんの方に関しては、固形がんよりは中和抗体検出割合が良くないことが見て取れます。それでも3回接種に反応して、オミクロンそしてデルタの中和抗体検出割合は改善しています。

このように、がん患者では抗体の状況が、2回接種後時間が経過した場合に必ずしも良好とは言い難い(特にオミクロンに対して)が、3回の接種にて良好な状況を復することがわかりました。

【まとめ】オミクロンの感染性に対抗するために

すでにがんの患者さんやその周囲の皆さんは、十分感染予防には気をつけておられるでしょう。

感染性が高いウイルスにおいては、標準的な予防策はもちろん、様々な対策を重ねることが大切です。

マスクやソーシャルディスタンス、3密を避けること、換気、手指消毒などが重要なことは言うまでもありません。

そのような対策も行い、かつ有効性が保持されるように適切なワクチン接種を行うなどの対策を重ねてゆくことがより身を守ることにつながります。

ワクチンに関しては、抗体などの液性免疫だけではなく、細胞性免疫という免疫も存在し、重症化の抑止などに寄与しうるとされています。細胞性免疫に関しては、比較的長く保たれるのではないかという研究も存在します。

参考;https://www.nature.com/articles/s41591-022-01700-x

一方で、感染や発症の抑止に関して、抗体は大切な役割を果たしており、前掲の研究のように時間とともに抗体に関する効果が低減することを考えると、やはりがんの患者さんの場合は追加接種が妥当と言えると考えます。

もちろん適切な接種の時期や副反応等、お気がかりなこともあると思われ、担当の先生とよく相談して頂くと良いでしょう。

また周囲の方も、やはり一部のがんの患者さんの場合はリスクが相対的に高いと考えられるため、うつさないように引き続き予防と対策に努めて頂くと良いのではないかと考えられます。

緩和ケア医師

岐阜大学医学部卒業。緩和医療専門医。日本初の早期緩和ケア外来専業クリニック院長。早期からの緩和ケア全国相談『どこでも緩和』運営。2003年緩和ケアを開始し、2005年日本最年少の緩和ケア医となる。緩和ケアの普及を目指し2006年から執筆活動開始、著書累計65万部(『死ぬときに後悔すること25』他)。同年笹川医学医療研究財団ホスピス緩和ケアドクター養成コース修了。ホスピス医、在宅医を経て2010年から東邦大学大森病院緩和ケアセンターに所属し緩和ケアセンター長を務め、2018年より現職。内科専門医、老年病専門医、消化器病専門医。YouTubeでも情報発信を行い、正しい医療情報の普及に努めている。

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