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がん患者が新型コロナワクチン接種を受けて本当に大丈夫なのか?

大津秀一緩和ケア医師
不安をできるだけ解消して心身ともに良い状態で接種に臨みたいもの(写真:show999/イメージマート)

がん患者と新型コロナワクチン

新型コロナワクチンの接種が進んでいます。

医療関係者もようやく広く接種が進行しつつあり、次はご高齢の方や基礎疾患を持つ方の順番となります。一部開始にもなっていますね。

ワクチン接種の優先順位が上となる「基礎疾患」の範囲については厚生労働省により次のように示されています。

高齢者以外で基礎疾患を有する方について

がんを患っている方は7の「免疫の機能が低下する病気(治療中の悪性腫瘍を含む。)」に該当します。

最近、診察中にも「ワクチンをうって大丈夫なのでしょうか?」という相談を受けることが増えています。

ばくぜんと、がんで体力が低下しているのにワクチンをうって問題ないのだろうかという心配であることもあれば、より明確に「血栓」を心配されている場合もあります。

がんの患者さんは、例えば静脈血栓塞栓症のリスクが高いと言われています。非がん患者の7倍とも言われ、それはがん細胞自体が凝固(血液が固まる現象)を活性化させるなど複雑なメカニズムで起きていることが知られています。【参考;がん治療における血栓塞栓症

そこにワクチン接種者で血栓症が起きているニュースが報じられているため、より気になるところなのだとうかがわれます。

現在日本で接種が進められているファイザー製のmRNA(メッセンジャーRNA)ワクチンとは異なるのですが、アストラゼネカ製のワクチン(アデノウイルスベクターワクチン)で、ワクチン誘発性免疫性血小板減少症という稀な病態を起こすことが今月になって相次いで報告されました【参考;文献1文献2】。

しかしこれらは、主として若・中年の女性において、免疫学的なメカニズムで血小板第4因子というものに対する抗体が形成され、血小板が活性化されるというものであり、一般的な血栓を起こしやすいという状態から発生するというものとは異なります。

一方で、新型コロナウイルス感染症自体も血栓症を起こしやすい疾患(入院患者では2%)であり、それらを総合的に勘案すると、一般的にはワクチン接種による利益が上回るものと考えられます。

さて今回、4月27日に有名医学雑誌Lancet Oncologyに、がんの患者さんのワクチン接種に関して新たな研究が掲載されました。

がんを患っている方に関しての、ファイザー製ワクチンの抗体や安全性等についての最初の研究ということです。さっそく紹介します。

がん患者にワクチン接種をすると抗体は?

その研究では興味深い結果が示されました。

Safety and immunogenicity of one versus two doses of the COVID-19 vaccine BNT162b2 for patients with cancer: interim analysis of a prospective observational study

結論から言えば、がんを罹患していても、ワクチンを接種することで免疫がつくことがわかりました。

ただし…です。ここからが重要です。

がん罹患者の場合は1回だけの接種では十分免疫をつけることができませんでした。

抗体(抗S IgG)が陽性だったのは、1回目接種の21日後、健康な人では94%であったのに対して、固形がん(肺がんや乳がんなどの血液がんではないがん)では38%、血液がんに至っては18%であったのです。

しかし幸いにして、2回目接種を行い14日後になると、健康な人100%、固形がん患者95%、血液がん患者60%と、固形がんの患者では陽性率が健康な人と遜色がない程度まで上昇しています。

以上より、がんの患者さんにおいては、規定通りの間隔で2回接種することが必要だと示されたと捉えられます。

また、ワクチンの効果は抗体ばかりではなく、細胞性免疫(T細胞が関与)を誘導することにもあります。

T細胞応答に関しては初回接種後21日で、健康な人で82%、固形がん患者では71%、血液がんでは50%という結果となっています。

がん患者のワクチン接種、安全性は?

安全性に関してはどうだったでしょうか?

特に問題がなかったのが、1回目接種においてがんの患者さんで54%、健康な人で38%、2回目接種ではがんの患者さん71%、健康な人では31%でした。

何だか健康な人より副反応が少ないようにも見えますね。しかも、健康な人では2回目のほうが全身性の副反応が出やすいと言われる中、がん患者に関しては2回目のほうが副反応が乏しい人の割合が増えています。

がん患者で一番多かった局所反応は痛み、全身反応は順に倦怠感、頭痛(1回目・2回目とも)ですが、頻度も強さも健康な人より少ない傾向がありました。

なお、大規模の研究ではありませんでしたが、ワクチン由来の死亡は出ておらず、また安全性に関しては固形がんと血液がんで違いは認められませんでした。

以上より、安全に接種できることがわかったと言えそうです。

まとめ

今回の研究は比較的小規模で、また有効性などの評価は行われていません。

しかし、1回目接種の前後でも半数くらいの患者が抗がん剤投与などのがん治療を受けているという条件下にもかかわらず、2回接種を通して特に固形がんの場合は健康な人と遜色がない率で抗体の誘導に至ったことなど、新たな知見をもたらしてくれました。

今後、さらにがんの患者さんのワクチン接種について研究が進むと考えられますが、まずは参考となるデータであったと考えます。

結果は、少なくとも効果が全然ないとか、がんを患っているからより副反応が強く出るのではないか、体調を壊してしまうのではないか、副反応が強くて衰弱するのではないか、そのような不安や心配に関しては大丈夫そうだと示したものであったと考えられます。

すでに、がんを患っていると新型コロナの見通しが悪くなる可能性について指摘されており、罹患しないに越したことはないでしょう【参考; 文献3文献4】。

ご自分ががんを患っていたり、あるいはご家族にがんの患者さんがいらっしゃったりするような場合は、これらの情報を参考によく担当医と接種について相談すると良いでしょう。

緩和ケア医師

岐阜大学医学部卒業。緩和医療専門医。日本初の早期緩和ケア外来専業クリニック院長。早期からの緩和ケア全国相談『どこでも緩和』運営。2003年緩和ケアを開始し、2005年日本最年少の緩和ケア医となる。緩和ケアの普及を目指し2006年から執筆活動開始、著書累計65万部(『死ぬときに後悔すること25』他)。同年笹川医学医療研究財団ホスピス緩和ケアドクター養成コース修了。ホスピス医、在宅医を経て2010年から東邦大学大森病院緩和ケアセンターに所属し緩和ケアセンター長を務め、2018年より現職。内科専門医、老年病専門医、消化器病専門医。YouTubeでも情報発信を行い、正しい医療情報の普及に努めている。

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