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がん患者の新型コロナ罹患でのリスクがより明確に 年齢、性別、がんの種類が影響

大津秀一緩和ケア医師
(写真:show999/イメージマート)

がん患者が新型コロナウイルス感染症にかかると危険なのか?

しばしばがんの患者さんやご家族からされる質問です。中には「なったら絶対…ですよね?」と不安そうに尋ねられる場合もあります。

重要な関心事の一つと感じられたため、以前筆者も一度記事化しています。

がん患者が新型コロナに感染すると危険なのか 重症化、死亡率、治療中の場合は?

最初に有名医学雑誌ランセットに掲載されたのは、中国からの報告(PMID:32066541)でした【※PMIDについては文末で説明しています】。

人工呼吸器を必要とする、集中治療室(ICU)に入室する、亡くなる、これらのいずれかが起きた患者の割合が、がんではない患者では8%であるのに対し、がんの患者では39%だったのです。

まずはこの結果が日本でも報じられたのでご不安になられた方もおられましたが、その後それほどではないとの別の研究結果も出たことは前回ご紹介した通りです。

大切なこととして、一つの論文が絶対的な真理を指し示すのではない、ということです。

論文ごとに結論が異なることもあり、また論文ごとに信頼性の高低があります。

信頼できる論文の結果が同じような方向を指し示すようだと、それが正しい可能性が高まります。

がんと新型コロナに関してもこれからも多くの研究論文が出ると思いますが、このことを知っておくと一つの結果で一喜一憂したり、違う結果が出た際に動揺や怒りにつながって心身が消耗したりするのを防ぐことができます。

それでは早速、新しい結果を見てみましょう。

有名医学雑誌ランセット掲載の論文

研究は「がん患者が新型コロナにかかると悪い見通しになるとされているが、がんは様々であり、各々のリスクを調査する」というものです。

COVID-19 prevalence and mortality in patients with cancer and the effect of primary tumour subtype and patient demographics: a prospective cohort study【PMID: 32853557】

新型コロナに関する論文を積極的に掲載している有名医学雑誌のランセットに載せられたものです。

イギリスの研究ですが、新型コロナに罹患したがん患者と、罹患していないがん患者で死亡率などを比較しています。

新型コロナにかかった1044人のがん患者のうち319人(30.6%)が死亡し、そのうち295人(92.5%)が新型コロナが原因であるとのことです。

イギリスで2020年3月18日から5月8日までの結果とのことで、死亡率が高い印象がありますね。

結論から言うと、以下の3点がわかりました。

1 年齢はやはり大切

2 男性にリスク

3 がんの種類では血液腫瘍にリスク

がん罹患者ではない人とも似ているリスク

まず年齢ですが、致死率は年齢の増加と関係していることがわかりました。

また新型コロナ感染症に罹患するがんの患者は男性が多く、致死率も男性の方が高いことも判明しました。

そして今回の研究では血液の腫瘍、例えば白血病や悪性リンパ腫、骨髄腫などが存在する場合に重い経過をたどりやすいと示唆されました。

さらには白血病を有していると致死率が増加することが示されたのです。

白血病の場合は病気自体による免疫機構への影響や、強力な抗がん剤治療が行われるため、それで骨髄機能が抑制されるのが通例であり、それらが影響したのではないかと考察されています。

一方でその他の腫瘍、例えば肺がんや乳がんなどを有していることによっての致死率の上昇は明らかではありませんでした。

総じて年齢や性別などのすでに判明しているリスク要因が、がんの患者さんにも当てはまるという結果であるように見えます。

まとめ

この論文で引用されているのですが他の複数の研究で、抗がん剤治療中であることが死亡のリスクを増やすわけではないことが示されています【PMID:3247368232473681】。

「がん患者」とひとくくりにすることは妥当ではなく、その年齢や性別、がんの種類や進行具合、治療の状況などはそれぞれかなり異なります。

そのため、一概に安全だとか危険だとかは言えないですが、今回の研究やいくつかの研究を見ても、「がんを患っているから」と判断されるのではなく、その他の状況を総合的に勘案してリスクは推測されるものと考えられます。

ただやはり筆者の知る限りにおいて、がんの患者さんもご家族もよりしっかりと予防等の対策を行っておられるように感じます。それは妥当な、望ましい行動であるとは思われます。一方で上述したように、各人ごとにリスクは異なると考えられ、担当医ともよく話し合うと良いでしょう。

バランスの良い食事と適度な運動、そしてストレスを溜めないことや良好な睡眠は、新型コロナに限らず健康維持のために大切です。

引き続き皆で予防やそれらに気をつけ、これから迎える冬を健やかに乗り切って参りましょう。

【注】新型コロナウイルス感染症はCOVID-19ですが、本稿では新型コロナと呼称しました。また、PMIDは論文に付与されているIDで、医学分野の代表的な文献情報データベースPubMed(パブメド)において、このIDで当該文献をすぐに検索することができます。

緩和ケア医師

岐阜大学医学部卒業。緩和医療専門医。日本初の早期緩和ケア外来専業クリニック院長。早期からの緩和ケア全国相談『どこでも緩和』運営。2003年緩和ケアを開始し、2005年日本最年少の緩和ケア医となる。緩和ケアの普及を目指し2006年から執筆活動開始、著書累計65万部(『死ぬときに後悔すること25』他)。同年笹川医学医療研究財団ホスピス緩和ケアドクター養成コース修了。ホスピス医、在宅医を経て2010年から東邦大学大森病院緩和ケアセンターに所属し緩和ケアセンター長を務め、2018年より現職。内科専門医、老年病専門医、消化器病専門医。YouTubeでも情報発信を行い、正しい医療情報の普及に努めている。

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