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「こうすべき」に縛られ、子どものことに手を抜けないPTAの母親たち

大塚玲子ライター
サンドラ・ヘフェリンさん(写真提供:「教職研修」編集部)

 「多文化共生」をテーマに幅広い執筆活動を続ける、サンドラ・ヘフェリンさん。ドイツ・ミュンヘンに育ったのち、20年以上日本に暮らしています。

 日本のPTAについても、いまだに「母親がやることが暗黙の了解」になっているアンバランスな状況や、「任意」のはずなのに退会者の子どもが「村八分」にされていることなど、さまざまな問題点を指摘してきました。

 今年出版された著書『なぜ外国人女性は前髪を作らないのか』(中央公論新社)でも、「PTAの役員になったため有休をすべてPTAに使ってしまい、家族旅行にも行けなかった」という知人の話などを紹介しています。

 前回に引き続き、「教職研修」編集長・岡本さんとともに、サンドラさんにお話を聞かせてもらいました。(取材は2021年5月)

*「母としてこうすべき」が強い日本の親たち

――以前ドイツに住んでいた方から、学校のフェスティバルで開催された「保護者の食べ物(料理)の持ち寄りパーティ」の話を聞きましたが(参照記事)、とても気楽そうでした。誰が持ってきたか、なんて誰もチェックしないし、集まった食べ物がしょぼくても誰も気にしない。日本のPTAも、そんなふうだといいのですが。

 そもそも、食べ物や料理に関するプレッシャーはあまりないですね。「何か作らなきゃいけない」とか。ホームパーティでも、食べ物があればいいほうで、なければお酒だけ。あっても、ポテトチップスとプリッツがコップに入っている、という感じです。

――私もそれでいいと思いますが、日本はどうも「女は料理を頑張る」みたいな考えが根強いです。

 多いと思います。「母としてこうすべき」みたいな。

 私は子どもの頃、ミュンヘンで育ったんですけれど、土曜日だけ日本人学校に行っていました。でも、その週1日の日本人学校のほうが、ドイツの学校より催しが多かったんですよ。みんなで集まって子どもたちをスケートに連れて行く、とかすごく盛んで。駐在者のおうちばかりで、みんな専業主婦だったから、というのもあるんですけれど。

 私はそのとき、けっこう恥ずかしくて。他のお母さんたちはみんな、夫が領事や商社マンだったりして、料理が上手なんです。うちの母親はそうでもないから、催しのたびに、カステラしかつくらない。そうすると、友達に「あ、里美ちゃん(サンドラさんの日本語名)、またカステラ」とか言われたりして。ほかのお母さんたちは、ちらし寿司とか、お雑煮とか、けっこうバリエーションがあって、確かに美味しかったの。

 だから、そういう子どもの関係のことで手を抜くと、子どもが恥ずかしいから、ちゃんとやらなきゃ、という感覚もよくわかるんです。親が「私、そんなのやってらんないわよ」って手を抜いたら、子どもに何があるかわからないから誰も言えない、というのはよくわかる。

――カステラだって、十分すごいですが。でも、どうも母親たちは「いかに子どものことに手をかけるか合戦」にハマりやすいです。子どもに影響するとなると、降りることもしづらい。

 日本のPTAって、一部でベルマーク活動とかやっていますけれど。ドイツのボランティアは、もっと実用的なんです。ドイツって5~6年前から難民がいっぱい来て、どの地域にも難民が収容されているセンターがあるので、そういったところにドイツ語を教えに行ったりする。あとは、役所の申請書類の記入を手伝ってあげたり。「目の前に問題があるから、そこを何とかする」のがボランティアであって、「誰々のお母さんがつくった、なんとかがまずい」とか、そういう話ではないんですよ。

――日本でも、日本語を母語としない子どもが増えていますし、本当に手が必要な場面は、ほかにたくさんあるんですけれどね…。

*「大人が学ぶ場」は学校とは別にちゃんとある

――日本だと「PTAは地域の大人(保護者)が学ぶ場」という考え方があるんですが、ドイツには、そういった考え方はありますか? 学校という場で、保護者にも学ばせる、みたいな。

 それって、生涯学習のことですか? たとえば大人が「私、英語をやりたい」と言って、それで地元の学校と絡む、ということですか?

――PTAでやるのは「講演会にみんなを来させて教育する」みたいな形が多いです。もしくは「学校のお手伝いをすることが、保護者の学びになる」みたいな…。

 生涯学習ということで言うと、ドイツには、Volkshochschule(フォルクスホッフシューレ)というものがあります。市民大学ですね。これは国が税金でやっている生涯学習の場で、ドイツの大きな町にあります。けっこう安く、質の良い授業を受けられるというので有名です。

 たとえば昔だったら「タイプライターを習いたい」っていう大人がいたら、ここに行けばすごく安い値段で、いい先生のもとで習える。うちの母も、ここでイタリア語を習っていたことがあります。日本語も学べるし、生け花もあるはず。いろんなジャンルがある。

 これは子どもたちが通う学校とは全く別のもので、主に大人たちが学ぶ場です。働いている人や、今はあんまりいないですけれど、昔だったら専業主婦とか。そういう人たちがVolkshochschuleに行って、いろんな勉強をしたりして、楽しんでいたと思います。

――子どもたちは学校で、大人たちはVolkshochschuleで、というふうに、それぞれ学びの場がちゃんと確保されているんですね。

*「時間やお金を浪費しない」という価値観が共有されている

――ドイツの人と、日本の人では、いろいろと発想が違うところがありますね。

 こんなこともありました。何年か前にドイツに行ったとき、日本に戻ろうとして、ミュンヘンの真ん中の地下鉄のホームで空港行きの電車を待っていたら、なんと「電車が止まりました、いつ動くかわかりません」というアナウンスがあって。でも、あと1、2時間後には空港にいなければいけない。「あ、困った」と思っていたら、隣にいるふたりと目が合ったんですよ。ふたりともドイツ人で、スーツケースをもっている。

 そうしたら誰が言うともなく「3人でタクシーをシェアして空港に行って、3人で割ればいい」ということになって、5分後にはタクシーに乗っていた。全く知らない人同士でも、危機的なことになると、すぐ連携して動くというのは、すごくいいところです。もし日本で、たとえば品川で「スカイライナーが止まりました」っていったら、どうだろう。そういう展開にならないような気がする。

――そうですね、各々無言でタクシーに並ぶ人が多そうです。その違い、なんでしょうかね。

 あれは不思議。ドイツだとそういうことってよくあるんですけれど、日本ではまず、ない話。ドイツ人、団結力がないかというとそうでもなくて、ちゃんとそういうときは団結するんです。

――必要なときに団結できれば、いいですね。日本の人はどうも、言われたとおりにしか団結しづらいようです。ドイツの人は、なぜそこでスムーズに団結できるんでしょう?

 キリスト教的な、「相手が誰でも、困っている人は助けましょう」というのは、あるでしょう。あとはたぶん、ドイツ人はドライで合理的なんだと思います。みんな、一人ずつタクシーに乗って1万円なんて払いたくない、3人で乗ったほうが安いし、ということだと思います。助け合いでもなんでも、あくまで合理的に、無駄な時間やお金を費やしたくない、という。

――そこはみんな口に出すまでもなく、最初から共有できていることなんですね。

 できています。基本的に、みんながかかわることに関して、ひとにあまりお金を出させない、時間を取らせない、というのはドイツの常識で、それはちょっと日本と違うところです。

 日本の場合、けっこうお金が出ていくんですよ。たとえば、ドイツのある街で、子どもたちに日本語を教えている日本の人が「保護者の人たちにも日本の文化を知ってもらいたい」ということで、和食のレストランを予約して交流会を開いたんです。でもそれって、それなりのお金が出ていくじゃないですか。子どもが教わっている先生が高いお店を選んじゃうと、ドイツ人的には「ああ~」となっちゃう。食事とか交際費にお金をかけたくない、というのが多くのドイツ人の本音だから。

――すごく共感します。でも日本は、そういうことを気にしない人が多いです。特に子どものことには「時間や労力をかけるほど良き親」みたいな価値観もあって。

 ドイツの保護者は平日の夜しか学校に行かないし、学校側もあんまり親の時間をとらせるようなイベントを組まないんですが、それはやっぱり、ひとの時間やお金を「あるもの」として「やってください」というのはよくない、と思っているドイツ人が多いからかな、と思います。

 ドイツ人は効率いいのが好きなんです。働き方にしても、短い時間で一生懸命働いて、あとはずっと遊ぶとか。突き詰めると、それが原因だと思います。お金も使わず、時間も使わず、ラクにいければそれでいいじゃないって。頑張るんじゃなくて、省くほうにいくんです。

――大賛成です。日本の親たちも、そういう方向に頑張れるとよいのですが。お話、どうもありがとうございました。

(完)

サンドラ・ヘフェリンさんの著書『なぜ外国人女性は前髪を作らないのか』(中央公論新社)
サンドラ・ヘフェリンさんの著書『なぜ外国人女性は前髪を作らないのか』(中央公論新社)

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 当インタビューについての筆者の考察は、月刊誌『教職研修』に執筆します。

ライター

主なテーマは「保護者と学校の関係(PTA等)」と「いろんな形の家族」。著書は『さよなら、理不尽PTA!』『ルポ 定形外家族』『PTAをけっこうラクにたのしくする本』『オトナ婚です、わたしたち』ほか。共著は『子どもの人権をまもるために』など。ひとり親。定形外かぞく(家族のダイバーシティ)代表。ohj@ニフティドットコム

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