「どうしちゃったんだろう、この人?」配偶者が精神疾患に…家族の知られざる困難

 先日筆者が書いた、精神疾患の子どもを持つ母親の署名活動の記事を読んだ出版社の方が、本を送ってくれました。配偶者が精神疾患になった人(特に妻)の困難について書かれた『心病む夫と生きていく方法』というものです。

 これまで、統合失調症の親と暮らした子どもや、子どもが発症した親を取材したことはあったのですが、配偶者もこれほど厳しい状況にあるとは。この本で初めて知りました。

 そこで今回、本書の著者である蔭山正子先生(大阪大学大学院准教授)にお話を聞かせてもらいました。蔭山先生は精神障がい者の家族支援を主な研究テーマとしており、ご自身も当事者家族だということです。

 精神疾患を発症した配偶者を支える妻や夫は、何を必要としているのでしょうか。

*知識がないから理解が難しい

――まず夫や妻が発症したとき、パートナーはどんなふうに感じるのでしょう?

 準備がないですから、それがまず病気なのか、性格から来るものなのか分からないんです。「どうしちゃったんだろう、この人?」という感じですよね。結婚するときには発症していないか、あるいは以前発症していても、ある程度落ち着いている状態から始まっている。だから精神疾患というのは「まさか」という感じだと思うんです。

 知識がないから理解が難しい。親の立場であれば、時間を作って勉強に行ったりもできますが、配偶者の立場は生活費を工面しながら子どもも育て、生活に追われているので、なかなか勉強にもたどり着けないというところもあると思います。

――特に夫が病気になった場合は、経済的な問題も出てきますね。専業主婦だった妻が、病気になった夫から「正社員になって働け」と言われ、結婚するとき「仕事をやめてほしい」と言われて従ったことを後悔したというお話も、本の中にありました。

 そうなんです。妻が病気になっても、夫は結婚前から仕事を継続していることがほとんどなので、経済的な不安というのはそんなにありません。でも夫が病気を発症して休職すると、妻がパートに出ないといけなくなったりする。もともとは銀行員だった奥さんが、夫が病気になって清掃のパートを始めるとか、そういうことはありますね。

 しかも病気の知識もなく「何だかよく分からないけれど、夫はずっと寝ている」といった状況なので、イライラだけが募ったりして、かなり大変な状況だなと私も思います。

――病気になった夫をつい責めてしまうという背景には、そういう辛さもあるんでしょうか。

 それはありますよね。病気だということも分からないと、「何で一日中寝てるの?」とか「話しかけても答えないの?」というのも、あると思いますし。

 分かってはいても、ということもあると思います。「相手は病人なんだから優しくしなければいけない」というふうに周囲からケアラーとしての役割を期待され、自分でも「病気なんだから優しくしなければ」と思ってはいても、実際には病気だろうが何だろうが腹が立つことは腹が立つ、ということもありますし。家族だからこそ、その辺の感情は抑えられないところもあるので。

――病気のせいなのですが、かなりきつい暴言や暴力を受ける配偶者も少なくないようです。それは辛いですし、喧嘩にもなりますね。

 はい、精神疾患のある方がいるお家は、やはり夫婦喧嘩などが多いです。子どもに対する調査でも、「日頃から喧嘩が絶えなかった」という方は、結構な割合でいます。

――病気の夫から妻への暴力は多いんですか?

 私が行った調査では、男女の差ってないんですね。一般的な暴力はやはり、男性から女性にふるわれるほうが圧倒的に多いんですが、精神疾患の症状によって暴力が起きるかどうか、というのは男女で変わりはなかったです。でもやっぱり、男性が暴力を振るうとダメージが大きいですよね。女性だったら手をあげても止められる程度のことが多いし、そんな大ごとにはならないので。その違いだと思います、どっちが多いとかではなく。

*やっと救いになるのが「家族会」

――夫の親が、配偶者である妻を責める、という話もいくつかありました。ただでさえつらいのに…。

 そこも「もうちょっと分かってくれたらいいのにな」という感じがしますね。親の立場からしたら、自分の大切な息子がこうなってしまったのは妻の対応が悪いからだ、と思ってしまうのは分からなくはないんです。一緒に住んでいるわけじゃないので、見えないですから。

 だからそういうときは、ちょっと実家に行かせて数週間一緒に暮らしてもらうといいかもしれません。この本にも、夫が一時期実家に帰って暮らしたら、義理の両親が妻の大変さを分かってくれたという人もいました。

――逆はあまりないですかね? 病気になったのが妻で、妻の親が夫を責めるというケースもあるんでしょうか。

 どうなんですかね、その辺は分からないですが、言われてみれば少ないような気も。妻が病気になっても、結局養っているのは夫なので、妻の親としては「病気の娘を見てくれてありがたい」みたいな部分もあると思うんですよね。どっちが養っているか、という影響はあるかもしれません。

――そういった状況で、配偶者にとってやっと救いになるのが「家族会」なんですね。

 という状況も、また悲しいところです。本当なら、夫が勤務する会社などから、そういう家族のサポートがあるといいんですけれど。産業保健という分野があるわけですから、たとえば休職したとき、産業保健師などが配偶者や家庭のことも心配して、相談にのってくれるといい。病気の説明をしたり、今後の経済的な不安の解消につながるような情報を提供したりできればいいんですけれど。

 今は、そういうものがほとんどないと思うんです。従業員に対する面接くらいは時々ありますが、その家族にまでというのは、なかなかない。だから余計に配偶者や家族は、どうしたらいいか分からない状況が長引いたりするんだと思います。

 それで皆さん「他の人はどうしているんだろう?」ということで、家族会につながってくるわけです。するとやっぱり、そこで初めて「あれ、みんなそうなのか、自分だけじゃないんだ」と分かったり、「他の人は、こんなふうに乗り越えてきているんだ」といったことにすごく勇気付けられた、という方が多いですね。

――この話に限りませんが、こういう会は何がいいんでしょう? 「救われた」という声をとてもよく聞きます。

 セルフヘルプグループといわれるものですね。人間ってすごくつらくなったとき、「こんなにつらいのは、世の中に自分一人だ」と思うようになっているというんですね。「一人ぼっちで、暗い闇の中にぽつん」という感覚になるので、そういうとき「同じような人がいた」と感じると、その存在だけですごく救われると皆さんおっしゃいます。

 今まで、自分のつらさを人に話してもなかなか分かってもらえないという経験をしてきているのもあります。特に精神疾患の場合、話された相手もよく分からない。話しても「分かってもらえない感」があるから、そのうちだんだんと自分から話さなくなってくるところもあって。

 でも家族会に行くと、みんな「1言ったら10分かる」みたいな世界です。「ああ、分かる分かる、うちも…」みたいな頷きがやたらと多い。それで「みんな、こんなに分かってくれるんだ」というところで、すごく救われると言いますね。

――以前、統合失調症の親をもつ子どもの会(「ひとりやないで!」)を見学させてもらったとき、みんなが「うんうん」言い過ぎて、聞いたことのない唸り音が発生して驚きました。昔に比べて、こういう場は増えているんでしょうか?

 配偶者の会は、大阪、京都、福岡、函館、東京ぐらいです。東京の会は今、オンラインでやっていますね。大阪のほうには私も何回か行っています。人数は少ないですが、やっぱり配偶者にしか分からないような話ができるということで来られる方もいますし、結婚する前、恋人の段階で、結婚したらどんなことが起こるか知りたいということで参加される方もいらっしゃいます。

*置かれた立場で影響も異なる

―― 一口に「家族」といっても、置かれた立場でいろいろ違いもあるんですね。

 そうですね。家族会は「親」の立場の方が8割ぐらいで、それも統合失調症の子どもをもつ方が多いんですけれど。親はやはり「我が子のためなら」という感じで、一生懸命ですよね。自分(親)が亡き後、子どもが生きていけるのだろうか、という心配が一番大きいかなと思います。

 「きょうだい」は、親よりはちょっと離れて冷静に見ている。ただし影響も受けます。精神疾患は10代の発病が多いので、本人もきょうだいもいろいろと多感な時期です。病気の子と部屋が隣だったりするので、ブツブツ言っている声を聞いたりもする。急性期のことがトラウマのような感じで、傷になっていることもあります。うまくいっているきょうだいもいれば、うまくいってないきょうだいもいて、「本当にもう、かかわりたくない」という方もいますよね。

 大人になり家を出た後も、「将来その病気の子のことを、きょうだいに任せたい」という親もまだ結構いらっしゃるので、ケアラーとしての役割を期待される部分もあります。でもそこは、これからはなるべくサービスを使っていくほうがいいですよね。きょうだいはきょうだいの生活があるので、それを大切にして。病気の本人にかかわる重要な決定をしなければいけないときにサポートするとか、そのぐらいのかかわりでいいのかなと思うんです。

 「配偶者」は今お話してきたように、血縁関係がない唯一の親族であり、生計を共にしたり、子育てをしたり、いろいろ生活を一緒にしているところがあり、やはり離婚などの話につながりやすかったりもします。

 「子ども」の立場は大きな影響を受けますが、親が精神疾患ということというより、親が精神疾患で且つ支援されていない環境で育ったことの影響が大きいです。親が精神疾患というのは逆境的体験の一つですし。人間としての基本の部分のところから、いろんな面で負の影響は大きいなというふうには思います。それを乗り越えて、たくましく生き抜いている人たちもいますが、でもやっぱりもっとサポートを入れて、あまりにもつらい経験は減らしていきたいと感じますね。

――本のなかで、陰山先生もそのお立場だと書かれていました。

 私は父親がアルコール依存症だと思っていて。治療につながっているわけではないので、診断は受けていないんですけれど。お酒で酔っ払ったときに、いろいろやらかしていたりして、私自身もう本当に暗い子ども時代でしたよ。

――アルコールなど依存症の親をもつ子どもたちも、精神疾患の親をもつ子どものグループに参加しているんですか?

 そうですね。アルコール依存症はそれに特化した、断酒会やAAといった当事者会や、家族のグループもあるので、そっちのほうがつながりやすいですし、いろんな情報も得やすいと思うんですけれど。ただ、子どもの立場となると、そういう場がないので「こどもぴあ」(精神疾患の親をもつ子どもの会)とつながってくるんです。「こどもぴあ」は親の疾患はさまざまで、未治療の人も多いです。精神疾患って、そもそも治療につながっている人のほうが少ないので。

(続く)

プロフィール

蔭山正子(かげやま・まさこ)

大阪大学大学院医学系研究科保健学専攻公衆衛生看護学教室/准教授/保健師

大阪大学医療技術短期大学部看護学科、大阪府立公衆衛生専門学校を卒業。病院看護師を経験した後、東京大学医学部健康科学・看護学科3年次編入学。同大学大学院地域看護学分野で修士課程と博士課程を修了。保健所精神保健担当(児童相談所兼務あり)・保健センターでの保健師としての勤務、東京大学大学院地域看護学分野助教などを経て現職。主な研究テーマは、精神障がい者の家族支援・育児支援、保健師の支援技術。