保護者と学校には、そもそもどんな関係が必要で、それを実現するためにはどうしたらいいのか? 筆者は今、こんな問いを立て、学校現場をよく知る人たちへのインタビューを続けています。

 今回お話を聞かせてもらったのは、東京都・世田谷区立桜丘中学校の元校長・西郷孝彦先生です(今年3月に退職、取材は7月)。西郷先生は、あらゆる生徒の幸せな3年間を実現するため、校則・チャイム・定期テストを廃止。『校則をなくした中学校 たったひとつの校長ルール』『過干渉をやめたら子どもは伸びる』(いずれも小学館)などの著書もあります。

 少々余談ですが、筆者が西郷先生を知ったのは2018年の秋でした。同区のP連のブロック研修会に講師として呼ばれ同校を訪れたのですが、これじつは西郷先生の推薦だったそう(うれしくてつい書いてしまいました)。

 このとき筆者は見たことがない光景を見ました。校長室にワイワイと集まり、校長とおしゃべりをし、携帯をいじりながらくつろぐ生徒たち。廊下を歩いていても、その辺を歩く生徒たちが、みな気軽に校長に話しかけ、校長も同様に応じています。生徒と校長の関係が、目を疑うレベルでフラットでした。「みんなの学校(*)」みたい、と思ったことを覚えています。

 さて、西郷先生はPTAを、保護者と学校の関係を、どんなふうに見ているのでしょうか。

  • 『みんなの学校』は、大阪市立大空小を舞台として映画。すべての子どもに居場所がある。初代校長は木村泰子先生

*一生懸命しておられる方もいるので、言えないことも

――西郷先生から見たPTAって、どんなものですか?

 いろんな学校をまわってきたけど、PTAもいろいろですね。僕は大田区に住んでいるんですけれど、30年前に大田区の中学校につとめていたときはPTA会長はPTAの仕事は何もしなかったと思います。仕事はみんな、会長の下にいる副会長などのお母さんたちがやっていて、会長は飲み会と祝辞だけ。品川区もそうだった。最近は、また違うんだろうけれど。

 品川区の学校では、僕は当時教務主任で、管理職から「いっしょに飲み会に来なさい」とか言われていっしょに行くじゃない。そうするとすぐに11時とか過ぎて、早く帰りたいのに帰れなかったりして。一度、PTA会長が飲みの席で同僚の若い先生にセクハラして、頭来たからビールを頭からかけてやったときは、校長が「西郷、おまえ何やってんだ」って止めに来て、「大丈夫ですよ、お酒の席だから」って言ったら本当に大丈夫だった。会長さんも本当はいい人なんです。

――(笑)。ご本にもありましたが、西郷先生、弱い者いじめには即、身体を張りますね。

 若い頃は、けっこうヤンチャだったんです。それで世田谷区に来て驚いたのが、PTA会長が仕事をしているんですよね。お飾りじゃなくて。びっくりした。

 逆にどうかと思ったのは、研究発表会や卒業式、入学式のとき、保護者であるPTAの役員が、お茶出しの接待とかしていた。自分の子どもが卒業生なのに、(3年生の親が)会場に行かないで、来賓の接待をしていて。桜丘中も最初はそんなだったので、すぐ「そういうことはPTAでやらなくていいから、学校でやるから」って、やめてもらったの。

――そこは校長先生から言ってもらえると、保護者側からすると大変ありがたいです…。

 このようにいうと一生懸命PTAの仕事をしておられる方に失礼になるけれど、PTAは必ず学校に必要なものだとは思いません。なくても全然かまわない、僕は。

 ただ、(役員を)やりたい人もいるんだよね。自分のお子さんに事情があって、善意で学校にかかわりたい、っていう方もいるし、あるいはお子さんがちょっと問題児で、何か起こしたときのフォローのためにやっておこう、っていう人もいる。ほかにもいろいろあって。

 だから「もう要らないです」とは言えなかったんだけれど、本心は別にPTAがなくても困らない学校はたくさんあると思います。なければないで、いいという。

――たしかに役員をやりたい人もときどきいるので、新設校でもない限り、校長先生が現場で「PTAなくてOK」と本音を口に出すことは相当難しそうです。

 これからは、「本当にやりたい人がやる」ボランティアみたいなものでいいんじゃないかな。人数が減っても、やりたい人は必ずいるから大丈夫。いまは保護者全員からお金をとっているけれど、もし会員が10人で、集まるお金が3万円だったら、その10 人、3万円で、できることをやればいい。

 たとえば「会長をやる人が、今年はいなかったんです」といえるような、もっとおおらかでいいと思う。僕は一度、会長があまりに決まらなかったとき「なしでいきましょう」っていったら、地域の人が「それは恥ずかしい、私たちが探します」と言って、本当に探してきたけれど。

 いまPTAがやっていることは、ほとんどが例年やっていることのルーティンワークです。PTAの上部組織から下りてきた研修とか、行政がPTAに関わっている家庭教育学級とか。そういうものがなければ、そんなにやることはない。PTAが出している広報誌だって、インターネットが普及した現在なら特に出す必要もない。

 学校の教育や行事への協力に関しても、地域のボランティアの団体や近隣の大学とか、いろんな人たちに手伝ってもらえば学校はまわるので、保護者に手伝っていただかないと困る、ということは特にないです。

*行政の「任意団体だから口出しできません」

――桜丘中は、いろんな場面で地域の方が登場しますね。コンピュータ部の指導者の方や、放課後料理教室の講師の方、浴衣の着付けに来てくれる方たちとか。どうやってつながるんですか?

 放課後の料理教室の先生は、地域でロシア料理を教えている人を紹介していただいた。子ども食堂は、PTAの元会長とか、主任児童委員をやっている方、民生委員をやっている方がたまたま場所を探していたので、学校の調理室をお貸しする代わりに、子どもたちに夕食を提供していただきました。だからちょうど、ギブアンドテイクってことになったのかな。

 コンピュータ部の指導の方に会ったのは、たしか地域の新年会。偶然その方と話をしていて「なんだ、コンピュータが得意なら、うちに来てくださいよ」とお願いをして。ギターがうまい人がいるな、と思ったら「ちょっと、ギター教室の手伝いやってよ」という感じ。

 「SAKURAフェスティバル」っていう、うちの文化祭は、保護者の有志が中心で運営しています。20年以上前、子どもたちが「文化祭をやりたい」と学校に頼んでもご高齢の先生方ばかりで実現できなくて。「じゃあ、保護者でやりましょう」ということで始めた経緯があるの。

――PTAじゃなくて、保護者有志でやっているんですか?

 そう、でも今は形だけPTAに属しています。なぜかというとPTAから運営費を補助していただいているので。最初は独立していたんだけれど、あるとき「そういうPTAとは関係ない団体にPTAがお金を出すのはどうなのか」という話になって。でも、中身はいまでも有志でやっている。

 そうやって、有志で運営していくのも楽しそうですよ。本当にやりたい人だけが、できたらお子さんと一緒になって運営していくと、ほんとうに楽しくできる。いろいろな事情を抱えていらっしゃる中で、どうにか時間をつくられてPTAの仕事をされている保護者の方をみていると、PTA活動も有志にしちゃえばいいと思うときがあります。実際に有志で活動しているところはあるんですか。

――有志みたいなものですが、加入も活動も本人の希望(意思)に基づくPTAが、ぽつぽつと確実に増えてはいます。これまで通り、事実上強制のやり方のところが、まだメジャーですけれど。変えたいけれど変えられない、という声もとても多いです。

 前例主義なんだよね、学校もそうだけれど。去年こうしていたから、今年もこうしなくちゃいけない、という。みんな「私の代で変えるのは厳しい」って言って、先送りしちゃう。誰か、叩かれ役になれる人が会長や校長になってやれればいいんだけれど、みんな「いい人」で終わりたいから。嫌われるのはイヤなんだよね。僕もそうだよ。その辺が難しい。

 行政の担当者もずるくて、普段はPTAの活動に対して「こうしたほうがいい」とか意見を言うんだけれど、都合が悪くなると「任意団体だから私たちには口出しできない」ってなるんだ。

――教育委員会も文部科学省もPTAを都合よく使いますが、泣く人がいてもスルーが多いです。

 日本人の特性として、自分たちで変えるのはなかなか抵抗があるけれど、上から「こうしたらどうですか」と言われれると、みんな結構素直に動く。だから教育委員会や文科省が「PTAはこういう方向でどうですか」と言ってくれればいいよね。僕は10年いたけれど、校長は大体3、4年で異動だから学校改革もできないし、PTAとまで波風立てたくないんだよね。

*PTAはあるならあるで、“使い方”はある

――PTAは正直「なくても困らない」として、PTAのなかに「あってもいい」と思うような機能って何かありましたか?

 学校でいろんな事件が起こるでしょ。そういうとき、「保護者の代表としてPTA会長だけには、こんなことがありましたって、包み隠さず話しますよ」ということは、教員にも保護者の方にも言ってきました。

 いま、保護者の方はみんなSNSを使っていますから、学校で何かあるとすぐ噂になっちゃう。ときには事実とまったく違う情報が流れていることもあります。そんなとき、会長さんが保護者からの問い合わせに「その話は学校から聞いてます」というと、それだけで治まるときがあるのね。会長さんが知っているということは、学校は隠しているわけじゃないんだな、ということで。そういうふうには利用、といったら失礼だけど、使わせていただいていました。

 あとは、「こんなおかしな保護者がいて、学校が困っている」みたいな話を、敢えて会長にリークしたりもして。個人名やプライバシーにかかわることは言えないけれど。すると「そんな非常識な保護者がいるの?」と話が広まって、それが本人の耳にも入って、本人も少し冷静になる、ということはありますね。

――なるほど。そういうのって、PTAがないとできないことですか?

 もし、PTA会長じゃなくて、「1年A組のなんとかさんに話します」って言ったら、「なんであの人に話してるの?」という話になっちゃうでしょ。だから「会長だから」という、PTAの役職が大切なんです。

 あとは、PTAの「役員会」というのが月に一度くらいあって、会長、副会長さんとか、その辺りの人が5、6人集まって、お茶を飲みながらまったりと会議をします。そこで、いろんな話が出ます。

 たとえば、運動会の前だと「こういう課題があるので、学校はこう考えている」なんて僕が言うと、そこでいろいろ意見をもらえる。逆に「なんとか先生の授業がつまんない」とか「1年生のAくんが暴れていて、あのクラスは大変そうだね」とか、そんな話も出てくる。そこで大体、いろんな話し合いや情報共有ができて、それがいつの間にかほかの人たちにも伝わっているから、苦情になる前に学校の姿勢や取り組みが伝わっていきます。

――私みたいな、本部役員になれなかった一般の保護者からすると、学校が役員さんにだけ特別な話をするのもちょっとひっかかりますが…。現状、PTAを使うのが早いのは確かですが、ほかにもやり方はあるかもしれませんね。

 もしPTAがなかったら、そういうお茶会をやればいいんだよ。土曜の午後、お茶でも飲みながら。別にPTAじゃなくても、できることはあるよね。うちは「部活Doing(部活動交流会)」っていう、各部の代表が集まってやるミーティングがあるんですけれど、そこでもやっぱり役員会と同じような話が出てくるから、そういうのでもいいし。

――何かしらの情報開示、共有の場があるのは、保護者にも学校にもよさそうですね。

 だから、PTAはなくても困らないんだけれど、あるならあるで、そういうふうにいろんな使い方、というと失礼だけれど、いろいろメリットもある。ただし、みんなそれぞれ仕事があったり、ご病気や介護があったりするので、そういう方に無理やりやっていただく時代では、もうない。

 「全員公平に」っていうのが、おかしいよね。やっぱりみんな事情があるわけだから、できる人ができる範囲で好きなことをやればいい。もし全員「できません」といったらなくなる、でいいと思う。それが任意団体の、ふつうの姿だよね。

――そう思います。本音のお話、どうもありがとうございました。

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* この取材に関する筆者の考察は『教職研修』(教育管理職のための総合研修誌)の連載に執筆します。