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PTA退会したら知らぬ間に規約変更 子どもが “学童保育” を外された理由

大塚玲子ライター
なぜこのようなことに? 言うまでもありませんがPTAと学童は全くの別団体です(写真:アフロ)

「本会は、○○小PTA会員である入会児童の父母、○○小PTA関係者、学識経験者及び本会の目的に賛同するものによって組織する」

 これは一体、何の規約か? おやじの会など、PTAに近い保護者組織の規約だろうか、と思われたかもしれませんが、そうではありません。これはなんと、ある「学童保育」で一時期設けられていた会則です(2018年初夏に改訂済)。

 PTAという一つの任意加入団体と、学童保育という全く別団体の利用が、なぜリンクされているのか? こんな規約がつくられたら、学童保育を利用したい人は、どんな事情があってもPTAに入らざるを得なくなります。

 なぜ、このような規約が作られてしまったのか? 当事者である保護者Aさんから、話を聞かせてもらいました。

*学童をやめるつもりはなかったが…

 始まりは、2015年の春。学童の延長保育(18~19時)を求める利用者=保護者Aさんと、延長保育の継続は困難とする学童運営委員との間で、対立がありました。

 この地域では、ほとんどの学童が保護者によって運営されており(*)、学童の運営委員は現役の保護者が、運営委員長は場所を提供する小学校の元PTA役員が、慣例的に担ってきました。

  • * 昔は保護者運営の学童がほとんどでしたが、最近は全国的に減っています

 延長保育の扱いは学童ごとに異なりました。たとえばある学童では利用者負担が「月1000円(定額)」と安いのに、Aさんの学童では、「一回(1時間)につき1000円超え(月10回以上利用する人は倍額)」。その負担は、決して小さくはありませんでした。

 そこでAさんが、延長保育をもっと安く利用できることなどを求めていたところ、指導員の確保が難しいなどの理由で、最終的には「延長保育自体もうできないので、他の学童へ行ってほしい(退会してほしい)」と告げられてしまいます。これが2016年5月のこと。

 筆者から見ると、どちらも気の毒に思えます。Aさんの自治体では、数年前から学童における延長保育の実施を掲げており(全国的な方針でもありました)、利用する側の保護者としては、延長保育=使用可能なサービスと認識しています。他の学童と同等の負担で利用させてほしい、と考えるのはごく自然なことでしょう。

 しかし一方で、現場が指導員の確保に悩んでいるのも事実です。またおそらく、運営委員長の元PTA役員も「充て職」でしょう。行政から「延長保育をやれ」と言われても「無理ですよ(だったら指導員も行政が確保してください)」と思ったのでは(推測ですが、筆者ならそう思います)。

 なおこの時点で、Aさんとしては、学童保育をやめるつもりはありませんでした。

*PTAを退会したら、なぜか学童の規約改訂

 さて、ここから少々、学童→PTAの話に変わります。

 2015年春、AさんはPTAに対し「退会したい」という希望を伝えていました(こちらの経緯は今回省略)。しかしPTA会長からは、「会則上、退会は卒業時か転校時にしか認められない」との返事が。PTAに加入を強制できる法的根拠はありませんから、会則のほうが間違っているのですが、言われたAさんはやむなくPTAを続けることに。

 しかし1年経ってもPTAの状況は変わらなかったため、翌2016年春、Aさんは再度、退会の意思を伝えます。今度は自前で「PTA退会届」を作って提出したところ、ようやく同年5月、退会が認められることとなりました。

 ところが、翌6月末。学童の会長と、PTA会長の連名で送られてきた手紙のなかに、「学童の規約変更」に関するプリントが入っていることに気付きました。同月初め、Aさんには知らされないまま学童の総会が行われ、そこで冒頭に紹介した規約――この学童にはPTA会員の子どもしか入れない――が決定されていたのです。

 かくしてAさんは、PTAをやめたことにより子どもが学童保育に通えなくなる、ということになったのでした。

*Twitterに書いたおかげで、規約が直った

 かなりレアな(且つ複雑な)ケースではありますが(念のため、PTAを退会しても何も起きないことがほとんどです)、しかしこれも筆者が以前から取り上げてきた「登校班」や「まんじゅうプロブレム」(*)と同根のところがあります。

  • * PTAをやめた保護者の子どもが、登校班からはずされる、紅白まんじゅうをもらえないなどの不利益を被るケースが、たまにあります

 PTAは本来(=法律上)、任意で加入・参加する団体ですが、過去長い間、自動強制加入で運営されてきました。そのため、税金と同じような「義務」(必ず加入・参加しなければいけないもの)と広く誤解されており、退会者や非加入者が現れると「制裁を加えるべし」と考える人が現れがちです。

 しかし、もう何度書いたかわかりませんが、PTAは強制できるようなものではありません。税金などとは違うのです。もし脳内で「PTA」と「税金」が同じフォルダに入っている方がいたら、今すぐわけてもらえないでしょうか。「PTA」は、「おやじの会」や「野鳥の会」と同じ分類(やりたい人がやるもの)です。

 なお、Aさんは昨年度(2018年度)途中から、ようやく子どもを学童に通わせることができるようになりました。延長保育はまだ認められていませんが、同自治体では数年中に、学童を民間に委託する方向で話が進んでおり、保護者運営ではなくなるそう。そのときは、おそらく延長保育についても、きちんと統一ルールが設定されるでしょう。

 なぜ昨年から通えるようになったのかというと、きっかけは、Aさんが今回の経緯をTwitterで明かしたことでした。ツイートが広く拡散され、市民からの連絡で事情を知った自治体が学童に問い合わせた結果、会則が適切に改訂されたということです。

 「Twitterに書いてよかったと思います。もしそれがなければ、いまも会則は変わらないまま、解決していなかったでしょうね」とAさんは振り返ります。

 PTAに入会しない、あるいは退会したことで子どもに不利益が及び悩んでいる方は、よかったら参考にしてみてください。

ライター

主なテーマは「保護者と学校の関係(PTA等)」と「いろんな形の家族」。著書は『さよなら、理不尽PTA!』『ルポ 定形外家族』『PTAをけっこうラクにたのしくする本』『オトナ婚です、わたしたち』ほか。共著は『子どもの人権をまもるために』など。ひとり親。定形外かぞく(家族のダイバーシティ)代表。ohj@ニフティドットコム

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