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今年のPTA委員決めは「できない理由を言わない」ことで辛い人を守ろう

大塚玲子ライター
「みんなが言うから言う」をやめませんか? 委員決めにお父さんが出たっていいのです(ペイレスイメージズ/アフロ)

 今週は多くの学校でPTA委員決めが行われますが、この春こそは、辛い思いをする母親が出ないようにしたいものです。

 そのためには、先日の記事*でもお伝えしたように「委員を必ず何人出す」という仕組みをまず見直す必要がありますが、残念ながらもし変わらないまま当日を迎えた場合は、どうしたらいいでしょう。

 みなさんにお願いしたいのが、せめて「できない理由を言わない」という試みです。

 PTAでは、ほかの人たちの前で「できない理由」を言うことが当たり前になっていますが、冷静に考えれば異常なことです。PTAは本来(法律上、と言い換えてもよい)義務でなく「やりたい人がやるもの」ですから、「できるけれど、やらない」という選択もアリです。ということは、「できない理由」という個人的な事情を明かす必要はないのです。

 買い物をしたドラッグストアで「会員にならない理由を言え」などと言われたら、「はい?(なに言ってんだ)」と思うでしょう。PTAだって本当はこれと同じです。

 みなさんもお子さんが小学校に入る前、初めて「PTAでは、できない理由を言わされる」と聞いたときは、ドン引きしなかったでしょうか。もう見慣れ過ぎて頭が麻痺しているかもしれませんが、その最初の感覚はまっとうでした。

 やるならやるで引き受ける。やらないならやらないで引き受けない。それだけでいいのです。できない理由を言わなくても、本当は済むはずです。

 なかには当然、ほかの人に「できない理由」を言いたくない人だっています。たとえば最近もツイッターで、こんな発言を見かけました。

○役員決めの手紙が配られた。病気で免除を希望する場合には、病名を記入する欄がある。私は難病だが、周囲に言っていない。言わなければいけないのか? PTAにそんなことを聞く権限があるのか?

○PTAの役員免除を受けるには、みんなの前で理由を発表しなければいけない、という話を聞いて、子どもを持つことをあきらめようと思った。私は大勢の前で喋ることに恐怖を感じる心の病気です。

 みんなが「できない理由」を言えば、こういう人たちも言わざるを得なくなります。「理由を言わない」ことを、スタンダードにしていく必要があります。(*1)

*無言で、深々と、頭を下げた

 筆者もかれこれ9年前、子どもが小学校に入った最初の年、学級代表の委員がなかなか決まらず、母親たちが順繰りに「できない理由」を言う場に居合わせました。

 でも、どうしても「言えない、言いたくない」と思いました。

 だって、できなくはないのです。フリーランスですから、時間の都合はつけられます。睡眠時間か仕事時間を削れば、参加はできる。

 ただその分、体調を壊しやすくなったり、収入が減ったりするわけで、それでも「できる」=「PTA活動をやらなければいけない」ことになるのか?

 それに、仕事をしているから子どもを学童に預けているのに、平日日中に学校で行われるPTA活動に出られたら、おかしいのではないか? 子どもを学童から帰されても文句を言えなくなるのでは?

 等々のもやもやした疑問がかけ巡り、頭が爆発しそうでした。

 母親たちが端から順に「できない理由」を言っていくなか(保育園のとき大勢いた父親たちはどこへ消えた!?という疑問もありました)、最後に私の番がまわってきました。

 何も言えず、無言で深く、頭を下げました。理由を言う気がないことは、誰が見ても明らかだったのでしょう。問いただされることはありませんでした。

 こんなふうに無言で流すのが気まずければ、「すみません、理由は申し上げられませんが、お引き受けできません」と言うのでも、なんでも構いません(*2)。「理由を言わない」を、ちょっとずつでも、当たり前にしていけないでしょうか。

 なおこのとき、理由を言わせる役回りの役員さんや先生を、責めないでもらえたらと思います。他人のことを言う前に、まずは自分の行動から。「毎年言わせるから言わせる」人も、「みんなが言うから言う」人も、さして違いはありません。

 もちろん進行役の役員さんや先生たちにも、本当は考えてほしいです。「言わせることになっているから、言わせる」のは、果たして、正しいことなのか。

 もしやむを得ず「できない理由」を言う・言わせるなら、せめて来年度は同じことが起きないように、“委員を必ず何人出す”という仕組みを変えるよう、あとで役員さんや校長に働きかけてもらえないでしょうか。

 お父さんたちも、妻がもしPTAのことで溜息をついていたら知らんぷりをせず、話を聞くなり、代わりに委員決めの保護者会に出席して引き受けるなり断るなりしてもらえればと思います(役割が逆の場合は、妻も同様に)。

 念のため付け加えておくと、筆者はその後委員や部長を何度もやり、想像していたほど恐ろしいものではなく、面白い面もあることを知りましたが、「だからやるべきだ」とは思いません。PTAは決して、義務ではないのです。

  • *1 病名(病歴)は、個人情報のなかでも最も取り扱いに注意が必要な“要配慮個人情報”に当たります。PTAにそういった情報を集める権限はもちろんありません
  • *2 書面であれば「一身上の都合により」というデリカシーある表現を使えますが、稀に「“一身上の都合”は認められない」とするPTAもあります。その場合「理由はお伝えできません」と言い直す必要があります
ライター

主なテーマは「保護者と学校の関係(PTA等)」と「いろんな形の家族」。著書は『さよなら、理不尽PTA!』『ルポ 定形外家族』『PTAをけっこうラクにたのしくする本』『オトナ婚です、わたしたち』ほか。共著は『子どもの人権をまもるために』など。ひとり親。定形外かぞく(家族のダイバーシティ)代表。ohj@ニフティドットコム

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