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自治会のおじいちゃんも応援! PTAの「忖度」打破をめざす、ある母親の挑戦

大塚玲子ライター
毎回クチコミでいろんな人が来てくれるそうです。(伊丹市立図書館ことば蔵撮影)

 「地元の市立図書館で、誰でも参加できる座談会 “そろそろPTAについて考えよう会” を開催しています」。兵庫県伊丹市の小学校でPTA役員をしている女性から、こんな連絡をもらいました。

 一体どんな活動なのか? 気になったので、お話を聞かせてもらいました。

4時間沈黙の役員決めから始まった

 連絡をくれたのは、小学校3年生の子どもをもつ本橋純子さん(仮名)です。今年度(平成30年度)は子どもが通う小学校のPTAで、理事(本部役員)をしています。

 2年前の平成28年度、子どもが小学校に入り、PTAにかかわるようになった際に「おや? 想像と違う」と感じたのが始まりだったそう。

 「理事を決める話し合いに4時間かかったんです。各クラスからくじで3人の学級委員を選び、次に全クラスの学級委員が集まって理事を決めたんですが、このとき沈黙の根競べ大会になってしまって。70人ほどの母親がうつむいて、迫力あるシーンでした(苦笑)。

 それまで私はPTAに対して、そんなにいやなイメージがなかったんです。楽しそうなボランティア(やりたい人がやる活動)と思っていたので、『おや?』と思って。なかには涙ぐんでいる人もいるし、『おかしいな?』と。それが幕開けでした」

 この年、本橋さんは立候補で広報部長になりました。しかし実際に活動を始めてみると、「みんな嫌がるだけあって」とても忙しいことがわかります。これでは負担が大きすぎる、改善が必要だ――。

 そう感じ、同期の会長を通して校長にPTAの改革案を出しました。「クラスから必ず3人出す」という委員制をやめにして、係制にしよう、という内容だったのですが、学校からは『時期尚早』と言われ、あっさり却下されてしまいました。

 翌29年度は、敢えてPTAのなかでは役につきませんでした。校長の反応を見て「内部から変えるのは難しい」と思ったからです。そこで、政治家である議員の協力を得ようと考え、ネットで検索して、PTA問題についてブログに記していた大阪府の議員にメールを送ります。すぐに返事が届き、協力してくれそうな伊丹市の議員を教えてくれました。

 紹介された地元の市議(高塚伴子氏)に会って話をしたところ、議員本人も過去にPTAを経験して疑問を感じていたそう。そのため、すぐ市議会で取り上げてもらうことができました。

 「これで話が前進するかな? と思ったら、意外と現場(PTA)では変化がなく……。みんな市政に関心が薄くて、PTAの話が市議会にあがったことを知らなかったんですね。

 そこで思い切って新しい執行部に連絡をとりました。議会でPTAの話があがったことを伝え、また『PTAは本来任意のはずなのに、強制なのは違法ですよね』ということを確認したら、『おっしゃるとおりだ』と返事をくれて。すぐに理解してもらえました」

 執行部はさっそく、今年(平成30年)初めに行われた新入生保護者説明会で、「PTAは任意加入」と説明してくれました。一部では「入らなくていいの?」という声も出たようですが、結局は全新入生保護者が加入したそう。

 これは、本橋さんにはちょっと意外なことでした。任意と説明すれば、非加入者も多少は出ると予想していたからです。「執行部が言っただけでは、同調圧力は解除できない。影響が大きいのは“空気”なんだな」と改めて気づき、次の行動に移ることに。

 そこで立ち上げたのが“そろそろPTAについて考えよう会”でした。地元で、PTAに関する座談会を始めたのです。

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 「初回は今年の2月、自費で小さな会議室を借りてやりました。クチコミでしたが、全然知らない人も来てくれて。幼稚園や小学校でPTAをやっている人や、昔PTA会長をやっていたという50代女性、高塚さん(協力してくれた市議)など、全部で8名でした」

 手ごたえを感じた本橋さんは、座談会を継続しようと考えます。ちょうどこの頃、地元の市立図書館(ことば蔵)が、市民企画のイベントを募集していたため応募したところ、以降はこの図書館で座談会を行えることになりました。

 2回目の座談会は5月に開催し、参加者は7名。クチコミだけで大したものだと思いますが、前回より減ってしまったのは、ちょっと残念だったそう。

 「そうしたら、座談会に参加された自治会運営のベテラン男性が、アドバイスをくれたんです。『PTAに盾ついていると誤解されているのかもしれないから、こういう場でオープンにやっていくことがだいじだ。何回もやっていこう』って。確かにそうだな、誤解があるなら解いたほうがいいと思い、それでFacebookやツイッター(そろそろPTAについて考えよう会)で情報発信を始めました」

 その甲斐あってか、9月に行われた3回目の座談会の参加者は12名に。テレビの取材まで入ったそうです(毎日放送※12月7日または24日放送予定)。※放送予定日を修正しました(10月29日)

みんなが知らないPTA「3つの真実」

 本橋さんが座談会を始めたのには、主に2つの目的があったといいます。ひとつは「PTAについてみんながオープンに本音で意見交換できる場をつくること」です。

 「みんなPTAについて思うことはあっても、意見を言おうとする人はいないんですね。べつに誰かが『言うな』と禁じているわけじゃないけれど、なんとなく。意見なんか言うと疎ましがられるから、1年黙ってやり過ごすのが大人、といった空気感が強いんです。

 でも私は性格上、それはいやなんです。明らかに大半の人が『おかしい』と感じているんだったら、陰で愚痴や文句を言うだけでなく、ちゃんと意見しようよ、と思う。それで、本音で意見を言える場をつくりたいなと思いました」

 もうひとつの目的は、「PTAの情報をちゃんと伝えること」です。

 「今年度、理事になって特に感じるんですけれど、PTAって理事だけが知っている情報が多くて、一般会員にまでおりていかないんですね。誰も隠しているわけじゃないんだけれど、説明する機会も、暇もないんです。何しろ理事は忙しくて、一年間ばたばたと仕事をこなすだけで終わってしまうから」

 確かにそうかもしれません。誰かの悪意で情報がおりないのではなく、単に伝える習慣や仕組みがないから、「役員止まり」の情報が出やすくなるのでしょう。

 「私が一般会員にもっと伝えなければいけないと思う情報は、3つあります。ひとつは、P連(PTA連絡会)の組織について。

 一般会員の人は、それぞれの学校で行われるPTA活動しか知りませんけれど、じつは市区町村ごとのPTAの連絡会(市区町村P連)、都道府県ごとの連絡会(都道府県P連)があって、さらに全国組織(日本PTA全国協議会)もある。PTAがそういう構造になっていることを話すと、みんな全然知らなくて、すごく驚かれるんです。

 2つめは、PTAの仕事って、どれもPTAのなかで発生していると思われているけれど、実際には、教育委員会から頼まれている仕事もかなり多いこと(*)。これもみんな知らないから、私が言うとすごく驚かれます。

 3つめは、PTA会費を学校に寄付していること(*)。これもみんな、ほとんど知りません。総会で会計報告があるけれど、“寄付”だとはわからないような書き方にしてあるから、『学校に現金をお渡ししているんですよ』と言うと、みんな『え~っ!』ってすごく驚きますね。とはいえ使いみちは、飼育しているウサギの治療費や外部講師への手土産など、必要だろうなと思われるものばかりなんです。だからこそ、知らせていかなければいけないと思っています」

 本橋さんの言うとおり、PTAにはまだまだ、一般会員・保護者に知られていないことがたくさんあります。これも不信感を生む一つの大きな要因でしょう。

 「今あげたような3つの情報を一般会員の人たちが知ったら、たぶん『やるべきだ』と『やめるべきだ』に、意見が分かれると思うんです。でもそれは、会員みんなで話し合って決めればいいこと。情報を知らないことには議論もできないので、まずは知らせることからやっていきたいと思っています。

 いまのPTAって、“忖度”でできているな、とすごく感じます。悪人がいるから、こうなっているわけではない。むしろ私がこの2年でかかわってきたPTA関係者の方たちは、ものすごく忙しい活動のなかでも上手に折り合いをつけてがんばる、立派な方ばかりです。オープンな意見交換の場と、正しい情報がないから、みんなが勝手に忖度している。それがとても、もったいないと思います」

 筆者も「PTAは忖度が9割」と感じます。みんなが空気を読み合って、いまみたいな形で硬直しているけれど、本当はもっといろんなやり方があるし、辛い思いをする人が出ないようにすることもできるかもしれません。無理なのかな? と弱気になることもありますが、やはりもっと情報を伝えていかねばと感じた次第です。

  • *教育委員会がPTAに求める仕事の量や有無、PTAから学校に渡される現金・物品寄付の量や有無は、自治体やPTA・学校によって異なります
ライター

主なテーマは「保護者と学校の関係(PTA等)」と「いろんな形の家族」。著書は『さよなら、理不尽PTA!』『ルポ 定形外家族』『PTAをけっこうラクにたのしくする本』『オトナ婚です、わたしたち』ほか。共著は『子どもの人権をまもるために』など。ひとり親。定形外かぞく(家族のダイバーシティ)代表。ohj@ニフティドットコム

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