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残念な常識「学校はPTAのお金に頼っている」に、東京の人だけが驚く理由

大塚玲子ライター
筆者の調べでは、全国だと6割くらいのPTAが学校に金銭的な協力を行っています(写真:アフロ)

 PTAにおける諸問題のうち、最大のひとつは「子どもが学校に入ったら保護者は全員自動加入」が多いことです。

 なぜ加入意思を確認せず、全員を強制加入させ続けるのか? これまでも多方面から分析してきましたが、「学校がPTA予算に頼っているから」というのも一因でしょう。

 PTAのお金を、学校の予算(公費で賄うべき備品購入等)にあてているので、任意加入を周知して非加入者が出てくると、学校が使えるお金が減るため、強制加入を維持したいと考える校長先生も少なくないのです。

 もちろんそんなことは、堂々と言える話ではありません。本来公費で負担すべきお金を私費(保護者負担金)やPTA会費*で負担することは、地方財政法に違反します。(*11.29修正追記しました)

 「寄付は好きで払うものなんだから、問題ない」という考え方もありますが、寄付はボランティアと同様、自発的な意思で行うものです。現状のように、強制自動加入で集めたPTA会費を学校予算にあてるのは、本当の「寄付」とはいえません。

 そのため、現在も多くのPTAは「半ば公に、半ばこっそりと」学校に“協力”しています。なかには保護者からの指摘をおそれて、学校への協力費(備品購入等)については、予算・決算書に記載しないPTAもあります。

 こういったPTAによる学校への金銭的・物理的な協力は、戦前の学校後援会が行ってきた慣習の名残りですが、戦後、繰り返し問題視されてきました。

 最近はさすがに「現金支給」は減ってきたようですが、「備品を寄贈する」などの協力は、いまも大変よくあります。

 なお筆者が行っているWebアンケートで、「PTAが学校に寄付を行っているかどうか」を尋ねたところ、「行っている」が約6割、「行われていない」が約2割、「わからない」が17%という回答でした。(全103回答)

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*東京の人だけ信じてくれない

 ところが、「学校がPTAの予算を頼っている」という話をすると、「今どき、そんな学校ないでしょ!」とビックリされることがあります(「取材不足」とお叱りを受けることすらあります)。

 驚くのは、ほぼ必ず、東京の人です。

 どうして東京の人ばかり、驚くのでしょうか? なぜなら、東京の学校はPTAのお金に頼らず、ちゃんと公費で運営しているケースが多いからです。

 先ほど挙げたWebアンケートでも、東京の人(全16回答)だけを取り出すと、「(寄付が)行われていない」が最多で56%、「行われている」は31%となり、全国と結果が逆転します。また「行われている」場合も、寄付の額は少なめです。

 会費が低いところが多いのも、東京のPTAの特徴です。

 年額で3000円未満のPTAは、全国だと約2割ですが(全103回答中21)、東京では44%(全16回答中7)です。これはやはり、PTA予算を学校予算にあてていないからでしょう。

 それではなぜ、東京の学校は、PTA予算にあまり頼らないのでしょうか?

 東京都では、戦後間もない時期から、PTA会費による公費負担が問題となり、公費の予算化が進んできました。昭和26年度には「東京都PTA予算編成基準表」が作られ、あるべき予算編成の方法が指導されていますし、昭和38年には都議会に「公立小学校に置ける私費負担の抑制措置に関する決議」が提出されています。(*1)

 なかでも最も影響が大きかったのは、昭和42年に出された'''「義務教育学校運営費標準の設定と公費で負担すべき経費の私費負担解消について'''」という通達です。

 抜粋して紹介しましょう。

“私費負担の解消については、本都教育行政上の重点施策として、多年にわたり、その実現に努力してきましたが、今日においても、なお公費で負担すべき経費が私費に依存している実情であります。(中略)早急に解決しなければならないものと考えます”

“従来、父兄を主たる会員とするPTA、後援会、その他の団体から、学校後援のための寄付が行われてきた。こうした慣習は、おうおうにして、強制にわたる懸念もあり、一方このたびの措置により学校運営費が確保されることになるので、今後はこの種の寄付は受領しない

PTA会費の徴収は、原則として教師が取扱わないのがよいと考えるので、(中略)PTAの自主的判断のもとで、より合理的に行われるよう工夫すること”

“生徒会費、学級会費等の名目で(中略)、種々の使途にあてる経費を含めて徴収していた例があるが、本来の生徒会活動、学級会活動はすべて公費で負担すべきものとし”

入学式、卒業式及び周年行事については、(学校運営費)標準により公費をもって措置することとした”

 いかがでしょうか。大変納得のいく内容で、今度は東京以外の人が驚いているかもしれません。

 東京都ではこのような通達が、いまから50年も前に出されているため、「学校がPTA予算に頼るなんて、あり得ないでしょ」という声があがるのです。

 東京のすべてのPTAで、また上記のすべてが、現在実行されているわけではありませんが、それでもやはり、他の道府県と比べると、かなりちゃんとした運営が行われているのは、やはりこのような通達が出て、且つ守られてきたからでしょう。

 なお東京都では、先日の記事で問題を指摘した「学校徴収金とPTA会費の抱き合わせ徴収」も比較的少ないですし、任意加入の周知も、他の道府県よりは進んでいます。

 他の地域も、「それは東京の話だから」と片づけるのではなく、必要な公費をどんどん予算化させ、PTA会費など私費負担ありきの学校運営の見直し・解消に向けて、働きかけていく必要があるでしょう。

  • 当記事は、公立の学校とそのPTAについて取り上げています
  • 東京以外でも、PTA予算に頼らない運営をしている学校・自治体はときどきあります
  • 1 (参考)岸悦男「戦後の東京都社会教育行政の変遷(2)」(「東京女子体育大学紀要 第29号1994」掲載)
ライター

主なテーマは「保護者と学校の関係(PTA等)」と「いろんな形の家族」。著書は『さよなら、理不尽PTA!』『ルポ 定形外家族』『PTAをけっこうラクにたのしくする本』『オトナ婚です、わたしたち』ほか。共著は『子どもの人権をまもるために』など。ひとり親。定形外かぞく(家族のダイバーシティ)代表。ohj@ニフティドットコム

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