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「子どもの気持ちをわかった気にならないで」~親の離婚を経験した当事者たちが大人に伝えたいこと

大塚玲子ライター
子どもは親の感情を常に察しています(写真:アフロ)

いま、年間約124万人の夫婦が離婚を選択しており、これによって毎年約23万人の子どもたちが、親の離婚を経験しています。

しかし、わたしたち大人の耳に、子どもたちの声が届くことはなかなかありません。子どもたちは本当のところ何を感じ、親や周囲の大人たちにどんなことを求めているのでしょうか

2017年6月25日、離婚家庭の子どもを支援するNPO法人ウィーズが、講演会「離婚後の親子関係」を開催しました。登壇したのは、かつて親の離婚を経験した7人の当事者たち。年齢は19~36歳、親の離婚を経験した時期は5~21歳とさまざまです。

自身も親の離婚を経験したウィーズ副理事長・光本歩さん(28)による進行のもと、登壇者7人が、それぞれの体験や思いを率直に語ってくれました。(※以下、お名前はすべて仮名です)

*「大人の責任としてどうなのか」

最初の質問は、離れて暮らす親(別居親)とのかかわりについて。

別居親が子どもの生活を経済的にサポートする「養育費」や、子どもと別居親が時間を共有する「面会交流」について、当事者たちはどんなふうに感じているのでしょうか?

別居親(父)とはときどき会っているものの、養育費はもらっていなかったというDさん(♀・21)は、こう語ります。

「以前、探し物をしているときに、両親が養育費の約束を取り交わした書面をたまたま見つけてしまいました。離婚や再婚をしても親であることには変わりないですし、しかも約束を交わしているのに払わないというのは、大人の責任としてどうなのかと思います」

同様に、養育費はなかったものの、継続的に別居親(父)と会ってきたというAさん(♀・36)は「父から『会いたい』と言って、アクションを起こしてくれる姿勢は純粋にうれしかったし、愛情として感じられた」といいます。

一方で、別居親から子どもに対して何のサポートも働きかけもない離婚家庭も、日本ではまだ決して少なくありません

離れて暮らす父親とは「中学のときに一度会ったきり」というCさん(♀・26)は、父親の連絡先もわからないと言います。

母親は精神的な不調を抱えており、「自分を手放さずに育ててくれたことに感謝している」というCさんは、「もしいま父親が“亡くなっている”と聞いても、正直、なんとも思わないと思う」と話します。

他方で、離別親(父)から養育費を受け取り、会いたいときに会ってきたというBさん(♀・22)は、「自分はいいケースだと思う。父にも母にも感謝している」といいます。

「父は再婚してからも、会うたびに『(きょうだいたち)みんな自分の子どもだからね』と言ってくれたし、母も内心では複雑な思いがあったのに、『わたしは止めないよ』と言ってくれていました。愛されている、ということに疑問をもったことはないです」

なお、養育費や面会交流が夫婦間で争いの種となりがちなことについては、こんな意見がありました。

「(養育費や面会交流が)子どもへの愛情の表れならいいと思うけれど、もし“両親間の葛藤を軽減するため”にあるんだったら、愛情とは受け取らないと思う」(Gさん♀・23)

子どもたちの目は、冷静です。

養育費や面会交流があったにせよ、なかったにせよ、子どもは子どもなりに、別居親や同居親のあり方や現実を、まっすぐに受け止めていることが感じられました。

*「自分の気持ちがわからない」こともある

年月を経るなかで、「親の離婚に対する見方が変わった」という声も聞かれました。

「母の不倫が、離婚のひとつの大きなきっかけだったと父からは聞いていましたが、家族の問題ってすごく複雑に絡み合っていて、一概には言えないと思うようになりました。いまは(離婚原因は)父と母と半々だと思っています」(Gさん♀・23)

社会人になって「いろんなことを客観的に見られるようになった」というAさん(♀・36)も、「父の事業がうまくいかず、金銭面の問題で離婚したと母から聞きましたが、いまは“6:4(父:母)”くらいだったと思っています。以前はもっと父の比重が高いと思っていました」と話します。

親に対する思いも、時を経るにつれて変化するようです。

たとえば、中3まで母親と暮らしていて高校からは自らの意思で父親と暮らし始めたというEさん(♀・19)。

「母(同居親)の再婚相手とどうしてもうまくいかず、大好きだった父に自分から連絡をとって、家を出ました。それまでは母を恨み続けていましたけれど、離れてからは母ともうまく付き合えるようになりました。

小2のときに親が離婚して、小さいときは“離婚してほしくなかった”と思っていましたが、いまは両親とも幸せそうに暮らしているので、これでよかったんだな、と感じています」

なかには、10年近くかかってようやく、親が離婚した事実を受け止めることができた、という人もいました。

「いつかまた両親が一緒になってくれるんじゃないか、ってずっと思っていました。でも母も父も再婚して、『やっぱり離婚したんだなぁ』と思って、大泣きして、そこでやっと、離婚の事実に目を向けられるようになった感じがします」(Bさん♀・22))

他方では、「自分の気持ちがわからなかった」という声もありました。

「わたしはずっと母(同居親)に合わせてきたところがあって、親への本当の気持ちがわからなくなっていたと思います。一緒に住んでいた頃、父を好きだったかどうかも、よくわかりません。親の感情を押し付けないでほしかったな、と思います」(Cさん♀・26)

子どもたちが当時感じたことも、いま感じていることも、当事者の本音でしょう。どちらもきちんと尊重されたいものと感じました。

また、子どもが「自分の気持ちがわからない」と感じるような状況を生まないよう、大人たちが気をつける必要性にも気付かされました。

*親の感情は子どもにダダ漏れしている

親に言いたかったことや、これから離婚する親に伝えたいことは?”という質問に対しては、まず、「親の葛藤に子どもを巻き込まないでほしい」「相談相手が必要」といった声がありました。

「夫婦間の葛藤に子どもを巻き込まないでほしいです。自分の傷つきやフラストレーションの解消に、子どもを使わないでほしい。子どもは両親間の葛藤を見て、すごく傷が増えていくので、そういった配慮をしてもらえたらと思います」(Gさん♀・23)

子どもは状況を一方的に押し付けられるだけ、ということを、もっと大人が理解しないといけないのかなと思います。親も大変だとは思いますが、大人は人に話したり、助けを求めたりできます。子どもは幼いほど、そういう術がありません」(Cさん♀・26)

子どもに聞かせたくない話は、外でしてほしかったな、と思います。母と祖母は、わたしにはわからないだろうと思って話していたけれど、じつは全部わたしに聞こえていたし、内容は筒抜けだったので」(Dさん♀・21)

隠しているつもりでも、親の“感情”は子どもにダダ漏れだということをわかってほしいです。ちょっとした空気の変化も、子どもはすぐ察します。わたしも母(同居親)も、もし相談できる第三者がいたら、もう少しよかったのかなと思います」(Aさん♀・36)

離婚で大きなストレスを抱える親たちは、どうやら気付かないうちに、子どもたちを傷つけたり、その心に負担をかけたりしているようです。

親の選択をただ受け入れるしかない子どもたち。周囲の大人たちは、そんな子どもたちの状況に、目を向けることが求められています。

*自分のフィルターを外して耳を傾けてほしい

そしてこの日、最も強く心に残ったのは、「子どもの声にもっと耳を傾けてほしい」という、当事者たちの切実な思いでした。

もっとわたしの気持ちを、しつこいくらいに聞いてほしかったな、と思います。離婚のとき“(父と母の)どっちが好き? どっちと暮らす?”と聞かれて、わたしはどちらも好きで、その気持ちを言えませんでした

その後、勇気をもって自分の意思を伝えたときも聞いてもらえなかったし、それ以上は言えなかった。子どもの気持ちをわかった気にはならないでほしい、と思います」(Eさん♀・19)

「父は“子どものために”という言葉を殺し文句のようにふりかざしていましたが、自分のフィルターをはずして、ちゃんと子どもの気持ちを聞いてほしかったです。子どもにとって何が一番有益で幸せか、そのために何ができるか'''、考えてほしかった」(Gさん♀・23)

「離婚自体は仕方のないことと思いますが、その選択によって、子どもの選択肢を狭めてほしくないなと思います。また、子どもが“こうしたい”と言っていることは、ちゃんとその意思を尊重してほしいです」(Fさん♂・29)

「一口に(親の)離婚を経験した人と言っても、ケースによって、その子によって、全然違います。だから、実際に親が離婚した子どもとかかわるときは、“その子が、どう思ってきたか”ということをちゃんと知ってほしい、とすごく思います」(Bさん♀・22)

また、大人の思い込みを正すような、こんな発言もありました。

「(離婚した親は)責任を感じすぎないでほしいな、と思います。親から『あのとき離婚しちゃって、ごめんね』という言葉をかけ続けられると、子どもがプレッシャーを感じてしまうこともあります。

ある程度までは責任を感じてほしいですけれど、そこから先は、親子でも“一対一の人間”として、ふつうに接してくれたらと思います」(Dさん♀・21)

このように、親が離婚した子どもたちの声からは、大人たちの思い込みに対する違和感や苛立たしさのようなものが伝わってきます。

大人たちはつい自分たちの物差しで、「子どもはこう感じているに違いない」と思い込みがちですが、実際にはそうではないことが、たびたびあるようです。

親が気にしていることを子どもは気にしておらず、子どもは子どもで、全く別の問題を感じている可能性がある、ということを、常に念頭においておく必要があるのかもしれません。

大人は、子どもの気持ちを「わかった気」にはならず、一人ひとりの子どもの声に、丁寧に耳を傾けること。

離婚をするときに限りませんが、子どもと接するすべての大人が、忘れてはいけないことなのだろうな、と感じました。

ライター

主なテーマは「保護者と学校の関係(PTA等)」と「いろんな形の家族」。著書は『さよなら、理不尽PTA!』『ルポ 定形外家族』『PTAをけっこうラクにたのしくする本』『オトナ婚です、わたしたち』ほか。共著は『子どもの人権をまもるために』など。ひとり親。定形外かぞく(家族のダイバーシティ)代表。ohj@ニフティドットコム

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