親子断絶防止法の注目ポイント「連れ去り禁止」は行き過ぎ?妥当? 弁護士・打越さく良さんに聞く(2)

(写真:アフロ)

さまざまな意見が噴出し、現在法案の修正作業が進められている「親子断絶防止法」。今後どんな点が改善されるべきか? 

今回は、とくに賛否が分かれ、注目を集めている法案8条・子連れ別居に関するルールの妥当性について、前回に引き続き弁護士・打越さく良さんにお話をうかがいます。(前回記事「親子断絶防止法」はどう修正すべきなのか? 弁護士・打越さく良さんに聞く(1)

※当記事へのご意見はできるだけコメント欄(または筆者宛)にお願いいたします。打越さく良さんへの直接のご連絡はお控えください。今後、離婚家庭の子どもの立場や、別居親の立場の方の声も紹介できればと思っています。どなたさまも、自分と異なる意見を冷静に受け止め、子どものことを一番に考えつつ、議論を深めていただければ幸いです。

※法案はこちらから見られます

*このままやれば過酷な状況に置かれる人もいる

――この法案で一番注目されるのが、8条です。監護者を取り決めしないまま、夫婦の一方が子どもを連れて別居しないように促す内容ですが、これについては、どう思われますか。

わたしが一番ひっかかる部分は、ここなんですよね。

もちろん、事前に話し合って、監護について取り決めてから出て行くことができるなら、みんなそうしていくと思うんですけれど、そういうことができない状況の人が、わたしの出会ってきたなかでは多いです。

だから、もしこれをやるんだったら、「監護者指定の手続」(家庭裁判所で行える調停や審判)をすごく簡易化したバージョンをつくるとか、そういう必要があると思うんですね。そうでないと、別居がとても難しくなって、たとえばDVに甘んじて生活し続けなければならないといった苛酷なことになりかねません。子の利益にもなりません。

あと一点、この法案の8条を読むと、取り決めしないまま、たとえばただ子どもを連れて実家に戻るといったことも、よからぬことと想定されていそうです。それはないでしょう。よく「子連れ別居は海外では違法だ」なんて話を聞きます。わたしも十分に勉強してはいませんが、たとえば、米国に詳しい先生からは、「まったく所在をつかめない」ということでもない限り、違法になるようなことはない、と聞いています。

ともあれ、国には、個々人に義務づけるのではなく、まず、国としてどういう準備をするのか、というレパートリーを出してほしいなと。

そういうものがないまま、国が「(監護者を取り決めないままの別居を)やってはいけないよ」と啓発活動や助言等をするのは、どうかと思います。

たとえばDV被害者が「子どもを連れてシェルターや都営住宅に入りたい」と行政窓口に相談したとき、行政が、「監護者の取り決めはしました? してないならダメですよ」と断るとか、そういうふうに転じてしまう危惧もあります。

いちおう9条に、虐待やDVがある場合は「特別の配慮がなされなければならない」と書いてはありますが、誰がどのように虐待やDVを判断するのか、どのような配慮をするのか、全くわからず、不安です。

たとえば、いま家庭裁判所などではDVの認定にすごく慎重になっている印象を受けます。家庭という密室の中での暴力の立証は非常に難しいのですが。

あるいは、DVが立証し得た場合でも「DVと面会交流は別の話だよね」という感じなので、そういう実情をみていると、9条でただ「特別な配慮」と言われても、リップサービスとしか思えません。

たとえば「暴力をふるわれました、監護者の取り決めをしないまま避難してきました、シェルターを紹介してください」と子どもを連れたひとから相談された行政の窓口で、そのひとが果たしてDV被害者かそうでないかを認定できるわけではないですからね。

――わたしの親しい友人も、浮気をした妻から「DVがあった」と近所に言いふらされ、引越しをよぎなくされましたが、他人には真実はわからないですよね。わたしからみたらDVなど絶対ありえない人ですけれど、でももしこの人が本気で怒って声を荒げたりしたら、妻がDVと感じた可能性もゼロではないかもしれない。どっちのいうことも鵜呑みにはできません。

そういうのはやっぱり、行政の窓口では判断できないですよね。DVがあると言っている人と、ないと言ってる人がいたら、行政の窓口担当者としては、「まあよくわかりませんね」、となってしまうでしょう。

*加害者を一人で出て行かせる「別居命令」を

――わたしも当初は、8条はあまりよろしくないのかなと思っていたんですけれど、考えているうちに、そうでもないのかなと思えてきたんです。

たとえば、さっきの友人の場合、まず妻の浮気が発覚して、妻は近所に「DVがあった」と説明し、子どもを連れて実家に身を寄せたんです。彼は弁護士にアドバイスを受けて、子どもたちを連れ戻して、男親でも親権をとることができました。

でもそれって、子どもにとったら大変ですよね。親の不和だけでもストレス満載なところに、引越しや転校続きで、友達関係まで変わってしまう。それが辛かった、という声は、離婚家庭の子どもの立場の人からよく聞きます。

もちろんお母さんの立場を想像すれば、早く別居したかったろうし、子どもを連れて行きたかったのも、よくわかるんですよ。でもそれで結局、子どもの負担が増えてしまったことを考えると、最初から連れ出さないルールのほうが優れているようにも思えてきて……。どうなんでしょう、ここは子どもの立場の人の意見を聞きたいところですが。

そのケースではどうかは別として、転居による子どもへの負担を考えれば、海外のように「別居命令」があるといいですよね。

確かによく、今まで暮らしたところから離れるのは子どもに負担だ、といいますよね。しかし日本では、DVがあったときの保護命令でも、接近禁止命令と、せいぜい2ヶ月間の退去命令が加害者に出るだけで、そのまま被害者がその家に子どもと住み続けることができません。

各国では、むしろ加害者に別居命令で出て行かせるのです。家屋の所有権者が夫だとしても、家族の住居には特別の保護があります。日本法にはその選択肢がありません。民法学で著名な水野紀子先生から、「被害者には逃げる自由しかない」、「加害者の財産権が妻子の福祉より大切だ」という立法だ、ときいて、確かにその通りと思ったことがあります 。

――加害者が一人で出て行くルールにできるといいのですね。

話を戻して、お知り合いの方のようなケースでは現状、家裁で「監護者指定の手続」や「子の引渡の手続」で、様々な事情を総合判断して、子の利益に照らしてどうすべきなのか、判断を求めることができます。

ただ、少なくともわたしが見てきた事案では、親権獲得を有利にするために子どもを連れて出て行こう、という作戦のもと家を出てきたひとはいなかったですよ。

それまで主に子どものめんどうを見てきたから、経済的なことを心配しながらも、やむにやまれず連れて出て行く、というひとばかりでした。そういう人が、監護者や面会交流について取り決めしてからでないと別居できない、と言われかねないのは、どうなのかなと。「逃げる自由」すら封じられてしまうと恐ろしいです。

繰り返しになりますが、他方に出て行きなさいという別居命令がほしいところです。

(続く)

プロフィール

打越さく良

(うちこし・さくら)

2000年弁護士登録(第二東京弁護士会)。離婚、DVなどの家事事件を多く取り扱う。日弁連両性の平等委員会委員、同家事法制員会委員。夫婦別姓訴訟弁護団事務局長。mネット・民法改正情報ネットワーク呼びかけ人、憲法24条変えさせないキャンペーン呼びかけ人。都内児童相談所非常勤嘱託弁護士。単著に『なぜ妻は突然、離婚を切り出すのか』(祥伝社新書)、『レンアイ、基本のキ―好きになったらなんでもOK?』(岩波ジュニア新書)、『改訂Q&A DV事件の実務―相談から保護命令・離婚事件まで』(日本加除出版)、共著に『親権法の比較研究』(本山敦、床谷文雄編、日本評論社)等。ジェンダー関係の裁判例等を扱うサイトgender and law(GAL)編集。ウイメンズアクションネットワーク(wan)やラブ・ピース・クラブに執筆、連載中。