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「優しさ」が災いか、親の介護で煮え切らない50代男性 妻は「離婚」を考える

太田差惠子介護・暮らしジャーナリスト
(提供:イメージマート)

 親にはできる限りのことをしてあげたい、と考える子は少なくありません。けれども、家族といっても、それぞれにキャパシティがあり、「できること」と「できないこと」があります。年老いた親を目の当たりにし、「優しさ」からか、そのキャパシティを超える行動を取ろうとする人がいますが、良い結果を生まないことがあります。

母親が骨折で要介護に

 ユタカさん(51歳、会社員)は東京都内で妻と2人暮らし。長女は進学で、自宅を出て1人暮らししています。一方、九州の実家では母親(83歳)が1人で暮らしています。

 1年半ほど前、母親は転倒して骨折。退院してからは、介護保険のサービスを利用しながら在宅での生活を続けています。

「退院した母を、東京に呼び寄せたいと思ったのですが、母から九州を離れたくないと拒否されました。僕が実家に戻れると良かったのですが、仕事があります。まだ娘の教育費もかかりますから、仕事を辞めるわけにもいきません。不自由な身体で1人暮らしをさせて申し訳ないと思っています」とユタカさんは話します。

母親のために年間100万円超の出費

 ユタカさんは身体の不自由な母親に1人暮らしさせていることに “罪悪感”を抱えています。そして、同居できないから、「せめて」もと、介護にかかる費用を負担しようと考えました。ユタカさんの申し出を母親は素直に受け取りました。

 さらに、ユタカさんは「一緒に住めなくて、ごめん。月に1回は、帰省するからね」と母親に言いました。

 安い航空券を入手しても、東京と九州の往復にはそれなりの費用がかかります。介護保険のサービス利用料に加え、配食サービスの利用料、そして月に1回の帰省費用で、結局、1年間にかかった費用は100万円を超えました。

妻からの物言い

「想像していた以上に、どんどんお金がかかりました。僕自身もまずいなと思ってはいましたが、ある日、妻から『話がある』と言われ、『家計が破綻する。お母さんの介護なのに、どうして私たちがこんなにお金を出さなければいけないの』と迫られました」とユタカさん。

 妻は積もり積もった怒りが爆発したのでしょう。途中から声を荒げたそうです。

 妻からは、2つのことを求められました。

・母親の心身が大変なときはともかく、落ち着いているときは帰省の回数を減らす。

・介護にかかる費用は、母親のお金から出す。

 しかし、ユタカさんは首を縦に振れないでいます。「今さら、帰省回数を減らし、しかも介護にかかるお金を『出せない』なんて、そんな親不孝なこと言えません」。

 ユタカさんが「それは、できない」と言うと、妻は「こんなことが続くなら、私たち、やっていけない」と“離婚”を口にしたそうです。

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イメージ画像写真:イメージマート

大風呂敷を広げない

 弱った親を目の当たりにすると、「できる限りのことをやってあげたい」という気持ちが先走り、言葉にすることがあります。

 遠方で暮らす親が倒れたときに、「これからは、月に1回(もしくは、2週に1回など)は帰省する」と宣言する人は少なくありません。確かに、親からすると、とても心強い言葉で、嬉しいでしょう。けれども、一旦言葉にすると、「毎月帰るのが当たり前」となり、減らすことが難しくなります。ユタカさんの母親はどうかわかりませんが、帰省頻度を減らすと言うと、「おまえは、冷たくなった」と親から泣かれた人もいます。

 親に対し、大風呂敷を広げないことをお勧めします。一旦広げると、畳むのが大変。親の介護期間は、長期化することも珍しくありません。ユタカさんの母親は83歳ですが、もしかするとあと20年くらい生きられるかもしれません。そうなると、ユタカさんも70歳超の高齢者です。どちらが先に、どうなるかわかりません。自分たちの介護費用が必要になる可能性もあります。

介護費用は本人のお金でまかなう

 少子高齢化の影響で、日本の社会保障は厳しい方向に向かっています。 

 昔と違って、給料も右肩上がりとはいきません。親本人の介護なのですから、ユタカさんの妻が話すように、介護にかかる費用は本人のお金から捻出するべきでしょう。年金や蓄えが少ないなら、支援制度があります。子はお金を出すのではなく、そうした制度について調べてあげましょう。

 自分たちには自分たちの生活があるのですから、無理な支援はしない。親に経済的なゆとりがある場合は、帰省する際の交通費も親のお金から出している人もいます。

罪悪感は無用

 ユタカさんのようなことにならないためには、親が倒れた当初、“優しい”気持ちはグッとこらえ、自分の「できること」、「できないこと」を見定めることが大切です。

 親は、実家を出て、懸命に働き、生活する子のことを、目を細めて応援してくれていたのではないでしょうか。介護が必要になったからと言って同居しないことに、罪悪感を抱える必要はありません。

 すでに、ユタカさんのようにキャパシティを超えている人も、一旦立ち止まって、「できる範囲」を考えてみましょう。言いにくくても、親には率直に「経済的にきつくなってきた」、「体力的に厳しくなった」と話すしかありません。そのうえで、親本人、きょうだいや配偶者とも、ムリのない介護の仕方、費用負担について話し合いたいものです。

介護・暮らしジャーナリスト

京都市生まれ。1993年頃より老親介護の現場を取材。「遠距離介護」「高齢者住宅」「仕事と介護の両立」などの情報を発信。AFP(日本FP協会)の資格も持ち「介護とお金」にも詳しい。一方、1996年遠距離介護の情報交換場、NPO法人パオッコを立ち上げて子世代支援(~2023)。著書に『親が倒れた!親の入院・介護ですぐやること・考えること・お金のこと 第3版』『高齢者施設 お金・選び方・入居の流れがわかる本 第2版』(以上翔泳社)『遠距離介護で自滅しない選択』(日本経済新聞出版)『知っトク介護 弱った親と自分を守る お金とおトクなサービス超入門』(共著,KADOKAWA)など。

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