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「今も将来も貧困」になる現実  早まって介護離職した40代女性の後悔

太田差惠子介護・暮らしジャーナリスト
(提供:イメージマート)

 ただでさえ忙しい毎日なのに、親に介護が必要になると、子は一層多忙になります。同居、近居の場合は、仕事に行く前に朝食、昼食の用意をして、帰宅して家事をしながら介護。遠居の場合は、休みの度に「介護のために帰省しなきゃ」と追い立てられ……。自分の生活が音を立てて崩れていくような気持ちになることも……。

追い詰められて退職してしまった

 サナエさん(40代)は夫と高校生の長女との3人家族です。片道2時間弱の実家では両親が2人暮らし。父親は認知症と診断されており、母親が介護を行っています。

 足はしっかりしているため、1人で出かけて帰ってこられなくなります。父親が外に出て行こうとすると、母親は制止しようとするのですが、止められないと、父親の後をつけて歩きます。そのうえ、家にいるときは同じことばかり聞かれ、母親はヘトヘトのようす。サナエさんが仕事から戻ると、毎晩のように電話をしてきて、愚痴を聞かされます。

「私も仕事から帰って家事が山積みで、母の愚痴を聞くのは正直うんざり。でも、母のストレスを受け止めなければと、電話を無下に切ることもできず……」とサナエさん。

 母親の愚痴は日増しに増長し、「私1人で介護はできない」と電話口で泣き出すことも。しかし、サナエさんが「施設を探そう」と言っても、「サナエは冷たい。施設になど入れられない」と母親は言うのでした。

 早朝に母親から「体調が悪い」と電話がかかってくることもあり、そうなると、サナエさんは仕事を休んで、実家に駆けつけざるをえませんでした。

「急に仕事を休むと、職場に迷惑をかけます」とサナエさん。そんなことが続き、次第に「いまは仕事より介護に専念するべき時期なのかもしれない」と考えるようになり、とうとう退職しました。

介護離職するとビンボーになる

 親の介護で息切れしてくると、「仕事を辞めるべき?」という気持ちになることがあります。

 サナエさんも、「仕事は自分じゃなくても代わりはいる。でも、両親には私しかいない」という気持ちになったと当時を振り返ります。「でも、あれから2年たち、なぜ辞めたんだろうとものすごく後悔しています」と話します。

 サナエさんの給料は、月25万円ほどでした。「月25万円があるのと、ないのとじゃ、当たり前ですが全然違う。すっかりビンボーです。それに時間ができて、母親に頼られて、頻繁に実家に行くことに。早まった、なんてことをしてしまったんだろう」と頭を抱えます。夫も不満気で、「パートに出ることを検討しているところです」とサナエさん。

 おまけに、介護離職は自己都合退職に当たり、退職金を減額されたとか。それだけではありません。将来サナエさんが受け取ることになる年金額にも影響必至……。

自分の老後は国もビンボー

 違った視点から考えてみましょう。ビンボーなのはサナエさんだけではありません。サナエさんが高齢期を迎える2065年頃、日本はどうなっているでしょう。

 高齢者がいっぱい! なんと約3.9人に1人が75歳以上 (約2.6人に1人が65歳以上)。

 平均寿命に関しても、今後伸び続け、女性は90歳超!

 いま40代、50代の、特に女性は90歳、100歳超と生きる可能性大!!

 社会保障に関しては、かつては1人の高齢者を10人ほどの現役世代で支える「胴上げ型」社会でした。現在は1人の高齢者を2~3人で支える「騎馬戦型」社会。そして、20~30年後には1人の高齢者を1人と少々で支える「肩車型」社会が訪れると予測されています。

 当然ながら、サナエさんに介護が必要になる頃、医療や介護の給付は現在に比べて厳しくなっているでしょう。平たく言えば、自己負担の割合が大きくなるということ。なのに、もらえる年金は少なくなる傾向……。

厚生労働省の資料より
厚生労働省の資料より

自分の生活設計は自分で守る

 日本の人口バランスがこんな風になっていくことはずっと昔から分かっていました。国も、働き手を増やすべく、定年引上げなどを進めています。「老いても働け!」と。

 それは、それとして個人レベルでも、できることはしておく方が良いと思うのです。その1つが「介護離職はしない」こと。

 人はいくつかのことが重なると、「もうダメ。これ以上頑張れない」と考えがちです。介護で仕事を辞めたくなったら退職ではなく、一時的に仕事から離れましょう。「介護休業制度」があります。対象家族1人につき93日休業することができ、その日数を最大で3回に分割できます。これは法律で定められている期間であり、企業によっては法定以上に充実させています(93日の休業以外にも、残業の免除や時間単位で休める介護休暇などがあります。人事などで確認を)。

 一例ですが、親の介護が大変になったタイミングで介護休業を使った女性がいました。40日間休んで、冷静になり、そして、親の介護体制を整えました。地域包括支援センターに行き、「仕事は辞めたくない。どのように親を支えたらよいか教えてください」と相談。サービスを入れて、自分の負担を大幅軽減することに成功。もちろん、彼女は仕事を継続しています。

 自分自身の生活設計は自分で守る!「両親には、自分しかいない」というのは誤りです。家族が手取り足取り頑張らなくても、サービスや施設があり、何とかなります。それに、プロの介護の方が安心・快適という側面も。介護サービスを使い倒すことは、ワガママでも親不孝でもありません。素晴らしいことであり、親のために、そして自分自身のために必要なことです。

介護・暮らしジャーナリスト

京都市生まれ。1993年頃より老親介護の現場を取材。「遠距離介護」「高齢者住宅」「仕事と介護の両立」などの情報を発信。AFP(日本FP協会)の資格も持ち「介護とお金」にも詳しい。一方、1996年遠距離介護の情報交換場、NPO法人パオッコを立ち上げて子世代支援(~2023)。著書に『親が倒れた!親の入院・介護ですぐやること・考えること・お金のこと 第3版』『高齢者施設 お金・選び方・入居の流れがわかる本 第2版』(以上翔泳社)『遠距離介護で自滅しない選択』(日本経済新聞出版)『知っトク介護 弱った親と自分を守る お金とおトクなサービス超入門』(共著,KADOKAWA)など。

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