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「同居して世話」と言いはる夫と衝突 苦手な義母の介護問題、どうすべき?

太田差惠子介護・暮らしジャーナリスト
イメージ写真(写真:イメージマート)

 いまの時代は、長男も次男も長女も次女……も、法的な立ち位置に違いはありません。とはいえ、なんだかんだ「長男夫婦が親を介護する」という考え方は残っています。もし、その立場になったら?

義母が脳梗塞で倒れた

 ナガコさん(50代)は夫と大学生の長男との3人家族です。車で1時間弱のところで、夫の母親は1人暮らしをしていました。先ごろ、脳梗塞で倒れて、現在入院中です。

 退院後の生活をどうするかで、ナガコさんと夫はもめています。夫は「同居して、世話をするのは当たり前だ」と言います。夫には姉もいますが、「私は嫁いだ身。母のことは、あなたたちで世話をしてね」と他人事のように言います。

 ナガコさんは結婚して20数年……、義母のことは苦手です。理由はたくさんありますが、ナガコさんが夫に作った弁当を見て、「かわいそうに、こんなのを持たされているの?」と義母が夫に言ったことが決定的な出来事となりました。その前夜、夫は酒を飲んでしまい、訪ねてきていた義母を実家に送ることができず義母は泊ったのです。

「夫は義母にそう言われ、ヘラヘラと笑ったんですよ。確かに、前の日の残り物と、チンした冷凍食品を入れただけだったけれど……」とナガコさんは悔しそうな表情を浮かべます。

夫は「同居は当然」と1歩も引かない

 現在、義母は入院先でリハビリをしています。後遺症は残ったものの、幸い、1人で歩くことができ、着替えや食事、トイレも自分でできるまでに回復。ナガコさんは、夫に「同居は嫌。あそこまで良くなられているから、1人暮らしできるよ」と言いました。けれども、夫は「おまえは冷たい。身体が不自由になった母親を1人にさせておくわけにはいかない」と1歩も引きません。義母も息子宅に退院してくるつもりのようです。

「子が親の面倒をみる」という社会通念

 過去には長男家族が親と同居してその世話をするのが当然という時代がありました。けれども、現在の法律では、そのようなことは決められていません。

 子どもには親に対し「扶養義務」があります。けれども、未成年の子を監護教育する義務と違い、「自分たちの生活を維持したうえで、かつ親の面倒をみるだけのゆとりがある場合に発生」するとされています。しかも、金銭面での支援を指しており、ゆとりがない場合は、拒否することができます。一緒に暮らして、手取り足取りの世話をしなければいけないという義務はないのです。

 しかし、義務はなくても、厄介なのが「子が親の面倒をみるのは当然」という社会通念。地域や世代にもよりますが、特に「長男夫婦が親の介護をおこなう」という考え方は、根強く残っています。「育ててもらった恩があるでしょ。親孝行するべき。それが当たり前」という声も聞こえてきます。

配偶者と冷静に話し合う

 自分にとって、親との同居が受け入れられないものであれば、冷静に、配偶者と話し合うことが必要です。感情的にならず、受け入れるゆとりがない(精神的、時間的など)ことを伝えましょう。

 介護保険制度があるので、介護が必要になっても1人暮らしを継続することは可能です。そしてそれは、別段レアなケースではありません。

 義母の介護に関しては、義母の自宅住所を管轄する地域包括支援センターで相談に乗ってくれます。所在がわからなければ、役所に問い合わせを。アポを取り、夫婦で出かけて相談してみましょう。介護保険のサービスを使って、義母が不自由なく暮らす術を提案してくれるでしょう。義母は1人暮らしなので、介護保険以外にも自治体独自のサービスを利用できるはずです。サービスの内容は住んでいる自治体によって異なりますが、食事の個別宅配や、緊急時にボタンを押すだけで通報できるシステムなどを利用できるところは多いです。

 退院する前に、手すりを設置するなど住宅改修をすることもできるかもしれません。

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イメージ写真写真:イメージマート

 相談の過程で(夫もいるところで)、「私としては同居する自信がないのです」と言ってみてもよいでしょう。多くの介護の専門家は、途中同居がいかに難しいかを知っているので、より良い方法を提案してくれると思います。

「お試し期間」を設ける

 これまで別々に暮らしてきた者が、同じ屋根の下で暮らすというのは簡単なことではありません。通常大きなストレスを招きます。メリットとデメリット、どちらが勝るか……。

 ストレスを感じながらも、一緒に暮らす安心感からじょじょに同居という住まい方に慣れていくケースもあります。が一方で、時間がたっても受け入れられず、同居を解消するケースもみられます。同居してからの解消は、家族間に大きな亀裂を残すことがあります。

 冷静に話しても、夫が義母を連れてこようとするなら、「お試し期間を設けよう」と提案してみましょう。2週間程度の期間を区切ってトライしてみるのです。その間は、普段通りで。くれぐれも「良い嫁」を演じないでください。そして、あくまでトライアルなので、期間終了後は、一旦、義母には自宅に戻ってもらうことを事前に取り決めておきましょう。なし崩し的に“同居”になりかねないからです。

 お試しをしても、夫は「同居」、あなたは「困難」との結論に至ったら、突き進んでもうまくいかないので、とことん話し合いを。現実を目の当たりにし、義母や夫が「同居はやめよう」と言い出すことも考えられます。

介護・暮らしジャーナリスト

京都市生まれ。1993年頃より老親介護の現場を取材。「遠距離介護」「高齢者住宅」「仕事と介護の両立」などの情報を発信。AFP(日本FP協会)の資格も持ち「介護とお金」にも詳しい。一方、1996年遠距離介護の情報交換場、NPO法人パオッコを立ち上げて子世代支援(~2023)。著書に『親が倒れた!親の入院・介護ですぐやること・考えること・お金のこと 第3版』『高齢者施設 お金・選び方・入居の流れがわかる本 第2版』(以上翔泳社)『遠距離介護で自滅しない選択』(日本経済新聞出版)『知っトク介護 弱った親と自分を守る お金とおトクなサービス超入門』(共著,KADOKAWA)など。

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