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B1最強のオフェンスを見せる富山 宇都直輝のプレーと行動でその理由が分かる

大島和人スポーツライター
宇都直輝選手(左)写真=B.LEAGUE

1試合平均88.9得点を挙げる富山

B1はレギュラーシーズンの4分の3を終え、いよいよ最終クォーターに入る。皆さんは、今B1で一番得点力の高いチームがどこかご存知だろうか?

富樫勇樹を擁する千葉ジェッツか?今季の首位に立つ宇都宮ブレックスか?リーグを連覇中のアルバルク東京か? Bリーグ屈指のシューターが揃うシーホース三河か?実はそのどれでもない。

答えは富山グラウジーズだ。45試合で1試合平均88.9得点を挙げていて、これは20チームの中でも最多だ。

「83.3」の平均失点数も全体の4番目で要改善だが、チームは強豪が揃う東地区で現在5位。シーズンが仮に今すぐ終われば、富山はワイルドカードでチャンピオンシップに出場できる。(※データはすべて3月23日時点)

「チームらしくなってきている」

もっとも富山は開幕からジョシュア・スミス、ジュリアン・マブンガら外国籍選手の負傷が相次ぎ、先週末の滋賀レイクスターズ戦もリチャード・ソロモンが欠場していた。しかし今季から就任した浜口炎ヘッドコーチ(HC)のもと、チームは少しずつ噛み合い、結果を残している。

浜口HCは3月21日の滋賀レイクスターズ戦後に、こうコメントしていた。

「雰囲気を含めて、チームらしくなってきています。上を見たらキリがないですけど、7月からスタートして全員が合流して、チームが一つの目標に向かって着実にステップアップしていると思います」

富山は素晴らしい補強をして2020-21シーズンを迎えた。まず今季はB1最高レベルのオールラウンダーであるマブンガが浜口HCとともに京都ハンナリーズから富山に加わった。2018-19シーズンの新人王に輝いた岡田侑大も三河から移籍してきた。大卒新人の松脇圭志も、主力の働きを見せている。また昨季はほぼ全休だったスミスも開幕直後から復帰している。

「4番打者」「ドリブラー」が噛み合った

一方で開幕前には「チームが噛み合うのか?」という疑問もあった。マブンガ、岡田はいずれも典型的なハンドラーで、ボールを持って活きるタイプだ。この2人と前田悟と素晴らしいシューターだが、お膳立てをする選手がやや弱く思えた。センターのスミスは138キロ(公称)の重量級で、ゴール下では間違いなくB1最強なのだが、動き回れるタイプではない。

富山は野球で言えば4番打者、サッカーに例えればドリブラーとストライカーが揃っている。そういうタイプは得てして共存が難しいものだが、今季の富山は想像以上に個の強いタレントが噛み合って機能している。

例えば浜口HCはマブンガの働きについてこう述べていた。

「ここ数試合はどちらかと言うとチームメイトを活かすプレーが多くなってきている」

マブンガのアシスト数は1試合平均7.1でB1最多。今季は岡田侑大が43.3%、前田悟が42.6%と高確率で3ポイントシュートを決めている。大きな要因がマブンガのお膳立てで、彼は相手を引き寄せて、最高のタイミングでパスを出している。スクリーンやスペーシングなど、「ボールを持っていない状況」でもクレバーにプレーできている。

シェアと自己犠牲

浜口HCはこうも言う。

「現状にも色々な問題はあるし、選手のフラストレーションは、どのチームもあると思うんです。この前のミーティングから話しているのは、まずゲームに対しての集中力を持ってプレーすること。もっと本気でシェアしてプレーしなければいけないということ。あとは自己犠牲ですね。その3つは選手に話しています」

ボールを持っていない選手の献身があるから、スターは光る。スターの共存は難しいが、富山はそれを実現できている。

浜口HCは続ける。

「選手はみんな得点を取りたい。僕には言ってこないけれど、そうだと思います。アシスタントコーチから伝えたり、私の雰囲気で選手が感じ取ってくれているんだと思います。我慢をしながらやっているのは見受けられますけど、でもそこは良くなっています」

「『絶対に勝ちたい』というだけ」

宇都直輝は在籍5季目のポイントガードで、阿部友和とともにチームのキャプテンを務めている。アグレッシブなドライブが最大の武器で、Bリーグの「モテ男ナンバーワン」に選出された容姿も含めて、スター性のある選手だ。典型的なハンドラーである宇都だが、今季はマブンガらの加入でボールを持つ時間、触る回数が減っている。

宇都は述べる。

「『チームのために何かをする』ことが僕の大きな役割です。それが去年までは点数を取る、アシストをすることでした。今年はスクリーンをかけながら合わせてあげる、チームメイトにやりやすいようにしてあげて、その中で点数を取っています。僕の中で、役割は変わっていません。無理に点数を取りに行こうとすれば、点数は取れます。アシストをジュリアン(マブンガ)と同じくらいしようとすればできる。でもそうでなく、チームがより良くスムーズに動くように、歯車を噛み合わせる油みたいになれればいいかと思っています。僕は『絶対に勝ちたい』というだけなので泥臭いプレーも、何でもします」

リーダーシップも発揮

21日の第3クォーターには、こんな場面があった。スミスがオフェンスファウルを宣告され、直後のプレーが止まったタイミングでレフェリーに「物申そう」とする態度を見せた。宇都はすぐスミスを強い口調で引き止め、チームメイト全員を集めた。ちなみに彼はコート内では英語を使う。

宇都は説明する。

「審判批判には取られてほしくないですけど、僕たちにとって嫌な笛が続いたんですよね。みんなを集めて僕が言ったのは『勝てば全部OK』『とにかく勝とう』という内容です」

彼のアグレッシブさ、気の強さは魅力で、それが消えてしまっているわけではない。しかし強烈な個性が揃う中で、29歳の宇都はチームを整える、収める役割もしっかり果たしている。今季の彼は出場時間、アシスト数こそ減っているが、1試合平均で10.9得点を記録。加えて数字以上の貢献も見せている。

富山は浜口HCが1シーズン目で、選手の入れ替わりもあった。成熟には時間が必要で、今がチームの完成形ということではないだろう。ただスターが進んで脇を固められるチームは強い。富山がいい戦いをしている、オフェンスを機能させている大きな理由は、宇都の周りを支えるプレーと行動だ。

スポーツライター

Kazuto Oshima 1976年11月生まれ。出身地は神奈川、三重、和歌山、埼玉と諸説あり。大学在学中はテレビ局のリサーチャーとして世界中のスポーツを観察。早稲田大学を卒業後は外資系損保、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を始めた。サッカー、バスケット、野球、ラグビーなどの現場にも半ば中毒的に足を運んでいる。未知の選手との遭遇、新たな才能の発見を無上の喜びとし、育成年代の試合は大好物。日本をアメリカ、スペイン、ブラジルのような“球技大国”にすることを一生の夢にしている。21年1月14日には『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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