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Bリーグの新型コロナ特例契約は機能しているか? 琉球ウォッシュバーンが見せる奮闘

大島和人スポーツライター
追加契約でプレーするウォッシュバーン選手(左) 写真=B.LEAGUE

Bリーグは特例で入国の遅れに対応

10月2日に開幕した今季のBリーグは、「外国籍選手追加契約ルール」という特例措置を設けている。これは新型コロナウィルスの蔓延を受けた入国制限で、日本に入国できない外国籍選手が続出している状況を受けたもの。8月25日にリーグから正式に発表されている。

2020-21シーズンのB1、B2で認められる外国籍選手の登録は3名だが、一時的に「4人目以降」を追加できる制度が導入された。いわば新型コロナ特例だ。

もっとも入国制限下の選手が入国し、登録が完了したら追加選手の登録は抹消される。契約の延長や“差し替え”は認められない。つまり「お試し」的な使い方は許されず、いいプレーをした場合の延長ができない短期契約だ。

「新規」の入国は9月下旬から

入国できる選手、できない選手が分かれた背景には、就労ビザの問題がある。ビザの期間は通常1年間で、シーズンが終わってもしばらくは期間内だ。2019-20シーズンに日本国内でプレーした選手ならば、相対的に入国は容易だった。

一方で「新規」の入国拒否が緩和されたのは9月に入ってから。「東京五輪・パラリンピックの実施競技のプロスポーツ選手に限る」という条件でBリーグにも特例が認められた。9月下旬に入ってようやく、新たな選手と指導者の入国が始まっている。

ただし新型コロナウィルスに対する水際対策として、彼らにはPCR検査と、14日間の自主隔離が要請されている。コンディションを戻し、最低限のチーム戦術を確認するためには入国から1ヶ月程度が必要だろう。追加契約はその空白期間を埋めるための「臨時選手」だ。

琉球は短期契約選手が大活躍

能力の高い、コンディションのいい既存選手はどうしても「正規契約」で所属が決まる。昨季の所属がB2だった人材がB1に引き上げられる、1月に開幕するB3からの期限付き移籍(レンタル)で人材を確保するような例が目立つ。

また合流が直前になるのは追加契約も同様だ。能力、連携の問題から開幕戦のプレータイムが数分にとどまっている選手もいた。

ただし琉球ゴールデンキングスのジェイソン・ウォッシュバーンは開幕週から完全に主力の活躍を見せていた。10月3日の宇都宮ブレックス戦では29分29秒のプレータイムを得て8得点、12リバウンドを記録。4日の再戦では30分4秒のプレータイムでチーム最多の17得点、10リバウンドを記録した。

試合は2試合とも宇都宮の勝利に終わったが、ウォッシュバーンは攻守でライアン・ロシター、ジェフ・ギブス、ジョシュ・スコット、竹内公輔といった強力なインサイドプレイヤーによく対峙していた。

大学、横浜時代の経験を活かす

彼はこう説明していた。

「宇都宮はBリーグ初年度のチャンピオンにもなったチームで、ロシターやギブスのような主力が今も残っている。自分もこのリーグに長くいて、彼らがどういう選手か分かっていた。あとスコットは大学で試合をしたので、やはり知っていた。何週間も前から、彼らに対する心と身体の準備はしてきていた」

ウォッシュバーンは213センチのセンター。負傷などによる離脱期間はあったが、横浜ビー・コルセアーズで通算3シーズンにわたってプレーしている。またユタ大学時代は「パシフィック12」というカンファレンスでプレーしており、コロラド大のスコットと対戦していた。そのような経験値が彼を利した。

加えてチームメイトとの連携にも、理由があった。インサイドの“相棒”はジャック・クーリー。206センチ・112キロのクーリーはNBA経験を持ち、ゴール下の攻防が圧倒的に強い。昨季はB1のリバウンド王に輝いた選手だ。

ウォッシュバーンは説明する。

「ジャック(クーリー)はリバウンドが圧倒的で、自分たちにはいいガードもいる。(ガードが)シュートを打ってジャックが(リバウンドを)取るという立派な軸がある。自分はそれを邪魔しないように、仕事を探してやり切ろうと思っていた。コンビネーションができていない感覚はないし、この2連戦でチームにフィットできた」

チームメイトは練習仲間

なおウォッシュバーンとクーリーはいずれもミシガン州シカゴ出身で、「ずっと前から知っている」関係。近所に住んでいて、来日前は毎日のように一緒に練習していたという。普段の練習からお互いの特徴を知っている彼らは、スムーズにチームの連携に入っていけた。

Bリーグの外国籍選手に話を聞くと「大学のチームメイト」「大学時代に対戦した」というような話をよく聞く。仲間がいる安心感やエージェントも含めた人間関係からつながりが生まれ、移籍を決める流れもあるのだろう。逆に獲得する側から見れば、人間関係のある選手ならば契約前に「数字に出ない情報」を得ることができる。

ウォッシュバーンの獲得は、そのような縁も生かした琉球のマネジメントによる密かなファインプレーだ。

藤田弘輝HCはこう述べていた。

「(ウォッシュバーンは)チームの大きな部分を担っているので感謝している。いつまで一緒にプレーするか分からないけれど、いる以上はメンバーとして、キングスファミリーとして100%のリスペクトを持って接している」

「今後も日本のチームと契約できたらいい」

しかし琉球が「新規契約」をしたドウェイン・エバンスと、キム・ティリは既に入国していて、ウォッシュバーンは程なくチームを去ることになる。

彼はそんな理不尽への思いをこう述べていた。

「これはもう不運な状況なので、受け入れている。キングスのユニフォームを着ている限りは、勝利のために自分ができる限りのことをやり切りたい」

琉球での奮闘は、自分のためでもある。

「日本のバスケは成長していて、Bリーグも徐々にハイレベルな選手がプレーする場になっている。次の選手が来たら自分の契約は切られてしまうけれど、今後も日本のチームと契約できたらいいと思っている。そのためにもキングスで、勝利という結果を残したい」

スポーツライター

Kazuto Oshima 1976年11月生まれ。出身地は神奈川、三重、和歌山、埼玉と諸説あり。大学在学中はテレビ局のリサーチャーとして世界中のスポーツを観察。早稲田大学を卒業後は外資系損保、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を始めた。サッカー、バスケット、野球、ラグビーなどの現場にも半ば中毒的に足を運んでいる。未知の選手との遭遇、新たな才能の発見を無上の喜びとし、育成年代の試合は大好物。日本をアメリカ、スペイン、ブラジルのような“球技大国”にすることを一生の夢にしている。21年1月14日には『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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