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ドラフト候補を大会難民から救う秘策 日本版ショーケースを実施せよ

大島和人スポーツライター
(写真:岡沢克郎/アフロ)

新型コロナで大会が中止に

新型コロナウイルス問題は人の健康を脅かすだけでなく、教育や産業を停滞させる災厄となっている。野球界への影響も甚大だ。

5月12日には第69回全日本大学野球選手権大会の中止が発表されている。本来は6月中に行われる予定だった。全日本大学野球連盟は4月2日に8月への延期を決めて事態の改善を待ったものの、間に合わなかった。

社会人野球を統括する日本野球連盟も、7月に予定されていた日本選手権と、その予選を兼ねたトーナメント(JABA大会)の中止を決めている。

高校野球も春の都道府県大会、地区大会がすべて中止となった。夏の地区大会は延期、無観客などの配慮をしつつ開催に向けた準備が進められている。しかし全国大会も含めた4000試合近くの消化はかなり高いハードルだ。

更なる大会の中止も念頭に置いて、有望選手を救う準備を進める必要がある。高校、大学、社会人の統括組織に加えて、日本プロフェッショナル野球組織(NPB)も含めた球界全体が取り組むべきテーマだ。

ヒントは米国にあり

大きなポイントは選手の進路だ。年に何千人という若者が野球を軸に進路を決める現実は無視できない。人数的にもっとも多いのは「高校→大学」だが、「高校→プロ」「大学→プロ」のキャリアは球界とそれぞれの人生に及ぼす結果が重大だ。

2020年のプロ野球ドラフト会議は11月5日に予定されている。日本シリーズ直前の開催が恒例だが、今年は東京オリンピックの影響でクライマックスシリーズ、日本シリーズの日程とともに後ろ倒しとなっていた。

必要なのは事前に選手が能力をアピールする場だ。日本球界が学べる、ドラフト制度と両立できる仕組みがアメリカにある。NBAはドラフトコンバイン、NFLならスカウティングコンバインと称する合同テストがあり、NPBもこれを参考にしていい。コーチやGM、スカウトが一堂に会し、同じ条件下で選手をチェックするイベントだ。

野球ならば「ショーケース」「トライアウト」という表現のほうが通りはいいだろう。アメリカは公平、平等を重んじる社会で、プロアマを問わずセレクション文化が日本以上に根付いている。

NPB版ショーケースの内容は?

もちろん選手のコンディションや思惑もあり、合同テストを回避する場合もある。例えば八村塁(ワシントン・ウィザーズ)はコンバインを経ずに、2019年のNBAドラフトで指名を受けた。日本でも2019年の佐々木朗希(大船渡→ロッテ)や奥川恭伸(星稜→ヤクルト)のようなレベルならば、そのような場を経ずとも1位指名は堅かっただろう。

一方で高2の秋から冬と春を経て「化ける」高校生は多い。例えば吉田輝星(金足農業→日本ハム)は2018年夏の大会における大活躍がなければ、プロでなくそのまま八戸学院大に進んだはずだ。そんな選手の台頭に気づく場としても、NPB版ショーケースは有用だ。

NBAは60名前後、NFLは300名以上がコンバインに参加する。テストはスピード、パワーなど身体能力の測定がメインだ。NFLは面接、知能テストもその内容に加えている。加えて野球ならば実戦形式も含めた「投げる、打つ、守る」の多角的チェックが必須だろう。

「ハイレベル同士」の対戦が重要

日本では学生野球憲章との兼ね合いがあり、プロ志望届の提出がトライアウト参加の前提となるはずだ。志望届の提出人数は近年増加傾向で昨年は高校生139人、大学生108人だった。

NPBでなく日本高校野球連盟(高野連)などアマチュア側が仕切る仕組みでも問題はない。また合同テストの質や公平性を確保するため、申込でなく招待制にして記念受験を排除する方法もある。実戦形式のテストを組むならばカテゴリーや地域など何グループかに分けたほうが内容は濃くなるだろう。

いずれにせよ「ハイレベルな選手同士が対戦する場」があれば、プロで通用する可能性を探りやすくなる。従来ならば侍ジャパンU-18代表、侍ジャパン大学代表の選考合宿と実戦が絶好のサンプルとして機能していた。

しかし新型コロナの余波で、大学代表が3月に予定していた合宿は中止となった。U-18の強化日程もおそらく変更を強いられるだろう。大学野球選手権も含めて「地方で圧倒的な成績を残している選手が、より高いレベルで通用するか評価する」イベントが消えたことは痛い。12球団合同テストには、そのような場の代替という意味合いもある。

プロへの練習参加も有り

他の方法もある。新型コロナ問題の収束やスケジュール、受け入れ態勢などとの兼ね合いはあるが、プロへの練習参加を認めるのも一つの方法だ。公平性を担保するために1球団あたりの受け入れ人数を限定する、他球団のスカウトの視察を認めるといった措置も検討していい。

JリーグとBリーグは、契約前の練習参加が一般的だ。アメリカでも前述の八村選手は事前に複数クラブの練習に参加していた。プロとまざっても強みを表現できるか、コーチの指示を消化できるかといった要素は実際の練習に参加したほうが評価しやすい。サッカーやバスケは自由競争なので、選手も「職場体験」から相性を見極めて進路を決められる。

野球界でも大学、社会人チームは練習参加を経て合否を決める場合が多い。大学なら練習会と称する合同テストも一般的だ。プロ野球にも入団テストはあるがあまり機能しておらず、加えて選手側との事前接触には大きな制限がある。それを今年に限っては緩和するべきだ。

有事に合わせた制度変更を

もちろん選手の適性を確かめるためには試合が一番だ。大学には短縮、後ろ倒しで春季リーグの決行を模索している連盟がまだ残っている。高校も地方大会、全国大会が無事に開催できればそれはベストに違いない。仮に無観客となってもプロ野球のスカウト、社会人や大学の野球部関係者を受け入れる態勢はぜひ確保されてほしい。

新型コロナ問題が深刻化した中で、平時と同じ制度運用では解決しきれない難題が出てくる。実際に高校、大学、社会人の全国大会が中止となり、更なる影響も予想されている。今こそ合同テスト、練習参加の仕組みを作り、プロとアマの各団体が調整を始めるべき時期だ。

スポーツライター

Kazuto Oshima 1976年11月生まれ。出身地は神奈川、三重、和歌山、埼玉と諸説あり。大学在学中はテレビ局のリサーチャーとして世界中のスポーツを観察。早稲田大学を卒業後は外資系損保、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を始めた。サッカー、バスケット、野球、ラグビーなどの現場にも半ば中毒的に足を運んでいる。未知の選手との遭遇、新たな才能の発見を無上の喜びとし、育成年代の試合は大好物。日本をアメリカ、スペイン、ブラジルのような“球技大国”にすることを一生の夢にしている。21年1月14日には『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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