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卒論と教職課程に追われつつ1月の快進撃に貢献 B1京都の新人・寺嶋良

大島和人スポーツライター
写真=B.LEAGUE

5試合連続で出場20分超

11月3日の千葉ジェッツ戦から13連敗と苦しんだ京都ハンナリーズが、反転攻勢を見せている。12月29日の三遠ネオフェニックス戦からは7連勝とV字回復。24日は中地区首位の川崎ブレイブサンダースを82-78で下している。

浜口炎HCはその理由を二つ挙げる。

「一つはジュウ(ジュリアン・マブンガ)とディー(デイヴィッド・サイモン)の怪我が治って、しっかり戦える状態になっているのが大きい。あとはボール運び、ポイントガード(PG)の部分で厳しい時期があったんですけれど、(寺嶋)良が入った。(ボール運びを中村)太地がやったり良がやったりジュウがやったり、相手の状況を見ながらやれるようになった。それで自分たちのオフェンスに入れる回数が少し多くなった」

寺嶋は2020年の3月まで「大学生プレイヤー」だ。12月29日の三遠戦で「プロデビュー」を果たすと、1月4日の名古屋ダイヤモンドドルフィンズ戦からは5試合連続で20分以上のプレータイムを得ている。チームは寺嶋の合流から7連勝中で、その貢献は結果が示している。

強気のプレーで中地区首位に挑む

彼は179センチ・77キロの体格で、強みはゴール下に勢いよく切れ込む高速ドライブ。消耗の激しいPGは2人、3人の併用が鉄則だが、京都は新鋭の加入で試合運びに変化をつけられるようになった。

寺嶋は名門・東海大のキャプテンを務めていたが、大倉颯太らと併用され、ベンチスタートが多かった。京都でもまだ先発はないが「途中から入ってチームを勢いづける」役割を果たしている。

12得点を挙げた24日の川崎戦後に、寺嶋はこう振り返っていた。

「前半は自分の思っていたように点が取れて良かった。でも後半は藤井祐眞選手にファウルが込んでいるところを突かれてしまった。後半乗れなかったのは反省です。オフェンスチャージをしちゃったんですけれど、ディフェンス(DF)の圧を自分が嫌がって腕を使ってしまった」

マッチアップしていた藤井はB1でも屈指の実力者で、しつこいDFに定評がある。24日の寺嶋はそこに適応しきれず、ファウルトラブルに見舞われてしまった。藤井はさらに仕掛けを増やし、結果として彼は第4クォーターの残り2分12秒でファウルアウト(退場)。寺嶋がチームを助けたことは間違いないが、同時に悔しさも残る試合だった。

一方で22歳のルーキーは退場の直前、残り4分を切ってから2ポイントシュートを2本連続で決めている。勝負どころでチームを勢いづけるチャレンジだった。

「意地というか、このまま(藤井に)負けていられないと思って1対1を試みました。時間帯的に周りの選手も厳しい状態だったので、『ここは自分だ』と強気に行きました」

浜口HCは「ドライブで切っていけ」

寺嶋がまだプロの世界で覚えていくべきものは多くあるだろうし、PGは攻守ともに経験が重要なポジションだ。しかし今はヘッドコーチ、年上の選手がその積極性を引き出している。彼はこう感謝を述べる。

「(浜口HCの指示は)『ドライブで切っていけ』みたいな感じです。長所を引き出してくれたのが炎さんです。周りの選手もジュリアン(マブンガ)、(ディヴィッド)サイモンが信頼してくれる」

京都は今まで外国籍選手への依存度が高く、特にマブンガは勝負どころでボールを独り占めする印象もあった。しかし今季は寺嶋だけでなく中村太地、松井啓十郎といった新戦力が加わり、両外国人が仲間に進んで「託している」印象を受ける。

京都は「第2の故郷」

自身が得ているプレータイムは嬉しい驚きだという。しかし一定の結果が出ていることに満足している様子もない。寺嶋はそんな心理をこう表現する。

「自分でも驚いています。イメージしていたのは点差が離れているときに出してもらえたらいいな……というくらい。段々プレータイムが伸びて、その期待に応えなければというのがあって。だけど10点取ったら次は12点取るぞ、12点取ったら次は14点取るぞと欲は全く減りません」

寺嶋は東京都出身だが、京都のチームを選んだ。その理由を聞くと、こんな答えが帰ってきた。

「洛南で3年間やっていたのが大きかった。何度かハンナリーズの前座試合をやった縁もあります。東京か京都だなと考えていて、京都が早めに声をかけてくれたので京都にしようと。第2の故郷が京都ですね」

卒論、教職課程とプロ生活を両立

1月のB1は週末の試合に加えて、水曜日開催が3度もある過密日程。寺嶋は京都と遠征地、神奈川と飛び回り、学業とプロ生活を両立させつつ結果を出した。

「島根戦の日(1月15日)は朝に卒論の発表会があったんです。順番も早めにしてもらって、発表を午前中に済ませて陸川(章)コーチに『今から島根に行くので早めに失礼します』と伝えて……。すぐに出て飛行機で島根に行きました。『大学生をしながらBリーグに行くのは大変だな』って思います」

なお彼はその島根戦で24分のプレータイムを記録し、16得点を記録している。

寺嶋は3年までに124の単位を取り終えていたが、最後のセメスターに卒業論文と教職課程を残していた。中高の保健体育の教員免許取得を目指し、洛南高での実習も終えている。22日の琉球ゴールデンキングス戦後は、深夜まで教職課程の課題に追われていた。

「課題をやっていなくて『ヤバい』と思って試合から帰って深夜にレポートをやりました。朝一の新幹線で東海大に行きました。東海大からこっち(川崎)は近いので一人でホテルに戻って合流して……」

そんな状態で迎えた中1日の川崎戦だった。

マブンガが授けた愛称は「フラッシュ」

しかしそのような多忙な生活は1月限りで、残すは卒業式のみ。今後は文武両道の重みから解放される。

我々が取材をしていると、マブンガが寺嶋に近寄り、報道陣に語りかけてきた。

「こいつはフラッシュ。俺が彼につけたニックネームだ」

“Flash”は閃光の意味で、寺嶋のプレースタイルにはぴったりな愛称だろう。本人も素直に喜んでいた。

「小さい頃からそういうあだ名がついたらいいなと思ったんです。(マブンガが)今日の朝『フラッシュだ。フラッシュだ』と言っていて。(ブースターも)どんどん言ってほしいです」

スポーツライター

Kazuto Oshima 1976年11月生まれ。出身地は神奈川、三重、和歌山、埼玉と諸説あり。大学在学中はテレビ局のリサーチャーとして世界中のスポーツを観察。早稲田大学を卒業後は外資系損保、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を始めた。サッカー、バスケット、野球、ラグビーなどの現場にも半ば中毒的に足を運んでいる。未知の選手との遭遇、新たな才能の発見を無上の喜びとし、育成年代の試合は大好物。日本をアメリカ、スペイン、ブラジルのような“球技大国”にすることを一生の夢にしている。21年1月14日には『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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