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千葉をBリーグのトップに引き上げた島田慎二は 難攻不落の福岡をどう攻略するのか?

大島和人スポーツライター
福岡のアドバイザーに就任した島田慎二(49歳):筆者撮影

「一人十役」の島田がアドバイザーに

Bリーグで今もっとも経営的に成功しているクラブ。それが千葉ジェッツだ。島田慎二は経営を引き継いだ2012年2月の時点で倒産寸前だったクラブを、抜群の手腕で引き上げた。矢継ぎ早の決断や行動に周囲が戸惑う場面は今も多々あるが、経営者としての存在感は他の追随を許さない。Bリーグ発足前にはあの川淵三郎前チェアマンが彼を後任にしようと口説いた秘話もある。

彼は19年8月に千葉ジェッツの社長から会長に退いたが、多忙な日々は続いている。Bマーケティングの専務取締役、日本トップリーグ連携機構の理事などを複数の職務をこなし、日本テコンドー協会の改革にも乗り出している。他にも一般企業の経営コンサル、社会貢献活動とその活動は多岐にわたる。本人の言葉を借りれば「一人十役」の状態だ。

11月22日には、B2「ライジングゼファー福岡」のクラブ経営アドバイザー就任も発表された。福岡は2018-19シーズンをB1で戦った。財務的な問題で今季のB1ライセンスを剥奪され、入れ替え戦を戦わずして降格となったクラブだ。

意図は「2026年構想」の後押し

島田はBリーグの副チェアマンを2017年夏から18年春まで務めており、クラブの経営指導活動に力を入れていた。ただ今回は経営的な難局に陥ったクラブに対して、継続的に深く関わる。福岡とのファーストコンタクトについては、こう説明する。

「9月中旬ぐらいに、クラブの現経営陣がBリーグのオフィスに来て、いわゆる経営相談を受けたんです。それが一番初めの接触でした」

千葉の経営に携わる人物が、アドバイザーとはいえ他クラブに協力する状況への異論もある。彼はこう述べる。

「大河(正明)チェアマンの2026年構想に対する強い思いから起こっていること。理事会で承認されているものです」

つまり今回のアドバイザー就任は、Bリーグサイドの意を受けた行動だ。Bリーグは2026年から経営規模、観客数などでひとつ上のハードルを設ける「プレミア化構想」を持っている。とはいえ現時点でそのレベルに達しているクラブは千葉くらい。レベルの底上げは急務と言っていい。

就任の理由は「難攻不落に燃える」

島田は「ハルインターナショナル」という企業の創業者で、2010年に株式を売却。そこから2012年冬に千葉ジェッツの社長に就くまで、約1年にわたって福岡市の六本松に在住していた。単純に福岡が好きだから決めた転居で、セミリタイアの日々をエンジョイしていた。

ただし彼は「福岡が好きだから(アドバイザー就任を)決めたわけではない」と強調する。福岡はバスケどころで、ソフトバンクホークスを見れば分かるようにスポーツビジネスのポテンシャルもあるはずだ。一方でプロバスケは旧JBLの福岡レッドファルコンズから経営主体が次々に変わり、ある種の鬼門として知られている。

島田は就任の理由をこう述べる。

「テコンドーもジェッツもそうなんですけど、私は難攻不落に燃えるタイプです。13年で12人の社長が代わり、バスケ王国なのに、ビジネスとしては苦労しているあのチームを何とかしたいと思っていました。(新オーナーの)やずやさんも本気で乗り出します。経営陣を(今までのように)コロコロ変えるのでなく、ちゃんとしっかりやる状況が確認されている」

悪循環を「逆回転」させる

トップがどれほど尽力しようと、クラブのオーナーシップと経営、地元の協力がなければ成功は難しい。しかし今回は地元企業の「やずや」が最大株主として入り、キューサイの前社長である藤野孝氏が経営の舵取りを担うことになった。昨季までは距離があった福岡県協会の協力体制も整いつつある。今までに比べれば、前向きな状況と言っていい。

島田が分析する過去の「悪循環」はこうだ。

「まず地元感のあるオーナーシップを取っていなかった。オーナーが変わって落ち着かず、それに伴って経営者が落ち着かなかった。落ち着かない中で経営陣が変わるから、県協会とのリレーションシップも整わない。そういうみんなが協力しない状況の中で、行政の支援もままならない。経営に集中していないんで、ファン作りやスポンサー営業の体制も弱い。収益的にも稼げないので、チームに投資できず、ギリギリ生きているだけみたいな状況が続く。『プロチームはうまくいかない』みたいな空気感が、ずっと歴史の中で積み重なってきた」

クラブを変えるために何をやろうとしているのか。彼は「逆回転」という言葉を使う。

「一つ一つ改善するだけでも、ファンは変化を感じてくれると思うんです。ネガティブだったものを全て逆回転させようと、私は動いています」

「すごい量の改善提案」

島田は12月7日・8日のホームゲームを視察し、ファンへの挨拶やミーティングも行っている。興行の現場も細かくチェックして回り「すごい量の改善提案を、もうまとめてある」という。

彼が改善点の例に挙げるのが当日券売り場の導線、人員配置だった。

「(福岡は)事前にチケットを購入するブースターの数がまださほど多くないので、行けたら行こうという当日券の方が多い。でも当日券の人は逆を返せば、これからリピーターになる可能性があります。貴重な財産なのに、人員が足りずにすごい並んでいた。スムーズに気持ちよく(アリーナに)お入れすればいいのにと思いました」

稼ぐ力の構築はこれからだが、新たな資本が入り、財務体質は健全になっている。一方で社員の入れ替わりが多かったこともあり、スポーツビジネスの経験を持っている人材は少ない。そういう背景も、経験者のアドバイスが求められる背景だ。

「当たり前のことを、当たり前にできていないことがまだまだ沢山ある」という島田の言葉は、裏を返せば改善の余地が多いという前向きな意味でもある。

12月7日の奈良戦ではファンに挨拶:写真=B.LEAGUE
12月7日の奈良戦ではファンに挨拶:写真=B.LEAGUE

戦略の対外発表は年明けに

彼は経営改善のプロセスを、段階に分けて説明する。

「資本政策をやらないと、誰がリーダーシップを発揮できる組織なのか分からなくなる。良いことでも反対されたらできない。資本政策が1番目で、経営者選定が2番目です。このオーナーと経営陣を以てして、このクラブがどうなろうかというビジョン、理念、事業計画を作る。これが3番目です」

4番目のステップはこれからだ。

「それを遂行するために、どんな組織体制でやる、変わるという対外発表をします」

2020年1月には経営戦略の対外的な発表を予定されており、彼自身が福岡県内で講演も行う。その先は一気呵成だ。営業資料の作成、セールスの帯同などにも島田は関わるという。

「あとは同時進行です。対外発表をしたら、一気に営業、興行の改善をどんどんやっていく」

“物議をかもす男”の挑戦は?

なぜ福岡なのか?なぜテコンドーなのか?そんなに沢山の仕事を背負って大丈夫なのか?島田の行動はバスケファン、スポーツファンをよく驚かせる。いわゆる「物議をかもす」行動の多い経営者であることは間違いない。疑問、反発を持っている人も当然いるだろう。

個性派経営者はそんな反応に対してこう述べる。

「私は世間的にトリッキーな動きをしてしまう。だから『またやっている』みたいなリアクションがあるのも事実ですけど、それは意に介しません。バスケ界の発展に尽力して、戦うなら(批判も)やむなしと思っています。(千葉ジェッツが)bjリーグからNBLに行ったときもそうですけれども、私が何かやるときは大体、物議をかもしますね。あとは、私が結果を出すしかない」

「難攻不落」の福岡を攻略し、福岡が千葉や宇都宮ブレックス、琉球ゴールデンキングスのような存在になる。もしそれが実現すれば、Bリーグにとっては大きな前進だ。島田と福岡が地元に受け入れられ、愛されるクラブ作りに成功するかーー。その胎動を楽しみに見守りたい。

スポーツライター

Kazuto Oshima 1976年11月生まれ。出身地は神奈川、三重、和歌山、埼玉と諸説あり。大学在学中はテレビ局のリサーチャーとして世界中のスポーツを観察。早稲田大学を卒業後は外資系損保、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を始めた。サッカー、バスケット、野球、ラグビーなどの現場にも半ば中毒的に足を運んでいる。未知の選手との遭遇、新たな才能の発見を無上の喜びとし、育成年代の試合は大好物。日本をアメリカ、スペイン、ブラジルのような“球技大国”にすることを一生の夢にしている。21年1月14日には『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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