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Bリーグの制度と意思決定はこれでいいのか? 茨城ロボッツ山谷社長の主張

大島和人スポーツライター
茨城ロボッツ・山谷拓志社長:筆者撮影

「地区制」の是非など3つの論点

Bリーグは「突貫工事」で完成したリーグだ。日本は2014年11月末に国際バスケットボール連盟(FIBA)の制裁処分を受け、各年代の代表チームが一時的に国際試合から除外された。当時のバスケ界には日本バスケットボール協会(JBA)のガバナンスやトップリーグの分立といった課題があり、それを解決するためのアクションだった。FIBAの「圧力」と支援を受けつつ川淵三郎氏を中心とした改革が行われていく。15年8月にはJリーグを参考にして新リーグの全体像ができ上がっていた。

個人的にリーグの初期設計が悪かったとは思わないし、実際3シーズンを成功裏に終えている。このリーグが成り立つことは既に証明された。しかしいい環境変化が起こっている中で、リーグのさらなる発展に向けた「衣替え」も必要になっていくだろう。

どんな制度にもメリット、デメリットの両面がある。それは大前提だ。一方で最近はBリーグのファン、経営者、オーナーによる異論の発信が増えた。対象となっている3大トピックが下記の論点だ。

・18チームを「東」「中」「西」の3つに分ける地区制

・チャンピオンシップの試合数

・外国籍選手のオン・ザ・コートルール

議論は当事者にとってストレスの種だし、他人の意見に耳を傾けながら落とし所を調整する作業も容易でない。ただし建設的な意見はどんどん出し合うべきで、「人を懲らしめるための批判」に比べればはるかに前向きだ。

軽視された過去の事例

山谷拓志・茨城ロボッツ社長の意見を聞いた。彼は営業や経営の手腕に加えて、言語化の能力を持つクラブ経営者だ。彼は創業社長として栃木ブレックスの礎を築き、2013年からはNBLの専務理事兼COOも努めた。2014年には経営難に陥っていたサイバーダインつくばロボッツ(当時)に移り、堀義人オーナーとのパワフルなコンビでクラブの売上をB2最大級の規模に成長させている。学生、社会人時代はアメリカンフットボールのトッププレイヤーで、バスケとの関わりは栃木からだ。

山谷社長はBリーグの現行のオン・ザ・コートルールが定まったプロセスをこう振り返る。

「外国籍選手のオン・ザ・コートルールについては、過去20年くらいずっと議論しています。これは正解のない議論ですが、当時の検討した背景や実際やってみてこうだったという事例はある。しかし今回のオン・ザ・コート2(外国籍選手の同時起用2名)のレギュレーションは過去の事例をあまり検証せず、代表強化という目的一辺倒で考案した印象がある。今のルールを決めたのは2年前。bjリーグやNBLでやったことはあまり参考にしない雰囲気が最初はあったのではないかと思います」

地区制の前提は戦力均衡

茨城がもしB1に昇格すれば東地区になる。千葉ジェッツ、栃木ブレックス、アルバルク東京といったビッグクラブと同じウルトラ激戦区だ。ただ茨城の得損とは別の次元で、山谷社長は「そもそも論」を展開する。

「Bリーグはドラフトやサラリーキャップがなく、完全自由競争で優劣が決まる仕組みです。地区制は戦力均衡施策や入れ替えのない“固定化”とセットでないと本来は機能しません。地区ごとの戦力や勝率で過度な差が生じてしまい、公平性を欠くからです。現在のB1東地区と他地区は上位クラブの勝率に大きな差がある。一方でチームの入れ替わりが無く、各チームがイコールコンディションで戦う状況が前提ならば、区分けをしても勝率や順位の妥当性は出ると考えます」

地区制のメリットも当然ある。山谷社長は続ける。

「マーケティング、チームのモチベーションの視点で考えれば(地区)優勝の称号が増えることはプラスです。ポストシーズンの盛り上がり、チケットや放映権の販売が増える意味もある。ただし、よく言われているような移動費の削減はあまり効果が無いですね。国内の移動費は東京からでは大阪も北海道もほとんど変わりませんし、交流戦もあるので各クラブそれなりに遠方への遠征が発生しています」

「地区分け」でないディビジョン制も

地区とは関係のないリーグ編成の決まり方もある。アメリカ(北米)を見れば野球のMLBはアメリカンリーグ、ナショナルリーグの2リーグ制だ。アメリカンフットボールのNFLもAFCとNFCに分かれている。

AFCは1960年に設立されたAFLが、NFLとの合併によりディビジョンだ。アメリカンリーグも前身は「アメリカン・アソシエーション」という別組織だった。古い話になるがナショナルリーグとの最強決定戦として1884年に始まったのがワールドシリーズで、MLBは1891年に両リーグが合併した経緯を持つ。つまりこの両競技も旧リーグの流れが、今のディビジョンに反映されている。日本で言えば「bjリーグ」と「NBL」の枠組みを、そのままディビジョンとして残しているイメージだ。

山谷社長はそのような経緯も踏まえてこう述べる。

「Bリーグは協会が枠組みをつくらざるを得ない状況でした。しかし本来リーグとはチームの集合体であり、チームによるガバナンスが本来のあるべき姿。どんなルールも、チームの総意で決めることがリーグのガバナンスの前提です」

例えば3地区制の中で交流戦を増やす、地区の順位でなく全体の勝率を優先するといった微修正も考えられる。山谷社長はそれを否定し現行制度なら1地区制、もしくは「制度を整備した上でのディビジョン制」を主張する。

「前シーズンの勝率を踏まえて、18チームを『1位4位5位8位9位』『2位3位6位7位10位』と分けるディビジョンなら、戦力の均衡はある程度担保できると考えます。ただし戦力格差が事実上ある中、地理的な観点だけで“地区制”を引いて、しかも入れ替えがあるのは制度矛盾です。現在の制度のように自由競争で優劣を決めるのであれば、1位から18位まで公平に序列を決めるべきです」

「17チーム×3試合」の方法も

B1とB2はそれぞれ18チームで争われている。1地区総当たりとなれば試合数は17の倍数とせざるを得ない。4試合(ホーム2試合、アウェイ2試合)の総当たりにすれば完全に公平だが、68試合となる。現行の60試合でさえ過密感がある中で、過大な試合数にも思える。

山谷社長はこう述べる。

「17チーム×3試合で、2試合の節+1試合の節とする方法もあります。現在でも平日1試合開催はありますので。ただホームとアウェイも公平性の要素ですので、それぞれの試合数が同数となる68試合がいいと思います。競技ルール、対戦フォーマットは必ずどのチームに対しても公平公正に行われることが大前提。現行の自由競争を前提とした制度ならば、18チーム総当たりのリーグ戦が適しています」

リーグ戦が公平に組まれ、「一番強いチーム」が分かりやすく決まったならば、ポストシーズンが“蛇足”になるという発想もある。例えばJリーグのチャンピオンシップは過去に2度行われたが、現在は廃止されている。ただ山谷社長は「公平なリーグ戦とポストシーズンの両立」を認める立場だ。彼は言う。

「プレーオフ(チャンピオンシップ)はマーケティング的なプラスがあります。試合や露出が増えるし、注目度も上がる。優勝チーム以外にもチャンスが巡ってきてモチベーションが上がるという観点もある。なので良い仕組みだと思っています」

ファイナルは「リーグ戦の勝率を表現」する試合数に

一方でファイナルの「一発勝負」については懐疑的だ。

「60試合戦った勝率がしっかり表現され得るゲーム数をプレーオフで確保できなければ、高い勝率を収めたチームが報われません。レギュラーシーズンの勝率はジェッツが8割7分、アルバルクは7割3分。10試合対戦すれば1試合以上の勝敗の差が生じます。にもかかわらず1試合で“年間優勝”を決めてしまうのは酷だと感じます。少なくとも5試合(5戦3勝方式)は行わなければ、リーグ戦の勝率が表現されません」

今年5月11日のB1チャンピオンシップファイナルはNHK総合で放送された。地上波放送の露出はプロモーションを考える上で大きな意味を持つ。「やるかやらないか分からない試合を編成に入れられない」「優勝が決まらない試合を放送できない」といったテレビ局目線の現実論は当然ある。

それでも山谷社長は強調する。

「バスケットボールはまだそこまでの市民権を得ていない、メディアから評価されていないところがあるのかもしれません。しかし10年前の旧日本リーグでさえ(CSの)スカイAでしたが全試合の生中継をやっていました。NHKもブレックスとアイシンの試合(2010年のプレーオフ決勝)は最後まで地上波での中継を検討してくれていました。だから交渉を上手くやれば可能性はあるし、“ブレイク・ザ・ボーダー”を掲げるBリーグだからこそチャレンジして欲しい。もしテレビ放送の都合が年間優勝を決める妥当性よりも優先されているのなら、スポーツというプロダクトを扱う立場として違和感があります」

想定できたルール改正のデメリット

最後の論点は外国籍選手のオン・ザ・コートルールだ。Bリーグは2018-19シーズンから試合ごとの登録を3から2に減らし、一方でクォーターごとの起用制限を無くした。来季も同じルールが採用される見込みだ。

2017-18シーズンまでは「1-2-1-2」「2-1-1-2」などの選択制で、「外国籍選手を3名ベンチに入れて合計60分起用できる」ルールだった。それが今季は「2人を合計80分起用できる」ルールになった。

変更に伴うメリットとしては竹内譲次、竹内公輔、太田敦也など日本代表のビッグマンが外国籍選手との対決増などが挙げられる。一方でヘッドコーチや経営者に話を聞く限り、この新ルールに対する反対意見もかなり多い。

山谷社長は述べる。

「ベンチ入りが2人のみでオン・ザ・コート2名という状況では、タフな試合となれば外国籍選手の出場時間が必然的に増えます。そうするとパフォーマンスが落ちる、怪我をする、もしくはファウルを警戒してガツガツいかなくなるといったことが起こる。試合に出場できない3人目を抱える投資対効果の悪さ、怪我により4人目を取らざるを得なくなる人件費増なども起こっています。ルールの導入前から十分想定できた現象ですし、自分も反対しました」

山谷社長が説く「オーナー会議」の尊重

彼が各論と別に強く主張していたのが、ルールを決定するプロセスについてだ。Bリーグは1ヶ月に一度「理事会」を開催し、議論や決定を行っている。理事会は企業の取締役会に相当し、理事にはクラブの経営者も入っている。年に1度開催される「総会」では理事や予算の承認が行われる。これはいわば株主総会だ。

日本バスケは大改革の影響もあり、協会とリーグの風通しがいい。オン・ザ・コートの改正は代表強化の意味合いが大きかったし、協会強化サイドの意向が反映されたことは間違いない。一方でクラブ経営者にはそれぞれの主張がある。

山谷社長は説く。

「チームの最高意思決定権者が集まってリーグの物事を決めないと、決定に対する納得性や合理性の乏しさを感じる状況が生じかねません。仮に理事会でクラブの総意と反することが決定されれば、ガバナンスに疑問が生じます。だったら理事を変えればいい、総会で主張すればいいと言われるでしょうが、現実として日本のスポーツリーグの総会は喧々諤々の議論をする場になっていません。協会とリーグが一体化するのは悪いことではないけれど、リーグはチームの集合体であることが本質。最高意思決定権者であるオーナー、マジョリティの株主が集まって議論し、リーグの物事を決めるのが本来の姿だと思います」

彼が指摘するように、Bリーグは執行サイドの権限が強い。対してアメリカのプロスポーツはオーナーの権限が大きく、日本でもプロ野球界はオーナー会議の存在感が大きい。

補足を加えるなら、Bリーグには「一般社団法人及び一般財団法人に関する法律」という根拠法がある。内閣府の認可を得て、公益社団法人として活動している。理事会設置などの組織形態はそのような法運用に即したものだ。仮にオーナー主導の組織体を具現化するとなれば、その道筋を別に議論する必要があるだろう。

とはいえこのスポーツに関わる人、応援する人にはそれぞれの考えがあっていい。山谷社長の意見と相容れない人も当然いるだろうし、実現性を問う指摘もあるだろう。しかし論点を言語化、整理しなければ議論は実らない。「ぼんやりした不満」は人の感情を不健康にする一方で、現実的な解決に結びつかない。彼のような熱のある意思表示、熟議がBリーグを次のステージに導く制度設計の糧となることを願いたい。

スポーツライター

Kazuto Oshima 1976年11月生まれ。出身地は神奈川、三重、和歌山、埼玉と諸説あり。大学在学中はテレビ局のリサーチャーとして世界中のスポーツを観察。早稲田大学を卒業後は外資系損保、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を始めた。サッカー、バスケット、野球、ラグビーなどの現場にも半ば中毒的に足を運んでいる。未知の選手との遭遇、新たな才能の発見を無上の喜びとし、育成年代の試合は大好物。日本をアメリカ、スペイン、ブラジルのような“球技大国”にすることを一生の夢にしている。21年1月14日には『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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