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Bリーグ福岡の経営危機 回避の背景と次の課題は?

大島和人スポーツライター
4月30日に福岡へのB2ライセンス交付が決定 写真=B.LEAGUE

経営危機に陥っていた福岡

4月30日、Bリーグの臨時理事会が東京都内で行われ、ライジングゼファーフクオカ(福岡)に対するB2ライセンスの交付が決定された。

福岡はBリーグの初年度をB3で迎えたがB3、B2をそれぞれ1シーズンで通過。2018-19シーズンをB1で戦っていた。2018年の開幕前には筆頭株主(いわゆるオーナー企業)が交代し、債務超過も解消した状態でB1の新シーズンを迎えていた。

しかしスポンサーからの入金が滞り、クラブの資金繰りが悪化していた。給与やアリーナ使用料の支払い遅延も起こり、Bリーグ側は担当者の派遣など水面下のフォローに動いていた。

Bリーグ側の融資も

4月9日の理事会では「停止条件付」という特殊な形態で来季のB2ライセンスを交付されている。4月29日までの必要資金確保が求められ、1.8億円の不足分を埋めなければ、B2ライセンスさえ交付されないという厳しい条件だった。

またクラブからの申請で、4月中旬にリーグから「公式試合安定開催融資」が行われていた。これが選手の給与、アリーナ使用料などの支払いに充てられた。チームは12勝48敗でシーズンを終えたが、融資の代償で「マイナス5勝扱い」となるペナルティも受けた。またB1ライセンスが交付されなかったことで、残留プレーオフの出場資格も奪われている。

福岡の企業がメインの支援者に

今回は新たな資金提供者が名乗り出て、クラブの消滅、Bリーグからの退会という最悪の事態は回避された。

大河正明チェアマンは背景と経緯をこう説明する。

「福岡がB1に上がってどうしようという中で、当時のオーナーからクラブを支えていくという意思表明があり、この1年間を戦ってきた経緯があります。新オーナーにはリーグ戦が最後までできたことに感謝を申し上げると同時に、福岡に軸足を置いた会社が盛り上げていく部分がここ数年間は弱かったことも事実。今回は福岡の地場でしっかりとご商売をされている企業が中心となって、不足分の資金を手当して頂いた。理事会に説明し、認める判断になりました」

個人投資家も含む三者が株主に

資金提供者として名乗りを挙げたのは「株式会社やずや」「有限会社アカナファミリージャパン」「皆木研二氏(個人投資家)」の三者だ。

やずやは「にんにく卵黄」など健康食品の通信販売でお馴染みの企業。アカナファミリーは高級ペットフードの輸入販売を行っている。いずれも福岡に本社がある。皆木氏も含めた三者は基本的に株主としてオーナーシップの一翼を担う。

大河チェアマンはこう述べる。

「福岡に住み、福岡で事業をしている方が中心になって、ライジングゼファーフクオカを再建していこうという気持ちを確認できた。僕も4月21日の最終戦に行って、面談をさせてもらって、その気持ちは確認しています」

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質疑に応じる大河チェアマン:筆者撮影

不足金額が埋まり、リーグの融資も返済

ライセンスの交付については、このような判断だった。

「今シーズンのお金を回してもらわないと、ライセンスを交付しようがない。株の取得も含めて、しっかりやれると判断できた。(不足分の)1.8億円以上の入金が見込まれる可能性の高さがあった。今シーズンのメインスポンサー分がなかったとしても、これくらいならばB2で集めていけるという金額をベースに、地に足をつけた来季の事業計画を立てている」

リーグからの融資と、その回収についてはこう説明する。

「融資は2回しています。5月13日、最終公式戦の翌日までが返済期日ですけれど、その目処も立っている。返済できないとライセンスがそもそも不交付になるが、そこの確からしさも確認している」

神田社長は留任の見込み

大河チェアマンはこう口にしている。

「Bリーグとしても今日が終わりでなく、今日が始まりだと思って、しっかりと寄り添ってやっていきたい」

クラブの代表取締役社長を務めていた神田康範氏は交代せず、当面の舵取りを担う見込みだ。一方で出資比率、取締役の専任といった部分は、今後の調整が残っている。来季の事業計画、予算計画、チーム編成も開幕に向けて急ピッチで進めていく必要がある。

投資はもちろんだが、常勤幹部、スタッフの派遣も小さな企業にとっては大きな支援になる。B3からわずか2年でB1に昇格した福岡は運営、スポンサーセールスといった体制が脆弱で、クラブを「回して」行くためにはそういった部分の強化も必要になる。

オーナー企業の審査は今後も課題に

「プロスポーツのオーナーシップ」には正解がない。例えばトヨタ自動車、楽天のような優良企業ならば100%保有でも問題は無いのかもしれない。しかし一般論として一企業に依存する資本構成にはリスクがある。現状でも理事会による議論と承認のプロセスはあるが、福岡の事案を受けてオーナー企業の審査が不十分だったという批判は当然あるだろう。

大河チェアマンはライセンスの判定について、このような苦悩も明かす。

「勝っているんだけどB1ライセンスを出しませんというほど難しい判断は無い。見込みが10割じゃないにしても8,9割がた確保できるのであればライセンスを交付して、上手く行かなかったときに我々が上手く寄り添うしかない」

日本のプロ野球(NPB)では球団を買収する前にオーナー会議による審査が行われ、新オーナーは「預かり保証金」の30億円を供出する義務がある。しかしBリーグのクラブにそこまで株主をより好みするブランド力はない。また金額が少額だとしても、降格もあるオープンリーグに預託金制度はなじまない。審査、リスクコントロールは容易ならざる課題だ。

リーダーの選定、意思決定は難題

もう一つの課題もある。福岡は1頭立てから「3頭立て」のオーナー体制に変わる見込みだ。これにより一社に左右されるリスクは軽減されるが、意思決定のプロセスはより複雑となるだろう。大河チェアマンはこう述べる。

「株を当てはめたけれど、今までの株主さんも半分くらい持っている。新しく入った方も含めて、誰がこの会社のトップの発言権を持っているのか。ミーティングなどで(人選を)やり直さないといけない」

株主、クラブに関わる人々が「この人こそはリーダーだ」と信任し、周りから名実ともにトップと見なされる顔が定まれば、再建に向けた好材料となるだろう。しかし福岡に限らず、経営体の構成は不確定な要素だ。出資者の主張をどう集約し、意思決定を進めるかーー。そんなガバナンスの巧拙を、各クラブは今後より強く問われていくだろう。

大河チェアマンは福岡に寄せられた支援の申し出をこう振り返る。

「『引きがあるな』とは4月9日の時点で分かっていた。その後にメールでクラブへ照会してきた福岡出身の一部上場企業の経営者もいる」

Bリーグのクラブが企業、経営者から支援を得やすくなった現状は明るい材料だ。そのような背景があるからこそ、福岡の経営危機問題も一応の解決を見た。しかしこれはまだ彼らが地域に根ざし、成長する「次のステップ」に向けた一歩目だ。

スポーツライター

Kazuto Oshima 1976年11月生まれ。出身地は神奈川、三重、和歌山、埼玉と諸説あり。大学在学中はテレビ局のリサーチャーとして世界中のスポーツを観察。早稲田大学を卒業後は外資系損保、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を始めた。サッカー、バスケット、野球、ラグビーなどの現場にも半ば中毒的に足を運んでいる。未知の選手との遭遇、新たな才能の発見を無上の喜びとし、育成年代の試合は大好物。日本をアメリカ、スペイン、ブラジルのような“球技大国”にすることを一生の夢にしている。21年1月14日には『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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