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初年度の決算から見えるBリーグの現状

大島和人スポーツライター
11月29日の決算概要発表会見に臨む大河正明チェアマン

B1、B2全クラブの決算概要が発表に

Bリーグ初年度の収支決算はどうだったのか? 11月末にリーグから概要が発表された。

NBL、bjリーグに分立していた男子バスケの両勢力が合流し、新リーグとして開幕したのは2016年9月。「観客数が昨年の1.5倍に増えた」「経営規模が二年前の2倍になった」という大まかな成長ぶりは既に大河正明チェアマンなどの口から語られていた。また千葉ジェッツや栃木ブレックスといったB1のビッグクラブは既に好調な決算のサマリーを発表している。ただしB1、B2の計36クラブについて概要が出揃ったのは今回が初めてのことだ。

一般的に「収支決算書」と「バランスシート(貸借対照表)」の二つが、企業の経営を確認する材料となる。収支決算書は単年度のフローといわれる「出入り」を現したもので、バランスシートはストック(資産/負債)を示したものだ。今回は2016-17シーズンの決算概要に加えて、バランスシートの「資産の部」「負債の部」「純資産」も公開されており、これで大よその規模感を掴むことができる。

Bリーグのホームページで決算概要が公開されているので、詳しく知りたい方はそちらをご覧になればいいだろう。リンク(PDF)

企業チームの参加もあった旧NBLと違い、Bリーグはプロリーグとして全クラブが「バスケットボールクラブを主たる事業である団体」であることを義務づけている。初年度の今季はアルバルク東京、川崎ブレイブサンダースなど5クラブが新規に法人を設立、もしくはクラブ運営の主体を別法人に移したことで、旧リーグ時代の収入を計上していない。そういった事情で決算に若干の「ムラ」が生じた。

例えばA東京は営業収入が6億7055万円だったものの、決算期が「2016年6月-2017年3月」のため10か月分。収入、支出とも少なめに反映されている。

スポーツクラブの決算は「トントン」が理想だが、B1については18クラブ中16クラブが黒字決算だった。B1については監査法人、公認会計士のチェックが入った数字でもある。

B1の赤字はA東京、新潟の2クラブ

ただしA東京は5418万円、新潟アルビレックスBBが4186万円の赤字で決算を締めている。大河チェアマンは両クラブについてこのような背景を説明していた。

A東京についてはこうだ。「事務所の開設など、いわゆる創業赤字と言われている部分が大きい。バスケットに関わる部分の収入と支出だけ見ると黒字を計上している。9月の中間決算は黒字を出しているので全く心配はしていない」

新潟は赤字に加えて6456万円の債務超過があり、一見すると危うい状況に見える。ただ、こちらにはスポンサー料収入の計上に関する変更点があった。

大河チェアマンはこう説明する。「新潟は赤字で債務超過ということで、一見すると悪い状況ですけれど、要因が一つあった。Bリーグはクラブの決算がコンサバ(保守的/慎重)に評価されているかということで、B1ライセンス(のクラブ)には監査を義務づけている。新潟は今まで4月末に、翌期のスポンサー料などが入った分を全て(当期の)収入に計上していた。しかし決算処理を適正にしなさいという見解を受けて、昨年度約4000万円の赤字が出ている。そう言った影響を除くと黒字です。また債務超過も増資と、新しいスポンサー収入の増える見込みがあり、現時点で解消している」

「債務超過」の解消に向けた動きは?

なおB1は2018年6月まで、B2は2020年6月までに債務超過を解消することが、リーグへ参加する「ライセンス」の取得条件となっている。上場するならば話は別だが、企業は債務超過の状態でも資金繰りをつけることは可能で、Jリーグも2013年の段階で11クラブが債務超過状態だった。しかしJリーグは2014年にそれを解消し、Bリーグも新たに同様の基準を導入した。

債務超過という点で懸念されていたのはレバンガ北海道で、2017年6月期の段階で2億3156万円の債務超過がある。大河チェアマンはこう経過を説明し、見通しを述べていた。「クラブの株主から『自力で黒字を出してほしい』というリクエストがあり、(NBL時代から通算して)初めて3千万円を超える利益を出した。チケット収入も伸びている。増資と利益の積み上げにより、債務超過を解消する方向で順調に来ていると考えている」

例えば債務を株式に転換するデット・エクイティ・スワップといった手法もあるが、今後は増資の「中身」が焦点になる。

またB2は赤字のクラブが「12」、債務超過のクラブが「11」とB1に比べて状態が悪い。営業収入も平均するとB1の3分の1以下で「格差」ははっきりと出ている。ただしBリーグは2015年8月に各クラブをB1、B2、B3の各カテゴリーに振り分けた段階で、事業規模、財務の安定性、経営力などを織り込んでいた。今回の決算はある意味でその目利きの正しさを証明した結果だ。

今季はビッグクラブの一角である秋田ノーザンハピネッツのB2降格もあり、中長期的にはシャッフルが進むだろう。とはいえB2の資本増強、経営体制強化は間違いなく急務。リーグは島田慎二バイスチェアマンによる「島田塾」などで各クラブへの手当てを進めている。

大阪が栃木をしのいで営業収入首位に

先に昨季の決算概要を公表した栃木の「10億超え」は、大きな話題になっていた。栃木は好成績がそのまま決算の上振れ要因となっている。優勝賞金5000万円、東地区の勝率1位による賞金1000万円と、チャンピオンシップのホーム開催(4試合)は好決算の大きな背景だろう。

大きな驚きは大阪エヴェッサの営業収入がその栃木を上回ったことだ。大阪は昨季の営業収入が11億6986万円に達し、栃木を1億4千万円以上も上回っている。昨季の大阪は西地区3位に留まり、入場料収入もトップ3(千葉・栃木・琉球)の半分以下。しかしスポンサー料収入7億1101万円、その他収入3億1083万円はB1最多だ。

大阪の多額のスポンサー料収入について、大河チェアマンは安井直樹社長の手腕を理由に挙げていた。安井社長は16年7月に就任した、1984年生まれの青年経営者。大商学園高時代には選手として全国大会に出場したこともある。

大河チェアマンはその手腕についてこう述べる。「安井さんは元々エヴェッサの社員から社長になられたんですけれど、とにかく素晴らしい営業マンです。自分たちの理念とやっていることを理解してもらえれば、少額であっても必ずスポンサーになってくれるという信念をもって(企業を)回って、400社くらいの数を集めている。親会社であるヒューマンアカデミーさんからのスポンサー料もあるけれど、それが多くのスポンサーを集めている理由です。親会社からの支援が無くても、単月黒字が計上できるようになっています」

大阪の3億を超す「その他収入」は府民共済SUPERアリーナの運営に絡むものが多くの割合を占めている。「府民共済アリーナは大阪エヴェッサが大阪市から賃借していますが、賃料を払ってそれをまた貸し出している。そこに大きな収入源を抱えています。そのために人を抱えたり、原価が掛かったりはあるんですけれど、収入の絶対値としては3億1千万の中の少なくとも半分以上はアリーナ収益です」(大河チェアマン)

親会社頼みを脱却しつつある三河

スポンサー料収入は大阪が1位、シーホース三河が2位だった。特に三河はNBL時代の入場料収入(2ヶ月分)が反映されていないとはいえ、入場料収入(6891万円)がスポンサー料収入(6億9867万円)の10分の1以下とバランスが悪い。

間もなく24季目を終えるJリーグにも「親会社に頼って自立していない」クラブはまだある。Bリーグも経営努力をせず、親会社からの「お小遣い」で成り立つ体質が根付いてしまったら発展の芽を摘むことになりかねない。三河は実業団チームからプロに転換した成り立ちがあり、体質改善は大きな懸念点だ。

しかし大河チェアマンは三河についても前向きな変化を強調していた。「三河も滑り出しはこういう数字になっていますけれど、今の勢いがある。スポンサーの数も100社を超えたと聞いています。この1年の間に営業を積極的にやって、色んなスポンサーさんを取ってきている。三河や大阪あたりは親会社頼みでなく、親会社の広告宣伝費も受けながらも地道にスポンサーを増やし、さらにお客さんのアップにつなげていくというは好循環に入りつつある」

決算概要の公表が持つ意味は?

Bリーグはプロ野球やJリーグに比べればちっぽけな規模で、営業収入も総額と内容の両面で成長が必須だ。大河チェアマンが述べたいくつかのクラブの明るい兆しも、それが結果として十分に出ているわけではない。そもそも、リーグに関わる人々が「今のままでいい」とは思っていない。

ただし「何が起こっているかを把握している」「しっかりと説明できるように整理できている」ということはリーグが発展するための基盤。情報公開によって風通しをよくすることで、間違いなく内部の規律も高まる。「気づいたら赤字が膨らんでいる」「クラブの経営が突然行き詰まる」という状況を避け、良からぬ変調の兆しがあれば予防的なアクションで先手を打つことが、リーグ運営の王道だ。Bリーグは初年度にしてそのようなガバナンス、リスク管理の体制がある。

少なくとも理念先行で無理をしている、ブームに乗って舞い上がっているという状況ではない--。それはこの概要に目を通すだけで分かる。Bリーグは決算の把握、分析という「守備」をまず固めて、攻めに打って出ようとしている。

スポーツライター

Kazuto Oshima 1976年11月生まれ。出身地は神奈川、三重、和歌山、埼玉と諸説あり。大学在学中はテレビ局のリサーチャーとして世界中のスポーツを観察。早稲田大学を卒業後は外資系損保、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を始めた。サッカー、バスケット、野球、ラグビーなどの現場にも半ば中毒的に足を運んでいる。未知の選手との遭遇、新たな才能の発見を無上の喜びとし、育成年代の試合は大好物。日本をアメリカ、スペイン、ブラジルのような“球技大国”にすることを一生の夢にしている。21年1月14日には『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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