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子育て社員の業務フォローで深夜残業や休日出勤。残業手当もタクシー代もない、フォローする社員の実例

小酒部さやか株式会社 natural rights 代表取締役
深夜残業のイメージ(写真:アフロ)

今月9月16日に厚労省記者クラブにて「子どもがいないことを理由に職場で不快な経験をされた男性&女性へのアンケート調査」が発表され、育児中の社員の業務をフォローしている、子どものいない社員からの声が明らかになった。

一般的にこの手のテーマは、子どものいる女性VS子どものいない女性の問題、という対立軸で捉えられ、炎上してしまうことが多い。

しかし、このアンケート調査を行った市民団体「ダイバーシティ&インクルージョン研究会」が、「これはマネジメントの問題、制度設計の問題」「企業には、フォロー分の評価や対価の対応をして欲しい」「子育て中の社員だけではなく、フレックス制度や在宅ワークを全社員が使えるようにして欲しい」と繰り返し発言したことによって、この調査結果についての記事には好意的なコメントが多く付いた。

好意的に捉えられたもう一つの大きな理由は、やはり実際に業務のフォローをしている社員への共感があったからに思う。職場ではどんな風にしわ寄せを受けているのか、実例を取材した。

参考記事:

好意的なコメントが多く付いた→弁護士ドットコム

「育児中の社員のしわ寄せ受けた」 子どもがいない社員の不満、アンケートで浮き彫り

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子どもがいないことを理由に不快な経験をしても「なにもしなかった」が半数以上、実態調査が発表された

朝日新聞デジタル

「なぜ子ども作らない」職場で不快な経験 相談しづらく

●5年間で10人中8人が子育て社員に、フォローした2人のうち1人は流産

このアンケート調査に回答してくれたAさん(女性/現在47歳)は、3年ほど前に子育て社員の業務のフォローで深夜残業や休日出勤を繰り返した経験があるという。職場は女性ばかり10名のチームで、男性上司が一人いたが、監督者という立場なだけであって実務にはなにも携わってくれなかった。

この会社には10年ほど勤めたが、後半5年間のうちに10名中8名が産休、育休、時短勤務、そして二人目の懐妊となり、それを残りの2名だけでフォローした。残業代は月平均7万円ほどが上限。それ以上は切り捨てで、サービス残業となる。上限がなければ、2~3倍の残業手当の業務量だった。タクシー代も出ないため、金曜日は終電を逃して土曜日の朝まで仕事をやることが多かった。

もちろん、会社に改善を掛け合ったが、「人員増加の余裕はない」「いる人でやりなさい」「工夫してやれ」との回答を繰り返されるばかり。男性上司は、「状況はわかった。おれは帰る」と助けてはくれなかった。

Aさんは「自分がやらなきゃ!」と変なスイッチが入っていたという。メーカーで物を出荷しなければならなかったので、業務を止めることが出来ないと気が張っていた。他に誰もやってくれないので、自分が回さなければという責任感で動いていた。

Aさんも既婚者で、夫は「大丈夫かな」と心配していたという。夫はAさんに「報われるか分からないよ」と忠告していた。

Aさんも本当は子どもが欲しかった。しかし、仕事に忙殺され、後回しにしていたらすでに妊娠が難しい年齢になっていた。もう一人のフォローしていた女性も妊娠を望んでいたが、流産してしまったという。

●会社からも、上司からも、子育て社員からも感謝や労いの言葉はなかった

私(筆者)は「どうやってそのワーカーホリック(仕事中毒)の状況から抜け出したのか?」とAさんに尋ねた。Aさんはある日、友人に「私、仕事辞めたいかも」と漏らした。すると友人からどのような仕事状況か根掘り葉掘り聞かれ、それに答えたら、友人から「それは、おかしいよ!」と言ってもらえて、はじめて憑き物が落ちたように我に返ったという。

Aさんが会社を辞めることになった際も、会社からも、上司からも、子育て社員からも感謝や労いの言葉はなかった。「辞めちゃうんだぁ」とだけ言われただけで、相手はAさんが思っているほどに「一緒のチーム」という気持ちではなかったと感じた。ショックだったけど、その分、気は楽になって辞められたという。

当時を振り返り、Aさんは「自分も子育て社員たちも、会社に利用されたのかもしれない」という。当時会社は、子育て世代を応援している優良企業になりたがっていた。Aさんのいた部署は女性ばかりだったため、そのネタ作りだった。

部署の女性たちは、Aさんは中途採用だったが、子育て社員たちは新卒入社が多かった。会社が「君たちは頑張らなくていいんだよ」「君たちは子育てが一番の仕事で、会社の仕事は残っている人が全部やるから」と誘導してしまえば、そう育ってしまう。また、先輩ママ社員が「大丈夫だよ、休んでも。誰かがやってくれるから」と後輩ママ社員にいえば、みんな右向け右になってしまう。人は楽な方に流されるもの。彼女たちは悪くない。会社が本来あるべき姿を分かっていなかった、とAさんは振り返る。

私(筆者)が「どうあって欲しかったか?」とAさんに問うと、休む理由は育児だけではない。自分には介護が待っている。人が休むという前提で会社組織を作って欲しいと語ってくれた。

●フォローしている社員がいることに気付いて欲しい

Aさんの一例を見ても、会社がいかにフォローしている社員を「仕方ない」だけで済ませてしまっているかが分かる。その会社の姿勢により、フォローされている子育て中の社員も、その状況が「当たり前」になってしまう。

冒頭のアンケート調査では、「職場の産休・育休の制度利用者や妊娠中もしくは子育て中の社員に改善してもらいたいと思うことはありますか?」の質問に対して、「改善してもらいたいことがある」と回答したのは107人中90人で8割以上だった。その内容は、「産休・育休の制度の利用や妊娠中もしくは子育て中で業務ができない分、それをフォローしている社員が他にいることに気付いて欲しい」が最も多かった。

会社はフォローしている社員にも目を向ける必要があり、フォロー分の評価や対価の対応フレックス制度や在宅ワークが一部の社員だけでなく全社員が使えるよう検討してもらいたい。産休・育休で社員が休業したら、その社員一人分の給与が浮くのだから、是非ともその給与をフォローしている社員への対価に回して欲しいと思う。

「子どもがいないことを理由に職場で不快な経験をされた男性&女性へのアンケート調査」では、他にも<不利益な扱い><妊娠中もしくは子育て中の社員からされた不快であったこと><子どもがいないことで日常、職場で感じていることについての意見>について、以下のような声があった。

<不利益な扱い>

長期の出張を当たり前のように言いつけられる。

自宅から通えない地域への赴任を、「子どものいる社員の代わりに」と明確に言われた。

子どもがいる人に負荷の大きい仕事は頼めないからという理由で、業務負荷の大きい仕事ばかりを担当させられた。理由をそのようにはっきり言われた。

他の人は5年くらいで転勤なのに、(子どものいない社員は)3年未満で転勤させられる。

「ダイバーシティ」「女性活躍」という名目の制度を利用するチャンスは、子どもがいる人ばかりに与えられ、子どもがいない、結婚していない人にはチャンスが回ってこなかった。

別の部門の責任者が産休になり、(直属の)上司が「あなたならできるわよね?」と当然のように言ってきたので、本当は仕事量も増えて辛くなりそうだったし、その分給料が上がるわけでもないので嫌だったが、「産休の人の仕事はやりたくない」というマタハラに受け取られる不安があり、断れなかった。

その後、実際にこなしきれる仕事量ではなく、メンタル不調になった。

<妊娠中もしくは子育て中の社員からされた不快であったこと>

子どもがいる人の仕事のしわ寄せをフォローする人を気遣う子持ち社員が少ない。

優遇されて当たり前の態度。

(子育て中の社員に)早退されると、代わりにその業務と自分の業務に追われ、休みも取れなくなった。

産休・育休は当然の権利。欠勤・早退も当然の権利。引き継ぎや感謝はする必要はないという考えが蔓延し、会社も認めていた。

会社が認めてしまえば、同僚・部下の立場から意見しても、彼女たちは「認められた権利、許された仕事ぶり」と主張して話し合いにならない。結果、仕事のしわ寄せが子どものいない社員に集中した。

「子どもが病気で」と言えば、こちらがカバーせざるを得ないのを分かっているのか、ハードな案件がくると必ずこちらに振られた。

(女性上司が子育て中で)時短勤務のため、仕事を中途半端にして帰宅する。

仕事をオープンにせず隠すので、周りがフォロー出来ずにクレームが入った。

上司のフォローばかりする事に、何故その人が責任者という立場なのかが疑問でストレスが溜まった。

妊娠中の女性上司が自己都合で予定より前に産休に入ったため、業務上の引き継ぎが一切なかった。しかし、それによって生じた不利益を社長と役員から責められた。「妊娠中の女性上司となぜ個人的に連絡を取り合っていないのか、女性同士やってくれないと困る」と言われた。女性上司とはプライベートな付き合いがないため、どうすればいいか分からなかった。

<子どもがいないことで日常、職場で感じていることについての意見>

女性の多い職場は子どもがいる人が優遇されている感がある。

大変なのはわかるが、子どもが出来なかった身としては、理不尽な思いをすることが多い。

女性活躍を謳うとき、基本的に子育てママを対象にしていると感じる。

ダイバーシティといっても、まだまだその考え方が社会にも会社にも蔓延しているように思う。真のダイバーシティは違うのになぁ、とよく思っている。

子どもがいる人は、法律で守られている事が多い。

子なしは、法律的に立場が弱く、会社も味方してくれない。

うちの職場は今までは子持ちはマイノリティだった。その時代のママさんを腫れ物に触るように扱う文化が今も続いているが、今は子なしがマイノリティ。ママさんのために働く職場になってしまった。

子育て世代をバックアップする必要は承知している。しかし、優遇されるべきと勘違いさせる報道が多く感じる。

職場で子育て中の社員のフォローをするよう指示をされたことはありません。

なぜなら、私の職場において、それは「助け合いであり当然のこと」だからです。

「子育て中の社員をフォローするのは当たり前、お互い様だから」というのは一見素晴らしいことのように思えますが、その裏には助けてばかりいる人がいることを忘れないで欲しいと思います。

また、職場では、福利厚生の一環として、結婚祝い金、出産祝金、入学祝い金などを支給する制度があります。不公平感、不遇感が拭えません。

時代が少しずつ変わり、産休・育休や時短勤務が当たり前の権利として使える世の中になりました。それ故に、悪意はないと思いますが、子どものいない人に負荷がかかっていることに気がついていない人が多いです。

※なお、アンケート調査にあった上記フリーコメントは、読者に分かりやすくするため内容は変えずに、言い回しのみ修正しているものがあります。

株式会社 natural rights 代表取締役

2014年7月自身の経験から被害者支援団体であるNPO法人マタハラNetを設立し、マタハラ防止の義務化を牽引。2015年3月女性の地位向上への貢献をたたえるアメリカ国務省「国際勇気ある女性賞」を日本人で初受賞。2015年6月「ACCJウィメン・イン・ビジネス・サミット」にて安倍首相・ケネディ大使とともに登壇。2016年1月筑摩書房より「マタハラ問題」、11月花伝社より「ずっと働ける会社~マタハラなんて起きない先進企業はここがちがう!~」を出版。現在、株式会社natural rights代表取締役。仕事と生活の両立がnatural rightsとなるよう講演や企業研修、執筆など活動を行っている。

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