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夜の街を上回り家庭内感染が最多。夫がコロナ、妻と子どもはどう対応するのか。経緯や要点を当事者に聞いた

小酒部さやか株式会社 natural rights 代表取締役
コロナに感染したイメージ(写真:アフロ)

全国の1日の感染確認が初めて1000人を超え、大阪、愛知、福岡、京都、沖縄、岐阜、三重、栃木、徳島の9府県で過去最多を更新している。

今や誰でも感染する可能性がある新型コロナウイルス。実際に家族がコロナに感染したら、自分が感染したら、一体どういう流れになるのかをイメージしておく必要があると思う。

そこで、夫がコロナに感染し入院した経験をもつ30代の女性(地方在住)に話を聞いた。彼女は保育園に通う子どもと夫の3人暮らしで、自身もパートで仕事をしている。

どのような流れで夫の感染が分かったのか、夫が感染したら家族はどのように対応すればいいのか、どんなことが不安だったかなど女性の話を記事にまとめた。

●夫の感染がわかった経緯

女性に夫の感染経緯を聞くと、出張中に夫から「昨夜から38度の発熱をしているので、社宅で在宅勤務をしている」という連絡が来たという。夫には、自宅の他に出張でよく訪れる近隣県にも社宅がある。その時は、ここ最近は土日も出勤するくらい毎日忙しくしていたので、疲れが出て発熱したんだなと思ったそう。

その発熱が実はコロナの発症ではと疑ったのは、発熱から数日後の朝、取引先のAさんがコロナ陽性だと判明した時だった。

一週間前にAさんの会社を訪問した夫は、Aさんと打ち合わせをしており、このときに夫は感染した疑いがあるという。

夫は激務による疲れで免疫力が落ちていて、感染してしまったのかもしれないと女性はいう。たしかに、Aさんとの打ち合わせの参加者のなかには感染していない人もいたので、疲れや体調は関係しているのかもしれない。コロナは発症する直前、2~3日前の感染力が非常に高いと言われている。Aさんの感染力が高いタイミングで会ってしまったのも不運だった。

●まさかコロナ?!こんな身近な人(家族)が感染するなんて・・・

夫が最初に発熱し出張先から帰宅した際は、コロナの感染再拡大があまり騒がれている時期ではなかった。女性も冗談めかしに「まさかコロナじゃないよね?味覚とか臭覚とか大丈夫?」と聞き、夫も「いや、さっきも朝食摂ったときはとくに問題なかったよ。」と返答。特段、コロナの疑いを持つような状態ではなかったという。

最初の発熱時には「コロナなわけがない」と夫婦共々思っていた。きっと多くの人が発熱くらいでは、同じように思うことだろう。そして、コロナは一度熱が下がり体調が回復したかに見える時がある。ここで皆、油断してしまう。

夫が週末に解熱したこともあり、週明けの月曜日に女性は子どもを保育園に預けてしまったことを、あとから後悔することになったという。

月曜日の午前中、夫から再び発熱したこと、夫がAさんの濃厚接触者となったことを知った。ここで初めて「やばい!やばい!」と思ったそう。それまでは夫がコロナだなんて全く考えていなかった。

●女性自身もコロナに感染していると思って行動

夫が濃厚接触者だとわかってから、女性は仕事をすぐに切り上げ、子どもを大急ぎで保育園に迎えに行った。濃厚接触者(夫)の濃厚接触者(子ども)を短時間だけでも保育園が預かったということは、保育園としては臨時閉園するかどうかという問題にかかわり、早急な対応策に追われることになる。

女性は夫から行動履歴を共有してもらい、夫との接触状況を把握するとともに、自身と子どもの行動履歴も整理した。保育園と職場には、夫の発熱状況や自分たちとの接触状況をすぐに電話とメールで報告した。夫が陽性であり、さらに自分たちも陽性だった時に備えてである。

また、夫の検査結果が判るまでの間の自宅待機期間中は、食事も夫の部屋の前に置き、会話はすべて携帯電話で行い、トイレや洗面所、お風呂の後はマスクと手袋を装着してその都度除菌した。

参考:「ご家族に新型コロナウイルス感染が疑われる場合 家庭内でご注意いただきたいこと ~8つのポイント~」(一般社団法人日本環境感染学会とりまとめを一部改変)令和2年3月1日版

夫は陽性と判明したあと、即入院が出来た。地域によっては、軽症者は自宅待機になることもあると聞くので、幼い子どものいる家庭にとって入院はとても有難かった。

夫は入院する際に管轄の保健所から、感染者である夫の濃厚接触者を特定するために、細かい行動履歴を聞かれた。仕事上、多くの人に会っていたため、夫は頭をフル回転させて詳細な行動履歴を作成した。高熱のなかだったが、周囲への影響がかなり広範にわたるため、入院前後の数日間は療養する間もなかったという。

幸い、夫から感染した人は誰も出なかった(夫の濃厚接触者はPCR検査で全員陰性判定)。ただし、夫の濃厚接触者は、陰性であっても保健所の指示で自宅待機が必要なため、「夫は入院中も濃厚接触者の人たちに対して、今後の対応を説明するとともに、行動を制約させてしまうことにお詫びをする日々だった」と女性はいう。そして、女性自身も保育園や職場に「ご迷惑をおかけし、申し訳ありません」とお詫びを何度となくする状況だった。

●濃厚接触者としての健康観察期間も精神的ストレスとの闘い

女性と子どもは夫の陽性がわかった直後、その日の夕方にPCR検査を受けることになった。仮に検査結果で陽性が出た場合は、あなたたちも即入院になるだろうと、検査をした医師から言われていたので、翌日の午後に結果がわかるまでの間は、陽性だった時のシミュレーションばかりしていたという。

夫は入院準備を20分で済ませて、徒歩20分の距離を指定病院まで歩いた。陽性判明後は、タクシーを含む公共交通機関は一切使えないからだ。もし自分と子どもが陽性だった場合、イヤイヤ期の子どもと2人分の荷物を抱えてベビーカーでその距離を歩くのは至難の業だ。その時に備えて、必要な物資を病院まで届けてもらえるよう親しいママ友にお願いしたという。

自分が陽性だったとしても、職場についてはそれほど心配ではなかった。月曜日は在宅勤務日にしていたため、職場には行っていない。また女性の職場は全員マスク着用で、デスクもソーシャルディスタンスを保っていたし、女性は除菌スプレーを常に使っていた。

それに比べて、子どもの保育園の方が気がかりで仕方なかった。子どもはマスクを着用出来ないし、保育士さんや他の園児とソーシャルディスタンスを保てるわけがない。もし子どもが陽性で、保育園で誰かにうつしてしまっていたらどうしようと。

保育園が閉園になってしまったら他の保護者にも迷惑がかかるし、保護者の職場にも迷惑がかかる。高齢者が一緒に暮らしている家族もいるかもしれないし、うつす側になってしまったらどうしようと想像していくと、そればかりが頭から離れず、心が締め付けられて苦しかったという。

女性が退院後に夫と話したところ、夫も同様に勤務先のほか、外部の人たちへのことが気がかりで、自分の病状以上に、肉体的なことよりも精神的なことが辛かったという。コロナに感染すること、濃厚接触者になることは、精神的ストレスとの闘いでもある。

女性も普段は子どもを保育園に預けていたが、保育園に預けることはできず、夫は入院しており、一転して24時間一人で面倒をみなければならないという環境の変化は、多大な精神的ストレスをもたらす。誰とも接触できず、孤独感からネガティブ思考にもなりがちだ。また女性は資格試験の勉強もしており、試験日が近づき励みだしていたその直後の出来事だったため、気持ちを切り替えるのに時間がかかってしまったそうだ。

しかし、自分のことよりも人命と家族のストレス緩和が最優先だ。女性はとにかく冷静を保ち、保育園や職場など自分と子どもの関わっていた場所には、その時その時の状況を全て包み隠さず説明して、やるべきことは何でもやろうと決めたという。

女性と子どものPCR検査結果は陰性だったため、保育園は閉園せずに済んだ。夫の仕事が忙しく出張が続いて、あまり接触していなかったことが功を奏したのかもしれない。ただし、濃厚接触者であるため保健所の指示により、2週間は健康観察期間(自宅待機)となった。

2週間、自分と子どもの体温を1日1回測り、保健所に報告する。報告の仕方は、電話連絡やショートメールやE-mail、チャットシステムなど色々な方法がある。この2週間の期間も、大丈夫だと思わないで過ごそう、と思ったそうだ。

●振り返って思う対応ポイントと感謝の気持ち

夫は入院してからも熱がなかなか下がらず、倦怠感も続いた。やっと解熱して退院できたのは入院から約2週間後のことだった。

夫の陽性が判ってから1週間たった頃が、女性は一番精神的に辛かったという。慣れない自宅待機生活で心身ともに疲れが出てくる頃であり、本当に社会復帰できるのか、周囲は感染者の家族を受け入れてくれるのか、コロナ差別を味わったりしないか、と怖くなってしまった。また、子どもは保育園では初めての濃厚接触者だった。それゆえ、保育園としてもどう対応していいのか手探りになる。健康観察期間を終えた後にまた預かってもらえるのか、不安に駆られたという。

自宅待機になってからは生活リズムが乱れ、夜更かし朝寝坊をするようになってしまった。子どもが明け方に蕁麻疹がでる日が、数日間続いたことがあった。手持ちの薬があったので、幸い症状を緩和させることができたが、濃厚接触者になると他の疾患での通院が難しくなる。幼い子どもがいる家庭は、子どもの常備薬があるといざという時に役立つ、と女性は教えてくれた。

健康観察期間が終わったあとに通院すると、かかりつけ医から「お子さんは就寝時間が遅いことによる自律神経の乱れだろう」といわれた。母親のストレスは子どもにも伝染してしまうのか、子どもがそれまで聞いたことのないような奇声を上げていたのはちょうどその頃だった。子どものためにも、母親の精神状態を安定させることが重要だと改めて思ったという。

他にもポイントとなることがある。女性は、夫がコロナに感染したことをしっかりと伝える相手と、そうでない相手とを選択したという。たとえば、遠方に住む両親に心配をかけたくなく、自分達の状況を伝えるタイミングは熟慮した。夫が退院した今でも、話さないといけなかった人や親しい人にしか、今回のことは話していないという。

「自粛警察」ではないけれど、コロナに対して過剰反応する人もいるだろう。不必要に不安をかき立てないためにも、話す相手を選んだ方が良さそうだ。

最後に女性は、今回のことで周りの人や環境に恵まれていることに改めて気づけ、感謝もしていると話してくれた。

女性の職場は、「仕事のことは全然心配しなくていい、こちらで何とかできるから。それよりも休んでいる期間の給与をカバーする助成金の対象になると思うから、要件に当てはまるかあなたの方でも調べてみてくれる?」と温かい言葉をかけてもらえた。子どもの通う保育園の園長先生も優しく理解があり、助けられたという。夫も同様に、職場や濃厚接触者とその関係者の人たちが、むしろ精神的にも助けてくれたそうだ。

女性はあらためて、今までより一層、夫に優しく接しよう、もっといたわろうと思ったという。夫のコロナ感染で、人間力を試された経験だったと語ってくれたが、改めて家族の絆にも気づかされたようだった。

株式会社 natural rights 代表取締役

2014年7月自身の経験から被害者支援団体であるNPO法人マタハラNetを設立し、マタハラ防止の義務化を牽引。2015年3月女性の地位向上への貢献をたたえるアメリカ国務省「国際勇気ある女性賞」を日本人で初受賞。2015年6月「ACCJウィメン・イン・ビジネス・サミット」にて安倍首相・ケネディ大使とともに登壇。2016年1月筑摩書房より「マタハラ問題」、11月花伝社より「ずっと働ける会社~マタハラなんて起きない先進企業はここがちがう!~」を出版。現在、株式会社natural rights代表取締役。仕事と生活の両立がnatural rightsとなるよう講演や企業研修、執筆など活動を行っている。

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