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保活の時期!正社員ママなのにあえて“認可外”を選ぶ、無償化の今こそ自然保育どろん子さんの魅力を考える

小酒部さやか株式会社 natural rights 代表取締役
写真提供「どろん子」さん

今年も保活の時期がやって来た。保活とは、自身の子を保育園に入れるために保護者が行う諸活動のこと。4月の入園に向けて多数の保育園を見学したり、行政と申請書についてやりとりをしたり、あくせくしている親御さんが多い時期ではないかと思う。

この10月から幼保無償化がスタートしたことで、認可保育園では3歳から全額無償。働くママなら大多数が自治体の規定に見合った運営をし、かつ3歳から保育料が無料な認可保育園を希望するだろう。そのため待機児童がより増えるのではないかと懸念する声も上がっている。

実際、幼稚園の預かり保育でも幼保無償化で希望が急増しているという以下記事もある。

◆参考記事

神戸新聞NEXT

「幼稚園の預かり保育希望急増 幼保無償化スタート」

私(筆者)が保活したのは2年前。「働いている=認可保育園」としか考えていなかったので、家から近くて通いやすい認可保育園から小規模保育園の順に、申請書のすべての欄に園名を記入して埋めた。行政に申請したあとは、「頼むからどこかの園に決まってくれぇ~!」と祈るような気持ちだったのを覚えている。

しかし、先日「正社員で働いているのに、あえて認可外保育園に子どもを通わせている」という女性に出会い、「そんな選択肢があるのか!」と驚いた。

女性の名は、宇都宮南海子さん。私のような「家から近くて通いやすい」という基準からではなく、「自身の子どもにどんな環境が必要か」を判断基準に保育園を選んでいた。

幼保無償化で認可保育園への申し込みが殺到することが予想される“今”だからこそ、別の選択肢があることも提示したく、宇都宮さんと園長の萩原先生を取材した。

宇都宮南海子さん/筆者撮影
宇都宮南海子さん/筆者撮影

●「仕事の有無にかかわらず、むしろ率先して通わせたい!」と思えるかどうかで探した

宇都宮南海子さん(現在34歳)は、小学校1年生の男の子と2歳の女の子を育てるワーキングマザー。南の海の子というその名の通り、沖縄県の出身。従妹も同居していたので、子ども8人と親たちで一緒に暮らすという大所帯で育った。自身が自然のなかで育ったこともあり、子どもには「自然保育」がいいと考えていたし、なにより「子どもが主体の環境」で育ってほしいと願っていた。

上の子を保育園に入れる際、東京都世田谷区に住んでいて、そこから横浜市青葉区まで車で通勤していたため、車で通えるところも含めて保活したという。

10箇所くらいの保育園を見学したが、保育の中身に絶望した。セキュリティが売りだったり、英語教育が売りだったり、なにか違うなぁと思った。

「仕事をしているから預ける」という発想ではなく、「仕事の有無にかかわらず、むしろ率先して通わせたい!」と思えるかどうかで探したという。

足指を開いて大地をしっかり踏みしめる草履を推奨/写真提供「どろん子」さん
足指を開いて大地をしっかり踏みしめる草履を推奨/写真提供「どろん子」さん

宇都宮さんがのむぎ保幼部「どろん子」さんを見学した時、他の園より圧倒的に子どもたちの目がキラキラしていると感じ、入園を即決した。親だったら躊躇してしまう泥遊びをめいっぱいやらせている。冬でも素足を推奨し、子どもたちが草履をはいて大地をしっかり踏みしめている姿も魅力的だった。

また、給食も気になるポイントだったが、「どろん子」さんは和食中心で素材にこだわっていて、そこも決め手だったという。(のちに保護者でレシピ本を作ったほど。)

私(筆者)が「泥だらけの洋服を洗濯するのは大変では?」と尋ねると、「どろどろの服を洗うのが喜び!」というまさかの回答が返って来た。(泥汚れは、晴れた日に干してカピカピにして土を叩いて落とし、それから手洗いすると落ちやすい。ウタマロ石鹸が落ちやすいと評判とのこと。)

こんな保育ができるのは、田畑や小川がすぐ近くにある環境だから。木登り、崖滑り、水路くぐり、草花摘み、虫取りなどを通して四季を肌で感じ、五感を刺激する。

“教え込む”ではなく、“遊び込む”を重視した保育方針が宇都宮さんを魅了した。長男を入園させた当初は世田谷の自宅から車で1時間ほどかけて通っていたが、とうとう「どろん子」さんのすぐ近くに引っ越すほど入れ込んでしまったという。

崖滑りに夢中になる子どもたち/写真提供「どろん子」さん
崖滑りに夢中になる子どもたち/写真提供「どろん子」さん

●保育士の目が行き届くからケンカもとことんまでやらせる

他の在園児の親御さんからは、少人数なので保育士の目が届き、激しいケンカもとことんまでやらせるというエピソードがあった。「どろん子」さんの園ではケンカのルールがあって、武器はNG、身体の中心への攻撃はNGなどケンカの流儀を教える。子どもが相手に手を出しても止めず、距離をおいて見守ることで、しっかりと自己主張をさせる。そのことで、力加減を学んだり、子どもの自己肯定感を育むという。どのようなケンカだったかは、父母会や懇談会などで園長や先生方が親にしっかりと説明する。親御さんたちも「どろん子」さんの方針を理解しているのでトラブルはない。

異年齢保育で兄弟のように生活するのも、子どもたちにとっては学びが大きい。「どろん子」さんの卒業園児はとにかく体力があり、問題解決能力の高い子が多いという。

また、「どろん子」さんは保護者同士の繋がりが濃密だ。父母会のなかに係りがあって、果物係り(無農薬果物を栽培している農家さんから仕入れて販売)、メール係り、発表会係り、バザー係り、交流会係り(飲み会係り)などで、保護者も園の仕事に参加する。

「子どもをまん中に保護者と保育士が一緒に子育てしていく」という方針なのだという。

園長の萩原多美江さん/写真提供「どろん子」さん
園長の萩原多美江さん/写真提供「どろん子」さん

●無償化の影響で認可外保育園の経営がより大変に

自然豊かな横浜市青葉区の寺家ふるさと村の中にある「どろん子」さんを20年にわたり守って来た、園長の萩原多美江さん(現在60歳)にもお話を聞いた。

認可外保育園は、国や自治体のルールに縛られないため、保育士と保護者の理想の保育を求めることができる。しかし、国や自治体からの補助金はゼロなため、経営は厳しい。上に記載した保護者が園の仕事を手伝っているのもそのためだという。

もちろん、「認可」をとって経営を安定させ存続出来るようにしたいが、現在、保育園のある「寺家ふるさと村」が市街化調整区域なので難しく、横浜保育室の申請も3年続けて「認定」が下りなかった。理由は「駅から遠いためのようだ」と関係者から聞いた。(なお、お隣の相模原市は駅から遠くても「認可」が認められており、自治体によって異なる。)

「認可」でも「認可外」でも今の保育方針を変えずに進められればいいが、「認可」をとると役所の管轄で入所が決まることで、全ての保護者に今の園の保育方針や特徴を理解してもらうのは大変なことになっていくだろうと懸念する。

国や市の安全面、資質面での細かな基準を満たし、市へ届け出済みである認可外保育施設は横浜市内でも100園以上あり、待機児童解消の担い手になっている。

少人数でゆったりと、ひとり一人の子どもに寄り添う保育をしていることをもっと多くの方に知ってもらい、存在意義を認めてほしい、と萩原園長は話す。

同じ税金を払っていて、なぜ認可外保育園に通っている市民と施設には公的補助が受けられないのか。認可外保育施設の団体としては、毎年横浜市との対市交渉を続けている。これからも諦めず、粘り強く、皆の力で何とか持ちこたえながら保育を続けていきたい、と萩原園長は願う。

木登りに夢中になる子どもたち/写真提供「どろん子」さん
木登りに夢中になる子どもたち/写真提供「どろん子」さん

●子どもファーストという選択肢

私(筆者)は「家から近くて通いやすい」という基準で選んだが、結果オーライで子どもたちを通わす今の園に全く不満はない。保育士さんたちはいつも笑顔で、娘も息子も楽しく通わせていただいている。

しかし、宇都宮さんの話を聞いたあとは、私には宇都宮さんのような発想は全くなかったなぁと自身を振り返ってしまった。私は「子どもファーストの選択」ではなかったかもしれない、と少しモヤモヤとした。

幼少期の教育はその後の発達に影響を与えるという研究結果もあるほど、人間形成においてとても貴重な時間だ。

幼保無償化で「利用料が安いから」が保育園選びのポイントになってしまいがちだが、無償化の波に押されず、幅広い発想や選択肢のもとに保活を進めていってもらえたら、その参考になればと思いこの記事を書いた。

のむぎ保幼部「どろん子」/筆者撮影
のむぎ保幼部「どろん子」/筆者撮影

のむぎ保幼部「どろん子」

住所:横浜市青葉区寺家町112

TEL:045(961)6682

Facebook:https://www.facebook.com/nomugi.doronko/

HP:http://www.doron-ko.net/wp/

定員:40人(基本は2歳児から。1歳児はご相談ください。)

※見学も随時受付けています。お電話でお問合せ下さい(13時〜17時)

■地域の親子おさんぽ会

どろん子の園児たちと一緒に寺家ふるさと村をお散歩しましょう!

毎月第2、4木曜日、9:00〜12:00(給食付き)

(※8月と12月は開催していません。)

参加費:500円(保険料込み)

給食費:500円

申込みはお電話で

株式会社 natural rights 代表取締役

2014年7月自身の経験から被害者支援団体であるNPO法人マタハラNetを設立し、マタハラ防止の義務化を牽引。2015年3月女性の地位向上への貢献をたたえるアメリカ国務省「国際勇気ある女性賞」を日本人で初受賞。2015年6月「ACCJウィメン・イン・ビジネス・サミット」にて安倍首相・ケネディ大使とともに登壇。2016年1月筑摩書房より「マタハラ問題」、11月花伝社より「ずっと働ける会社~マタハラなんて起きない先進企業はここがちがう!~」を出版。現在、株式会社natural rights代表取締役。仕事と生活の両立がnatural rightsとなるよう講演や企業研修、執筆など活動を行っている。

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