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カネカショック!その転勤必要ですか?違法性はないのかパタハラ疑惑を解説

小酒部さやか株式会社 natural rights 代表取締役
「パタハラ4類型」株式会社natural rights作成

●カネカのパタハラ疑惑

「カガクでネガイをカナエル会社」のキャッチコピーでお馴染みの株式会社カネカが、パタハラ疑惑で炎上している。

会社から育休を勧められ取得した男性が、育休から復帰してわずか2日目に地方転勤を命じられたと男性の妻が今月1日にツイートした。

小さな子がいて、新築の家に引っ越した直後でもあったため、男性は「今のタイミングでは難しいから1~2ヶ月延ばしてもらいたい」と会社にお願いしたが、「ダメ」との回答が返ってきたそう。結果、男性は退職を選択することになった。

退職の時期については「立ち上げたプロジェクトの区切りが見える6月中旬くらいまで責任を全うし頑張りたい」と申し出たが、会社の判断で5月末の退職が決まったためボーナスはもらえなかった。

さらに男性には約30日の有給も残っていたが、この消化も会社側は認めなかったそう。

この内容にネット上では、「パタハラ(パタニティハラスメント)」との声が上がっている。

参考記事:

パタハラ・ケアハラとは

会社の勧めで育休取得→職場復帰直後に転勤宣告されたというツイートが物議 カネカに「パタハラ」疑惑について聞いた(ねとらぼ)

カネカ、批判殺到の「育休直後に転勤内示」を社長が認めるメール(ハフポスト)

これを受けカネカ側は、3日に社長が全社員宛てにメールを流した。

「育休直後に転勤の内示を行った」とその内容を認めたが、「見せしめといったものではない」とパタハラについては否定した。

筆者撮影
筆者撮影

そして、本日6日「当社の対応に問題は無いことを確認した」と公式に見解を発表した。

元社員が転勤時期を延長してほしいと要望したことについては、「希望を受け入れるとけじめなく着任が遅れると判断し、希望を受け入れなかった」と説明。

「育児や介護などの家庭の事情を抱えて働く社員は大勢いるため、育休をとった社員だけを特別扱いすることはできない」としていて、退職強要や退職日の指定も否定している。

参考記事:

カネカが「育休明け転勤」問題に公式見解「当社の対応に問題は無いことを確認」

●育休後は原職復帰が原則

厚生労働省の指針では、育休から復帰した際は、育休前に就いていた業務や役職に戻すことが原則になっている。たとえば、育休前は部長職だったのに、育休から復帰したら一般プレイヤーになるよう会社から言われた場合、「不利益な扱い」をされたとなり違法性が高い。

今回のケースの場合、育休後すぐの転勤を命じられているが、たとえば役職が上がり、給料も上がるという条件だと、一概に「不利益な扱い」とも言えなくなる。

Twitter上には、転勤の条件がなにも見当たらないことから、おそらく会社からこのようなメリットの提示はなかったと思われる。だとすると、総合的に判断して「不利益な扱い」に該当する可能性も出てくるように思う。

以前、育休あけに「インドへの転勤」か「収入の大幅に下がる職務」を会社から提示され、断ると解雇された女性の訴訟では、解雇無効の判決が出ている。

また、育介法第26条は、配転について、子の養育状況に対する配慮を事業主の義務としている。

参考記事:

育休明け「インドに転勤するか…」 解雇無効の判決

●その転勤は必要?

妻は夫が転勤の内示を受けてから東京労働局に相談に行ったそう。「社員の転勤命令は違法ではない」と言われたようだが、その妥当性があるかどうかというアドバイスも受けたとのこと。妥当性とは、どうしても夫でなければならないのか、このタイミングでなければならないのか。

この夫婦は転勤の妥当性・必要性について、納得がいかなかった。であるならば、やはり会社側は納得のいく説明をきちんとしなければならなかったと思われる。

高度経済成長期の頃は、無理な転勤や出張を命令することで、社員をふるいにかけるという手段を会社は使って来た。命令に従順に従うと、そのご褒美としてちょっとだけ出世させる。戻ってくるとまた無理な命令を出す。そしてまたちょっとだけ出世させる。この繰り返しにより、会社に尽くす純粋培養を育て上げてきた。

しかし、この手法が使えたのは、夫が外で働いて、妻が育児・家事を担うという性別役割分業の時代だったからだ。

今や時代は違う。ダブルインカムがシングルインカムを抜き、多くの女性が働いている。本当にその転勤や出張が必要なのか、会社側は今一度考えてもらいたい。

●「特別扱いはできない」はマタハラ・パタハラの常套句

この記事のトップ画像に「パタハラ4類型」を掲載した。パワハラ型の常套句に「特別扱いはできない」が入っている。今回のカネカもこの「特別扱いはできない」と発表している。

子育て社員も特別扱いして欲しいわけでは決してない。この夫婦も「組織に属している以上転勤は当然」と言っている。だが、転勤のタイミングについて、その必要性を説明できていないようであれば「パタハラ」と言われてしまっても仕方ないように思う。

今回、カネカの件がここまで炎上したのは、「男性育休義務化」の議員連盟ができて、男性の家庭参加を促そうと、ついこの前の5月下旬に議論が巻き起こったばかりだったからだろう。

会社側はもっと時代や世論を汲み取る必要がある。時代や世論を見られない会社が、いい製品やサービスを作り出すとはとても思えない。

カネカほど大きな会社が「自分たちの対応に問題がありました」などと公式発表できないのは分かるが、これだけ話題になっている以上、今回のことを契機に社内の転勤について改めて考えてもらえたらと願う。

そして、カネカのケースを参考に、他の会社にも転勤再考の波が広がってもらえたらと思う。

参考記事:

男性育休 ”義務化” に向け、自民党有志が議連発足へ

株式会社 natural rights 代表取締役

2014年7月自身の経験から被害者支援団体であるNPO法人マタハラNetを設立し、マタハラ防止の義務化を牽引。2015年3月女性の地位向上への貢献をたたえるアメリカ国務省「国際勇気ある女性賞」を日本人で初受賞。2015年6月「ACCJウィメン・イン・ビジネス・サミット」にて安倍首相・ケネディ大使とともに登壇。2016年1月筑摩書房より「マタハラ問題」、11月花伝社より「ずっと働ける会社~マタハラなんて起きない先進企業はここがちがう!~」を出版。現在、株式会社natural rights代表取締役。仕事と生活の両立がnatural rightsとなるよう講演や企業研修、執筆など活動を行っている。

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