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認可保育園でも幼児虐待。叩く、突き飛ばす、転ばせる…実際に働いていた女性に話を聞いた

小酒部さやか株式会社 natural rights 代表取締役
岡田さん(仮名)提供写真

待機児童が解消しないのは、保育士不足が背景にある。業務が忙しいことに加え、待遇の悪さから、現場から離れる保育士も多い。保育士が減れば一人当たりの仕事量は増え、さらに業務が忙しくなるという悪循環を繰り返す。そのような劣悪な環境が保育士にストレスを与え、そのイライラの矛先が時として子どもたちに向けられてしまう。実際に虐待する保育士を目の当たりにした女性に話を聞いた。

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●幼児虐待の有り様に驚き、1週間で退職

岡田万里さん(仮名/40代)は、私立の学校に教師として20年以上勤務したあと、東京都23区外にある認可保育園に今年夏、保育補助として就職した。岡田さんは正社員での勤務を希望していて、今後保育士の資格を取得する予定だった。4月に就職したスタッフが辞めてしまったので、すぐにでも来て欲しいとのことだった。(規制緩和により一定数の有資格者がいれば、無資格者でも保育に従事できる)ところが、その保育園の幼児虐待の有り様に驚き心を痛め、たった1週間で退職したという。

社会福祉法人が営むその認可保育園は、園長や調理師を含め正社員が5~7名ほど、パートが10名くらい、児童定員数は0歳~5歳で合計100名の規模だった。しかし、保育士を募集しても集まらず、児童は定員を満たしてはいなかった。

開設2年をもうすぐ迎えるほどのまだ新しい園で、理事長である男性経営者(60代)は事業拡大で他にも手広く保育園やスポーツジムを開設しており、現場には全くの無関心。さらに来年度4月から、新規保育園を複数開園する予定だった。運営を任されている施設長(園長)の女性(60代)は元保育士だが、人の上に立ったことはなく、現場をどうまとめればいいか全く分かっていなかった。そのため組織は成熟しておらず、5名ほどいた20代~50代の正社員保育士が、日常的に子どもを虐待していた。

子どもたちに笑顔はみられず、本来持っているはずのキラキラした子どもらしさを全く感じられなかったという。大人に対する不信感が強く、岡田さんに対しても「この人は怖い人じゃないかな?」と警戒心がすごかった。おとなしい子は、正社員の担任保育士の顔色を常に窺っていて、エネルギーがある子は暴れたり大声を出したり問題言動を繰り返し、子どもの叫び声と保育士の怒号で園内はカオスの状態だったという。

●保育士が足を引っかけてわざと転ばせ、園児にたんこぶをつくる

お昼ご飯の際には、「この子ほんと食べるの遅いからムカつく!」「こぼすなよ!」と常に言いながら食べ物を子どもの口に放り込む。ときには「早く食べろよ!」といって、口に押し込んだりする。反対に「もうあんたはいい、食べなくて!」と食事を取り上げたりもする。食事を出すペースも子どもの食べるペースに合わせるのではなく、調理師の都合。パートがいて人手があるうちに調理の仕事を終わらせたいためだった。

午後に子どもたちが睡眠をとる(午睡の)際は、「寝ろ!寝ろ!」と身体をバンバン叩く。布団から這い出てくる子を「寝ろよ!」と言って引きずる。もちろん子どもたちは泣くけれど、密室だからお構いなしだった。

子どもが睡眠をとっている間は、保護者と子ども、園のスタッフの悪口三昧。特に男の子の方が嫌われ、「オヤジみたいな顔」「チンチン触ってキモイ」「子どもはバカにしか見えない」という話で盛り上がる。

嫌いな親の子をターゲットにして虐待したり、障害やアレルギーを持っている子も「ほんと面倒くせえ」と文句を言いながら作業。お母さんが立派過ぎても子どもは虐待のターゲットにされるし、容姿が可愛過ぎる女の子も虐待のターゲットにされる。そして、気の合う親の子だけ可愛がる。

子どもの足を引っかけてわざと転ばせ、たんこぶができて、親御さんからクレームが入ったことがあった。すると親には笑顔で「転んだだけですぅ~」「他の子よりまだ上手く歩けないみたいで~」と説明していた。

他の子より」というのは保育士の間のキーワードになっていて、このように親に説明すると、親は「他の子」がどのようなレベルか分からないため口出しのしようがなくなるということだった。

他にも突き飛ばしてケガをさせたり。保育士自身が子どもに危害を加えているのに、「まったくもう!また親に謝らなければならないじゃん!」と文句を言っていた。

●親の前ではニコニコ、虐待保育士の裏表が怖い

岡田さんは「この保育士たちがやっていることは犯罪だな」と思ったという。もちろん、施設長の女性に毎日のように「虐待がある。親が知ったら裁判沙汰になる」と訴えたが、「私が至らなくてぇ~」とただ泣くだけだった。

この正社員の保育士たちにパートで働く保育士たちは何も言えない状況だった。施設長に訴えていた岡田さんは、正社員の保育士たちから「(施設長に)ひどいことを言ったな。謝れ!」と言われていたそう。

最終的に岡田さんは施設長に「私を選ぶか、あの虐待保育士たちを選ぶか、決めてください」と迫った。施設長が選んだのは、虐待保育士たちだった。そのため、岡田さんはたった1週間で辞めるに至った。

保育士たちの裏表は激しく、親の前ではニコニコしているので、クレームは来ていたが、強く訴えてくる親御さんはまだいなかった。また、4歳5歳の子たちはうまく立ち回り、保育士たちからの虐待を免れていた。虐待を受けるのは言葉がたどたどしい月齢の低い子たちだったので、その点でも公に親にばれることがなかった。

親が保育士と触れ合えるのは、お見送りとお迎えのわずかな時間。その時間、保育士たちは仮面を被り、スイッチを入れ替えて愛想よく親御さんに接していた。その点に関してだけは「プロ」で、岡田さんは見ていて「怖かった」という。

岡田さんが言うには、保育士たちの女性派閥がすごかったそう。年配のボス保育士がいて、それに従える保育士だけが残る。疑問を持つ保育士たちは次々辞めていく。その環境で立ち回れる保育士たちだけが残るから、組織が間違った方向にますます強くなっていく。

残った正社員の保育士たちは子どもが好きなわけではなく、保育士免許しか持っていないから職にしがみつきたい一心だったり、正社員の安定した立場を守るため仕事を続けている人たち。そのため、やり甲斐も感じずに、日々変わる早番・遅番のシフト出勤といった厳しい勤務形態に忙殺されている。安価な給料への不満は募り、職業病の腰痛など身体不調を患う場合もあり、それらのストレスから子どもへの虐待が起こっていくという。

●保育士不足が引き起こす問題の闇、質の管理が重要

岡田さんはご自身の子を保育園に預けていた際に、子どもを虐待された経験があったそう。ある日、棒が目に刺さってしまったとかで、子どもが目を真っ赤にして来たことがあった。その後、帯状疱疹になるほど「行きたくない」と言って登園拒否をした。皮膚科の医師に、「子どもが帯状疱疹になるのは、すごいストレスがかかったってことですよ」と言われた。岡田さんのお子さんのクラスは、園児たちがたくさん辞めていったそう。自身の経験から、虐待が日常化している保育園は多いのではないかと懸念する。

岡田さんは言う。決められた時間しか親が園内を見ることができない保育園はあやしいし、親が突然行って保育士が慌てるような保育園はもっとあやしいので、親御さんたちは子どもたちを守るために、遠慮せずに保育時間内に園内を見せてもらい、気になったことを園長や時には行政に伝えるなど注意して欲しい、と。また、新しくできた保育園も慎重に見ていく必要がある、と。

子どもに不信なあざができたとしても、認可保育園は転園が難しいところが親には苦しい。保活をして、競争を勝ち抜いて、やっと入れた認可保育園が虐待保育園だったとしたら、親はもうパニックになってしまうだろう。

この虐待保育園に通う親御さんたちは、笑っている親がいなかったという。「先生、ありがとうございます」という親も勿論いなかったし、挨拶もろくになく、「ふん」という感じだったという。

もしかしたら、親御さんたちも虐待の実態に気付いていたのかもしれない。しかし、転園できないから、見て見ぬふりをせざるを得なかったのかもしれない。もしそうだとしたら、保育士不足が引き起こす問題の闇はとても深い。政府そして各自治体には、保育園の箱を増やすだけでなく、質の管理も同時に行ってもらいたいと切に願う。

株式会社 natural rights 代表取締役

2014年7月自身の経験から被害者支援団体であるNPO法人マタハラNetを設立し、マタハラ防止の義務化を牽引。2015年3月女性の地位向上への貢献をたたえるアメリカ国務省「国際勇気ある女性賞」を日本人で初受賞。2015年6月「ACCJウィメン・イン・ビジネス・サミット」にて安倍首相・ケネディ大使とともに登壇。2016年1月筑摩書房より「マタハラ問題」、11月花伝社より「ずっと働ける会社~マタハラなんて起きない先進企業はここがちがう!~」を出版。現在、株式会社natural rights代表取締役。仕事と生活の両立がnatural rightsとなるよう講演や企業研修、執筆など活動を行っている。

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