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妊娠順番制だけではない、妊娠前や妊活中に行なわれる“プレ・マタハラ”の実態

小酒部さやか株式会社 natural rights 代表取締役
(ペイレスイメージズ/アフロ)

2月28日、名古屋市在住28才男性の投書が、毎日新聞に掲載され物議を醸した。

保育士の妻が勤務する保育園では、結婚の時期と妊娠の順番を園長が決めていて、「掟」を破って予定外の妊娠をしたため、男性と妻は園長に「妊娠してすみません」と謝罪したという。しかし、その後も園長は「どうして勝手にルールを破るのよ」と嫌みを言い続け、妻は職場で肩身の狭い思いをしているという内容だった。

参考記事:「保育士の「妊娠順番ルール」は約15%の保育園で存在

男女雇用機会均等法第9条では「婚姻、妊娠、出産等を理由とする不利益取扱いの禁止」を定めている。しかし、現段階では妊娠前、たとえば妊活中や不妊治療中など子どもが欲しいと願っている時期は、法の対象外となっている。なので、未だに「妊娠順番制」なるものが存在してしまう。

このような妊娠する前からの嫌がらせや妊娠の妨げ行為は、“プレ・マタハラ”と呼ばれている。“プレ・マタハラ”にはどんな事例があるか、いくつかご紹介したい。

●「5年は子供を作るな」と期間設定をされる

ある放射線技師の女性は、妊娠する前から「5年は子供を作るな」と職場の上司や人事担当者から言われ続けた。5年以内に妊娠すると、今度は上司からマタハラを受けた。「周りの負担が増える」「フォローする人員を確保できない」「切迫流産などで休まれたら退職してもらわざるを得ない」「職場の他の女性は時短勤務しない予定だから、出産しても時短勤務はできない」「他の男性職員同様に夜遅くまでの残業と遅出勤務ができなければ、働き続けてもらうのは無理」などと言われた。

結局、この女性は保育園を決めてから退職し、別の職場で非常勤として勤務することにした。新たな職場の上司は、子育てしながらの勤務に非常に理解があった。

以前の職場では上司とかなり口論になり、思い出すと未だに腹が立つという。けれど一方で、他の職員の残業が増え過ぎないように他の職員を守っていた、と理解もできるという。

●内定式で「女性の皆さん、妊娠しないで下さい」と役員が釘をさす

2015年4月より社会人としてスタートを切る、当時大学4年生の女子学生から連絡をもらったことがあった。大手旅行会社グループに内定しており、秋に行なわれた内定式でのこと。

式の最後の役員挨拶で「こんなこと言うとセクハラ(※)かもしれませんが、女性の方、妊娠などしないでくださいね」と言われてビックリしたという。それと同時に、これからが不安になったそう。(※正しくは「マタハラ」だが、当時はまだ「マタハラ」という言葉の認識が薄かった。)

内定者約40人のうち男性の割合は10人程度。女性が多い職場で、社内規定にも産休育休などと書いてあったが、その役員の一言で全てに疑いを持ったという。もし妊娠したら何か言われるのではないかと思い、彼女は内定を辞退して、もう一度就職活動を始めることにした。

内定を辞退する際に、人事にその理由を話すと「入社するまでの間、妊娠するなという意味だった」と弁解されたが、入社するまでの間だったとしても、「妊娠するな」という発言を内定式という開かれた場でさえ役員が口にするなら、閉ざされた場ではどれだけマタハラがあるのだろうかと、その女子学生は思ってしまったという。

●いつ終わるか分からない不妊治療の継続は迷惑

42才で不妊治療をしながら働いていた女性の話。「不妊治療で通院させて欲しい」と上司にお願いしたときは、「今の職場で通院しながら、できる限り仕事をして欲しい」と認めてもらえた。体調を整えるためには21時までに夕飯を食べ、24時には就寝できるような時間に仕事を上がりたいと思いながらも、なかなか早く上がれずに残業を続け、本人としては仕事も頑張っていた。

そんなある日、長い不妊治療を経てようやく受精卵の着床まで進んだので、「この日に通院させて欲しい」と上司にお願いした。しかし上司からは「他の人の休みと重なるから、その日の通院は認められない」と言われた。年齢的に42歳いっぱいがタイムリミットと自分で思っていたので、女性としては切羽詰まった状況だった。仕方なく通院を後ろ倒しにして休日に病院に行くと、数値が上がらず妊娠継続できるかわからない状態になってしまっていた。そこで、「1週間会社を休ませて欲しい」と上司に連絡して休むことにした。

すると上司が「時間を作って欲しい」と言って、自宅最寄り駅までやって来て面談することになった。上司からは「仕事と両立できていない。自分の考えだけではなく、信頼できる同僚や友人などにも今後どうするか相談してみて、最終的な結論を聞かせて欲しい。今の状況を受け入れてくれる異動先はない」と暗に退職を示唆され、「妊娠を継続できたとしても仕事との両立は難しいのではないか」「今回ダメで、また治療を再開し継続されるのも迷惑」というような話までされたという。

上司には「年齢的にラストチャンスなので」と話して、理解してもらっていると思っていたので、女性としてはかなりのショックを受けた。また、妊娠初期で妊娠が継続できるかどうかという非常にセンシティブな時に冷酷な発言をされ、せめて今の時期は待って欲しかった、デリカシーのない残念な上司だと失望したという。

何とか持ち直して妊娠継続できれば色んな法律や制度が守ってくれるが、せめてあと一年、42歳いっぱいまで不妊治療を継続できるよう守ってくれる法律や制度などはないですか?と、その女性は言っていた。

このように、妊娠を調整されるのは、周囲との仕事の兼ね合い本人のキャリアが大きな理由だ。

なので、発言する方も物凄い悪意があって言っているわけではなく、この他にも、

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「同時に育休を取らないように、女性社員同士で産む順番を決めてね

「今は仕事を優先して出産しない方が君のキャリアのためだよ」

転勤中は妊娠しない方がいいよ。戻って来られなくなるよ」

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などといった、良かれと思ってアドバイスとしている言葉もあったりする。

けれど、問題はこれが自己決定権の侵害となり、順番が回って来た時、また設定された期限が過ぎた後で、万が一妊娠できなかったら、その女性やパートナー含め人生を大きく狂わせてしまうことになる。

周囲との仕事の兼ね合いの問題はもちろんあるけれど、人間は機械ではないので、いつ妊娠するか予定通り行かないことの方が多い。いつ妊娠したとしても「おめでとう」と祝福できる温かい社会でないと、少子化は進む一方だろう。

株式会社 natural rights 代表取締役

2014年7月自身の経験から被害者支援団体であるNPO法人マタハラNetを設立し、マタハラ防止の義務化を牽引。2015年3月女性の地位向上への貢献をたたえるアメリカ国務省「国際勇気ある女性賞」を日本人で初受賞。2015年6月「ACCJウィメン・イン・ビジネス・サミット」にて安倍首相・ケネディ大使とともに登壇。2016年1月筑摩書房より「マタハラ問題」、11月花伝社より「ずっと働ける会社~マタハラなんて起きない先進企業はここがちがう!~」を出版。現在、株式会社natural rights代表取締役。仕事と生活の両立がnatural rightsとなるよう講演や企業研修、執筆など活動を行っている。

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