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一時保育の申請に深夜2時から並ぶ。フリーランスや女性経営者の預けたいのに預けられない苦しい実態

小酒部さやか株式会社 natural rights 代表取締役
木村さん(仮名)提供写真

働き方の多様化にともなって、フリーランスで働く人が増えている。その数は国内で推計1100万人余りとも言われる。一方で、フリーランスや経営者の多くは、雇用関係がなく雇用保険に加入できないため育児休業制度がない。また、国民健康保険への加入であれば、産前産後の休業制度も手当金も社会保障の免除もなく、母体保護の観点からも全く守られていない。

産休もろくになく、すぐに働かなくてはならないのに、預け先を探すのに苦労する。会社員同様かそれ以上の収入や労働時間でも、フリーランスや経営者だと認可保育園の申請ポイントが低い自治体もある。

「少子化」や「働き方の多様化」が議論されるなら、今までマイノリティと黙殺されてきたこのような人たちにも目を向けて欲しい。時間の融通が利くフリーランスが、妊娠・出産後も働き続けられるインフラが整わなくては、「働き方の多様化」が進むはずがない。

雇用関係にない働き方だとどのような課題があるのか、自身のコンサルティング会社を経営しながら働く女性に実体験を語ってもらった。

参考記事:

「産休制度もなく保育園申請ポイントも低い。増えているフリーランスの仕事復帰に立ちふさがる高き壁とは」

「切迫流産で医師より安静の指示を受けても休めない。働きながら妊娠するフリーランスや経営者の厳しい現実」

木村さん(仮名)提供写真 講演の仕事をしていた妊娠7ヶ月当時
木村さん(仮名)提供写真 講演の仕事をしていた妊娠7ヶ月当時

●帝王切開翌日からメール対応業務をこなすも、フリーランスや経営者は認可保育園の入園が不利

アシスタントのパート社員を3名雇用し、都内でコンサルティング会社を経営している木村さん(仮名/現在41歳)は、2年前の2015年夏に長男を出産した。経営者として国内を出張で飛び回っていたが、幸いにも妊娠は順調で、出産までは無事にたどり着くことができた。急な体調不良で仕事に穴をあけるわけにはいかず、講師の代わりを立てることも出来ないので、セミナーや講演など数ヶ月先のスケジュールを入れることは、常に不安がついて回ったという。けれど、経営者になった以上、仕事上のリスクを負うことは当然と思っていた。

木村さんは帝王切開で長男を出産したが、オペの翌日からメールの返信対応など入院中のベッドの上で業務をこなしていた。産休もろくになく、出産手当金も受け取らず、産後すぐに働き出し、パートと自分の給与を賄った。しかし、ここで屈辱的!とは言い過ぎかもしれないが、木村さんに驚くことが起こった。それは、保育園入園の為の点数の付け方だった。

木村さんが住む東京都中央区は当時、会社員は産休に入るまでフルタイムで働き、その後育児休業を取得していれば、点数はそのままフルタイムで付いた。育児休業を取得できない木村さんは、産休までは勿論フルタイムで働いているが、その後も仕事を続け、子育てしながらなので若干仕事時間が少なくなっていた。この場合、いくら出産前まで会社員同様フルタイムで働いていても、点数は入園届けを出す前に働いている時間でのカウントとなってしまう。

フリーランスや経営者のなかには、産前産後も休みなく働く人がいるにもかかわらず、少しでも1日の働く時間がフルタイムに届かなければ減点されてしまう。一方、産休育休制度に守られしっかり休んでいる会社員の方が、満点の点数がつく。いずれも産前の労働時間で見てくれるのであれば平等だと思うが、本当に罰ゲームのようで愕然とした、と木村さんはいう。

また、当時の中央区は、自宅と職場が同じ場所だと点数が下がった。木村さんの場合は自宅と事務所は離れていたが、働き方の多様化で会社員にも在宅ワークが活用されているのに、このようなポイント設定は時代遅れだと木村さんは思ったという。

「会社経営者は自分で就労証明を書くのだから、きっちり1日8時間以上働かなくても、適当に記入すればいいのでは?」という声もあるかもしれない。しかし、嘘を書いて申請するのはおかしいし、従業員の目もある。そこで木村さんは、実際にフルタイムの点数が取れるように仕事量を増やした。しかし、産後の身体にはきつかったという。会社員女性と同様の働き方としているのであれば、フリーランスや経営者に不利がないよう、公平性のあるポイント設定にして欲しい、と木村さんは言う。

補足1

現在も中央区は、居宅外か居宅内かで点数が分かれており、同じ労働時間でも居宅内であれば1点低くなる。

参考:平成30年度保育園のごあんない

このようなポイント設定になっているのは、国の通達で、育休明けの労働者を優先的に保育所に入所させることを勧める文言があり、これを受け各自治体の判断のもとに保育園申請のポイントが設定されているからである。

参考:内閣府・文科省・厚労省の連名による平成26年9月10日付「子ども・子育て支援法に基づく支給認定等並びに特定教育・保育及び特定地域型保育事業者の確認に係る留意事項等について」の10ページ「(2)優先利用に関する基本的考え方の6育児休業を終了した場合」が該当箇所に当たる。

補足2

昨年末、厚労省がフリーランスや経営者の保活不利を解消する要請を出した。

参考記事:「フリーランス、「保活」で不利 厚労省が解消を要請」

内容:

・職場が自宅の内か外かで一律に点数の差をつけないよう要請

・保育園申請に提出する申込書類の整備 など

木村さん(仮名)提供写真 無事産まれた長男くん
木村さん(仮名)提供写真 無事産まれた長男くん

●一時保育の枠は少なく激戦で、申請に深夜2時から並ぶことも!

無事産まれた長男は、授乳期間中は比較的寝ていることが多かった。子どもが寝ている間や夜間、夫が休みの土日に、木村さんはデスクワークをこなした。外出が必要になる仕事の場合は、区の一時預かりの制度を利用した。しかし、木村さんにとって唯一の預け先である区の一時預かりの枠は少なく激戦で、夜中や早朝から予約の為に並ぶ必要もあったという。

たとえば、2月分の一時保育を予約するときは1月15日に1ヶ月分をまとめて直接保育園に申請する。木村さんの自宅から一番近い一時預かりの保育園では、どうしても希望の枠を取りたい人は朝5時から並んでいた。それが更に過熱して1年後には、一番早くに申請に来る人だと、夜中の2時から並んでいた。保育園は8~9時に開くため、夫や両親など交代で並ぶ人が多かったという。

木村さんのご両親は地方にいて夫は出張が多かったため、一番近い保育園への予約は難しかった。そこで、2駅先の別の保育園まで予約・キャンセル・預けに行っていたという。

一時保育をお願いした日をキャンセルする場合は、前日の17時までに直接保育園に行かなくてはならない。子どもが病気でキャンセルする時に、わざわざ直接行くのは大変だった。また、キャンセル待ちの予約も前日の17時のため、17時になる間際にキャンセルする人が出た場合は、1人分の空きが出てしまい勿体ない。その空きの枠に預けたい親はたくさんいるのに…。

一時保育の予約について、朝5時から保育園に直接並ぶなどというアナログな手法ではなく、WEBを活用してもっと効率的に使いやすくするなど改善して欲しいと木村さんはいう。

夜間に仕事をしたり一時預かりの予約に奔走したりと睡眠時間が少なくなったことや、授乳で栄養を取られてしまうことなどが影響したのか、木村さんは産後月1回のペースで高熱を出し、妊娠前より5kgも痩せて苦しんだという。

木村さん(仮名)提供写真
木村さん(仮名)提供写真

●預かり方の多様性なくして、働き方の多様性は成立しない

フリーランスや経営者はある程度柔軟に働けるのがメリットだ。早くに保育園のお迎えに行ける日だってある。木村さんが行政の担当者に「早く迎えに行く日があってもいいですか?」と聞いたときのことだった。戻って来た返事は、「いいですけど、他のお母さんたちから『あの人は経営者だから申請書を偽造した』と陰口を言われますよ」だった。衝撃的だったと木村さんはいう。

「働き方の多様性」「働き方改革」と国は謳っているのに、育児の多様性はまるでなく、必要性の有無にかかわらず、月~金まで決められた時間まで預けなければならなくなっている。預かり方の多様性なくして、働き方の多様性は成立しないように私は思う。

今、国は「幼児教育無償化」と言っているが、まずは希望する誰もが入れるようにし、預かり方の多様性も見直してもらいたい。

~署名キャンペーン ご賛同のお願い~

【雇用関係によらない働き方と子育て研究会は、皆さんのご賛同と共に政府に政策提言をします】

フリーランスや女性経営者など、雇用関係にない女性でも、会社員と同等の労働時間であれば、すべて女性が妊娠・出産・子育てしながら働き続けられるよう、法改正を政府に求めたいと思います。

要望内容は以下です。

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法改正をして雇用関係によらない働き方に従事する女性も出産・子育てと仕事を両立できるよう整備してください!

◆被雇用者の産前産後休業期間と同等の一定期間中は、社会保険料を免除してください。

◆出産手当金(出産に伴う休業期間中の所得補償)は、国民健康保険では任意給付となっていますが、一定以上の保険料を納付している女性には支給してください。

◆会社員と同様かそれ以上の労働時間であれば、保育園の利用調整においてどの自治体においても被雇用者と同等の扱いをしてください。

◆認可保育園の利用料を超える分は、国や自治体の補助が受けられるようしてください。それが難しければ、ベビーシッター代を必要経費もしくは税控除の対象として下さい。

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ご賛同はこちらから

フリーランスや経営者も妊娠・出産・育児しながら働き続けられる社会の実現を応援してください!

※「雇用関係によらない働き方と子育て研究会」とは有志のフリーランス及び法人経営者から成る市民団体です。

株式会社 natural rights 代表取締役

2014年7月自身の経験から被害者支援団体であるNPO法人マタハラNetを設立し、マタハラ防止の義務化を牽引。2015年3月女性の地位向上への貢献をたたえるアメリカ国務省「国際勇気ある女性賞」を日本人で初受賞。2015年6月「ACCJウィメン・イン・ビジネス・サミット」にて安倍首相・ケネディ大使とともに登壇。2016年1月筑摩書房より「マタハラ問題」、11月花伝社より「ずっと働ける会社~マタハラなんて起きない先進企業はここがちがう!~」を出版。現在、株式会社natural rights代表取締役。仕事と生活の両立がnatural rightsとなるよう講演や企業研修、執筆など活動を行っている。

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