産休制度もなく保育園申請ポイントも低い。増えているフリーランスの仕事復帰に立ちふさがる高き壁とは

取材時に著者撮影

働き方の多様化にともなって、フリーランスで働く人が増えている。その数は国内で推計1100万人余りとも言われている。一方で、フリーランスや経営者の女性の多くは、雇用関係がなく雇用保険に加入できないため育児休業制度がない。また、国民健康保険への加入であれば、産前産後の休業制度もない。

これまでは、このような状況で妊娠・出産・育児をしながら働き続けたいと願う女性は、マイノリティとされ黙殺されるか、自己責任とされ議論に上げてもらえなかった。働き方が多様化し、フリーランスの形態で働く人が増えてきた今、このような女性たちにも目を向けて欲しいと思う。

彼女たちは望んでこの仕事に就いているので、長期の休業制度が欲しいわけではない。働き続けられる道の整備をして欲しいと願っている。これは同じフリーランスで病気やケガ、育児や介護を抱える男性にも通じる話だ。

雇用関係にない働き方だと、どのような課題があるのか、一人の女性弁護士に、実体験を語ってもらった。

木下さん(仮名)提供写真 入院中の息子君と
木下さん(仮名)提供写真 入院中の息子君と

●予期せぬ息子の難治の病。セーフティーネットは何もない。

木下さん(仮名32歳)は、3年前の2014年1月末に第一子となる男の子を出産した。生後3ヶ月となる4月には保育園に入園させ仕事に帰する予定だったが、その予定は大きく狂い、復帰したのは2年後だった。産まれた息子が難治の病に罹患していたことから、入院して手術を繰り返さなければならなかったからだ。

木下さんは息子の看護で仕事が出来ず、その上、社会保障費(健康保険や国民年金など)や弁護士会費等の必要経費の10万円近い支払いは毎月続き、「このまま弁護士を辞めることになるかもしれない」と不安でいっぱいの日々を過ごしたという。

2年という期間は、今年10月に育児休業が1年半から2年に延長したので、木下さんが会社員であれば育児給付金をもらいながら、社会保障費を免除してもらえる。しかし、木下さんは共同経営の法律事務所で個人事業主として働いており、法人と雇用関係がなく、雇用保険に加入できないため育児休業制度がない。制度がないので給付金も社会保障費の免除もない。

また、弁護士の多くは弁護士国保(東京都弁護士国民健康保険組合)に加入するため、働いているにも関わらず産休制度も存在しない。産前6週間+産後8週間の母体保護のための休業制度も手当金も社会保障費の免除もない。これは国保(国民健康保険)に加入する多くのフリーランスが同様だ。出産で休まざるを得ない場合は、無給の休業となる。

2年の無給休業のなかで、木下さんはベビーシッターに預け、仕事に復帰することも検討した。しかし、安心して預けられそうなところは費用が高くて断念したという。仕事に復帰してもどの程度の稼ぎが見込めるか見通しが立たず、費用倒れになる恐れがあったからだ。

参考:フリーランスのセーフティーネットは弱く、社会保障制度も含めた見直しが必要との記事

NHK NEWS WEB “フリーランス減税”と言われても

参考:フリーランスってなに?個人事業主ってなに?

「フリーランス」とは、雇用契約がなく独立して都度契約で仕事を請け負う働き方をいう。「個人事業主」とは「税務上の所得区分のこと」で、株式会社や合同会社などの法人を設立せず、個人で事業を営んでいる人をいう。

法人を設立している場合には売上を法人の事業所得として申告するが、個人事業主では個人の事業所得としての申告となる。つまりフリーランスのうち、法人を設立している人以外は基本的に「個人事業主」となる。

取材時に著者撮影
取材時に著者撮影

●保育園の申請でさらなる壁。フリーランスは「求職」中扱いの自治体がある。

息子さんは1歳半までの間に7回の手術に耐え、ようやく回復となった。共同経営の法律事務所も復帰を待ってくれていたので、いよいよ仕事復帰に向け保育園の申請をしようとした時に、またもや木下さんの前に壁が立ち塞がる。

木下さんが住む自治体では、保育所入所選考にあたり、育児介護休業法に基づく育休取得者は「就労」中として扱われるのに対して、育休がない休業者は「求職」中として扱われ、著しく不利になるのだ。実際は、休業から復帰できる仕事があるにもかかわらず「求職」中となることに、木下さんは唖然としたという。木下さんが住む自治体以外にも同様の扱いをしている自治体はあり、育休取得者に加点を設けるなどしている自治体もある。

これは国の通達*で、育休明けの労働者を優先的に保育所に入所させることを勧める文言があり、これを受け各自治体の判断のもとに保育園申請のポイントが設定されているからである。

このような扱いをされては、フリーランスや女性経営者が子どもを預けて働くことが極めて困難になる。ただでさえ産休育休がなく、すぐに仕事復帰しなければならないのに、大きな矛盾である。また、国は「フリーランス人材の活用」と謳い、働き方改革の一環として進めているのに、こことも矛盾することになる。

※国の通達:内閣府・文科省・厚労省の連名による平成26年9月10日付「子ども・子育て支援法に基づく支給認定等並びに特定教育・保育及び特定地域型保育事業者の確認に係る留意事項等について」の10ページ「(2)優先利用に関する基本的考え方(ウ)の(6)育児休業を終了した場合」が該当箇所に当たる。

木下さん(仮名)からの提供資料 平成28年11月発行 木下さんが住む自治体の保育施設等のご案内パンフレットより ※なお平成29年発行も同様の記載あり
木下さん(仮名)からの提供資料 平成28年11月発行 木下さんが住む自治体の保育施設等のご案内パンフレットより ※なお平成29年発行も同様の記載あり
木下さん(仮名)提供写真 回復して元気になった息子君と
木下さん(仮名)提供写真 回復して元気になった息子君と

●仕事復帰後に死産の経験も。それでも休む権利は保障されていない。

木下さんは第一子を出産し2年間休業して復帰した後、妊娠5ヶ月の子を死産した経験もある。日本産科婦人科学会は、妊娠22週未満までを流産、それ以降を死産としているが、法的には、妊娠11週未満が流産、それ以降が死産と定義され、妊娠12週以降で胎児が子宮内で死亡した場合は出産が必要となる。促進剤で陣痛を促し、普通の出産と変わらない。出産と変わらないので、会社員なら死産後8週間の産休規定が適用される。

木下さんは医師より、原則として8週間、最低でも6週間は仕事を休むよう指示されたが、フリーランスである木下さんには、そもそも産休規定は適用されない。仮に休んだとしても、収入の保障は何もない。

身体的な痛手はもちろんだが、死産届を市区町村役所などの公的機関に提出した上で、子の火葬も行わなければならず、精神的な悲しみも深い。このような状況ですら、休む権利も経済的なセーフティーネットも何もないのだ。

木下さんは、産後2週間程度で少しずつ仕事に復帰したものの、すぐに体調が悪化し発熱。医師からは、「今が一番弱っているときだから仕事は休んで」と言われた。職場の協力が得られ、なんとか産後6週間は休業させてもらうことができたが、産後も休めない同業者も多いと聞く。母体保護の観点からしても、会社員同様に産休期間は休む権利が保障されるべきなのではないかと木下さんは言う。

取材時に著者撮影
取材時に著者撮影

●会社員同様かそれ以上の労働であれば、フリーランスも同等の扱いを!

フリーランスである弁護士に産休育休がないことは承知の上でこの仕事を選んでいるので、長期休業が欲しいわけではないと木下さんはいう。フリーランスの働き方は様々で、1日8時間/週5日のフルタイム同等かそれ以上の働き方をしている人もいれば、それ以下の働き方をしている人もいる。会社員同様かそれ以上の労働時間であれば、保育園の申請において同等の扱いをして欲しいと木下さんは望む。

木下さんは、保育園に入れない期間が長引いたので、生活が非常に苦しくなった。また、休業期間が長引けば長引くほど顧客が離れてしまい、復帰後の収入も大きく減った。国が「フリーランス人材の活用」というのであれば、フリーランスについても保育園に入れるようにして欲しいし、入れなかった時には何らかの保障があると嬉しいという。(国は会社員に対しては育休2年への延長という対応をした。)

母子手帳等には、会社勤めの女性の産休育休中のサポートについてはたくさんの記載があるが、フリーランスについては何の情報もない。今後労働力人口の20%がフリーランスになるともいわれているので、フリーランス向けの情報も届けて欲しいと木下さんはいう。

~署名キャンペーン ご賛同のお願い~

【雇用関係によらない働き方と子育て研究会は、皆さんのご賛同と共に政府に政策提言をします】

フリーランスや女性経営者など、雇用関係にない女性でも、会社員と同等の労働時間であれば、すべて女性が妊娠・出産・子育てしながら働き続けられるよう、法改正を政府に求めたいと思います。

要望内容は以下です。

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法改正をして雇用関係によらない働き方に従事する女性も出産・子育てと仕事を両立できるよう整備してください!

◆被雇用者の産前産後休業期間と同等の一定期間中は、社会保険料を免除してください。

◆出産手当金(出産に伴う休業期間中の所得補償)は、国民健康保険では任意給付となっていますが、一定以上の保険料を納付している女性には支給してください。

◆会社員と同様かそれ以上の労働時間であれば、保育園の利用調整においてどの自治体においても被雇用者と同等の扱いをしてください。

◆認可保育園の利用料を超える分は、国や自治体の補助が受けられるようしてください。それが難しければ、ベビーシッター代を必要経費もしくは税控除の対象として下さい。

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