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切迫流産で医師より安静の指示を受けても休めない。働きながら妊娠するフリーランスや経営者の厳しい現実

小酒部さやか株式会社 natural rights 代表取締役
高野さん(仮名)提供写真

働き方の多様化にともなって、フリーランスで働く人が増えている。その数は国内で推計1100万人余りとも言われる。一方で、フリーランスや経営者の多くは、雇用関係がなく雇用保険に加入できないため育児休業制度がない。また、国民健康保険への加入であれば、産前産後の休業制度も手当金も社会保障の免除もなく、母体保護の観点からも全く守られていない。

「少子化」や「働き方の多様化」が議論されるなら、今まで黙殺されてきたこのような人たちにも目を向けて欲しいと思う。

雇用関係にない働き方だとどのような課題があるのか、弁護士として自身の事務所を経営しながら働く女性に実体験を語ってもらった。

参考記事:「産休制度もなく保育園申請ポイントも低い。増えているフリーランスの仕事復帰に立ちふさがる高き壁とは」

高野さん(仮名)提供写真 妊娠当時
高野さん(仮名)提供写真 妊娠当時

●流産に続き、次の妊娠でも切迫流産に。それでも仕事を休めなかった。

高野さん(仮名/現在39歳)は、2011年3月東日本大震災があった頃に法律事務所を設立した。そしてちょうど同じそのタイミングで、自身の妊娠が分かった。つわりの時期はおろか、切迫流産で医師より安静の指示を受けても、仕事を休めなかったと高野さんはいう。

この時の妊娠以前に流産の経験もあったので、切迫流産の診断を受けた時はとても苦しかった。祈るようにお腹をなでながら、移動はタクシーを使い、打合せの合間に事務所の床で横になって、少しでもと休んだ。

事務所立ち上げと同時に正社員一人を雇ったが、あくまで事務スタッフであり自身の弁護士業の替りはきかない(現在は2名の正社員事務スタッフを雇用)。雇用したスタッフの給与や事務所家賃などの固定費があり、どんなに妊娠で体調が辛い状況でも休むことは出来なかったという。

高野さん(仮名)提供写真 娘さんと
高野さん(仮名)提供写真 娘さんと

●弁護士が加入する健康保険には、産休の手当金がない。

2011年11月、なんとか無事に長女を出産した。産後1ヶ月は休んだが、休んだとはいえ、何回かは裁判所の期日に出ていた。産後2ヶ月目から通常どおり働き、産休の給付金は受けずに、自分の売上から事務所の維持費、事務員への給与を出した。そもそも高野さんが加入する弁護士国保(東京都弁護士国民健康保険組合による健康保険)は、国民健康保険法に基づく国民健康保険(国保)の一種のため、産休制度の出産手当金に相当する給付金が支給されない。

一般的には雇用する従業員がもし妊娠・出産したら、14週間の産休と最大2年間の育休が取得でき、給付金も社会保障の免除もある。この差はあまりに大きく、母体保護の面からみてもあまりに手薄だと私も疑問を抱く。

弁護士国保のような業界団体の国保でも、東京美容国保組合、東京土建国保組合、全国土木建築国保組合などは出産手当金がある。国民健康保険法上は任意給付となっているが、一定の収入を得ている女性には「必ず支給する」とする法改正をして欲しいと高野さんはいう。それが難しいのであれば、国保組合に過度な負担がかからないように予算を組み、出産手当金等に充てられるよう使途を制限して、国が市町村国保や国保団体への国庫補助を増やし、保険料を上げるなどの負担を加入者に課さなくても実現できるのではないかとも高野さんはいう。

せめて産休制度はすべての働く女性が受けられるよう、保険組合や政府に検討してもらいたい。

高野さん(仮名)提供写真 娘さんと
高野さん(仮名)提供写真 娘さんと

●従業員を雇用していると認可保育園申請ポイントが「減点」という大きな矛盾

仕事に復帰するには子どもを預けなければならない。けれど、認可保育園の申請にも大きな矛盾があった。高野さんが住む立川市は当時、従業員を雇用していると申請ポイントが減点となった。従業員を雇用し、その給与や生活も高野さんの肩にかかっているのだから、むしろポイントが上がるなら理解できるが、下がるとは驚きである。

このポイント設定は、たとえば個人商店を営んでいて、近くに子どもを寝かしておけて、従業員が店番している間、手が空いてオムツ交換やミルクをあげられる、あるいは従業員が替わりにそれらをすることができる、というイメージが元になっているのだろう。従業員がいると親の手が空くか、従業員が育児を担えるということで減点なのだ。育児を分かっている人が設定したとは到底思えないポイント設定である。個人商店だろうが飲食店だろうが、フルタイムで仕事をしながら職場で育児をするのはかなり厳しいものがある。(短時間の子連れ出勤とは話が別に思う。)月齢が低ければ寝ている時間も多いかもしれないが、それも子どもの性質に寄るところが大きい。

このような矛盾に対し、高野さんは何度も行政に交渉したという。早く復帰しなければならない高野さんの必死さに比べ、行政の対応は緩慢で、その温度差に腹立たしさを感じたという。結局、認可保育園の申請を諦めて認証保育園に入園申し込みをし、5ヶ月から入園できた。

保育園に入れるまで、事務所にベビーベッドを置き、外出をしなければならない時は病児保育もしてくれるベビーシッターで賄ったが、週に数日の利用でシッター代は1ヶ月10万円以上もかかったという。

補足1

現在の立川市の認可保育園のポイント設定は変更されている。

参考資料:平成30年度立川市保育施設利用申込みのしおり

高野さんが保育園申請をした2015年頃は、夫婦で経営をしていると0.5減点、従業員がいると0.5減点だった。

現在、「父母のみで営む自営業に、父母いずれも8時間以上従事」だと1ポイント加算される。(上記PDF7ページ下の調整指数表 1申し込み世帯にかかわるものの6より)

従業員がいると「父母のみ」ではないため、現在も加点は付かないが減点ではなくなっている。

補足2

昨年末、厚労省がフリーランスや経営者の保活不利を解消する要請を出した。

参考記事:「フリーランス、「保活」で不利 厚労省が解消を要請」

内容:

・職場が自宅の内か外かで一律に点数の差をつけないよう要請

・保育園申請に提出する申込書類の整備 など

高野さん(仮名)提供写真
高野さん(仮名)提供写真

●預かり方の多様性、ベビーシッターの補助や経費化を!

フリーランスや経営者であれば、出産後しばらく仕事量を調整して勤務時間や日数を少なくすることもできる。しかし、例えば「当面週3日間で仕事をしたい」という場合に、認可・認証保育園に入れなくなる。月決めの保育の要件(週5日8時間以上の勤務)に合わないからだ。結果的に、フリーランスや経営者が出産し認可・認証保育園に入れながら働き続けるためには、産休相当の休業は取れないことになる。

例えば出産後は「週3日間の仕事をしたい」というフリーランス女性がいて、その希望を満たせる保育園があれば、もう1名「週2日間の仕事をしたい」というフリーランス女性も子どもを預けることができる。しかし、現状だとそのような働き方の希望は叶わず、認可・認証保育園に入れたければ、週5日8時間以上の勤務を強制させられている状態だ。

もっと保育日数や時間を柔軟にできないものか、と高野さんは疑問を呈す。保育園の預かり方の多様性なくして、働き方の多様性は実現できないと私も思う。

保育日数や時間の柔軟性という意味で、ベビーシッターは非常に便利だが、いかんせん料金が高くなりすぎて継続的な利用は難しい。自己負担が認可保育園、せめて認証保育園の保育料程度で、それを超える分は国や自治体の補助が受けられるのであれば、預かり方の柔軟性が高く、免疫の低い乳児を集団保育に入れず自宅でゆっくり見てもらえると高野さんはいう。

国や自治体の補助が難しいなら、私はせめてベビーシッター代を経費もしくは控除の対象として欲しい。飲み代が経費として認められているのに、働くために必要なベビーシッター代が未だに経費として認められていないのは、おかしいと思う。税法の改正は毎年行われていると聞くので、是非とも政府に検討をお願いしたい。

~署名キャンペーン ご賛同のお願い~

【雇用関係によらない働き方と子育て研究会は、皆さんのご賛同と共に政府に政策提言をします】

フリーランスや女性経営者など、雇用関係にない女性でも、会社員と同等の労働時間であれば、すべて女性が妊娠・出産・子育てしながら働き続けられるよう、法改正を政府に求めたいと思います。

要望内容は以下です。

ーーーーー

法改正をして雇用関係によらない働き方に従事する女性も出産・子育てと仕事を両立できるよう整備してください!

◆被雇用者の産前産後休業期間と同等の一定期間中は、社会保険料を免除してください。

◆出産手当金(出産に伴う休業期間中の所得補償)は、国民健康保険では任意給付となっていますが、一定以上の保険料を納付している女性には支給してください。

◆会社員と同様かそれ以上の労働時間であれば、保育園の利用調整においてどの自治体においても被雇用者と同等の扱いをしてください。

◆認可保育園の利用料を超える分は、国や自治体の補助が受けられるようしてください。それが難しければ、ベビーシッター代を必要経費もしくは税控除の対象として下さい。

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ご賛同はこちらから

フリーランスや経営者も妊娠・出産・育児しながら働き続けられる社会の実現を応援してください!

※「雇用関係によらない働き方と子育て研究会」とは有志のフリーランス及び法人経営者から成る市民団体です。

株式会社 natural rights 代表取締役

2014年7月自身の経験から被害者支援団体であるNPO法人マタハラNetを設立し、マタハラ防止の義務化を牽引。2015年3月女性の地位向上への貢献をたたえるアメリカ国務省「国際勇気ある女性賞」を日本人で初受賞。2015年6月「ACCJウィメン・イン・ビジネス・サミット」にて安倍首相・ケネディ大使とともに登壇。2016年1月筑摩書房より「マタハラ問題」、11月花伝社より「ずっと働ける会社~マタハラなんて起きない先進企業はここがちがう!~」を出版。現在、株式会社natural rights代表取締役。仕事と生活の両立がnatural rightsとなるよう講演や企業研修、執筆など活動を行っている。

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