岸田首相襲撃事件は内閣支持率を何ポイント上昇させたのか?
岸田首相襲撃事件から今日で1週間が経ち、いよいよ明日には衆参補欠選挙の投開票日、また統一地方選挙の後半日程の投票日を迎えることになります。岸田首相襲撃事件が、自民党や与党にとって有利な結果をもたらすという予想もあるようですが、一方で、報道各社の情勢報道では、必ずしも与党候補が有利と言う状況ではありません。
そもそも、岸田首相襲撃事件は、内閣支持率をどの程度上昇させる要因となったのか。 内閣支持率の日次調査を行っているグリーン・シップ社の世論調査をもとに検証してみます。
内閣支持率の日次調査から見えた支持率上昇効果
グリーン・シップ社「GS調査センター」が実施している日次の内閣支持率調査のうち、過去60日分の日次グラフが上図(襲撃事件のあった15日(土曜)からの3日間を薄黄色で筆者がハイライト加工した)です。
同社の調査によれば、4月15日の襲撃事件発生日は前日(4月14日)と比較して内閣支持率が6.6pt上昇しました。3日平均で見ても、発生日前日までの3日間平均の32.5%(4月12日〜4月14日)と、発生日からの3日間平均37.9%(4月15日〜4月17日)とでは、5.4ptの差があり、岸田首相襲撃事件は、少なくとも5pt程度の内閣支持率を上昇させる要因になったとみられます。一方で、その後はまたすぐに下降傾向となり、直近3日間(4月18日〜4月20日)は31.8%と、発生日前日までの3日間平均の32.5%(4月12日〜4月14日)を下回る結果となりました。従って、この襲撃事件における内閣支持率の上昇は極めて限定的だったとみられます。
また、政党支持率も同様の傾向が見られます。自民党の支持率は襲撃事件のあった4月15日、その翌日の4月16日には上昇傾向が見られました。一方で週が明けた4月17日には早くも自民党支持率は下降傾向に入ったとみられ、襲撃事件による上昇効果は、比較的短期間しかその効果をもたらさなかったことがわかります。
なお、衆参補欠選挙の報道各社による電話調査は15日(土)〜16日(日)に集中して行われたことから、情勢報道では自民党系候補が盛り返しているとの報道も見受けられますが、上記のように襲撃事件による反応がやや沈静化を見せつつある現状においては、一時的な支持率の上振れがこの2日間の電話調査の結果に反映されてしまっている可能性があり、最終的な投票結果と乖離する可能性もあります。
手仕舞いの早さがプラスかマイナスか
今回の襲撃事件では、昨年の安倍元首相銃撃事件と異なり、襲撃事件発生後、短時間で演説を再開したという特徴があります。 今回の襲撃事件を「民主主義への挑戦」と位置づけ、このような暴力に屈せずに演説を継続するという姿勢を伝えるため、予定されていた和歌山駅前での演説を(予定を遅らせながらも)実施し、またその日の夕方には千葉5区への応援演説にも入った岸田首相は、「大切な選挙をやり通す」と言うメッセージを訴えることでリーダーとしての力強さを訴える戦略だったとみられます。
この戦略は重要であり、民主主義の挑戦に対して毅然とした態度で臨むという岸田首相のリーダー像を描くことには一定成功したように思えます。 一方で、襲撃事件に屈しないと言うメッセージとともに、早々とこの事件に対する手仕舞いを仕掛けたことや、安倍元首相銃撃事件と異なり、選挙戦の中盤で発生した事件だったことから、選挙報道の公正中立が優先され、新聞やテレビ等での報道が過剰にならなかったことから、内閣支持率の上昇効果も限定的だったとみられます。
事件後数日で、内閣支持率が事件前と同じ水準となったことは、現職首相が爆発物で襲撃されるという昨年に引き続きセンセーショナルな事件だったにもかかわらず、有権者が、早期に冷静を取り戻したとみることができ、ある意味「正常な民主主義のあり方」が具現化されたともいえるでしょう。「大切な選挙をやり通す」という本来の目的は達成しつつ、その結果、選挙の勝敗にどのような影響を与えたのか、明日の投開票結果に注目です。