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甲子園で締めくくった掛布阪神・その2 チーム8年ぶりの大量得点で有終《阪神ファーム》

岡本育子フリーアナウンサー、フリーライター
ことし6月のウエスタン・ソフトバンク戦(甲子園)。試合後の掛布監督です。

 28日の広島30回戦をもって、今季の公式戦を終えた阪神ファーム。同時にウエスタン・リーグも全日程が終了しました。成績と個人タイトルはこちら、『その1』の記事でご覧ください。→<愛にあふれた狩野選手の引退試合>

 また27日に行われた同じ広島戦は、狩野恵輔選手の引退試合だったのですが、それも同じく『その1』で見ていただけます。本当にいい試合と、いい演出(演出と書いて今回に限っては、配慮、心遣い、真心などと読みましょう!)と、いいセレモニーの一日でした。主役である狩野選手の晴れやかな表情が、それを物語っていますね。

 翌28日は、阪神・掛布雅之ファーム監督が指揮を執る最後の試合でした。午前中はまだ雨だったのですが、何がなんでも中止にならないだろうと信じて、朝から多くの方が詰めかけた阪神甲子園球場。試合後半には青空も見えてきて、いいコンディションで締めくくれたと思います。前日を上回る7131人のお客様が、最後の瞬間まで背番号31を見つめました。

 

16点も取ったのは8年ぶり!

 では試合結果です。3回までに9点を奪い、中盤にも7点追加して16得点!安打数は13ながら、エラー4つと10四球をもらって、今季最多得点となりました。ことしは、というか9月は、1日の広島戦(マツダ)で17安打15点、6日の中日戦が18安打14点、9日のソフトバンク戦でも12安打10点というのがあり、それに続く2ケタ得点です。

16対4で終わった今季最終戦。1得点は8年ぶり二ことです。
16対4で終わった今季最終戦。1得点は8年ぶり二ことです。

 13点を取った試合が2度あり、そのときに調べたところ2013年6月7日のソフトバンク戦(雁の巣)での14点以来でしたが、15点となると2009年まで遡ります。18対13という乱打戦だった2009年9月8日のオリックス戦(舞洲)。阪神18安打、オリックス15安打で両チーム合わせて打者一巡が3イニングありました。藤本敦士コーチも出ていますね。

 よって今回の16点も、それ以来8年ぶりの大量得点です。掛布監督への餞(はなむけ)となったでしょうか。また、ずっと心配をかけていた藤浪晋太郎投手が、5回4安打1失点(自責0)でファーム6勝目、しかも四球は1つだけという結果。これには監督も喜びの言葉でした。のちほどご紹介します。

《ウエスタン公式戦》9月28日

阪神-広島 30回戦 (甲子園)

 広島 000 010 300 = 4

 阪神 522 052 00X =16

  

◆バッテリー

【阪神】○藤浪(6勝2敗)-守屋-榎田‐藤谷‐高宮 / 小豆畑

【広島】●加藤(6勝5敗1S)(3回)-オスカル(2回)-横山(1回)-佐藤(1回)-小野(1回) / 船越-中村亘(7回~)

◆三塁打 神:ロジャース、西田

◆二塁打 広:上本

◆打撃    (打-安-点/振-球/盗/失) 打率

1]遊:北條  (4-1-0 / 0-2 / 0 / 1) .230

2]二:荒木  (6-3-0 / 1-0 / 0 / 0) .226

3]右:キャン (1-1-2 / 0-2 / 0 / 0) .304

〃右:板山  (3-1-0 / 1-0 / 0 / 0) .202

4]左:陽川  (4-1-3 / 1-1 / 0 / 0) .281

5]指:ロジャ (3-2-3 / 0-1 / 0 / 0) .414

〃打指:小宮 (1-0-0 / 0-0 / 0 / 0) .224

6]三:今成  (4-1-2 / 1-0 / 0 / 0) .246

7]一:西田  (4-2-2 / 1-1 / 0 / 0) .219

8]捕:小豆畑 (4-0-0 / 1-1 / 0 / 0) .253

9]中:緒方  (3-1-0 / 0-2 / 0 / 0) .244

 ※キャン=キャンベル

 ※ロジャ=ロジャース

 ※小宮=小宮山

◆投手 (安-振-球/失-自/防御率) 最速キロ

藤浪 5回 72球 (4-6-1 / 1-0 / 2.66) 155

守屋 1回 12球 (0-2-0 / 0-0 / 4.94) 148

榎田 1回 33球 (4-2-1 / 3-3 / 3.64) 138

藤谷 1回 11球 (2-0-0 / 0-0 / 5.29) 146

高宮 1回 15球 (0-0-0 / 0-0 / 5.19) 136

《試合経過》※敬称略

 まず打線。1回は先頭から四球、ヒット、四球で無死満塁として陽川が押し出しの四球。なおも無死満塁でロジャースがタイムリー三塁打(レフトの上本がダイビングキャッチを試みるも届かず…)で走者一掃!続く今成の左犠飛でもう1点追加して、計4点を取りました。

 2回も先頭の緒方が四球、北條と荒木の連打でまた無死満塁となり、キャンベルが左前へ2点タイムリー!3回は1死から小豆畑が四球を選び、緒方の右前打などで2死一、二塁として荒木が左前打。これを上本がトンネルしてしまい、2人還ります。記録は荒木のヒット(3打席連続安打)とエラーですが、打点なし。エラーでの生還でした。これで早くも9得点です。

 先発の藤浪は三者凡退の立ち上がり。2回は1死から連打などで2死一、三塁とするも無失点。3回も安打と四球で2死一、三塁となりますが、4番・エルドレッドに4球すべて真っすぐ(155キロ、154キロ、155キロ、154キロ)を投げて見逃し三振!ここは気迫のピッチングでしたね。そして4回はわずか6球で三者凡退。

 しかし9対0で迎えた5回、桑原が中前打、船越はショート北條のエラー(捕球直前に小さくバウンドが変わり、横へはじく)で無死一、三塁となり、上本の遊ゴロで1点返されました。すると、その裏。緒方がセカンドのエラーで出て北條は四球、1死後にキャンベルの内野安打で満塁となり、陽川が三振して2死となりますが、ロジャースはサードの送球エラーで2人生還!次の今成が左前タイムリー。さらに西田がセンターオーバーの三塁打!を放ってもう2点追加。また5点を加えて14得点です。

 6回は守屋が、天谷、エルドレッド、堂林のクリーンアップを三者凡退に切って取りました。試合後に聞いたところ「エルドレッドにもっとインコース真っすぐで攻めたかった…。でも三振が取れたので、よかったです」と守屋。十分、エルドレッドをのけぞらせていましたよ。その裏の打線は緒方が四球を選び、北條の投ゴロがエラーを誘うなど2死二、三塁となって陽川が左前タイムリー!2人とも還り、これで16対1に。

 青空が広がり始めた7回、試合は終盤に入ります。榎田が登板し、1死から高橋大と栗原に連打され、代打・梵に左前タイムリー。さらに1番・上本には左越えのタイムリー二塁打。なおも1死二、三塁で木村の遊ゴロでもう1点。この回3点を返されました。その裏は西田の中前打のみ。8回は藤谷が2安打されながら0点に抑え、その裏の打線は三者凡退でした。

 阪神ベンチには試合に出ていない投手陣や、リハビリ中の選手たちが集まり、球場全体も少しざわざわとしてきて、本当は迎えたくない“そのとき”を待っている…そんな9回。マウンドには高宮が上がります。上本に四球を与えたものの木村は併殺、最後は下水流を三ゴロに打ち取って試合終了。

 掛布監督はいつもの勝利と同じようにタッチで選手を迎え、広島の水本監督とも握手を交わして、いったんベンチへ。そのあとグラウンドでインタビューに応じました。その模様は以下の通りです。ところどころで笑いを誘いつつ、本音も出た?という内容。でも、すべてに選手たちへの思いが詰まった言葉です。

「ちょっと優しい監督だったかも」

試合後に行われたインタビュー。
試合後に行われたインタビュー。
大型ビジョンにも映し出され、監督の笑顔がしっかり見えました。
大型ビジョンにも映し出され、監督の笑顔がしっかり見えました。

 インタビュアーに促されてマイクを持った掛布監督。まず「どうも有難うございました」という言葉で始まります。

 Q:背番号31のタテジマに身を包んで指揮をとられた2年間、きょうで一区切りとなりました。今どんな思いがこみ上げてきますか?

 「ちょっと短かったかなと(笑)。ただ若い選手が確実に力はつけてきていると思いますし、1軍での活躍もかなりしてくれましたので、ある程度の成果はあったのかなと。そういう意味では非常に濃い2年間だったと思います」

 Q:2016年、ファームの監督を引き受けた時の気持ちは?

 「60(歳)でしたからねえ。かなり今の子供たちとは世代も違いますので、そういうギャップを埋められるかなという不安はあったんですけれど。意外に根が明るく若いほうなので、今の子どもたちとは比較的しゃべりも合いますし、すんなりと入ることができたんですが、僕自身があまり上から選手を見て野球を指導するということは絶対してはいけないと。

横田選手(右)と望月投手(左)が選手代表で花束を贈ります。
横田選手(右)と望月投手(左)が選手代表で花束を贈ります。

僕がハードルをくぐるような形で選手に目線を合わせて、選手と同じ気持ちになって、同じ汗をかいて野球をやらなければいけないという気持ちがありましたので、ちょっと優しい監督だったかもしれませんね」と少し笑った掛布監督。

 『上から選手を見て野球を指導することは絶対してはいけない』という言葉のあたりから、スタンドで拍手が起き始め、『ちょっと優しい監督だったかも』で今度は大きな拍手。ベンチの選手たちも微笑んだり、少し寂しげな表情になったり。

何より嬉しい小虎の活躍

 Q:そんな中で指揮を執られて2年、やりがいや楽しさはどこに?

1人ずつ握手。左から山本投手、望月投手、狩野選手、福原コーチ。
1人ずつ握手。左から山本投手、望月投手、狩野選手、福原コーチ。

 「やっぱり若い選手が1軍で活躍してくれる姿を見た時の感動ってのは忘れられません。一番の感動は、狩野がかなりユニフォームを脱ぐというような気持ちになった時期に、僕がDC(育成&打撃コーディネーター)という形で2軍のお手伝いをするようになりまして。狩野が巨人戦(2014年8月29日)で、1本のホームランを含む3安打したんですね。そのときに狩野が『掛布さんに恥をかかせられない』と。『絶対打ってきます』と、そう言ってくれたホームラン。

左から筒井コーチ、高橋コーチ、山田コーチ(見えない…)、久保コーチ、古屋コーチ。
左から筒井コーチ、高橋コーチ、山田コーチ(見えない…)、久保コーチ、古屋コーチ。

 それと原口が育成という3けたの背番号をつけて、残留でですね、ひとり黙々とバットを振る原口の姿、僕にいろいろなことを貪欲に聞いてくる原口。その原口が山田コーチの背番号をつけて、この右打席に立って打った、あのサヨナラヒット※。ああいうことは忘れられませんね」 ※この時は2016年4月27日がプロ初ヒットで、サヨナラ打は同5月19日。

 名前を挙げてもらった狩野選手、原口選手はベンチで表情を変えずにじっと監督の方を見ていました。泣きそうになるのを堪えていたのかも。

左から坂本選手、伊藤和投手、メッセンジャー投手、ロジャース選手、西岡選手。
左から坂本選手、伊藤和投手、メッセンジャー投手、ロジャース選手、西岡選手。

 Q:この2年間で掛布監督がファームで指導した若トラたちが1軍で活躍する姿も多くなりました。どんな気持ちで見守っていらっしゃいましたか?

 「ただ、ほとんどの選手が落ちてきましたのでね」と即座に返して、お客様も大笑い。監督も少し笑って続けます。

 「これがちょっと寂しいかなと。『ちょっと力をつけなさい』と言ってあげたいですね。でも1軍で経験したことってのは無駄にはならないと思いますので、自分で何が足りないのか、これから何をすべきなのかということを当然、北條たちもわかっていると思うんですね。そういう意味ではこれからの北條というのは非常に期待していいと思いますね」

ファンの目が選手を育ててくれた

 Q:改めて、どんな2年間でしたか?

 「うーん、そうですね。僕を若返らせてくれた2年間だったかもしれません。これから、ちょっと年をとるかもしれませんね(笑)」

左から島本投手、青柳投手、緒方選手、守屋投手、高宮投手、キャンベル選手。
左から島本投手、青柳投手、緒方選手、守屋投手、高宮投手、キャンベル選手。

 Q:掛布監督にとってタイガースファンはどんな存在?

 「現役の頃から、非常に熱い声援を僕の31番に送っていただいたファンには本当に感謝をしておりますし、われわれ2軍というのは育成の場ですから、ホームグラウンドは鳴尾浜なんですね。その鳴尾浜で連日、大勢のファンに足を運んでいただきまして、素晴らしい舞台を作ってくれた。また年に10数試合、甲子園でやらせてもらうんですけども、きょうもいっぱいのファンの方が甲子園に足を運んでいただきました。素晴らしい舞台を作ってくれたことが、若い選手が伸びた結果だと思いますので、われわれ指導者の結果ではなく、ファンの目が若い選手を育ててくれたんだと、本当に感謝しております。ありがとうございます」

左から小宮山選手、そして横川ブルペン捕手、本田ブルペン捕手です。
左から小宮山選手、そして横川ブルペン捕手、本田ブルペン捕手です。

 Q:最後に阪神ファン、掛布ファンへメッセージを。

 「まだ1軍は厳しいクライマックスシリーズの戦いが残っておりますし、日本一にならなければいけないシーズンだと思いますので、ここで私は一度ユニホームを脱ぎますけれど、ファンの方たちは残り少ないシーズン、1軍の野球に注目してもらってですね、1軍の野球に熱い声援を送っていただきたいと。ここにいる選手たちも、1人でもいいからクライマックスシリーズや日本シリーズを経験して、来年の野球を迎えてほしい。そういう意味でもファンの方の声援に感謝しております。本当に2年間ありがとうございました」

胴上げは最後まで固辞

 インタビューが終わると選手からの花束贈呈で、まず望月惇志投手の名前が呼ばれ、次に「横田慎太郎選手」というアナウンスにスタンドから大きな拍手と歓声!前日も狩野選手の引退セレモニーで元気な姿を披露していましたが、気づかなかった方も多かったので皆さん大喜びです。横田選手も少し恥ずかしそうに花束を渡し、笑顔を見せていましたね。

 そして全員が掛布監督の両サイドに整列して、シーズン終了の挨拶が行われました。スタンドに向かって一礼したあと、今度は掛布監督が並んだ選手やコーチの前を移動しながら1人ずつ握手。そのまま立ち去ろうとする監督を望月投手が追います。おそらく胴上げの段取りでしょう。しかし監督はベンチへ戻ってしまい両手で×のマーク。ベンチ内でも東マネージャーらが促しても、手を振るばかりです。

(上)2015年3月、鳴尾浜でサードの守備。(下)9月22日、タマスタのベンチ。
(上)2015年3月、鳴尾浜でサードの守備。(下)9月22日、タマスタのベンチ。

 ここで古屋コーチと今成選手が動きました。2人がベンチまで行って再度、胴上げを要請したものの監督の気持ちは変わりません。お客様の気配を察した掛布監督は、もう一度ベンチの前へ出てスタンドに手を振りますが、やはり胴上げは固辞。古屋コーチと今成選手も列に戻り、やがて選手たちもベンチへ。場内に六甲おろしが流れて、セレモニーの終了を告げました。

 胴上げを見たかった方は多かったでしょうね。でも掛布監督が固辞された気持ちもよくわかります。ニュース等で『拒否』と表現されていて、少し違和感を覚えました。断ったということに違いはないんですけど。できればリーグ優勝して、水本監督のように宙を舞わせてあげたかったですね。それが心残りです。

 では、記者会見の模様もお伝えしましょう。これは直接聞けなかったので、質問のわからない部分があります。そして“語尾”が監督自身の表現とは違っていると思われます。ご了承ください。

記者会見でのインタビュー

 まず今の心境を聞かれたのでしょう。掛布監督は「意外とスッキリしている。やりきった感ではないけど、2年間で自分ができることはできた。満足している部分ともう少し時間あればまた違うかたちのものをつくることができた。それが半々ですかね。いまはやりきった感のほうが強い」と話しています。

(上)ことしの安芸キャンプで文旦をPR。(下)昨年のバースデーケーキ。
(上)ことしの安芸キャンプで文旦をPR。(下)昨年のバースデーケーキ。

 「2年間をいろいろと思い出した。野球の世界にいると1年の時間がたつのは非常に早く感じる世界。その中で若い選手たちが結果を求められる。準備の野球をいろいろと思いだしながら握手させてもらった。ファンの目が選手を育てる。連日、大勢のファンが足を運んでくれた。我々の手助けよりもファンの目のパワーが選手を育てる。これからもファンの方には球場に足を運んでもらって、若い選手の野球を厳しくそして暖かく見守ってもらいたい」

 スタンドからの掛布コールに対して「これは現役時代を思い出した。背中がぞくぞくっとするような、左バッターボックスに入ったような気持ちになった。何とも言えない掛布コールの間というかね。現役時代を思い出した。非常にいいものですね」と掛布監督。ここは笑顔だったんじゃないですかね。

「掛布コールで十分。感謝しています」

 一番聞きたかったこと。胴上げを固辞された理由についてはこんな答えでした。

 「この年ですから。現役を辞めるときにベンチ前でチームメートに胴上げをされた。それでもういいと思うんですよ。胴上げは勝者がするもの。僕はもう去っていく人間ですから。あそこで、サードベースで選手たちが胴上げをしたいと言っていたらしいんですけど、選手には非常に感謝している。僕自身の気持ちが胴上げをされる身ではないなと。そういう思いのほうが強かった。選手には本当に申し訳ない。足をそこまで運ぶことはできなかった」

 「決めていました。狩野がきのう辞めて、狩野は胴上げするから。(自分は)絶対しなくていいからと。気にしないでと。照れとかそういう部分ではなくて、優勝監督が胴上げされる美学。選手が引退するときに最後のグラウンドの別れの胴上げはいいと思う。僕はされる立場ではない。立場的に違うと最初から思っていた。僕の中では絶対にさせないと。かたくなに」

 やはり初めからやらないと決めて臨んだ最終日だったようですね。そして「掛布コールで十分。感謝しています」という言葉。

ラストゲームについて

 きょう(28日)、特別にしたことは?「ない。同じようなコーチミーティングをして、グラウンドに出た。古屋コーチにいろいろ話をしただけ。きのうだけですね。甲子園で狩野の最後のゲームだから、いいゲームをしようじゃないかと。最終戦をきれいに終わらせようと。『この2試合はおまえらにとって大切なゲームだよ』と、きのう言わせてもらった。きょう改めて声をかけたということはない」

昨年6月、イースタン・巨人との交流試合(甲子園)は輝流ラインユニホームでした。
昨年6月、イースタン・巨人との交流試合(甲子園)は輝流ラインユニホームでした。

 試合を振り返って「一番うれしいのは藤浪のフォームのバランスがよかったなという印象がすごく強い。変に球がぶれることも少なかったし、抜けることも少なかった。藤浪と握手して『きょうはよかったな』と言ったとき、非常にいい笑顔をしていた。きっかけや手応えを感じてくれたら」と、気にかかっていた藤浪投手の名前が出ました。いい結果で本人もホッとしているでしょう。

 13安打で16点という打線には「日頃ああやって打てよと言いたい。今岡コーチも『こんなに打たなくていいんだよ』って」とのこと。笑った顔が目に浮かびます。

「1人に強くなれ」

 ここからは選手に送る言葉だと思われます。

 「選手たちには申し訳ない。契約にどうこういう立場ではない。次の指導者にバトンをたくして、いいファーム、いい1軍というか形のチームを作っていただいて、日本一になる。広島のように時代をつくっていけない。そのために頑張って」

昨年5月、BCリーグとの交流試合で富山へ行った時の1枚。
昨年5月、BCリーグとの交流試合で富山へ行った時の1枚。

 「もうちょっと1軍に定着して、1軍の監督やコーチが満足する数字、結果を残さないといけない。1軍で勝負できない。まだまだ若い選手の勝負だし、やらないといけないことはたくさんある」

 「1人に強くなれと言った。練習するときは手助けをする我々がいるけれど、ゲームになると1人で、すべてのプレーを終了させないといけない。群れをなすんですよね。野球は個々のプレーの集合体。群れをなす前に1人に強くなれということをずっと言ってきた。1人でやる準備を10分でも20分でもいいからやって、それを継続できる選手になると1軍で通用するような野球ができる。だいぶ1人に強くなっている」

楽しくて刺激的だった2年間

 締めくくりに「すごく我慢をした2年間。非常に強い若い選手に刺激を与えられた。楽しい刺激的な2年間。常に野球の現場に近くにいると思う。ゆっくりいられるときは野球がそばにいるとき。これから厳しい戦いが1軍は続く」と話した掛布監督。刺激は少し減るかもしれませんが、掛布さんは必ず野球の、阪神タイガースのそばにいてくださると、そう思います。

最後の遠征先・タマスタでの練習中。上が北條選手と、下は高山選手と掛布監督です。
最後の遠征先・タマスタでの練習中。上が北條選手と、下は高山選手と掛布監督です。

 オーナー付アドバイザー就任の打診があったと報道されていますが、今後については「これからです。まだはっきりと聞いていない。球団と時間があるので話をして結論を出したい。前向きに考える。これから自分なりに結論を。前向きに考えて結論を出す」とのことでした。

 DC時代からの4年間、どんな時も穏やかに話してくださり、選手への思いがあふれるコメントの数々。取材をさせていただく私も幸せで、とても居心地のいい時間でした。特に練習が始まる前のベンチで伺った、監督の現役時代をはじめとする昔話が楽しかったですね。その頃まだ生まれていなかった若い記者は目を丸くするばかりなのに、私だけしっかり話についていけていたような…。

 掛布監督、お疲れ様でした。本当にありがとうございました。そして、これからもよろしくお願い致します!

 なお、きのう29日に古屋英夫ファーム野手チーフ兼育成コーチ(62)と、久保康生ファーム投手チーフコーチ(59)が今季限りの契約であることが発表されました。当面は山田勝彦ファームバッテリーコーチ(48)が監督代行として指揮を執るそうです。

選手は「これからも会えますよね?」と

 では最後に、少ししか聞けませんでしたが選手のコメントを書いておきます。

左から板山選手、胴上げが気になる?今成選手と荒木選手、才木投手、陽川選手。
左から板山選手、胴上げが気になる?今成選手と荒木選手、才木投手、陽川選手。

陽川尚将選手

 今季を振り返って「ことし前半(3、4月)は調子が戻ってこなくて…。でも5月くらいからは自分の形で打てるようになってきた。1軍に上がったけど、2回とも良い結果が出ずに行ったり来たりで、去年と全然変わらなかった。やっぱり何かを変えていかないといけないと感じた」と言います。シーズン中も掛布監督から陽川選手の名前がよく出ましたね。「来年しっかり1軍に定着して、結果を出すことですね」。それが返事になる?「と思います」

北條史也選手

 安芸キャンプで膝の使い方を覚えるために掛布監督が取り入れた『ひげダンス』が3年前。懐かしいですね。「はんまですねえ」。どんな監督だった?「いろいろアドバイスをしてもらった。ほんと、よく見てくれて」。1軍にいるときも?「はい、寮で会えたので。僕が打てていない時、『結果は気にせず、自分のスイングをしろ』と言ってもらったり。これからもずっと1軍で活躍するのが恩返しだと思うので、頑張っていきます!」。そのあと「監督やめても、まだ会えますよね?」と聞かれました。会えると思います。見てくださっていますよ。きっと。

左から小豆畑選手、歳内投手、深々と頭を下げる榎田投手。
左から小豆畑選手、歳内投手、深々と頭を下げる榎田投手。

西田直斗選手

 「優しいけけど、優しいだけじゃなかったですね。それと掛布監督は、自分で考えて練習しなさいという方針だった。自分で考えてやって、間違った時には聞ける人がいっぱいいたし。強制ではなかったので、いろいろ考えて。だから聞きたいことも出てきたと思います」。それが監督のいう“1人に強くなる”ことかもしれません。ちなみに、この日放った三塁打は「風です。めっちゃ風」と笑いながら「すごい飛びましたねえ!入ったんちゃうかと思った」と。でも「あれがアウトになっていたら、次は打てていなかった」とのことでした。

田面巧二郎投手

 「おととしの台湾のウインターリーグが始まりでしたねえ。それで去年は最初の実戦で投げさせてもらって」と懐かしそうな目です。昨年は「田面で始まって田面で終わるんだよ」と、確か公式戦の最後も先発しました。そして勝ちました。「やっぱり思い入れはあります。けど何も恩返しできていない…。その機会があるといいですね」

左から浜地投手、福永投手、原口選手、北條選手。
左から浜地投手、福永投手、原口選手、北條選手。

締めはこの人、原口文仁選手

 「去年、いいタイミングで使ってもらったと思います。(昇格前に、ファームの)重要な打順で使ってもらって。そういう巡り合わせがあって、今があるので感謝しています」。現在は左わき腹痛からの復帰を目指していて、あと少しですが試合は出られず。「もちろん出たかったですよ!そのために上げてきたので。今回は間に合わなかったけど、これからも見てもらえるんですよね?」と、北條選手と同じことを聞いていました。

     <掲載写真は筆者撮影>

フリーアナウンサー、フリーライター

兵庫県加古川市出身。MBSラジオのプロ野球ナイター中継や『太田幸司のスポーツナウ』など、スポーツ番組にレギュラー出演したことが縁で阪神タイガースと関わって約40年。GAORAのウエスタンリーグ中継では実況にも挑戦。それからタイガースのファームを取材するようになり、はや30年が経ちました。2005年からスポニチのウェブサイトで連載していた『岡本育子の小虎日記』を新装開店。「ファームの母」と言われて数十年、母ではもう厚かましい年齢になってしまいましたが…1軍で活躍する選手の“小虎時代”や、これから1軍を目指す若虎、さらには退団後の元小虎たちの近況などもお伝えします。まだまだ母のつもりで!

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