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甲子園で締めくくった掛布阪神・その1 愛にあふれた狩野選手の引退試合《阪神ファーム》

岡本育子フリーアナウンサー、フリーライター
最後が甲子園球場で、キャッチャーで、幸せな17年の締めくくりだった狩野恵輔選手。

2017年ウエスタン・リーグ全日程終了

 28日で今季のウエスタン・リーグ全日程が終了しました。この日は阪神対広島戦(甲子園)、ソフトバンク対中日戦(タマスタ)が行われ、阪神とソフトバンクが勝っています。その結果、阪神は最下位のままですが、ソフトバンクは先に日程を消化していたオリックスを抜いて3位でフィニッシュ。最終成績は以下の通りです。

   試合  勝-敗 分  勝率 差

1 広島 114 57-49- 9 .538

2 中日 109 52-51- 6 .505 3.5

3 ソフ 119 54-57- 8 .486 2.0

4 オリ 112 50-53- 9 .485 0.0

5 阪神 122 52-60-10 .464 2.5

 個人タイトルは

首位打者   メヒア (広)  .331

最多本塁打  陽川 (神)    21

  〃    バティスタ (広) 21    

最多打点   陽川 (神)    91

最多盗塁   釜元 (ソ)    26

最高出塁率  庄司 (広)   .407

最優秀防御率 阿知羅 (中)  2.10

最多勝利   山田 (ソ)    10

最多セーブ  メンデス (神)  23

勝率第1位  阿知羅 (中)  .750

 となりました。打撃部門で陽川尚将選手が、21本塁打と91打点で2年連続の2冠達成。91という打点は1999年に近鉄・衣川幸夫選手選手が記録した77を18年ぶりに更新した、ウエスタン・リーグ新記録です!21本塁打も、ファームのチームタイ記録。2005年の喜田剛選手に並んでいます。並ばれた喜田さんは「あの記録に置いつくとは」と驚いていました。12年かかったんですもんねえ。

 また初の盗塁王かと期待された植田海選手は、25個でトップに立ったまま1軍へ。その間にじわじわ追い上げたソフトバンク・釜元選手が、なんと28日に2つも決めて26盗塁…最終戦で逆転を許してしまいました。釜元選手は2年連続受賞です。投手部門ではメンデス投手が23Sで最多セーブのタイトルを獲得。これも1999年のダイエー・ミツグ(斉藤貢)投手の20Sという記録を塗り替えて、リーグ新です。

愛があふれる最高の引退試合でした

 さて、阪神ファームは今季最終カードとなった27日と28日の広島戦を、鳴尾浜から甲子園に変更して開催。27日は、今季限りで現役を終えることを表明した狩野恵輔選手の引退試合として行われ、28日は退任が決まっている掛布雅之監督のラスト采配というわけで、2日間とも多くのお客様訪れています。27日は6805人、28日は7131人という、雨の影響もあった平日の2軍戦では異例の数。皆さん、声を限りに名前を呼び、拍手を送り、そして涙を流されました。

 きょうは27日の狩野恵輔選手のラストゲームを振り返ってご紹介します。公式戦で、しかもファームの試合では考えられないような“粋”があふれた一日でしたね、試合後のセレモニーだけでなく、あらゆる瞬間が我々の胸に消えない思いを残したゲームと言えるでしょう。阪神タイガースと、対戦相手である広島カープの“真心”があふれていて…。狩野恵輔というのが、それほどまで愛された野球人だったからですね。

 ともに戦った元同僚の広島・江草仁貴投手も引退を発表済みで、この日は狩野選手の1打席限定で登板しました。来月6日に自身の引退試合を控えた安藤優也投手も、9回表2死で“キャッチャー・狩野選手”が待つマウンドへ。先週のソフトバンク戦(タマスタ筑後)で、キャッチング練習らしきことをしていた時に浮かんだ、私の妄想は現実となりました。さらに江草投手が登板予定と聞き、そりゃもう狩野選手のところで投げてくれたら!という願望も、かなったわけです。

 まさか狩野選手ひとりだけで交代するとは。そこで江草投手があんなに泣いてしまうとは思いませんでしたけど。またうまい具合に、追いついた直後の9回2死ランナーなしで安藤-狩野バッテリーが登場ですよ。その前をキッチリ2人で片づけてバトンタッチした伊藤和投手と小宮山捕手も、いいお膳立て。そうそう、同点にしたのも小宮山選手のタイムリーですからね。

印象的なこの狩野選手の構えも、もう見ることはないんですね。
印象的なこの狩野選手の構えも、もう見ることはないんですね。

 それもこれも公式戦でありながら、敬遠のような四球で狩野選手に5打席目をもたらしてくれた飯田投手と中村亘捕手のバッテリーや、最後に安藤投手のストレートに三振して引き分けのまま終わらせてくれた堂林選手など、場面ごとに演出…というか“配慮”をしてくれた広島のおかげです。

 そして何よりも、前夜のうちに広島のウエスタン・リーグ優勝が決まっていたことに感謝でしょう!そうでなければ演出、いえ配慮をしている場合ではなかったはず。ということで前日の試合で勝ったソフトバンクと、(ごめんなさい) 負けてしまった2位の中日にもお礼を申し上げます。

《ウエスタン公式戦》9月27日

阪神-広島 29回戦 (甲子園)

 広島 000 200 020 = 4

 阪神 001 020 010 = 4

 ※9回裏終了、規定により引き分け

 

◆バッテリー

【阪神】メッセンジャー-望月-松田‐伊藤和‐安藤 / 小宮山‐狩野(9回2死~)

【広島】塹江(6回)-中村恭(1回)-江草(0/3回)-ヘーゲンズ(1回)-飯田(1回) / 船越-中村亘(7回~)

◆本塁打 広:美間9号2ラン(望月)、10号ソロ(松田)

◆二塁打 神:小宮山、北條、狩野 広:木村

◆打撃   (打-安-点/振-球/盗/失) 打率

1]遊:北條  (5-3-1 / 1-0 / 0 / 0) .229

2]右:キャン (4-0-0 / 2-1 / 0 / 0) .300

3]左:陽川  (3-1-2 / 0-2 / 0 / 0) .282

4]指捕:狩野 (5-1-0 / 1-0 / 0 / 0) .255

5]一:ロジャ (4-0-0 / 0-0 / 0 / 0) .385

6]三:今成  (2-1-0 / 1-2 / 0 / 0) .246

7]中:板山  (4-0-0 / 0-0 / 0 / 0) .201

8]捕:小宮山 (4-2-1 / 0-0 / 0 / 0) .226

〃投:安藤  (0-0-0 / 0-0 / 0 / 0) ―

9]二:荒木  (3-0-0 / 0-1 / 0 / 0) .213

◆投手 (安-振-球/失-自/防御率) 最速キロ

メッセ 2回 37球 (1-1-2 / 0-0 / 0.00) 149

望月  3回 45球 (2-2-1 / 2-2 /10.20)153

松田  3回 71球 (5-1-2 / 2-2 / 2.81) 149

伊藤 0.2回 9球 (0-1-0 / 0-0 / 1.05) 144

安藤 0.1回 4球 (0-1-0 / 0-0 / 3.90) 139

《試合経過》  ※敬称略

8回、狩野選手の第4打席で広島のピッチャーは江草投手に。
8回、狩野選手の第4打席で広島のピッチャーは江草投手に。
狩野選手いわく、“男気”のストレート勝負だったそうです。
狩野選手いわく、“男気”のストレート勝負だったそうです。
その4球目を打って左翼線への二塁打!<※写真は龍樹さんの撮影>
その4球目を打って左翼線への二塁打!<※写真は龍樹さんの撮影>
“狩野選手限定”だった江草投手は交代。抱き合う2人。<※写真は龍樹さん>
“狩野選手限定”だった江草投手は交代。抱き合う2人。<※写真は龍樹さん>

 先発のメッセンジャーが1回、1安打2四球などでピンチを招きながらも2イニングを無失点で終え、3回は望月が三者凡退!その裏の攻撃で、先頭の小宮山がチーム初ヒットとなる二塁打を左翼線に放ち、荒木の二ゴロで三塁へ。続く北條の中前タイムリーで還って1点を先取します。

 しかし4回、堂林の中前打のあとエルドレッドから三振を奪った望月ですが、5番・美間にレフトへ逆転の2ラン…。でも5回は1四球のみで0点に抑えると、その裏の打線は2死後に荒木が四球を選び、北條の中前打とキャンベルの四球で2死満塁として、次の陽川がレフトへ2点タイムリー!3対2と再逆転しました。

 6回からは松田で、6回、7回と1安打ずつ許すも無失点。ところが8回、1死から美間にソロホームランを打たれて同点になり、さらに高橋大と木村の連打で1死二、三塁として中村亘の右犠飛で勝ち越し点を与えます。この回2点を失って4対3、また広島リードです。3時前からまた雨が降り出し、それからは激しくなりそうな予報だったので、終盤に予定されている2つの“段取り”や引退セレモニーが…と心配でした。もちろん逆転された試合展開も、ですけど。

 8回裏の阪神は狩野から攻撃が始まり、それに合わせて「ピッチャー江草」のアナウンス。ここまでも「4番 指名打者 狩野」で割れんばかりの拍手があり、打席中には自然と応援歌が沸き起こっていましたが、もうその倍以上の「かのう!」「えぐさ!」という声です。1球目をフルスイング、2球目はボール、3球目をまた振って、4球目でとらえた打球は左翼線への二塁打!

 二塁に立った狩野が歩き出し、スタンドから「代走?」という声も聞こえたのですが、そんなはずはありません。だってこのあと…と思っていたらマウンドの江草のもとへ。握手をして抱き合って、そのあと引き揚げた江草は一塁側のラインを超えるあたりで、迎えに来た広島・水本監督の顔を見て一気にこみ上げたのでしょうか。そこからはもう涙、涙です。監督と抱き合って号泣、ベンチ前で花束を受け取り、ファンの声に応えてまた顔をゆがめる。本当に素直な、彼らしい別れです。

9回表、2死となり、選手交代を告げた掛布監督がボールを手にマウンドへ。
9回表、2死となり、選手交代を告げた掛布監督がボールを手にマウンドへ。
狩野選手の引退試合に華を添えるため、安藤投手が登板。
狩野選手の引退試合に華を添えるため、安藤投手が登板。
バッターは堂林選手は見事な気遣いで、バットを振ることなく三振に。
バッターは堂林選手は見事な気遣いで、バットを振ることなく三振に。
9回裏でも、また広島の気遣いが。2死から陽川選手に敬遠気味の四球で…
9回裏でも、また広島の気遣いが。2死から陽川選手に敬遠気味の四球で…
回ってきた5打席目は「4番キャッチャー狩野」のコール。結果は中飛です。
回ってきた5打席目は「4番キャッチャー狩野」のコール。結果は中飛です。

 ゲーム再開後、代わったヘーゲンズに対し今成が四球を選ぶなど1死一、二塁。板山は一ゴロで3-2-5と渡って狩野が本塁でアウト。2死一、二塁となって続く小宮山が左前タイムリー!追いつきました。そして迎えた9回。マインドでは伊藤和が投げていて、その間に一塁ベンチ前ではキャッチャー装束の狩野が現れ、しかも西岡とキャッチボール中とあってスタンドはざわざわと落ち着きません。

 それでも簡単に2死を取って、ここでバッテリーチェンジ。審判に交代を告げた掛布監督が新しいボールを持って、また狩野も内野陣とともにマウンドで“抑え投手”を待ちます。2009年10月8日のヤクルト戦以来となる「ピッチャー安藤、キャッチャー狩野」のアナウンス、やがて登場曲に乗って安藤が歩いてマウンドへ。バッターは3番・堂林。役者が揃いました。

 1球目はボール、2球目はストライク、3球目もストライク、そして4球目。139キロの真っすぐを見逃して三振!この瞬間、私もですけど試合が終わったような錯覚に陥りましたね。このまま勝利のタッチがあるような。でもまだ勝ってはいません。この日は延長に入らないという申し合わせだったので、最後の攻撃となる9回裏があります。

 広島のバッテリーは7回からマスクをかぶる中村亘と、この回に登板した飯田。まず北條が空振り三振、キャンベルも空振り三振で2死で打席には3番の陽川。その斜め後ろでバットを振る狩野に回すには、陽川が出るしかない状況です。すると明らかなボールが3つ続き、4球目もボール。敬遠としか思えないような四球で陽川は一塁へ。

 これは多分ピンチですよね、広島には。サヨナラの走者になるかもしれないわけで。でもピッチャーも内野手も少し微笑みながら定位置に戻りました。そのおかげで5打席目を迎えられた狩野を、しっかり見納めしようとネット裏も大騒ぎです。ただ本人は4打席目で完全燃焼したのか表情が穏やかで、構えもゆったりだったように思います。結果は中飛で、4対4のまま試合終了です。

笑顔の胴上げと引退セレモニー

 試合後はまずスクリーンに『ウエスタン・リーグ優勝 広島カープ』という文字が出て、三塁側から広島ナインがグラウンドへ。まず水本監督、次に江草投手が胴上げされました。引き揚げる際に一塁側ベンチや、阪神の球団関係者へ何度も何度も頭を下げる水本監督の姿が印象に残っています。甲子園での胴上げに関しての感謝でしょうね。

まず広島の26年ぶり優勝をたたえてのセレモニー。甲子園で宙に舞った水本監督。
まず広島の26年ぶり優勝をたたえてのセレモニー。甲子園で宙に舞った水本監督。
次いで江草投手が広島と、そして阪神ナインにも胴上げされました。
次いで江草投手が広島と、そして阪神ナインにも胴上げされました。

 引き揚げるときに再び「江草!江草!」という大きな声が上がり、一塁側にいた阪神ナインがグラウンドへ向かいました。今度は古巣のチームメイトによる胴上げです。なんだか上手に上がっていなかったけど、そこは愛嬌ということで。江草投手にとっても、いろんなことがタイミングよく重なってのこの日。よかったですね。お疲れ様でした。

 そして狩野選手の引退セレモニーへと移ります。挨拶ではファンや周囲の方々への感謝を述べ、それを「一生の宝物として自慢していきます」と結びました。花束贈呈は掛布監督、江草投手、5人の子どもさんから。そのあと一塁ベンチ前に並んだ監督、コーチ、スタッフ、選手たちと1人ずつ握手。鳴尾浜でリハビリ中の選手や、横田慎太郎選手の姿もあり、今ファームにいる全員が見送る形です。締めにホームベース付近で胴上げがあり、最後は何度も何度もスタンドへ手を振って、“背番号99”はグラウンドを後にしました。

最後のヒットが江草さんからでよかった

 では狩野恵輔選手のコメントからご紹介しましょう。できるだけ全文を、と思って…相変わらず長くなってしまいました。それと質問と答えの順番は少し変えています。ご了承ください。まず、取材前に質問した2つの答えを書いておきます。

 1つ目は、最後に一塁ベンチ前で荒木選手から手渡された新しいバットの件。帰りに持っていたので、これは何?と尋ねたら「みんなが書いてくれたんですよ」と言います。なるほど、つまりチームメイトの寄せ書き入りバットってことですね。2つ目は試合で着けていたキャッチャー用のプロテクターの件。ぴかぴかしていたので新品だろうとは思ったのですが…。「あれは市販のものです」。へえ~そうだったんですか。

 というわけでスッキリして囲み取材に入りました。

 試合を終えての今の気持ちを。「初めて公式戦で楽しくできました!公式戦は勝負なので、1軍だろうと2軍だろうと緊張がありましたけど、きょうは緊張せず楽しくやれました」

花束を贈られてベンチへ。最後に振り向いて、また涙、涙の江草投手。
花束を贈られてベンチへ。最後に振り向いて、また涙、涙の江草投手。

 いつもと違ったことは?「あんまり変えずにいこうと思って、本当に普段通り普通にできました。江草さんの時だけ、ちょっと…」。やはり思うところはあったでしょうね。「江草さん、普通に勝負するって言っていましたけどね。あの人も男気で全部真っすぐでした。最後のヒットが江草さんでよかった」。その江草投手の胴上げは狩野選手が先導して?「僕がというわけじゃなく、みんなで。行こうかっていう感じです」

 安藤投手とのバッテリーはいかがでしたか?「いや~楽しかったですねえ!安さん、コントロールすごい!ほんとに辞めんのかな。でも、ああいう機会を作ってもらってよかったです」。そういえばキャッチボールの相手を西岡選手が。「目立ちたがり屋だから(笑)。剛が『やりましょうか?』って言うので『大丈夫か?』と聞いて。ファンの方に喜んでもらえたなら、よかったです」

『キャッチャー狩野』のコールに万感の思い

 久々にマスクをかぶった感想を。「緊張しました。口がカラカラです。やっぱり最後にキャッチャーで終われたのがよかった。『4番キャッチャー狩野』で終われましたからね(笑)。『キャッチャー狩野』」と言ってもらったのでよかった」。そこですよ、そこ。守備交代時だけでなく、最後に打順が回ってきたことにより『4番 キャッチャー 狩野』というアナウンスが聞けたと、ファンの方は涙ながらに喜んでおられました。やはり四球の陽川選手や広島バッテリーに感謝でしょう。

マイクの前で最後の挨拶をする狩野選手。涙はなく笑顔でした。
マイクの前で最後の挨拶をする狩野選手。涙はなく笑顔でした。
チームメイトに別れを告げた狩野選手。藤浪投手(左)は泣いていたみたいですね。
チームメイトに別れを告げた狩野選手。藤浪投手(左)は泣いていたみたいですね。

 声援は耳に届いていた?「聞いています。3打席目までは(スタンドを)ちゃんと見なかったんですよ。泣きそうなので。1打席目から泣いたらダサイでしょ?だから我慢しました。でもすごかったですね。全部聞こえました」。ちなみに胴上げの場所がホームベース付近だったのは?「安藤さんが『ここや、ここや』と言ってくれたんで。それ嬉しかったですね」。さすが安藤投手です。

 きょうが最後という実感はありますか?「あしたも普通に来そうですけど(笑)。実感はそんなにないですね。これから10月とかになると」。あしたは?「来ます。最後に(シーズン終了の挨拶が)あるから。ユニホーム?着ますよ。だって僕だけジャージだったら、おかしいでしょう」と、質問した私を思いっきり突っ込んでくれました。確かにジャージはおかしい 今後については「少しずつ考えていますが、まだはっきりとは。いろいろ勉強したいなという感じですね」と答えて取材終了。

 しばらく休んで充電をして、そのあとまた少しトレーニングもするんですかね。12月3日に兵庫県小野市で行われる恒例の『小野マラソン』に参加する狩野選手。引退しても変わらない健脚を見せてくれるでしょう!皆さんも楽しみになさってください。

狩野選手とのバッテリーは「嬉しかった」

 安藤優也投手は、まだ10月6日に引退セレモニーがあるんですけど、24日に続いてのセミファイナル登板となりました。まあ今回は狩野選手のためのワンポイントですけどね。とはいえ筑後まで行けなかった方や、6日は来られない方にとっては嬉しい計らい。私も「1球で終わらないで」「ヒットは打たないで」という無茶な念を、打席の堂林選手に送っていました。…すみません。

無事に仕事を終えて戻る、8年ぶりの安藤‐狩野のバッテリーでした。
無事に仕事を終えて戻る、8年ぶりの安藤‐狩野のバッテリーでした。

 駐車場へ向かう安藤投手の手には可愛い花束が。「これもらったんですよ」と言って見せてくれたところ『安藤選手へ 江草選手の息子さんより』というメモが入っていました。あら、それは嬉しいですね。しかも息子ちゃんから。「ま、奥さんでしょうね」と笑う安藤投手です。

 きょうもファンの声援がすごかったでしょう?「そうですね。やっぱり一番ありがたいですね」。狩野選手と組んだことについては「2009年の開幕バッテリーなので、嬉しかったですね。あの構え、懐かしいなあと思って」とのことでした。“キャッチャー狩野”の思い出は?「2009年の開幕投手をやらせてもらった時、どうやって抑えるかとか2人で話しながら迎えた思い出はありますね。お互いに緊張して、あいつからも緊張感が伝わってきたり、向こうもそうだったでしょう。懐かしいですね。8年ぶりです」

 きょうは?「僕も緊張した。関係ないのに緊張していましたよ。アウトを取れるかなって。堂林、空気を読んでいましたね(笑)」。狩野選手の、やっぱりコントロールがすごい!というコメントを伝え聞くと、安藤投手は「いえいえいえ」と言いながら帰途につきました。もうこれでセミファイナルは本当に終わりですね。10月6日も、幸せな時間でありますように。

掛布監督「胸を張ってグラウンドを去っていい」

ホームベースのところで胴上げされる狩野選手。
ホームベースのところで胴上げされる狩野選手。

 では、掛布雅之監督の談話です。まず狩野選手の二塁打に「少し難しいボールだったから(逆に)力が抜けたんじゃない?」という分析があり、次はおそらく9回のマウンドへ監督自らボールを持っていった件を質問されたと思われます。「あんちゃん(安藤)も最後、狩野も最後。キャンプからずっと一緒にやってきたので、グラウンドを去る時は自分の手で渡したかった」という答えでした。

 「カープも空気を読んでたよね。最後、陽川を歩かせてくれたりね。陽川が言ったと思うよ。『自分を歩かせてくれ』と。広島さんも優勝を決めているし、ファンの方が喜んでくれることをしてくれた。演出だよね。プロだから許されること」

 これが最後のゲームとなった狩野選手に「本人が挨拶でも言っていましたが、いろんなことがあった。腰を痛めたり育成になったり。キャッチャーでレギュラーをつかもうって時に城島が入ってきたりとか。そんな中で後半、代打に賭けていった彼の集中力。胸を張ってグラウンドを去っていいと思いますよ」という餞別の言葉です。

狩野選手が最後の打者となり試合終了。スタンドに手を振って声援に応えます。
狩野選手が最後の打者となり試合終了。スタンドに手を振って声援に応えます。

 「狩野自身も最後のゲームが甲子園でよかったね。おそらく“1軍で1打席”と言われただろうけど、ここを選んだ。かえって濃い5打席だった。狩野を応援しに来てくれたファンだから。ずっと忘れられない打席、一日になったはず。本人もファンの力を改めて感じただろう。ここでは全部を味方にできる。1軍だとタイガースファンも敵になることがあるけど、きょうはすべて狩野の味方。17年をいい形で終わることができた。すごくいい区切りをつけられたんじゃないかな」

 そして、31番も?と言われ「いやいや、きょうは99番でいいですよ」と笑う掛布監督。あすも雨が心配ですね。「阪神園芸の金澤くんが、絶対やります!と言ってくれたからね。“金澤くん”って、お母さんに連れられてきていた子どものころから知っているんで、そう読んじゃうけど。それだけ長くやってるってこと。だから世代交代なんだよね」

タイムリーを放った3選手のコメント

 一時は逆転の2点タイムリーを打った陽川尚将選手。9回2死で打席へ向かう前に狩野選手から「俺に回すんやったら、ランナー全部還してこい」みたいなことを耳打ちされたそうです。狩野選手の前を打つことに「きょうはプレッシャーありました。回さなあかんと思って」と言います。それで9回の四球は根回し?という問いに答えはなかったものの、目が微妙に肯定していたと私は思います。まあ広島のバッテリーもしっかり読んでくれていましたからね。

甲子園に駆けつけた桟原将司さん(左)と金村大裕さん(右)。いい笑顔です。
甲子園に駆けつけた桟原将司さん(左)と金村大裕さん(右)。いい笑顔です。
水落暢明さん(右)と藤原正典さん(左)。このたび同業者となった2人の顔が…。
水落暢明さん(右)と藤原正典さん(左)。このたび同業者となった2人の顔が…。

 また「ずっと、狩野さんの打席はチャンスで回すという気持ちでやっていました」と話すのは北條史也選手。2試合続けて1番を打ち、この日は先制タイムリーや左翼線二塁打を含む3安打で「内容のある打席にしようと思っています。チャンスでもチャンスでなくても(その気持ちで)やっていきたい」とのことでした。

 3回に二塁打を放って先制のホームを踏み、8回には同点タイムリーの小宮山慎二選手は、いいところで打ちましたねと言ったら「よかった~」と言ってニコニコ。実はこの日、もと同僚の桟原将司さん、金村大祐さん、水落暢明さん、藤原正典さん、仕事を休んで迷惑をかけているから内緒の方など、多くのOBが駆けつけました。小宮山選手も懐かしい人たちと旧交を温めていたので、話はこれくらいで。

     <記載のない掲載写真は筆者撮影>

フリーアナウンサー、フリーライター

兵庫県加古川市出身。MBSラジオのプロ野球ナイター中継や『太田幸司のスポーツナウ』など、スポーツ番組にレギュラー出演したことが縁で阪神タイガースと関わって約40年。GAORAのウエスタンリーグ中継では実況にも挑戦。それからタイガースのファームを取材するようになり、はや30年が経ちました。2005年からスポニチのウェブサイトで連載していた『岡本育子の小虎日記』を新装開店。「ファームの母」と言われて数十年、母ではもう厚かましい年齢になってしまいましたが…1軍で活躍する選手の“小虎時代”や、これから1軍を目指す若虎、さらには退団後の元小虎たちの近況などもお伝えします。まだまだ母のつもりで!

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