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ペット業界の「犬が減っている」という主張は本当か 犬猫2万5千匹が死ぬペット流通

太田匡彦朝日新聞記者

 「犬の飼育頭数の減少に伴い、ペット産業の衰退が懸念される。寄付を募ってテレビや新聞に広告を出すなどし、(犬の)飼育の推進を図ってはどうか」

 昨年3月の日本獣医師会の理事会で、近畿地区連合獣医師会からそんな趣旨の提案がなされた。

 藏内勇夫会長もペットフード協会など業界団体と連絡を取り合っていることを紹介し、犬の飼育数が減っていることへの危機感を示した。さらに「減少への取り組みはマスコミなどに誤解されないよう、ペットとの共生の重要性の周知という観点から推進すべきだ」などと発言。この提案を受け、理事会は、ペット産業全体としての取り組みが重要なことを確認したという。

 近年、一部の獣医師や犬の生体販売業者らは「犬の飼育数が減った」として、産業が衰退することに危機感を募らせている。だが、実態はどうなのか。

 朝日新聞が全国の自治体を対象に調査をし、2014年度と15年度の犬の流通量を割り出して比較したところ、15年度の犬の流通量は、14年度より約7万5千匹も増えていた。

 昨年12月、動物愛護行政を担う全国115の自治体にアンケートをし、すべての自治体から回答を得た。そのうち99自治体が回収している「犬猫等販売業者定期報告届出書」を集計し、犬猫の流通量を算出した。届出書は、13年9月に施行された改正動物愛護法で、繁殖業者やペットショップに毎年度の提出を義務付けたもの。販売したり不要になって譲渡したりして、国内に流通させた犬猫の数などを報告する必要がある。「販売や繁殖に使われる犬猫が適正に取り扱われているかどうか把握するため」(環境省)に導入された。

 これを集計すると、15年度には犬は69万1979匹、猫は15万6407匹が流通していた。14年度は犬が61万7009匹、猫が13万3554匹だったから、犬は約7万5千匹(12%)、猫は約2万3千匹(17%)それぞれ流通量が増えている。なお届出書の「販売」には、繁殖業者(生産業者)がペットショップ(小売業者)に出荷する行為も含まれている。つまり、同じ生体が2度以上カウントされている可能性がある。少し古いデータになるが環境省の09年の推計では、小売業者経由で消費者に販売される犬は約65%、猫は約70%としていた。

 一方、ペットブームを背景に、犬猫の仕入れ価格や小売価格は上昇傾向にある。大手ペット店チェーン経営者は、こう話す。

 「犬の仕入れ値は数年前の倍。ブームの猫は、昨年の黄金週間のころには例年の3~4倍まで高騰した。仕入れ価格の上昇分はスムーズに小売価格に転嫁できており、ブリーダーもペットショップも利益を出しやすい環境になっています」

 犬に比べ、猫の販売数は増加率が高い。入手ルートに変化が起きつつあるのだ。ペットフード協会の16年の調査では、入手先が「ペット店」だったのは70代では11・9%だが、20代は23・5%で、これまで主流だった「友人/知人からもらった」(33・8%)や「野良猫を拾った」(23・5%)に迫っている。飼い主の年代が若くなるほど、もらったり拾ったりせず、店で買う傾向が高まっているとみられる。

 全国で約100店を展開する大手チェーンのAHBでは15年度、犬の販売数が前年度比7%増だったのに対し、猫は同11%増。同じく大手チェーンのコジマでも、猫の販売数は前年度比2割増のペースで増えているという。「猫は仕入れるとすぐに売れるため、地方都市まで回ってこない」(別の大手チェーン従業員)という状況だ。

 一度は捨てられた保護犬や保護猫を飼う人が減っているわけではない。環境省によれば、全国の自治体に持ち込まれた犬や猫の返還・譲渡数は増えていて、15年度は05年度の約2倍となる5万2674匹になっている。

 ところが、ペットフード協会がサンプル調査に基づいて毎年、拡大推計している統計では、特に犬の飼育数について減少傾向が続いている。12年から5年連続の前年割れ。16年の犬の推計飼育数は前年比0・4%減(3万9千匹減)の987万8千匹となっている。猫は横ばい傾向といい、16年は同0・3%減(2万7千匹減)の984万7千匹だった。

 このペットフード協会の推計などに基づいて、ペット業界には「ペット産業の衰退」を懸念する声が上がっているわけだ。一部の業界団体は「犬との暮らしが健康寿命をのばす」などとPRし、高齢者を中心に新たに犬を飼う(買う)人を増やそうとしている。

●飼育数増を目指すのでなく「ペットが長生きできる取り組みを」

 朝日新聞の調査で、犬や猫の流通量が増えていることははっきりした。保護犬・保護猫を飼う人も増えている。それにもかかわらず、犬の飼育数が減り、猫の飼育数が横ばいというのはどういうことか。想定されるのは、流通過程で病気などで死んだり、殺処分されたりする犬猫の数が相当な数にのぼるということだ。

 朝日新聞の調査では、繁殖から小売までの流通過程における死亡数も明らかになった。犬猫等販売業者定期報告届出書では、各年度の死亡数を報告する義務もあり、15年度に流通過程で死んだ犬は全国で1万9866匹、猫は5088匹。合わせて2万4954匹になる。14年度は犬猫あわせて2万3181匹で、両年度とも流通量の3%にのぼっている。

 死亡数には「原則として死産は含まない」(環境省)。また繁殖用の犬猫で、繁殖能力が衰えて「引退」するものは「販売または引き渡された数」に入るため、これらも死亡数には含まれてこない。だとすると繁殖業者やペット店、全国に22あるペットオークション(子犬・子猫の競り市)の飼育管理状況に問題があるのではないか(朝日新聞デジタル2017年5月30日付記事「子犬・子猫、流通にひそむ闇 死亡リストを獣医師が分析 『衛生管理が行き届いていないのでは』」参照)。

 流通過程での死亡に加え、飼い主に捨てられたり、放浪していて捕獲されたりした犬猫の殺処分が全国の自治体で行われている。15年度は犬1万5811匹、猫6万7091匹が殺された。さらに、繁殖業者やペット店が「引き取り屋」に売れ残りを引き取ってもらうなどして「闇」へと消えていく命も少なくない(朝日新聞2015年3月24日付記事「『引き取り屋』という闇 『殺さずに、死ぬまで飼う。ペット店には必要な商売でしょ』」参照)。

 これらの犬猫が死なずに適切に飼育されていたら、ペットフード協会の推計値はどんな傾向を示しただろうか。日本動物福祉協会の調査員で獣医師の町屋奈さんはこう指摘する。

「人口が減少しているなかで、ペット業界が飼育頭数の増加を目標にすること自体がおかしい。発想を転換し、いま飼われている犬猫たちが快適に動物らしく、幸せに長生きできる環境を整えられるような取り組みを、業界をあげてやっていくべきではないか」

 ペット業界が流通量の増加を目標とすれば、一部の繁殖業者やペット店による劣悪な飼育や病弱なペットの販売などを拡大させる危険性をはらむ。安易な気持ちで購入した飼い主による飼育放棄が増えるおそれもある。ペット業界は、いたずらに飼育数の増加を追い求めるのでなく、犬や猫たちの「動物福祉」を考えた活動へとシフトする時期に来ているのではないか。

(週刊朝日2017年3月24日号掲載の記事に一部加筆)

朝日新聞記者

1976年東京都生まれ。98年、東京大学文学部卒。読売新聞東京本社を経て2001年、朝日新聞社入社。経済部記者として流通業界などの取材を担当した後、AERA編集部在籍中の08年に犬の殺処分問題の取材を始めた。15年、朝日新聞のペット面「ペットとともに」(朝刊に毎月掲載)およびペット情報発信サイト「sippo」の立ち上げに携わった。著書に『犬を殺すのは誰か ペット流通の闇』『「奴隷」になった犬、そして猫』(いずれも朝日新聞出版)などがある。

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