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8週齢規制ついに施行 忘れてはならない「誕生日偽装」問題と「日本犬除外」規定

太田匡彦朝日新聞記者
ペットオークション(競り市)に出品され、競りにかけられる秋田犬の子犬(筆者撮影)

 6月1日、生後56日以下の子犬・子猫の販売を禁じる8週齢規制がついに施行された。

 8週齢規制は、販売前の子犬・子猫を生後56日まで生まれた環境で母親やきょうだい、人間にふれあわせ、家庭犬・家庭猫として適切に「社会化」することで、成長後の問題行動を予防する。また、免疫力を高めてから出荷・販売することで、感染症のリスクを減らすことにつながる。子犬・子猫は生後2カ月で人間の3歳程度まで成長するとされており、ある程度大きくなった状態でペットショップの店頭に並ぶようになることから、消費者の衝動買いとそれに伴う安易な飼育放棄を抑制する効果も期待されている。

 欧米先進国の多くで実施されていて、日本でも、私が知る限り2005年の動物愛護法改正の際には既に、動物愛護団体などが導入を求めていた。だが、長く実現しなかった。

 少しでも幼いうちに販売する方が「かわいい」とされ売りやすく、飼育コストも抑えられるため、ペット関連の業界団体が導入に強く反対してきたためだ。2012年の動愛法改正時には本則に8週齢(生後56日)規制が盛り込まれたのに、ペット関連の業界団体の激しいロビー活動によって付則が付けられ、今年5月31日までは、7週齢(生後49日)規制にとどまっていた。

 2019年6月に行われた4度目の動愛法改正の際には風向きが変わり、大手ペットショップチェーンの一部や日本獣医師会などが規制賛成にまわった。それでも、ペット業界への忖度から施行までに2年の猶予期間が設けられ、ようやくこの6月、施行にこぎ着けたというわけだ。

●偽れる血統書の生年月日、「説明になっていない」日本犬除外規定

 施行にあたり、忘れてはならないポイントが二つある。

 一つは、血統書の生年月日はいくらでも偽れる状態にあるということだ。血統書の生年月日は繁殖業者がどうとでも「決められる」ことから、客観性に欠ける。8週齢規制の施行で、繁殖業者による出生日偽装が横行する可能性があるのだ。詳しくは、以前に朝日新聞朝刊に書いた記事(「子犬・子猫の『誕生日偽装』横行 大手チェーン幹部証言」)を読んでいただきたいが、ペット業界は、獣医師など第三者が犬猫の出生日を証明する仕組み作りを急ぐべきだろう。

 もう一つ、日本犬6種(柴犬、紀州犬、四国犬、甲斐犬、北海道犬、秋田犬)だけが8週齢規制の対象から一部外されることも、忘れてはいけない。改正法に付則がつけられ、日本犬だけを取り扱う繁殖業者が、一般の飼い主に直接販売する場合などについては、古い法律のまま生後49日を超えれば販売できることになった。例外扱いとされる理由は「天然記念物の保存のため」とされているが、説明になっていない。

 2019年の法改正にあたり「日本犬保存会(日保)」(岸信夫会長[当時])と「秋田犬保存会(秋保)」(遠藤敬会長)の二つの公益社団法人が、対象外とするよう強く求めたため、このようなゆがんだ状況が出現した。詳しい経緯はsippoの記事(「天然記念物の日本犬は8週齢規制の対象外に」)などでも書いた。また自民党衆院議員でもある日保の岸会長(当時)、日本維新の会衆院議員でもある秋保の遠藤会長が、2019年4月25日に「自民党どうぶつ愛護議員連盟」の総会で主張した内容の矛盾点については、拙著『「奴隷」になった犬、そして猫』の第5章で詳述した。

 そしてこの度、日本犬について別の取材をしていて見つけた、日保および秋保の幹部らによる過去の発言、記述を紹介してみたい。

●日保の先達たちは「五〇日から六〇日」「そのぐらい置かないとだめ」

 最初は、1977年11月発行の雑誌「愛犬の友」に掲載された対談。「司会」を務めているのは渡辺肇氏。日保に創立の頃からかかわっている、審査部長などを歴任してきた人物だ。

司会 (前略)大体しろうとの人が生まれた子犬を分けてもらってくるときに、これはいつごろがいいんだということを初心者は非常に知りたがっているんだが、親から離すのは、理論的には長く親のところに置いたほうがいいというのが理論だけれども、大体どのくらいでお分けになりますか。

荒木(筆者注・荒木元治氏。日保審査員などを歴任) 私の場合は五〇日から六〇日

石川(同・石川健平氏。数々の名犬を世に出してきた作出者) 五、六〇日だね

荒木 そのぐらい置かないとだめですね

藤原(同・藤原禎弘氏。日保審査員などを歴任) 五〇日か六〇日置いておいたほうが、どこに行っても健康に育ってくれますね。

 次は、1969年11月に出た「愛犬の友」の臨時増刊号。秋保の審査員などを歴任した安川博氏が「秋田犬子犬の選び方求め方」と題して、こんなふうにつづっている。

「お求めになられる頃(生後二、三カ月)の子犬では未だ耳も尾も、安定していないものもあります」

「乳ばなれ、即ち、母犬から子犬をはなす時点、生後二、三カ月位迄は十分注意を払い管理をしますので後天的損傷はまれにみるものです」

 お読みいただければわかるとおり、日保でも秋保でも先達たちは、8週齢かそれ以上での母子分離を妥当、当然であると見ていたのだ。

 当時といまとで、柴犬も秋田犬も、犬という動物としてなんら変化も進化もしていない。こうしたことからもやはり、2021年のいま、日本犬6種だけが例外的に49日を超えれば販売できてしまうのは、問題があると言わざるを得ない。犬のためにも、飼い主のためにもならない。

 次の法改正では、この日本犬除外規定について、絶対に見直す必要があるだろう。

ペットオークション(競り市)に出品され、競りにかけられる柴犬の子犬。手前はペットショップのバイヤーら(筆者撮影)
ペットオークション(競り市)に出品され、競りにかけられる柴犬の子犬。手前はペットショップのバイヤーら(筆者撮影)

朝日新聞記者

1976年東京都生まれ。98年、東京大学文学部卒。読売新聞東京本社を経て2001年、朝日新聞社入社。経済部記者として流通業界などの取材を担当した後、AERA編集部在籍中の08年に犬の殺処分問題の取材を始めた。15年、朝日新聞のペット面「ペットとともに」(朝刊に毎月掲載)およびペット情報発信サイト「sippo」の立ち上げに携わった。著書に『犬を殺すのは誰か ペット流通の闇』『「奴隷」になった犬、そして猫』(いずれも朝日新聞出版)などがある。

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