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NPO法人soarからの記事修正依頼について

小川たまかライター
NPO法人soarからの申入書(画像内の電話番号などの情報を消しています)

5月6日に公開した記事について、NPO法人soarから修正の依頼がありました。

 私としては修正する必要がないと思っていますが、soarからどんな点について修正のご指摘があったかについては書いておいた方が良いのかなと思い、この記事を書くことにしました。

 この件についての発端はsoar元理事、LITALICO発達ナビ元編集長・鈴木悠平氏による性加害です。私の記事は鈴木氏の問題行動について書いたもので、soarの対応を批判する意図はありませんでした。ただ、こういう内容の修正依頼が来てしまうと、soarの対応についても疑問を持たざるを得ず残念に思います。

 鈴木氏が沈黙し、soarや他の理事の方が目立ってしまうことで(後述しますが、鈴木氏以外の理事の方が、ツイッター上での二次加害投稿を理由に先日辞任されています)、注目が鈴木氏ではなくsoarに集まると思うのですがそれで良いのでしょうか。

 ※この記事は、5月6日に公開した記事「「尊敬していたからこそショックだった」LITALICO発達ナビ元編集長が複数女性に性加害」に興味を持っていただいた方向けの記事です。

【5月26日15時30分追記】

 性加害を行ったのは鈴木氏ですが、鈴木氏を理事に迎え、イベントなどにたびたび登壇させて社会的地位を与えていた責任が団体にはあります。

 その団体が、被害実態の一部を明らかにした記事に弁護士を通じて修正・追記を求める行為は、被害当事者を含む関係者にも影響を与えるものです。

 組織やコミュニティの中にはときとして理不尽な抑圧が当然のように存在し、コミュニティ内の常識は、コミュニティ外での非常識である場合は往々にしてあります。一歩外に出るとそれはおかしいかもしれない、ということを伝えるための記事です。【以上、追記】

 修正依頼は、soar代理人の小野田峻弁護士からの「申入書」のかたちで届きました。「ご修正をお願いしたい箇所について」は3つだそうです。

(1)

(原文)

Aさんはこの食事会があった頃、鈴木氏と共同で行う仕事をsoarから打診され、これを断るために工藤氏に懸念を打ち明けた。この懸念の理由が鈴木氏からの性被害であったことを伝えたのは2020年1月。

(soarの修正案)

Aさんはこの食事会があった頃、鈴木氏と共同で行う仕事をsoarから打診され、これを断るために工藤氏に懸念を打ち明けた。この懸念の理由が鈴木氏からの性被害であったことを伝えたのは2020年1月19日(ただ、工藤が被害の具体的な内容を認識したのは、2021年年明けの聞き取り調査時であるという)

※「工藤氏」は、soar代表理事の工藤瑞穂氏

 修正を申し入れたい理由は、

「Aさんに関して、工藤が何らかの性加害事案が発生したことを認識した最初の時期は、確かに2020年1月です。しかし、その時点ではあくまで、工藤は、Aさんから何らかの性加害事案が発生した旨の連絡しか受けておらず、また、個人間のプライベートにおける事案であったことや、被害の詳細については聴くことをはばかられる内容だったため、その詳細を把握しておりませんでした。

 ただもちろん、当時、工藤は元理事に対して一定の確認作業を実施しています。しかし、元理事・被害者双方から、当事者間で謝罪等を含めたやりとりがなされている旨や、ヒアリングの実施などの法人としての介入までは求めない旨の連絡を受けていた関係で、被害の具体的な内容についてまでは把握するには至っておりません。

(略)

 少なくとも、上記下線部の記載内容のままでは、記事を閲覧する一般読者の方々に、申入団体が、通常人Aさんの性被害の詳細について2020年1月時点でこれを把握し、かつそれを黙認していたとの誤解を生じさせてしまう恐れが極めて高く(以下略)」

 だそうです。

 性加害事案が発生したことを2020年1月の時点で認識したのは事実。でも具体的に知ったのは2021年年明けに調査してからなので、それを書けと。

 認識していたが把握していなかったって、そんな「募っているが募集はしていない」みたいなこと言われても。

 結局、性加害について認識していたものの、理事解任のために調査する必要があると判断するのに2021年年明けまでかかった事実は変わらないと思うのですが。

(2)

(原文)

この席で、鈴木氏がBさんの体に触れる行為があり、これに気づいた工藤氏からBさんに「さわられている?大丈夫?」とLINEで連絡があった。工藤氏以外は鈴木氏の行為に気づいていなかったが、この日は早々に解散となった。

(soarが希望する追記※要約)

・被害に気づいた工藤氏が「私の隣においで」と声をかけてBさんに席を移動させた事実

・翌朝すぐに工藤氏から鈴木氏に連絡し、謝罪を促した事実

・Bさんから工藤氏に、工藤氏の対応を感謝する内容のメールがあった事実

 上記内容を主張されたいのであればsoarさんがご自身のサイトで行えば良いことで、情報の間違いがあるわけではないのに記事を修正・追記せよという依頼には従いかねます。

 また、この追記が入ると、工藤氏が被害を黙認せずにちゃんと対応していた事実を読者により伝えられるということなのでしょうか。むしろ、謝罪を必要とするほどの重大性をこのとき(2019年12月)にはっきり認識していたのに、鈴木氏にその後1年以上理事を続けさせ、イベントにも登壇させ続けたという事実が際立ちませんか。

 私の個人的な印象としては、性加害について「工藤氏が鈴木氏に謝罪を促し、Bさんが工藤氏に感謝を示したから一件落着」という判断をした、と受け取ってしまうのですが。

 2021年年明けに調査が開始されるまで、Bさんは、より深刻な被害を工藤氏に打ち明けることができなかった事実と合わせて考えると、このときの対応を強くアピールされることにどれほどの意味があるのか申し訳ないですがわかりません。

 私は元の記事でsoarの対応ではなく、鈴木氏の加害行為に焦点を当てています。繰り返しますがsoarの対応を批判する意図のある記事ではありません。soarの対応を明確に批判するだけの論拠を記事執筆時に持たなかったからです。

 ただ、わざわざこのような修正依頼をいただいたことで、soarさんがどういった部分に強くこだわっていらっしゃるのかがわかり、良かったです。

 AさんBさんはsoarの対応に当時は大きな不信や不満を抱いていたわけではないことを私も聞いていますが、一方で現在大きな不信を抱いている被害者の方もいます。元の記事では被害者の方それぞれのsoarへの思いを書いていません。soarに焦点を当てるための記事ではなかったからです。

 私は元の記事で工藤氏のLINEでの対応を書きましたが、この記述を読んで「良い介入」と受け取る人もいれば、「このとき介入していたのに、調査まで1年以上かかったのはなぜか」と感じる人もいるでしょう。

 受け取り方は人によって違いますので、記事内容を思う通りにコントロールしたところで、読者の受け止め方まではコントロールできないとお伝えしたいです。

(3)

(soarの追記希望※要約)

・soarではない個人のカンパ窓口を書くだけではなく、soarが設置している外部相談窓口の担当弁護士や、医療的ケアが必要な場合は専門職や専門機関につなぐ対応をしていることなどの追記を希望

 これは私の責任で書く記事ですので、どの窓口を書くかは私の判断ではないでしょうか。少なくとも、加害行為・二次加害行為をした理事がいた団体側からの要請で追記すべきこととは思えません。

 先日この件に関連して、オンラインカウンセリングサービスcotree代表の櫻本真里氏が、ツイッター上での投稿の責任をとってsoar理事を辞任しています。櫻本氏の投稿は「二次加害」にあたるものという指摘が相次いでいました。他の理事からもこのような行いがある状況で、soarの用意する相談窓口を全面的に信頼してほしいというのは現時点で難しいと思います。

 このほか、soar代表理事・工藤瑞穂氏からの言伝も申入書に入っていました。「当団体へ取材をしていただけなかったことについては、残念に感じています」「一部記載については、事実関係が異なっていたり、情報が抜け落ちてしまっていたりする関係で、誤解を生みかねない表現になっている箇所があり」などなど書かれていました。

 残念に感じられているとのことで申し訳なかったと思うのですが、申入書から私が理解したのは、むしろ私の記事に事実誤認がなかったことです。

 ただたしかに、申し入れていただいた内容によって、soarさんのこだわりがよくわかりました。最初に公開した記事では鈴木氏の加害行為に焦点を絞りたい意図がありました。申し入れをいただいたことで、結果的にsoarさんについて書く機会をいただき、ありがたいと思っています。

 ちなみに工藤氏からは「もし可能であれば、記事からこちらへの導線を貼っていただければ幸いです」ともありました。

 5月6日10時30分に公開した記事に、soarが5月6日17時頃に出したリリースと、5月14日に出したリリースのURLを貼れと。いやいや、広報・PRじゃないんだから。タイアップ記事じゃないんだから。

 3月末の理事解任公表時から少なくとも数週間はそのリリースをサイト内の非常にわかりづらい場所に置いてらしたのに(現在はトップページ下部からリンク)、状況が変わったからアピールせよと言うのですか。

 とはいえ、私も通常こういうお願いには比較的寛容な方なのですが、「…各修正・追記依頼に応じていただけるか否かにつき、当方までご回答ください。他方、もし応じていただけないとのことであれば、その具体的理由を、裏付けとなる法的根拠や証憑のご提示とともに、ご説明ください」と書かれたら、「それは嫌だな」と思ってしまいます。

 一番よくわからなかったのは、申入書の最後にあった下記の文章でした(太字は筆者による)。

 なお、申入団体としては、貴殿のご回答の有無及びその内容次第では、やむを得ず、上記下線部の目的の遂行に必要な範囲内で、本申入書の内容の一部または全部を、自社webページなどにおいて公開する可能性がありますので、この点、何卒ご了承ください。

 また、本件に関しましては、当職が窓口となっておりますので、申入団体及びその関係者らに対する個別の御連絡(郵便物等の送付や個別訪問を含む)、及び、当職とのやりとりに係る対外的な発信はご遠慮ください

 記事の修正・追記をしなければならないけれど、soar代理人の弁護士さんとのやりとりについて対外的な発信はしてはいけないとは。

 「神からのお告げがあったので記事を修正・追記します」みたいな感じにしろってことでしょうか……。被害当事者の方からも、soarと面談を行うことについて対外的発信をしないよう求められたという話を聞いており、不思議なやり方だなと思っています。なぜ口止めできると思っているのか。

 あと、別に個別訪問や郵便物送付するほどsoarさんに熱い関心があるわけではなかったので、告白してないのに拒絶された、みたいな気持ちになりました。

 この記事では長くなるので申入書の全文を引用していませんが、自分に都合の良い部分だけ引用したりしたつもりはありませんので、必要であればsoarさんのwebページなどに工藤氏のお便り含め全文掲載すれば良いのではないかと思います。公開されることで私が困る内容ではないと考えています。ただその際には、被害当事者の方々への充分な配慮をお願いしたいです。

申入書の一部。申入書には法的根拠が提示されていないのに、こちらが応じない場合は法的根拠を提示せよと書かれているのが謎でした。そういうものなのでしょうか。
申入書の一部。申入書には法的根拠が提示されていないのに、こちらが応じない場合は法的根拠を提示せよと書かれているのが謎でした。そういうものなのでしょうか。

 現在、soarさんに複数の点について質問をお送りしています。

※画像は筆者によるスクリーンショット

ライター

ライター/主に性暴力の取材・執筆をしているフェミニストです/1980年東京都品川区生まれ/Yahoo!ニュース個人10周年オーサースピリット大賞をいただきました⭐︎ 著書『たまたま生まれてフィメール』(平凡社)、『告発と呼ばれるものの周辺で』(亜紀書房)『「ほとんどない」ことにされている側から見た社会の話を』(タバブックス)/共著『災害と性暴力』(日本看護協会出版会)『わたしは黙らない 性暴力をなくす30の視点』(合同出版)/2024年5月発売の『エトセトラ VOL.11 特集:ジェンダーと刑法のささやかな七年』(エトセトラブックス)で特集編集を務める

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これまで、性犯罪の無罪判決、伊藤詩織さんの民事裁判、その他の性暴力事件、ジェンダー問題での炎上案件などを取材してきました。性暴力の被害者視点での問題提起や、最新の裁判傍聴情報など、無料公開では発信しづらい内容も更新していきます。

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