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「性犯罪刑法の改正を強く願っています」 10回目のフラワーデモで当事者が語った言葉

小川たまかライター
1月11日に行われた埼玉フラワーデモで撮影

 昨年4月から毎月11日に全国各地で行われているフラワーデモ。当初は東京・大阪など限られた地域だったが、10回目を迎えた1月11日には、全国34都道府県と海外(バルセロナ)にまで広がった。

 フラワーデモは、昨年3月に相次いだ性犯罪の無罪判決をきっかけに始まった。刑法性犯罪規定の見直しや、性暴力の根絶に向けての意識の変化を訴えている。

 今回、埼玉でのフラワーデモを取材した。埼玉では、昨年12月に初開催。今回が2回目のフラワーデモとなった。

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■性被害、「ウソをついている」と噂された

 埼玉フラワーデモは東京フラワーデモの開始より1時間早い18時からスタート。JR浦和駅東口駅前に40人ほどが集まった。この日はフラワーデモ主催者のひとり、北原みのりさんが冒頭にマイクを持ったほか、被害当事者を中心とする団体、一般社団法人Springの代表・山本潤さんもスピーチを行った。

 埼玉フラワーデモの呼びかけ人のひとり、白田真希さんは、「前回には言えなかったこと」と、自らの幼少期の被害を語った。

 小学校低学年の頃、学校の帰り道に若い男性から性被害に遭ったこと。被害を警察に届けたあと、近所で「あの家の子どもはウソをついている」と噂されたこと。

 さらに高学年になってから、帰宅途中に他の学校の男子児童たちから体を触られたことがあった。そのときから、スカートを履けなくなった。就職活動中、最初の面接の日に電車内で痴漢に遭い、それからは化粧をすることもなくなった。

「私は今、髪も短いし化粧もしていない。女子トイレでよく男性だと間違われるし、性的マイノリティなのかと聞かれることもあります。(男性パートナーと)事実婚しているし性的マイノリティではないけれど、否定したらLGBTの人たちを否定することになるのかもしれないと思いそれもできなかった」

「自分が被害に遭ったと言って信じてもらえるのだろうかとも思った。けれど、私も『metoo』です」

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■自分たちの世代の「宿題」

 呼びかけ人で、当日の進行を担当したコミュニケーションインストラクターの野田静枝さんは普段、障がいを持つ人やDV被害者就労支援などを行っている。離婚後、ひとりで子どもを育ててきた経験を持つ。

「1980年代、離婚相談で『あなたのわがままなんじゃないの』と言われました。離婚は女のわがままと言われる時代だった」

 シングルマザーとして広告代理店で働き始めてからは、当たり前のようにセクハラがあった。

「焼き肉屋の個室でスカートの中に手を入れられたけれど、私は『冗談はやめてください』としか言えなかった。(性)暴力を受けているのだから、私だって殴る蹴るの暴力をしたかった。でも仕事を失いたくないからそれはできなかった」

 当時は、セクハラされても笑って機嫌を取ることが「大人の対応」と言われた。けれど、「本当の『大人の対応』はピシャリとセクハラをやめさせることだった」と野田さんは言う。

「セクハラをやめさせられなかった、自分たちの世代の宿題。だからできる限り、この問題には取り組んでいく」

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■元交際相手、養父……知り合いからの性被害

 この他にも被害当事者からのスピーチが続いた。 

 10代の頃、元交際相手だった年上の男性からレイプ被害に遭った女性は、「勇気を出して警察に行き、10時間かけて話したけれど被害届を出させてもらえなかった」経験を語り、「性犯罪刑法の改正を強く願っています」と締めくくった。

 小学生の頃、母親の再婚相手から被害に遭った漫画家のヤマダカナンさんは、発信や対話を目的とした虐待当事者グループを作っている。

「私の場合、ずっと被害を封じ込めて生きてきたけれど、妊娠・出産でフタが開いてしまった。養父と、止めなかった実母への怒りを自分の子どもにぶつけないように踏ん張って生きている。記憶をたどり、怒りの感情を元の悲しみに戻す作業をしている」

「子どもを加害者にも被害者にもしたくないし、加害する親にもなりたくないから頑張っている。そういう人もいると知ってほしい」

 性被害は見知らぬ人から行われるものと思われがちだが、実際は元交際相手や家族、知人など、知り合いからの被害が多いことがわかっている。

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■「3月には47都道府県で」

 山本潤さんは、2017年の改正時に見直し検討開始の「目処」とされた2020年になった今も法務省からアナウンスがないことを指摘。「ネット上で改正に向けた署名を行っているので、ぜひ署名を」と呼びかけた。

「3月の開催時にはフラワーデモを47都道府県に広げたい。まだ開催していない地域に知り合いがいる人は、ぜひ声をかけてみてほしい。

(今現在も、性被害者への二次加害はネット上などで絶えないが)声を上げている私たちがおかしいのではなく、そういうことを言う人がおかしいと訴えていきたい」

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■2月11日、3月8日に開催予定

 私が今回、埼玉フラワーデモを取材した理由のひとつは、12月の開催時に被害当事者のスピーカーへ向けて通りがかった人から心ない野次が飛ばされることがあったと聞いたからだった。応援の意味を込めて現場を見たかった。参加者の中には同じような思いで参加した人もいた。

 今回、野次などはなく、話し終わったスピーカーに参加者らが声をかける姿があるなど全体的にあたたかい場だと感じた。白田さんら主催者は、再発防止のために警備役を増やすなど準備に力を入れたという。

 次回2月11日の埼玉フラワーデモは今回と場所を変更し、大宮駅前で行う予定。

 全国各地のフラワーデモは、次回は2月11日、次次回は3月8日の国際ウィメンズデーに行われる予定。開始から1年にあたる3月をいったんの区切りとし、この日までに47都道府県での開催を目指している。

(記事内の写真はすべて筆者撮影)

ライター

ライター/主に性暴力の取材・執筆をしているフェミニストです/1980年東京都品川区生まれ/Yahoo!ニュース個人10周年オーサースピリット大賞をいただきました⭐︎ 著書『たまたま生まれてフィメール』(平凡社)、『告発と呼ばれるものの周辺で』(亜紀書房)『「ほとんどない」ことにされている側から見た社会の話を』(タバブックス)、共著『災害と性暴力』(日本看護協会出版会)『わたしは黙らない 性暴力をなくす30の視点』(合同出版)など

トナカイさんへ伝える話

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これまで、性犯罪の無罪判決、伊藤詩織さんの民事裁判、その他の性暴力事件、ジェンダー問題での炎上案件などを取材してきました。性暴力の被害者視点での問題提起や、最新の裁判傍聴情報など、無料公開では発信しづらい内容も更新していきます。

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