緊急避妊薬オンライン処方「ただし性犯罪被害者に限る」は性被害者を救わない

(写真:アフロ)

 海外の多くの国では薬局で購入可能な緊急避妊薬(アフターピル)。日本では直接病院を受診する必要があり、入手までに時間がかかることが課題とされてきた。そんな中、ようやくオンライン処方の解禁に話が進んでいるが、なんと「近くに受診可能な医療機関がない、あるいは性犯罪の被害を受けて対人恐怖がある場合に限る案」が出ているという。

【参考】緊急避妊薬のネット処方解禁へ 性犯罪被害者らに限定で(朝日新聞デジタル/2019年5月31日)

 アフターピルは72時間以内の処方が必要。妊娠を望まない女性の心身を守るために、海外のようにできる限り入手しやすくするべきと筆者は考える。オンライン処方の解禁は議論が一段階進んだかのように思えたが、まさかの“ただし性犯罪被害者か近くに医療機関がない人に限る”。甚だナンセンスだと感じる。

 性教育などを行うNPO法人「ピルコン」の染矢明日香理事長は「オンライン診療を性被害者のみに限定する議論があること自体に心が痛む。性被害に遭った人が『あれは性被害だった』と自覚できるまで、時間を要することや、思い出すこと自体に精神的な負担がかかるもことある」と話す。

 染矢理事長も言うように、性犯罪の被害を受けた人に限定するという考え方は、結果的に被害を受けた人を苦しめる可能性がある。これまで性被害を取材してきた立場からの疑問を下記にまとめる。

一番右が染矢理事長。5月16日に衆議院議員会館で行われた勉強会「緊急避妊薬の安全で迅速なアクセスの確保~オンライン診療の課題とこれからを考える~」より(筆者撮影)
一番右が染矢理事長。5月16日に衆議院議員会館で行われた勉強会「緊急避妊薬の安全で迅速なアクセスの確保~オンライン診療の課題とこれからを考える~」より(筆者撮影)

(1)誰が「性犯罪の被害」を認定するのか

 「性犯罪」の被害者になれない「性暴力」の被害者は多い。性犯罪は、性暴力の中の氷山の一角でしかない。たとえば、無理やり性交された経験のある女性のうち、警察に通報や相談を行ったのはわずか2.8%だ(内閣府調査/H29年)。「性暴力被害」ではなく「性犯罪被害」限定なのだろうか。警察へ相談した人や、被害届が受理された人しか受け付けないのであれば、多くの被害者は救われない。

 あるいは警察への通報などは必要ではなく、「性被害に遭った」と申告すれば処方を受けられるのだろうか。その場合、次の懸念がある。

(2)二次被害の可能性があるのではないか

 「性被害に遭った」と申告した人に対して、「本当に被害に遭ったのですか?」という詮索が行われることはないのか。

 内閣府調査によれば、無理やり性交などをされた経験のある女性は13人に1人の割合でいる。この調査はあまり知られておらず、一般の認識との間に解離があると考えられる。

 性被害は「見知らぬ人から夜道で襲われること」といったイメージを持つ人も多いが、実際は知り合いからの被害がほとんどだ。想像上の性被害と現実の性被害が異なるために、性暴力の知識がない人が被害者に向かって「それは性被害じゃないよ」と言ってしまうなどの二次被害は多い。

 また、家族や親類からの被害の場合、被害者は加害者が誰かや被害の状況を詳しく言えないこともある。オンライン処方で、被害者が問い詰められる可能性はないのか。

 産婦人科でアフターピルを処方してもらおうとした被害者が「彼氏が失敗しちゃったんだね」と言われたなどといった二次被害も報告されていることから、医療関係者に性被害の実態や対応が広く認知されているとは思えない現状がある。

(3)パートナーからの性被害はどう扱うのか

 現在の刑法でも、配偶者や恋人からの暴行・脅迫を伴う性暴力は裁かれる。ただし日本ではパートナーからの性被害を「被害」と認識する人が少ないため、通報は非常に少ない。被害者支援の現場では、「避妊に協力しない」こともDVや性暴力のひとつと考えられているが、これもまた一般の認識が追いついているとは言えない。

 「パートナーが避妊に協力してくれなかった」という申告があった際に、オンライン処方は可能なのか。そういったケースは想定されているのか。

(4)身元を明かして性被害を申告できる女性がどれだけいるか

 性被害に遭ったことを申告できない人も当然いる。前出の内閣府調査によれば、被害を誰にも相談しなかったと回答した女性は全体の58.9%。医療関係者への相談はわずか2.1%だ

 産婦人科医での対面の診察の場合では、性被害に遭ったことを隠してアフターピルの処方を受ける女性もいる。しかし、オンライン処方では、受診者は身元を明かして性被害を申告しなければならないことになる。

 オンラインで、身元を明かして性被害に遭ったことを申告しなければならないことは、どれだけ受診のハードルを上げるか。

 また、性被害者にほぼ限定した場合、オンライン処方の運営元に性被害者の個人情報リストが残ることにならないのか。このような懸念を払拭するための方法は簡単だ。オンライン処方を性被害に遭った人に限定しないことだ。

医療現場で被害者をジャッジしないでほしい

 以上の4点をまとめて伝えたいのは、医療の現場でオンライン処方を望む人や性暴力被害者をジャッジしないでほしいということだ。性暴力の被害者は、被害を開示したときに、相談相手から「本当なのか」と疑われることがよくある。典型的な二次被害だ。

 同じことが医療の現場でも行われたとしたら、被害者はどうやって望まない妊娠の恐怖から逃れればいいのか。緊急時の対応について、性暴力の被害者かどうかで線を引こうとするのは危険なことだ。

 こんなことは余計な心配だと思う医療関係者もいるかもしれない。しかし、検討会の参加者の中で、性被害の実態に詳しい人は何人いたのだろう。

 検討会の12人の委員のうち、女性はただ1人。「女性の体のことを決める会議なのに、この構成は問題ではないか」と懸念があったことが伝えられている。【参考】緊急避妊薬オンライン処方 なぜ「条件つき」? 厚労省近く解禁(毎日新聞/2019年5月11日/途中から有料記事)

 参加委員の医師から「女性に知識がない。女性に教育しなければならない」「受診に精神的負担はない」といった発言があったという証言もある。

 冒頭の朝日新聞記事によれば、「(アフターピルが)容易に手に入るようになると適切に避妊されなくなる」と懸念する医療関係者の意見が強いという。裏を返せば、適切な避妊をせずに妊娠をした女性にはアフターピルを簡単には与えない“罰”が必要というような意見だと感じる。アフターピルが市販され、薬局で購入可能な国が多くある中で日本は完全に遅れている。

 染矢理事長は言う。

「避妊の失敗は誰にでも起こりうること。悪用・濫用への懸念があるのであれば、オンライン診療での診察機会で、避妊の情報提供や性被害やDV被害の支援につなげられるガイドラインを整えるべき。なぜなら、緊急避妊薬を求めるということは、その人は妊娠を望んでいないということなのだから」

 明らかな性犯罪でも、パートナーが避妊に協力しなかったケースでも、避妊の失敗であっても、望まない妊娠をするのは女性だ。女性を疑うのではなく、女性や支援者らの切実な声を聞いた検討をお願いしたい。