「13人に1人」が無理やり性交された経験 なぜか知られていない内閣府調査の衝撃

(写真:アフロ)

 先日、とある会合に出席した際のこと。マスコミ関係者が多く集う会で、この日のテーマは「セクシャルハラスメント」だった。

 会の中で、私もメンバーとして参加する「性暴力と報道対話の会」が行った、マスコミで働く人への「セクシャルハラスメント アンケート」の結果が語られた。アンケートに答えた127人のうち、122人(女性121人、男性1人)がこれまでセクハラにあったことがあると回答している。

 この結果について、出席者のひとりが「少し偏った結果だと感じる」と発言した。

 この会で配られた資料の中には、性犯罪被害に詳しい臨床心理士による「考察」もあり、その冒頭にはこう書かれている。

「こうしたアンケートに回答する人々は、この問題に興味関心を持っている人であり、実際のセクシュアル・ハラスメントの発生率より高い結果が出ていると推測されます。しかし同時に、このアンケートに回答した人々には被害の影響で業界から去った人や、傷が生々しくアンケートに回答することさえも難しかった人は含まれていません。この両者を鑑み、アンケートの結果を考える必要があります」

■性被害に関する「数字」を知っていますか?

「少し偏った結果だと感じる」という発言を受けて、アンケート結果を発表した登壇者は、会場内にこう質問した。

「皆さん、強姦の認知件数は、どのぐらいだと思いますか?」

 当てられた数人が、「1万件ぐらい……?」「数千件でしょうか?」などと答える。

「平成28年の強姦の認知件数は、989件です(※1」(※)平成28年の犯罪情勢 (警察庁)

 登壇者は続けてこう質問した。

「それでは無理やり性交などをされた経験があると答えた女性の割合は、何人に1人だと思いますか? 内閣府調査です」

 今度は別の数人が当てられ、それぞれ「1000人に1人ぐらいでしょうか?」「300人に1人ぐらい……?」などと答える。

 これを読んでいる読者の方は、何人ぐらいだと思われるだろうか。

 答えは、13人に1人だ。

 内閣府の「男女間における暴力に関する調査」(平成29年度調査)によれば、女性の7.8%、男性の1.5%が、無理やりに性交などをされた経験がある と答えている。女性の13人に1人、男性の67人に1人に被害経験がある計算となる。

 「性交など」とは、「膣性交、肛門性交、口腔性交」のいずれか。相手の性別は問わず、「無理やり(暴力や脅迫を用いられたものに限りません)」という聞き方をしている。

 この調査は3年に1回行われている。昨年、性犯罪刑法の改正が行われ、「強姦罪」が男性も被害者に含まれる「強制性交等罪」に変わった。前回までの調査は、女性のみに「無理やり性交された経験の有無」を聞いていたが、刑法改正によりこれまでの「強姦(女性を姦淫すること)」が「強制性交等(膣性交、肛門性交、口腔性交のいずれかを強要すること)」になったことから、アンケート内容が変わった。

 ちなみに平成26年度調査では、「女性の約15人に1人は異性から無理やり性交された経験がある 」という結果が出ている。

■性犯罪にカウントされない性暴力の数

 

 女性の13人に1人、男性の67人に1人。

 この数字を知って、おそらく「そんなに多いのか」と思う人が多いのではないだろうか。私は以前から、なぜこの数字がもっと深刻に捉えられないのかと不思議に感じていた。民間が勝手にやっているわけではない、国の調査なのに。性暴力の被害者支援を行っている人や、性暴力を取材する記者たちなら知っている数字だが、一般的に広く知られている数字ではない。

 ここからは推測だが、この数字が重く捉えられていない理由は2つ考えられると思う。

 1つは、「無理やりに性交された経験」は、イコール性犯罪とはならないから。前述の通り、アンケートでは「無理やり(暴力や脅迫を用いられたものに限りません)に性交など(性交、肛門性交または口腔性交)されたことがありますか」と聞いている。

 強制性交等罪や強制わいせつ罪には「暴行脅迫要件」がある。このため、無理やり性交などをされたと本人が感じていても、相手が暴力や脅迫を用いなかった場合は「強制性交」の認知件数とはならない。つまり、「無理やりに性交された経験のある人の割合」は、性暴力の数を意味しても、その数だけ性犯罪が起こっていることを意味しない。

 もう1つは、加害者との関係だ。アンケートでは、無理やり性交などをされた経験がある人に、加害者との関係を聞いている。多いのは、「配偶者・元配偶者」(女性26.2%、男性8.7%)、「交際相手・元交際相手」(女性24.8%、男性17.4%)。

 いわゆるデートDVにあたるようなケースだが、加害者が配偶者や交際相手という場合、「これは性暴力だ」「警察に相談したい」と考える人が少なく、周囲も「そのぐらいで」と言ってしまいがちだ。

 しかし、たとえ性犯罪にはカウントされない性暴力だとしても、配偶者からの行為であって警察に届けるほどの被害感情がなかったとしても、そこに性的なコミュニケーションの齟齬があったことは間違いない。

 女性の13人に1人、男性の67人に1人という数と、私たちはもう少しきちんと向き合わなければならないのではないか。

■見えている景色の違い、想像を

 ところで、冒頭で紹介したマスコミ関係者の「少し偏った結果だと感じる」という発言に戻る。臨床心理士による「考察」でも述べられている通り、この問題に興味関心のある人が積極的に答えた可能性があることから、実際のセクシュアル・ハラスメントの発生率より高い結果が出ているとは考えられる。

 一方で思うのは、それでは、どの程度の結果なら「納得できる」と感じるのかは、その人の経験や、その人の所属するコミュニティによって大きく異なるだろうということだ。

 痴漢されて警察に通報や相談した女性の割合は、10人に1人という調査結果がある(※「電車内の痴漢撲滅に向けた取組みに関する報告書」(警察庁/2011年))。

 この調査結果について「そんなに少ないのですか」と言う人もいるのだが、私の個人的な実感としては「少ない」とは思わないし、むしろ「もっと少ないのでは」と感じる。私自身もそうだが、何十回も痴漢被害に遭っていても、1度も警察に通報していない人の話を多く聞くからだ。

 他の例を挙げれば、「『若者の性』白書 第7回青少年の性行動全国調査報告」(日本性教育協会)によれば、痴漢被害経験のある女子大生は38.3%、男子大生では6.4%、性的行為の強要に遭ったことがある女子大生は6.1%、男子大生は2.3%(2011年)。この割合を、「多い」と感じる人もいれば、「少ない」と感じる人もいるのではないか。

 以前、あるテレビ局が性犯罪の特集を行った際、成人女性の7割は、過去に何らかの性被害経験があるという調査結果を放送した。放送後、「被害者がそんなにいるわけがない。自分の周囲の女性に聞いたが、みんなそんな経験はないと言っている」と怒りのクレームが何件か入ったという。その番組を担当した男性ディレクター曰く、「もし被害に遭っていても言う相手を選ぶよね」。私は女性の7割に何らかの性被害経験があるという割合を聞いて、決して大げさだとは感じない。クレームした人とは、見ている景色が違うのだ。

 もしあなたに、Facebookの「お友達」が男女100人ずついるのであれば、その中に男性なら1人、女性の場合は7人ぐらい、「無理やり性交などをされた経験がある人」がいるかもしれない。性被害は決して珍しいことではないから、あなたにとって驚くような数字を聞いたとしても、どうか簡単に「もっと少ないはずだ」と一蹴しないでほしい。

【動画】性暴力を受けている子どもたちへ(第2版)

世界では、女性の5人に1人、男性の10~20人に1人。