「コスプレモデル」の募集、AV撮影だった 出演強要の巧妙手口
2月5日、東京都内で行われたNPO法人ヒューマンライツ・ナウ(HRN)主催の「AV出演強要問題シンポジウム」。このシンポジウムでは主に、昨年5月に執行猶予判決が出た大阪の事例についての解説が行われ、問題が大きく報じられて以降も被害報告が相次いでいることについての懸念や、残り続ける課題が論じられた。
■被害者200人以上の可能性、立件は3件
HRN理事の雪田樹理弁護士と、「PAPSポルノ被害と性暴力を考える会」で当事者からの相談を受ける金尻カズナ氏が解説したのは、昨年5月29日、モデル募集サイト運営者が大阪府警に逮捕された事件。
この事件では、少女らをだましてアダルトビデオに出演させた男(※)が逮捕されたが、容疑は有害業務への勧誘にあたる「職業安定法違反」や、契約書への記入に関する「強要」など。女性の意志に反してわいせつな行為を撮影したことについては立件されなかった。
報道によれば、男はDVD販売などで計約1億4700万円の売り上げがあり、被害者は200人以上の可能性があるという。このうち、立件されたのは3件。
昨年10月20日の大阪地裁判決は懲役3年及び罰金30万円、5年間の保護観察付執行猶予。検察は控訴している。
(※)シンポジウム内では「K氏」と説明されたため、本記事では新聞の引用箇所以外では「K氏」と表記する。
■事件に関する報道1
事件に関する報道は次の通り。(一部引用)
(※)その後、6月20日に強要の疑いで再逮捕
■事件に関する報道2
■美容院代などを先払いし、断りづらくさせる手口
実際にこのサイトの被害者から相談を受けていたという金尻カズナ氏は、「相談者が特定されないよう同じ手口の複数の事例を一般化したもの」と断った上で、この事件について詳細な解説を行った。
・相談事例(同じ手口の複数の事例を一般化したもの)
Aさんはコスプレが好きで、この趣味を活かせるアルバイトを探していた。
検索してサイトを見つけた。「アイドル1日体験」などと書いてあった。
応募するとすぐにメールの返信があり、顔写真を送るように言われた。
顔写真を撮影して送ると、「合格」「撮影日について日程調整しませんか」とメールが来た。
Aさんは撮影のために地方から上京。交通費はK氏が支払った。
待ち合わせ場所で会うと、K氏は「美容院で髪形をセットしよう」と提案。美容院の代金もK氏が払った。
その後、マンションの1室に案内される。2DKほどの室内にコスプレ衣装が並んでいる。
K氏が“机”に座り、契約書を読み上げる。
契約書の最後に、「アダルトの撮影がある」とある。
聞き返すと、「服を着てちょっと撮るぐらいだよ」とはぐらかされた。
密室で1対1の状況。促されるままに契約書に名前を書いた。
撮影は3回あり、アルバイト代の支払いは3回目の最後と説明をされる。
1回目は着衣のままのコスプレ撮影。
しかし2回目の撮影ではセーラー服とともにマイクロビキニが用意されていた。
Aさんが「やりたくない」と言うと、「それなら1回目の報酬も払えない」「この前の美容院代、今払えるの?」などと言われる。
3回目の撮影で、急に「まだ実技やってないよね?」「まだベッド行ってないよね?」などと言われ、そのまま性行為の撮影を行われた。
その後、「ちゃんとやっていないから」という理由で、当初提示されていた額の半額ほどの金額が支払われた。
会話を撮影する際には「バカっぽい受け答えをして」などと指示された。
■執行猶予期間中の犯行だった
金尻氏は、地方から上京する少女が狙われやすいことや、美容院代や交通費を先に支払うことで、撮影を断りづらい状況を巧妙に作り上げたことを指摘。また、2回目の撮影の際に露出度の高い衣装を用意するなど、段階を踏む過程で強く断れないタイプの少女を見極めた可能性に言及した。
また、被害者が被害者支援機関に相談を始めると、K氏からの「手書きのラブレター」が自宅に届いたという。これは被害者が撮影に喜んで応じていたかのような記述が含まれる手紙であり、金尻氏は「撮影の同意があったというアリバイ作りだったのではないか」と指摘した。
このほか雪田弁護士は、2012年にK氏が児童ポルノ禁止法違反で執行猶予付き判決を受け、執行猶予期間に今回の事件の犯行に及んでいたことを指摘。運営サイトには「お仕事は18歳からです」などの記述があったという。
■起訴への高いハードル 欺罔による勧誘の刑事罰を
前述した通り、判決では5年間の保護観察付執行猶予がついた(検察が控訴中)。支援者らは「(判決は)とても軽い」印象を持ったという。
この事件では、契約書の記入に関しての「強要」は認められたが、一方で合意のない性行為の撮影や、出演に関しての強要は犯罪事実とされなかった。量刑の理由は「女性の本意に反してわいせつな行為を行わせて撮影させたことや精神的苦痛を量刑上過度に重視すれば起訴されていない事実を処罰することになる」ため。
雪田弁護士は、事実関係については裁判所も、巧妙かつ悪質な手口であり卑劣と認定していたと指摘。しかし、強制わいせつや準強制性交等罪(旧・準強姦罪)による起訴は行われていない。K氏は裁判で起訴事実について争わなかったが、200人いた可能性のある被害者のうち、警察が事情を聞いたのは19人。そのうち、起訴された事件は3件のみだった。
雪田弁護士は、「被害者の刑事手続きへの協力が極めて困難」であり、トラウマや被害を撮影した映像が残っていることに対する心理的抵抗などによって被害者が具体的な証言を避けることが、立件へのハードルのひとつと指摘した。
また、「準強制性交等罪」などで起訴しても、「抗拒不能」(本当に抵抗が不可能だったのかどうか)に関して被害者にとって厳しい判断が行われるケースがあることを指摘。※被害者に合意がなかったことが認められても、その意志が相手に伝わっていなかったと認定された場合、「無罪」となることがある。詳細は、拙稿「【性犯罪刑法改正】一番大事な「同意」の話」の「■加害者が無罪になった理由は「無神経」だったから」。
現状では、抗拒を著しく困難ならしめる程度の暴行脅迫がなければ、「強制性交等罪」は認められない。被害者にとって、それが強姦だったと認められるための「暴行脅迫」要件のハードルは高いと言われる。こういった事情から、被害実態に見合った法規則が必要として、「欺罔(ぎもう)・困惑・強制による撮影目的の勧誘、あるいは撮影」の刑事罰による規制を求めていくことが今後の課題と雪田弁護士は最後に指摘した。
このほか、シンポジウムでは特定適格消費者団体 NPO法人 消費者機構日本 常任理事の中野和子弁護士、HRN事務局長の伊藤和子弁護士が出席。成人年齢が18歳に引き下げられようとする一方で、児童ポルノで規制されない18歳・19歳をターゲットとした出演強要が今もあり、法整備が進まないことについて危機感を露わにした。